解説記事2023年03月27日 SCOPE 被相続人の免除予定の債務、相続後に実現し所得税課税(2023年3月27日号・№972)
地裁、弁護士費用等の控除は認め一部取消し
被相続人の免除予定の債務、相続後に実現し所得税課税
相続により承継した債務の債務免除益に対する課税の是非が争われていた事案で、東京地裁民事51部は、免除が予定されていた当該債務は、「確実と認められるもの」として相続税の計算上負債として考慮されることはできず、相続後に現に実現した債務免除益に対して所得税が課税されることはやむを得ないとの判断を下した。ただし、和解の成立に要した弁護士費用等を控除すべきとの原告らの主張は認め、その部分に限り、更正処分等を取り消した(令和5年3月14日判決)。
相続税法上“確実な”負債といえず、債務免除益実現時の所得税課税不可避
本件の事案の概要は図のとおり。本件銀行は、平成14年に、16億円の貸付金等の支払を求めて亡K太郎及び亡M夫に対して訴訟を提起した。これに対し亡K太郎は、貸付け当時、自身は認知症で意思能力がなく、本件貸付は、本件銀行の担当者と亡M夫が通謀して行われたとして、本件貸付に基づく根抵当権設定登記の抹消登記請求訴訟を提起した(これらの裁判を「前訴」という)。

その後、亡K太郎は平成14年に死亡したが、亡M夫及び原告M人らを含む亡K太郎相続人らが訴訟承継人となり、平成16年に和解が成立。亡M夫が平成28年6月30日までに約6億3,000万円の分割金を支払えば、約9億7,000万円の残債務の支払義務が免除されることとなった。
しかし、亡M夫は平成26年に死亡。分割金の残額100万円と、免除される予定の約9億7,000万円は、2分の1ずつ原告M人及びM代に承継された。その後、原告らは分割金の残額100万円を期日どおりに支払い、本件和解に基づく債務免除を受けた。本件は、当該債務免除益を総所得に含めるべきとして、原告らが所得税等の更正処分等を受けたことから訴訟に至った事案である。
相続税・所得税の二重課税には当たらず
原告らは、本件債務免除の対象となった約9億7,000万円は、亡M夫の相続税の算定においては負債として考慮されておらず、これが存在しない前提で算定された相続税を原告らに納付させた一方で、本件債務免除の効果が発生するや、その債務免除益に対しこれを一時所得として課税することは、所得税法9条1項16号に反する二重課税として許されないと主張した。
これに対し東京地裁は、本件債務免除に係る債務は、相続人である原告らが本件和解に係る分割金の支払を行えば免除されるものであったことからすれば、「確実と認められるもの」とはいえず、亡M夫の相続税の算定に関して考慮されなかったのは、相続税の定めからすれば当然のことというほかはないとした。また、所得税法9条1項16号の規定についても、「(当該規定は、)相続により得た積極財産に対し、相続税に加えて所得税を課すことを禁止対象として想定しているものと解され、相続時に『確実と認められ』なかったために控除が認められなかった債務を対象として想定した規定とは解されず、殊に、相続税の課税基準時たる相続発生時の後に停止条件が成就した結果発生すべき債務免除益に適用されるものとは解されない」との考えも示した。
和解成立のための弁護士費用等も、債務免除益の「直接要した費用」
そのほかの争点として、本件和解の成立に要した弁護士費用等(前訴に要した費用)が、本件債務免除による債務免除益を受けるために要した支出として控除できるかどうかも争われた。国は、「本件債務免除は、亡M夫及び原告らが、本件和解に基づき分割金を支払ったことから生じたものであり、本件和解の成立に要した弁護士費用等は、本件債務免除との関係では直接性を欠く」と主張したが、東京地裁は、①分割金の支払は本件債務免除の停止条件であり、そのような停止条件付債務免除である本件債務免除は本件和解の時点で潜在的には行われていたものと同視することができる、②本件和解の席上で債務の一部の支払がされ、その余の債務の免除がその場で確認された場合であれば、弁護士費用等は上記債務免除益に係る支出として容易に認められるなどと指摘した。
また、国は、亡M夫が支払った弁護士費用等は原告らについての「支出した金額」として控除することはできないとも主張したが、東京地裁は、原告らは、亡M夫から本件和解に基づく分割金の支払義務を相続により承継しており、弁護士費用等の控除を受け得る法的地位は、本件債務免除に係る停止条件が成就する前に亡M夫が死亡したりしたからといって消滅するものでもなく、亡M夫の死亡により相続人たる原告らに承継されたものと解すべきとした。
その結果、東京地裁は、弁護士費用等の控除を認め、その部分に限り更正処分等を取り消すとの結論を下した。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.