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解説記事2023年01月30日 ニュース特集 国税庁がマンションの相続税評価を見直しへ(2023年1月30日号・№964)

ニュース特集
総則6項の適用要件の明確化は検討の射程外
国税庁がマンションの相続税評価を見直しへ


 約7億円の相続財産の相続税額をゼロにしたことなどで財産評価基本通達の総則6項の適用を受けた事案では、令和4年4月19日に最高裁で納税者側の敗訴に終わった。同事案に限らず、タワーマンションなど、「相続税評価額」と「時価(市場売買価格)」とが大きく乖離している事案では、国税当局が総則6項を適用し、路線価等に基づく相続税評価額ではなく、鑑定価格等による時価で評価し直して課税処分をするということも少なからず見受けられる。この最高裁の判決以降には、マンションの評価額の乖離に対する批判や、取引を手控える動きなど、不動産市場への影響を懸念する声が聞こえている。
 与党が取りまとめた令和5年度税制改正大綱では、相続税におけるマンションの評価方法の適正化を検討する旨が盛り込まれており、これを踏まえ、国税庁は、租税法学者や不動産鑑定士、不動産業界の関係者などの意見を聴取しつつ、財産評価基本通達の改正を検討していくとしている。詳細については、今後の議論次第ということになるが、タワーマンションの相続評価を含むマンションの相続評価について検討がなされることになる。一方、最高裁の判決でも示されなかった総則6項の適用要件については、その明確化を強く求める実務家の声もあるが、本誌の取材により、今回の検討の射程範囲には入っていないことが明らかとなっている。

令和5年度税制改正大綱にマンションの相続税評価の適正化

 与党が令和4年12月16日に取りまとめた令和5年度税制改正大綱では、法改正ではないにもかかわらず、「マンションの相続税評価について」と題する項目が盛り込まれた。
 具体的には、「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」というものだ。税制改正大綱に通達改正に関して言及することは珍しく異例ともいえるが、それだけに令和4年4月19日の最高裁判決の影響が大きかったといえそうだ。
平等原則の観点から違反といえず
 最高裁判決については、本誌928号などでもすでにお伝えしているが、本件の概要は以下のとおりである。被相続人は、90歳となっていた平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円を借り入れ、賃貸用不動産の甲不動産(甲土地・甲建物)を8億3,700万円で購入。また、同年12月には、信託銀行及び共同相続人の1名からさらに合計4億2,500万円を借り入れ、賃貸用不動産の乙不動産(乙土地・乙建物)を5億5,000万円で購入した。その後、被相続人は平成24年6月に94歳で死亡し、共同相続人(5人)が両不動産の通達評価額に基づく時価により相続税申告を行った。当該申告では、小規模宅地等特例適用後の両不動産の課税価格(約3億3,000万円)と借入金債務総額(約10億円)との差額(約6億6,000万円)が他の相続財産から控除され、その結果、相続税の総額はゼロとなっていた。これに対し処分行政庁は、総則6項に基づき、通達の定めによって評価することは著しく不適当と認められるから鑑定評価額をもって評価すべきであるとして、更正処分等を行ったところ(図表1参照)、相続人ら(上告人ら)はその取消しを求めて訴訟を提起したものである。

 本件については、地裁及び高裁でも納税者側が敗訴していたが、最高裁で弁論が開催されていたことから、納税者側が勝訴するのではないかと注目されていた。しかし、結果的には、最高裁判所第三小法廷(長嶺安政裁判長)は原判決を維持し、鑑定評価額に基づく原処分を適法とした。最高裁は、通達評価額と鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、これをもって総則6項を適用する「特別の事情」があるとはいえないとしたが、租税負担の軽減をも意図した購入・借入れが行われた本件においては、平等原則の観点から、評価通達による画一的な評価を行うことは他の納税者との租税負担の公平に反するとの判断を示した。

国税庁、タワマン節税に対し適正な課税の観点から総則6項を運用

 今回の最高裁判決の事例だけでなく、マンションについては、「相続税評価額」と「時価(市場売買価格)」とが大きく乖離しているケースもある(図表2参照)。特にタワーマンションについては、以前から週刊誌や一般紙などでも取り上げられ、タワーマンション節税(タワマン節税)として話題となっている。マンションの相続税評価については、図表3で示したとおり、敷地全体のうちの1室当たりの敷地部分の評価額(路線価)とその家屋部分の評価額(固定資産税評価額)を合計した金額となる。タワーマンションの場合は、上層階ほど販売価格が高額になる一方で、総部屋数の多さから1室当たりの土地・建物部分が小さくなることで相続税評価額は低くなるため、1室当たり販売価額と相続税評価額との間に大きな乖離が生じることがあり、この乖離を利用したものがタワマン節税である。

 少し前になるが、平成27年10月27日開催の政府税制調査会では、税理士の上西左大信特別委員が、課税の公平などの観点から、タワーマンションに関する販売価額と相続税評価額のように、時価と評価額の乖離が大きすぎるものについては通達改正などにより見直すべきなどと発言。これを受け、国税庁は、「現行の家屋の評価方法は、固定資産税評価に準拠していることから、財産評価基本通達を改正する場合には、他の公的評価の取扱いにも配意する必要がある」とした上で、実質的な租税負担の公平の観点から看過しがたい事態がある場合には、今後も、適正な課税の観点から総則6項の運用を行う旨の方針を明らかにしている(本誌617号参照)。
タワマンの固定資産課税が見直し
 その後、平成29年度税制改正では、タワーマンション(60m超の居住用超高層建築物)の固定資産税の計算方法が見直されることになった。従前は、タワーマンション一棟を評価し、その一棟全体全体の固定資産税額を計算した上で、それを各区分所有者の専有面積により按分することにより各区分所有者が住む部屋の固定資産税額を計算するというものであったが、この計算方法だと、高層階・低層階とも床面積が同じであれば税額は変わらないため、タワーマンションの中間の階を起点に高層階の税額を最上階で約6%引き上げる一方、低層階の税額(1階であれば約6%)を引き下げることになった。
 これにより、マンションの相続税評価額についても若干の適正化が図られることになったが、抜本的な見直しについては見送られたままで現在に至っている。

タワマン含めたマンション全体の評価方法を検討

 前述した令和5年度税制改正大綱に明記されことを踏まえ、国税庁は、いよいよマンションの相続税評価の見直しに着手する。現在は準備を進めている段階で、まずは、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額との乖離の実態とその要因分析が行われる模様。その後、懇談会形式で租税法学者、不動産鑑定士、不動産業界の関係者などの意見を聴取した上で財産評価基本通達の見直しの検討を行うとしている。最高裁の判決以降には、マンションの評価額の乖離に対する批判や、取引を手控える動きがあるなど、不動産市場への影響を懸念する声があることから、早期に通達の見直しが行われる可能性がありそうだ。
 詳細については、今後の議論次第ということになるが、タワーマンションの相続評価を含め、マンション全体について、相続評価の検討が行われることになる。マンションの評価については、敷地の持分や建築価額以外にも、交通の利便性や築年数、内装や設備、眺望など、さまざまな要因が関係してくるため、抜本的な見直しを行うには技術的な困難さが伴うとの専門家の声もある(本誌931号参照)。どのような見直しの方向性となるのか注目される。
 なお、前述の最高裁判決では、弁論が開催されたことから、原審の判断が覆り、総則6項の適用要件が示されるのではないかとの観測もあったが、具体的な適用要件は示されなかった。現在も、総則6項の適用要件の明確化を強く求める実務家の声があるが、今回の検討の射程範囲には入っていないことが判明している。

遡及適用や申告済の案件は

 今後の議論で注目すべきは遡及適用や申告済みの案件に対する対応だろう。例えば、平成29年度税制改正大綱では、従前の広大地通達の適用により取引価額と相続税評価額が乖離するケースが生じるなどの問題に対応するため、広大地評価の見直しが盛り込まれ、結果、広大地通達が廃止され、新たに「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されている。改正後の通達は平成30年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価に適用されることとされ、遡及適用はなかった。仮にマンションの評価通達が見直された場合も不利益遡及となる可能性が高いため、同様に遡及適用はないものと想定される。
 問題は申告済みの案件だろう。国税庁によれば、最高裁判決で示され平等原則の範疇の中でということにはなるが、前述した平成27年当時の適正な課税の観点から総則6項の運用を行う旨の方針は変わってはいないという。実質的な租税負担の公平の観点から看過しがたいと判断される場合があれば、総則6項が適用される可能性も出てこよう。

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