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解説記事2023年03月13日 ニュース特集 税務当局の“見解変更”は認定されず(2023年3月13日号・№970)

ニュース特集
ムゲン・ADW裁判、最高裁で国の完勝に終わる
税務当局の“見解変更”は認定されず


 マンション販売事業者の仕入税額控除を巡る2件の裁判で、令和5年3月6日、ついに最高裁判決が言い渡された(判決全文は今号34頁~参照)。
 課税仕入れの用途区分については、「共通対応課税仕入れ」に該当するとの判断が下され、(株)エー・ディー・ワークス(ADW社)が敗訴した控訴審判決が維持された(この点については(株)ムゲンエステート(ムゲン社)は上告しておらず、控訴審で確定済。)。
 また、ムゲン社の控訴審判決では、「税務当局が過去の見解を変更したのに納税者への周知などの必要な措置を講じていなかったこと」により「原告の過少申告には『正当な理由』がある」として過少申告加算税の賦課決定処分が取り消されたため、これを不服とした国が上告していた。一方、ADW社控訴審判決ではこの部分については正反対の判断となっていただけに、最高裁が両控訴審判決のいずれを支持するのか注目を集めていたが、最高裁も、国の“見解変更”は認定せず、「国が(平成17年以降の)取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、当該取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであった」などとして、納税者の過少申告の「正当な理由」を認めなかった。
 ほぼ同時期に進行していた同種の二つの裁判は地裁、高裁ともに判断が分かれ、税務専門家の間でも大きな話題を呼んだが、最終的には更正処分、賦課決定処分ともに“国の完勝”という結果に終わったことになる。

用途区分は、事業に関する事情等や納税者の意図にかかわらず判断

 周知のとおり、本件は、マンション販売事業者が転売目的で購入した建物が、その転売までの間に住宅として賃貸されていた場合における建物の取得費用(課税仕入れ)の用途区分(課税売上対応の課税仕入れか、共通対応の課税仕入れか)が争われていた事案である。
 控訴審では、本件課税仕入れは共通対応課税仕入れに該当するとの判断が下され、この部分についてはムゲン社、ADW社ともに敗訴していたが、ADW社のみがこれを不服として上告していた。
 この点について最高裁が示した用途区分についての考え方は、表2のとおり。最高裁はまず、消費税法の仕組みとして、一括比例配分方式(消法30②二)や帳簿請求書等の保存(消法30⑦)を挙げ、「課税の明確性の確保や適正な徴税の実現といった他の目的との調和を図るため、税負担の累積が生じても課税仕入れに係る消費税額の全部又は一部が控除されない場合があることを予定している」とした。

【表2】最高裁判決:用途区分の判定について

 そして、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、税負担の累積が生ずる課税資産の譲渡等と累積が生じないその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れにつき一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の確保の観点から一般に合理的といえるのであり、課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されていると解されることにも鑑みれば、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきである。このように解することは、課税仕入れを課税資産の譲渡等「にのみ」要するもの(課税対応課税仕入れ)、その他の資産の譲渡等「にのみ」要するもの(非課税対応課税仕入れ)及び両者「に共通して」要するもの(共通対応課税仕入れ)に区分する同条2項1号の文理に照らしても自然であるということができる。
 そうすると、課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。

 その上で、表2のとおり、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れについて課税売上割合を用いることは一般的に合理的ということができ、事業者の事業に照らして合理的といえない場合は“準ずる割合”を用いることにより個別に是正を図ることが予定されているのであるから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきとの考えを示した。さらに、このような解釈は、消費税法同条2項1号の文理(「にのみ」要するもの、「共通して」要するもの)に照らしても自然であるとした。
 そして、「課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である」と結論づけた。
 以上を踏まえ、事実関係から、「本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる」として、「本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置づけや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当する」との判断を下した。
 ムゲン社の一審判決でも示された「事業者の経済活動に関する個別事情を踏まえて判断すべき」とのADW社の主張は全面的に否定され、控訴審判決とほぼ同様の考え方が示されたといえる。

“平成9年事例”は一般的な取扱いと言えず

ムゲン社控訴審は国の“見解変更”を認定
 また、今回の最高裁判決では、ムゲン社の控訴審判決で過少申告加算税の取消しにつながった税務当局の“見解変更”について、ADW社控訴審判決では正反対の判断となっていただけに、最高裁がいずれの判断を支持するのかが注目を集めていた。
 ムゲン社及びADW社は、税務当局が下級行政機関に対し「課税売上対応課税仕入れに区分する」旨を回答・通知した分譲マンション購入費用事例(平成7年事例)及び賃貸中マンション購入費用事例(平成9年事例)を挙げ、これらの過去事例を「最終的な目的によって用途区分を判断すべき」との主張の根拠とするとともに、税務当局が平成17年頃にその取扱いを変更したとして、租税平等主義違反の主張の根拠としても、また、納税者の過少申告の「正当な理由」としても主張してきた。
 ムゲン社の控訴審判決では、「税務当局は、平成元年当時、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定していたとも理解され得るところ、同9年頃、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを転売目的に着目して課税対応課税仕入れに区分したことがあり、その後、同17年頃までに上記の見解を変更したことがうかがわれるから、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講ずるのが相当であったのに、そのような措置を講じているとは認められない」との判断が示され、ムゲン社の過少申告には「正当な理由」があるとして、過少申告加算税の賦課決定処分が取り消されており、これを不服とした国が上告していた。
 一方、ADW社の控訴審判決は、①平成17年以降の取扱いが事業者の間において相当程度周知されていたといえる、②平成9年事例については、個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない以上、平成17年前後での課税庁の取扱いの差異の有無については明らかではないとしていた。
国の積極的な措置の必要性なし
 この点について最高裁は、表3のとおりADW社の判断を支持。①平成17年以降の取扱いは、一般の納税者も知り得たものであったこと、②平成7年事例はその趣旨や前提となる事実関係が明らかでないなど、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない、③平成9年事例については、直ちに、税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできず、それが公表されるなどしたとの事情もうかがわれないなどの見解を示した。

【表3】最高裁判決:「正当な理由」の有無について

平成17年以降の税務当局の取扱いについて
 税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。
平成7年事例について
 他方、税務当局が平成7年頃にした関係機関からの照会に対する回答は、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、事業者が当該建物の転売を目的とすることに着目して課税対応課税仕入れに区分したものとも理解し得るものの、前提となる事実関係が明らかでなく、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない。
平成9年事例について
 また、税務当局は、平成9年頃、関係機関からの照会に対し、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分すべき旨の回答をしているが、このことから、直ちに、税務当局が一般的に当課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできないし、上記回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。
真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情の有無
 そうすると、平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる。
 そして、上記取扱いは消費税法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、本件各申告当時、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分すべきものとした裁判例等があったともうかがわれないこと等をも考慮すれば、上告人が本件各申告において本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して控除対象仕入税額の計算をしたことにつき、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるということはできない。

 その結果、「平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる」として、ムゲン社、ADW社ともに、過少申告の「正当な理由」は認められないと判断した。
 ほぼ同時期に進行していた同種の二つの裁判が、地裁、高裁ともに判断が分かれ、大きな注目を集めてきたが、最終的に、更正処分、賦課決定処分ともに“国の完勝”という結果に終わったことになる。

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