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解説記事2023年04月10日 SCOPE ファブレス事業と主張するも、裁判所は「卸売業」と判断(2023年4月10日号・№974)

地裁、19億円を不相当に高額な役員給与と認定
ファブレス事業と主張するも、裁判所は「卸売業」と判断


 役員給与のうち「不相当に高額な部分」の有無及びその額について争われた事案で、東京地裁民事2部(品田幸男裁判長)は令和5年3月23日、国の行った類似法人の抽出及び適正額の算定方法は合理的であると認め、処分の取消しを求めた納税者の請求を棄却した。
 商品の開発のみを行い生産を外部に委託する原告の事業はファブレス事業に該当し、国が分類した「卸売業」ではないとの原告の主張は斥けられた。

役員の職務内容、法人の収益事業の減少傾向からも「不相当に高額」と認定

 「不相当に高額な部分」(法法34②)の判定基準はのとおり。このうち実質基準については、“不確定概念”であるとの批判もあり、たびたび裁判で争われてきた。実務的には、④の「類似法人との比較」を基本的な判断要素とした上で、その他の判断要素を補充的・修正的に用いることが多いが、納税者にとっては、類似法人の存在、類似法人における役員給与の支給状況などの把握が困難であることから、納税者の予見可能性等が保障されていないなどとして、実務家らから問題視されてきた(ただし、残波事件(本誌689号参照)で違憲主張は排斥されている)。

ベトナム進出のために高額報酬を提示
 本事案の原告である「京醍醐味噌」は、中国に5工場を構え、中国内で高い知名度を誇る「松井味噌」のグループ企業である。同社代表のK氏は、ベトナム進出のため、加工食品のファブレス事業をグループの1社で成功させていた実弟T氏を事業責任者として専念させることとし、月2億5,000万円の役員報酬を提示した。そして、実際に平成27年12月から4か月で10億円を支払い、K氏自身も平成27年10月からの1年間、月5,000万円、年間6億円の役員報酬を得た。
 処分行政庁は、平成25年~28年の4年間に両氏に支払われた役員報酬約21億円のうち、約18億円分を「不相当に高額」と指摘。もう1名分の役員給与否認も含め、約3億8,500万円の課税処分を行った。
実際にはベトナム新規事業は開始せず
 原告は、同業類似法人の抽出について、同社の事業は、味噌やカレー、ラーメンスープなどの開発のみを行い、生産を外部に委託しているから、国が分類した卸売業ではなく、ファブレス事業に該当すると主張した。ファブレス(fabless)とは、工場(fab)を持たない(less)事業のことをいう。
 これに対し東京地裁は、「原告の売上総利益の大部分は、K物産が取り扱う商品を、原告が企画及び開発して製造委託先に製造させ、完成した製品を購入した上でM社(グループ法人)に販売することによって生じており、M社はその後K物産の小売店に当該製品を販売する卸売業者であったこと、M社以外の取引先との関係においても、反復継続的に仕入れ・販売することによって売上総利益が生じていることからすると、原告の主たる事業は、(略)、『卸売業』に該当する」と判断。「原告の事業は、卸売業の機能である調達機能、販売機能、物流・保管機能、金融・危険負担機能、情報提供・サポート機能のいずれも有していない」との原告の主張に対しては、「金融・危機負担機能については不明」としつつ、他は「機能を有していた」として、これを斥けた。
 また、の①の「役員の職務の内容」については、「T氏は、平成27年11月までは原告の業務に従事しておらず、(略)、月額2億5,000万円の給与の支給を受けていた平成27年12月から平成28年3月までの間、ベトナムに赴任したことはなく、日本又は香港においてベトナム新規事業における工場の設計・工場設備の配置に関する検討やベトナムにおける課税の問題を合法的に回避するための方法の検討をしていたにすぎない」「T氏のベトナム赴任が具体化せず、ベトナム新規事業再開の目処が立っていない状況において月額2億5,000万円もの給与の支給を決定し、それを見直しもしないまま4か月間にわたって続けるということは、企業の意思決定としておよそ合理的なものとはいい難い」との判断を示した。
 さらに、の②の「法人の収益状況」等についても、売上金額及び売上総利益の大幅な減少傾向の中での、本件各役員給与の額の高さ及び増加率は著しく不自然であると指摘。
 結果として、本件各役員給与に「不相当に高額な部分」があり、類似法人の役員給与の最高額の平均額を算定した上で、売上高や改定営業利益、個人換算所得の3要素を用いて偏差の調整を行った、国の適正額の算定方法を合理的と認めた(T氏は偏差の調整なし)。
求められる新時代ビジネスへの対応
 原告は、原告の事業がアップルやナイキなどと同じ「ファブレス事業」であり、現在の税制がファブレス事業に対応していないことから類似法人の抽出は困難であると主張してきた。また、優秀な経営者に対する高額な報酬を自分たちの裁量で決めることができないことを疑問視する声もある。
 残波事件で争点となった類似法人の範囲の選定など様々な問題が指摘されてきた「実質基準」だが、新しいビジネスモデルへの対応も迫られているといえるかもしれない。

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