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解説記事2023年04月03日 法令解説 企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正、記述情報の開示の好事例集2022(サステナビリティ情報等に関する開示)の紹介(下)(2023年4月3日号・№973)

法令解説
企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正、記述情報の開示の好事例集2022(サステナビリティ情報等に関する開示)の紹介(下)
 金融庁企画市場局企業開示課開示企画調整官 上利悟史
 金融庁企画市場局企業開示課専門官     河西和佳子
 金融庁企画市場局企業開示課課長補佐    鹿子木慎亮
 金融庁企画市場局企業開示課専門官     清野恭平

三 記述情報の開示の好事例集2022

 令和5年1月31日、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため、「記述情報の開示の好事例集2022」(サステナビリティ情報等に関する開示)(以下「好事例集」という)を公表した。同日付で公布・施行された開示府令により、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から、新たに「サステナビリティに関する企業の取組みの開示(サステナビリティ全般に関する開示および人的資本、多様性に関する開示)」等が求められることを踏まえ、好事例集においては、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の参考となる好事例を掲載している。
 好事例集では、目次において、開示府令で新たに求められる開示項目等の分類に沿って好事例掲載企業を色分けし、また、反対に、開示府令で新たに求められる主な開示項目から当該開示項目の参考となる好事例の番号を明示する(図表4を参照)等、参考としたい好事例を探しやすいよう工夫している。

 また、今回の好事例集より、開示の好事例として取り上げた企業の主な取組みを共有する観点から、開示の充実化に当たっての課題や、課題への対応策とその効果についても掲載している。掲載資料は、企業の開示担当者の実際の経験談を基に作成しており、企業側の開示に至るまでの実際のプロセスを紹介することにより、企業の更なる開示の充実化に向けた取組みの参考となることを期待している(図表5を参照)。

 ここからは、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等において、新たに開示が求められる項目のうち、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の個別の開示項目や、好事例のポイント、開示の留意点を説明する。本稿の内容は2023年3月13日時点のものである。
(1)サステナビリティ全般に関する開示(開示府令第二号様式 記載上の注意(30−2)サステナビリティに関する考え方及び取組a,b等)
 開示府令においては、サステナビリティ全般に関する開示として、新たにサステナビリティ記載欄が新設され、「ガバナンス」および「リスク管理」を必須記載事項、「戦略」および「指標及び目標」を重要性に応じて記載を求める事項としている。
 サステナビリティ記載欄において開示する内容については、ISSBの公開草案に加え、TCFD提言で示されている気候変動関連リスクおよび機会に関する4つの項目(「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」)における開示の考え方が参考となる。この点、好事例集においては、TCFD提言の概要(4つの項目において推奨されている開示内容)を参考として掲載している(図表6を参照)。

 次に、「ガバナンス」および「戦略」の項目の参考となる開示例の一つとして、(株)エヌ・ティ・ティ・データの事例を紹介する。
 同社は、「ガバナンス」の項目において、気候変動に関するガバナンス体制に係る各機関・組織の相互の関係や、気候変動への取組みを推進するための委員会の役割等を端的に記載している。また、「戦略」の項目において、シナリオ分析を踏まえ、リスク・機会の項目ごとに期間、影響度、発生可能性、影響額試算に当たっての前提、財務上の影響、対応策等を定量的な情報を含めて具体的に記載していることに加え、シナリオ分析における期間および影響度の定義を具体的に記載している(図表7~9を参照)。

 この他、投資家・アナリストからは、リスク・機会の両面から財務上の影響を定量的に示すことは投資家の企業価値算定においても有用との見解が示されている。
 次に「リスク管理」の項目の参考となる開示例の一つとして、AZ−COM丸和ホールディングス(株)の事例を紹介する。同社は、リスク管理について、一連のプロセス(リスクの識別・評価、リスクへの対応策、対応策の監督 等)及び当該プロセスにおける各機関・組織の機能・役割を具体的に記載するとともに、プロセス図を用いて一連のプロセスの中での各機関・組織の関係を分かりやすく記載している。(図表10を参照)。


 最後に、「指標及び目標」の項目の参考となる開示例の一つとして、カゴメ(株)の事例を紹介する。同社は、GHG排出量の目標と実績を定量的に記載している(図表11を参照)。

 また、投資家・アナリストからは、目標と実績が乖離している場合には、その理由を開示することが投資家との対話の促進という観点から有用との見解が示されている。
 この他、サステナビリティ全般に関する開示を行うに当たり、投資家・アナリストからは、投資判断に資するか否かというマテリアリティ(重要性)の考え方をベースとして企業価値向上のためのストーリーを組み立て、ストーリーに該当する項目を中心に開示を充実させていくことや、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用との見解が示されている。
(2)人的資本、多様性に関する開示
 ① 人材育成方針や社内環境整備方針等(開示府令第二号様式 記載上の注意(30−2)サステナビリティに関する考え方及び取組c 等)

 開示府令においては、人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針及び当該方針に関する指標の内容等をサステナビリティ記載欄の「戦略」および「指標及び目標」における必須記載事項としている。
 次に、参考となる開示例の一つとして、(株)丸井グループの事例を紹介する。同社は、人的資本経営の取組みについて、離職率、1人当たり残業時間、育休取得率等の定量的な情報を含めて具体的に記載するとともに、多様性の推進については、「女性イキイキ指数」という独自のKPIを掲げた取組みについても具体的に記載している(図表12を参照)。

 また、投資家・アナリストからは、KPIの目標設定に当たっては、なぜその目標設定を行ったのかが、企業理念、文化および戦略と紐づいて説明されることは有用との見解が示されている。
 この他、多様性を含む人的資本に関する開示を行うに当たり、投資家・アナリストからは、経営戦略をはじめとする全体戦略と人材戦略がどう結びついているかを開示することや、人的資本可視化指針で示されている2つの類型である、独自性(自社固有の戦略や、ビジネスモデルに沿った取組み・指標・目標を開示しているか)と比較可能性(標準的指標で開示されているか)の観点を適宜使い分け、または、併せた開示を行うことは有用との見解が示されている。
 ② 「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」(開示府令第二号様式 記載上の注意 (29)従業員の状況d,e,f 等)
 開示府令においては、従業員の状況の項目で「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」の記載を求めている。
 次に、参考となる「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」の開示例として、三井物産(株)の事例を紹介する。同社は、女性活躍の推進に関し、女性管理職比率の推移状況や採用した担当職社員別の女性比率等の定量的な情報を含めて具体的に記載するとともに、男性社員の育児休業取得率の推移状況も記載している(図表13を参照)。

 また、参考となる「男女間賃金格差」の開示例としては、(株)丸井グループの事例を紹介する。同社は、非管理職・管理職のそれぞれにおける男女別の平均給与等、人的資本に関する各種指標の実績を詳細に記載している(図表14を参照)。

 なお、好事例集については、開示府令施行前の開示例を取り上げたものである。このため、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」に関する開示においては、開示府令に記載のある他の法令の規定により求められている内容の開示が必要となるため留意が必要である。
 本稿においては、令和5年1月31日に公表した好事例集に掲載している好事例のうち、開示府令で新たに求められる「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の参考となる事例の一部を紹介した。好事例集では、本稿で紹介した事例の他にも参考となる事例を掲載しておりこれらの事例が、開示府令の適用初年度における有価証券報告書作成の一助となることを期待したい。

四 おわりに

 本改正は、これまで進展してきた企業の情報開示の姿勢を土台として、投資家が重視する中長期的な企業価値向上に関連する非財務情報の開示を制度面でも後押しし、企業と国内外の投資家との意思疎通を強化するものである。また、企業の情報開示や投資家との対話に係る取組みが形式的なものに終始せず、実質的なものとなることが重要である。
 今後、金融庁としては、DWG報告で提言された事項のうち、「重要な契約」の開示について、引き続き具体的な検討を行い、別途内閣府令の改正を行う予定である。また、サステナビリティ情報の開示について、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(令和4年12月27日)において、SSBJの役割や開示基準の位置づけ、サステナビリティ情報に対する保証のあり方、今後のロードマップに関し提言されたことを踏まえ、引き続き、さらなる制度整備に向けた取組みを進めていきたい。

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