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解説記事2023年04月17日 巻頭特集 コロナ対応株主総会実務の今後−株主総会Q&A再考−(2023年4月17日号・№975)

巻頭特集
コロナ対応株主総会実務の今後−株主総会Q&A再考−
 森・濱田松本法律事務所 弁護士 若林功晃


 経済産業省及び法務省は、2023年3月30日、「株主総会運営に係るQ&A」(以下「株主総会Q&A」という。)を更新した。当該更新では、新規にQ6が追加されるとともに、経済産業省のHP(脚注1)に、更新の趣旨等に関する記載が掲載されている(以下「HP掲載文」という。)。本稿では、今般の株主総会Q&Aの更新の内容を概観し、当該更新を踏まえて、今後の株主総会実務において株主総会Q&Aがどのように参照されるべきかについて検討する(脚注2)。

1 株主総会Q&Aの策定とこれまでの経緯

 新型コロナウイルス感染症により、2020年以降、我が国の株主総会実務も大きな影響を受けてきた。人々の移動・集合が制約される中、会社法上の要請として開催せざるを得ない株主総会をどのように運営すべきか、コロナ禍初年度で各社が手探りで対応を模索している状況下、2020年4月2日に経済産業省及び法務省によって株主総会Q&Aが策定され、HP上で公表された。策定直後に、若干の更新がされたが、その後は本年3月の改訂まで変更されないまま維持されてきた。株主総会Q&Aは、後記のとおり、来場を控えるよう株主に呼びかけることや、入場できる株主数を限定することなど、従前の株主総会実務を前提とすれば大胆とも言える施策を提示するものであった。
 株主総会Q&Aそれ自体は、法令ではなく、基本的にはその内容に法的規範としての力はない。すなわち、株主総会決議の瑕疵の有無は、最終的には裁判所において会社法の解釈・適用によって判断されるものであり、株主総会Q&Aの内容は、会社法その他の法令と同等の意味で裁判所の判断の根拠となり得るものではない。しかしながら、関係省庁において、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて実務上採り得る手段として公表されたものであることからすれば、株主総会Q&Aを踏まえた対応をとった場合に、そのことが、株主総会の招集手続や決議の方法が「著しく不公正」(会社法831条1項1号)であったとして株主総会決議の取消事由となることは想定し難いというのが実務における一般的な受け止めであり、株主総会Q&Aを踏まえた実務は、一定程度定着をみてきた。
 その後、我が国ではワクチン接種やウィズコロナの生活習慣の浸透等により、徐々に社会生活・経済活動が平常化に向かった。その中で、株主総会実務に携わる関係者の中では、株主総会Q&Aが引き続き有効であるのか、あるいは、かかる社会情勢を背景としてはQ&Aの中で提示される諸施策を実施することはもはや許容されないのかという点が常に論点となってきた。これまでは、断続的に感染拡大の波が発生しており、コロナ禍が完全に収束したわけではないこと、株主総会Q&Aは、特段更新・削除されることなく維持されていたこと等から、引き続き株主総会Q&Aを踏まえた対応は可能であるという整理が一般的であったものと思われる。しかしながら2023年に入り、5月8日から、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)上の位置づけが、5類感染症に変わる予定となったこと(脚注3)や、3月13日にマスクの着脱を原則として個人の自由判断とする旨の政府見解が公表されたこと(脚注4)等、これまで以上にコロナ禍の収束を示唆する事情が重なったことにより、株主総会Q&Aの現在の位置付けは更に悩ましいものとなっていた。今般の更新は、そのような問題意識に答えるものであると考えられる。

2 今回の更新内容

 今回の株主総会Q&Aの更新では、以下のとおり、Q6が追加された。また、当該更新を発表する経済産業省のHPにおいて、以下のような説明が付されている。

Q6.新型コロナウイルス感染症については、令和5年5月8日から、感染症法上の位置づけが新型インフルエンザ等感染症から5類感染症に変更される予定とのことですが、Q1~Q5で示された考え方はなおも妥当しますか。(令和5年3月30日追加)
(A)Q1~Q5は、新型コロナウイルス感染症が拡大し、関係者の健康や安全の確保を特に重視した対応が求められるという特殊な状況下で、株主総会が開催される場合に想定される事項についての一般的な考え方を整理したものです。
  新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由としてQ1~Q5で掲げられた各措置をとることが直ちに否定されるものではありませんが、かかる措置をとることが許容されるか否かは、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが変更される予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化していることを踏まえながら、関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意しつつ、事案ごとに個別的に判断されることになると考えます。

HP掲載文

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、令和5年5月8日から、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」といいます。)上の分類の位置づけが、新型インフルエンザ等感染症から5類感染症に変わる予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化しており、社会経済活動が平常化しつつあります。これを受け、今後の株主総会の運営の在り方は、コロナ禍で進んだITの活用などを行いつつ、一層の工夫が求められることを踏まえ、2020年4月2日に公表した「株主総会運営に係るQ&A」に新たにQ6の追加を行いました。

追加したQ6では、「新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由としてQ1~Q5で掲げられた各措置をとることが許容されるか否かは、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが変更される予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化していることを踏まえながら、関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意しつつ、事案ごとに個別的に判断されることになる」旨を示しました。

なお、Q&AのQ1~Q5で示した、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能」等の考え方については、一般論としては維持されますが、新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置づけが変更される予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況が相対的に落ち着いている現下の状況や対策の在り方等が昨今変化していることを踏まえると、今後は、「やむを得ない」との判断により措置をとることが許容される度合も、過去3年間と比較して変化することが想定されます。(2023年3月30日時点)

 まず、Q6は、従前のQ1~5が、「新型コロナウイルス感染症が拡大し、関係者の健康や安全の確保を特に重視した対応が求められるという特殊な状況下」で策定されたものであることを述べる。株主総会Q&Aが策定された当時は、2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく最初の緊急事態宣言が発出され、また、特措法に基づく各都道府県知事の指示により、イベント会場の使用の休止要請がなされるなど、各種イベントの実施についても大きな制約が課されていた。これに対し、現在は、緊急事態宣言がないことは勿論、上記のとおり、新型コロナウイルス感染症の位置付けも大きく変化しつつある。HP掲載文も、感染症法上の位置付けが変更されることも含めて、「新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化しており、社会経済活動が平常化しつつあ」ると述べている。
 しかし、Q6は、以上の認識を前提としつつも、「新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由としてQ1~Q5で掲げられた各措置をとることが直ちに否定されるものではありません」とする。これは、今後の株主総会、特に、感染症法上の位置付けが変更された後の株主総会においても、株主総会Q&Aを参照してQ1~Q5の施策を検討することは可能という見解を明らかにしたものと言えるだろう。
 他方で、これまでのコロナ禍の実務をそのまま継続して良いと述べるものでもなく、Q1~Q5の措置をとることが許容されるか否かは、「新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化していること」を踏まえながら、「関係者の健康や安全の確保」および「株主の権利」にも十分留意しつつ、「事案ごとに個別的に判断される」とされている。したがって、今後の株主総会において株主総会Q&Aを踏まえた施策を講ずる場合には、当該株主総会時点における新型コロナウイルスの感染拡大状況(「波」の有無)や、株主総会以外の集会・イベントの実施状況を含む社会経済活動の状況を踏まえながら、適切な措置の限度を都度検討する必要があることになる。ただし、HP掲載文において、「やむを得ないとの判断により措置をとることが許容される度合も、過去3年間と比較して変化することが想定」されるとあるとおり、全体としては、これらの措置による株主権の制限は許容されにくくなると考えられる。なお、株主総会Q&Aにおいて「やむを得ない」という記載があるのはQ2(人数制限)、Q5(総会時間の短縮等)のみであるが、HP掲載文の記載全体からすれば、許容される措置の程度が過去3年間と比較して変化するという指摘は、Q1~5の全てについて当てはまるものと読むべきであろう。
 もとより、株主総会Q&Aは、許容されるコロナ対策の限度について画一的な基準を示すものではなく、「新型コロナウイルス感染拡大防止に必要な対応をとるため」に必要な限度で措置をとることができることを一般論的に述べたものに過ぎず、その立付けは、今般の更新後も変わりはない。したがって、株主総会Q&Aは、特定の実務について「お墨付き」を与えるものではないし、今後も同様である。株主総会Q&Aの各Qは、新型コロナウイルス感染症拡大防止の必要性があることを前提としているが、コロナ禍が収束傾向とはいえ、一般論として新型コロナウイルス感染症拡大防止の必要性自体が否定されることはまだ考え難いと思われる。したがって、各社において、株主総会Q&Aを踏まえ、当該措置をとる必要性及びその程度について、社会経済情勢も踏まえた検討がされ、一定の合理的な根拠をもった判断の下で講じられた措置については、引き続き株主総会決議の取消事由となることは想定し難いと考えて良いように思われ、今般追加されたQ6は、そのような解釈・運用を支える意義を有し得るものと考えられる。
 他方、HP掲載文においては、「今後の株主総会の運営の在り方は、コロナ禍で進んだITの活用などを行いつつ、一層の工夫が求められる」との指摘がある。コロナ禍では、いわゆるバーチャル株主総会の利用が注目を集め、特に、最も簡易な形態であるハイブリッド参加型バーチャル株主総会(当日来場しない株主に、オンラインで株主総会の模様を配信するもの)の利用が拡大した。また、少数ではあるが、インターネットで出席する株主に、議決権行使や質問権といった当日出席株主としての権利行使を認めるハイブリッド出席型バーチャル株主総会の実施例も増加しつつあるほか、産業競争力強化法の改正により、物理的な会場を必要としないバーチャルオンリー株主総会も解禁されている。「ITの活用」の典型としてはこれらのバーチャル株主総会の実施が想定されよう。その他、インターネットによる議決権行使の促進や、株主総会資料の電子提供制度の開始など、株主総会手続のDXは着実に進行している。これらの取組みは、法令で求められるものを除いて、各社がそれぞれ採否を判断するべきものであり、HP掲載文の上記記載も、各社の個別事情を排して一律にこれらの取組みを求めるものとまでは解されない。コロナ禍が収束しても、単純にコロナ以前の株主総会実務に回帰するのではなく、DXの観点も踏まえて更に合理的な実務が模索されるべきであるというメッセージと受け取るべきであろう。では、この「ITの活用」等の工夫に関するHP掲載文の言及は、Q1~Q5の考え方に何らかの影響を及ぼすのだろうか。例えば、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施した場合、Q2のように当日の会場の出席人数を限定することがより緩やかに許容されるだろうか。この点、Q6では、Q1~5の措置が認められるのは、引き続き「新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由」とする場合であるとされている。したがって、少なくとも、株主総会Q&Aが、DXの観点からの必要性のみを理由にQ1~Q5の措置をとることができると述べるものでないことは明らかであるように思われ、株主総会Q&Aは、上記の点について見解を示すものではないとみるのが適切であると考えられる。

3 今改訂を踏まえた今後の実務

(1)来場自粛の呼びかけ

Q1.株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能ですか。
(A)可能です。
  会場を設定しつつ、感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
  なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。

 Q1は、株主総会への来場を控えるよう呼びかけるという手段を紹介するものであった。株主総会への出席という重要な権利について、それを行使しないよう呼びかけるということは、従前の実務からすれば違和感もあったものの、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点と、飽くまで株主に来場を思いとどまるよう任意の対応を求めるものであることから、許容の余地があるという整理に基づくものであったと考えられる。
 2020年4月28日に、日本経済団体連合会から、「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」が公表され、「本株主総会につきましては、極力、書面またはインターネット等により事前の議決権行使をいただき、株主様の健康状態にかかわらず、株主総会当日のご来場をお控えいただくよう強くお願い申しあげます」(モデルA)、「本株主総会につきましては、書面またはインターネット等により事前の議決権行使をいただき、株主様の健康状態にかかわらず、株主総会当日にご来場されないようお願い申しあげます。」(モデルB)といった記載例が提案された(モデルBがより厳しい呼びかけとなる)。その後、多くの会社において、これらのモデルに沿って来場自粛を求める文言を招集通知に記載する例が一般的となった。
 2022年総会においても、徐々にコロナ禍が収束傾向にあるという認識はありつつも、引き続き多くの会社で、来場を控えるよう呼びかける記載(上記のAないしB)は維持された。今般の更新で追加されたQ6を踏まえれば、今後も、新型コロナウイルス感染拡大防止を理由としてこれらの記載をすることも直ちに否定されるものではないということになる。しかしながら、2023年3月総会では、かかる呼びかけをする会社は大きく減少した印象を受ける。やはり、現状を前提とすれば、強いトーンで来場を控えるよう呼びかけるメッセージを記載することは、違和感が大きいと言わざるを得ないであろう。
 他方で、上記のとおり、かかる呼びかけが今後一切否定されるわけでもないと考えられ、例えば、来場を控えてほしいというメッセージまでは出さず、株主において自身の体調を踏まえて来場するか否かを判断してほしいという程度の内容を記載することは考えられる。
(2)入場者数の制限・事前登録

Q2.会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。
(A)可能です。
  Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
  現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。
  なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。

Q3.Q2に関連し、株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能ですか。
(A)可能です。
  Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。
  なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。

 Q2は、株主総会の会場の規模の縮小や、入場可能な人数を制限するという手段を紹介するものである。また、Q3においては、その具体的な手法として、事前登録制が紹介されている。コロナ禍では、緊急事態宣言下でそもそも大きな会場が確保できない場合や、会場内でも適切なソーシャルディスタンスを確保する必要があるため、本来の収容可能人数を大きく下回る人数しか入場させられないといった場合が想定された。Q2及びQ3で紹介された人数制限措置は、これらの事態に対応するものである。
 もとより、理論的には、多数の株主を擁する上場会社において、万が一その全員が出席を希望した場合にその全員を収容することができる会場を確保しなければならないとまでは考えられず、各社において、例年の出席者数等から合理的に判断して適切なサイズの会場を用意していれば、結果的に入場ができない株主がいたとしても、直ちに株主総会決議の取消事由となるものではないと考えられる。しかし、実際には、株主の入場を拒否するという判断はリスクを伴うことから、コロナ前の実務では、第2会場・第3会場を用意すること等を含め、来場した株主を全て収容できるようにするための工夫が講じられてきた。Q2は、かかる一般論を踏まえつつ、コロナ禍においてやむを得ない場合には、従前の出席実績にとらわれず、少ない人数に制限をすること、制限を超過した場合には株主の入場を拒むことができる点を明確にしたものであった。
 追加されたQ6及びHP掲載文も踏まえれば、今後も新型コロナウイルス感染拡大防止を理由として同様の措置をとることは否定されていないものの、緊急事態宣言がないことは勿論、イベントの開催についての厳格な制限も存しない現状においては、入場者数を制限し、それを理由として株主の入場を拒否することについては、相当に慎重な検討が必要であると考えられる。そのため、保守的な対応としては、コロナ前と同等の会場を用意しておくことが考えられる。しかしながら、コロナ禍において、株主総会当日の来場株主数は大幅に減少しており、今後、それがコロナ前の水準に戻るかは不明である(新たにインターネット配信を開始した会社等においては、引き続き配信を視聴することを選択する株主も一定数発生するものと考えられるし、コロナ禍でお土産を廃止した会社においては、それも今後の来場者数に影響を与えよう)。したがって、コロナ前の出席者数に匹敵する数の株主を収容することができる会場を用意していなければ、入場できない株主が生じた場合に直ちに決議取消事由となるというものでもないと考えられ、他社の株主総会の動向等も踏まえて、合理的な説明のできる入場者数の見込みを立て、その人数を収容できるための準備をしておくことが求められる。また、入場拒否という事態を極力回避する観点から、当日の来場者数が収容予定人数を超過した場合であっても、超過した人数が多数でなければ、会場内に臨時に座席を追加して出席させるなどの対応も検討されるべきであろう。
 なお、Q2における「自社会議室」の活用や、「設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能」、「株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求める」といった記載は、株主の来場を大幅に限定、ないしほぼシャットアウトして株主総会を開催する場面が想定されていたものである。すなわち、上記の経団連による招集通知モデルBでは、来場の自粛を強いトーンで呼びかけるとともに、「本株主総会は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、株主様のご来場をいただくことなく当社役員のみで開催させていただきたく、株主様のご理解とご協力のほどお願い申しあげます。」との記載が提案されており、当日出席株主ゼロの状態で株主総会を開催するための実務が考案されていた。株主総会Q&Aが策定された当時は、緊急事態宣言の発出等もあり、当日来場する株主がゼロというケースも具体的に想定されたが、現状では、そのような事態は想定されず、一定数の株主は来場することを前提とした準備が求められるため、会場を自社会議室とすること等は、現実的ではないということになろう。
 Q3の事前登録制については、当日来場する人数を予め把握するための調査目的のものから、事前登録した者、あるいはその中からさらに抽選で選抜した者のみを入場させることを前提とするものまで、その活用方法にはバリエーションがあり得ると言われていた。静岡地裁沼津支部令和4年6月27日決定は、抽選による限定した株主のみ入場を認めた株主総会について、決議取消請求を棄却しており、抽選による入場者の選定、及びそれと表裏となるその他の株主の入場の拒絶が許容される余地があることを示したものとして注目される。
 調査目的の事前登録が今後も許容されることは疑義がない。他方で、入場者の選抜を目的とした事前登録や抽選については、上記のとおり、その前提となる入場者数の制限について、より保守的な対応が必要となり、結果として、事前登録をしなかった株主の入場を拒否するという選択肢も取りづらくなると考えられるため、そのような目的での事前登録制度を設けることは現実的ではなくなってくるものと考えられる。
 なお、既に述べたとおり、株主総会Q&Aは、ハイブリッド型バーチャル株主総会の形で株主総会を開催することが、会場の人数制限を正当化する根拠となるかどうかについて述べるものではない。この点は、今後の解釈論・実務の集積を更に待つ必要があるものと思われる。
(3)株主への指示・退場

Q4.発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか。
(A)可能です。
  新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

 発熱や咳などの症状は、コロナ禍においては新型コロナウイルス感染症への罹患を強く推認させるものであったことから、Q4では、それらの症状を有する株主について会場への入場を認めないという対応が紹介されたものである。しかし、我が国における新型コロナウイルス感染症の拡大が収束しつつあるという見方に立てば、当該症状を有する者が新型コロナウイルス感染症である蓋然性は従前よりも低くなっているとも言えるし、新型コロナウイルス感染症自体の位置付けが変化したことも踏まえれば、今後は、これらの症状があることのみをもって入場拒否や退場といった対応が許容されるかは、慎重な検討が必要となろう。
 他方で、発熱や咳などの症状を有する株主が会場内にいることは、新型コロナウイルス感染症かどうかを別としても、一般的に会場内の他の株主の健康に影響を与える可能性があることから、かかる株主に対する一定の働きかけは本来許容され得るものであると考えられる。したがって、Q4のように、「入場を制限すること」や「退場を命じること」といった極端な対応はとらないまでも、よりソフトな対応として、「体調が悪いようにお見受けするが入場を希望されるか」などの問いかけをして意思確認を行うことや、他の株主とは区別した一定のエリアへ誘導するなどの対応をとることは考えられよう。
 また、類似する論点として、マスクの着用を個人の意思に委ねる旨の政府見解が公表されていることも踏まえ、来場した株主にマスクの着用を求めることができるか、という点も問題となる。この点、株主の任意の協力を求める趣旨で、できるだけマスクを着用するよう求めることは引き続き許容され得ると考えられるが(脚注5)、マスクの着用を厳格に求める(従わない株主に対しては退場等を命じる)ことは難しいと考えられる。
(4)株主総会の時間の短縮

Q5.新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等は可能ですか。
(A)可能です。
  新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。
  具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。

 コロナ禍では、株主総会の開催時間を短縮し、株主が長く会場にとどまらないようにするという観点から、株主総会シナリオの大幅な短縮が検討された。具体的には、監査報告、事業報告、並びに計算書類及び連結計算書類の各報告事項や、議案の説明について、「招集通知に記載のとおりである」などの発言で済ませるほか、定足数等に関する報告を省略すること等による簡略化が図られた。かかる短縮シナリオについては、形式的には必要な報告等が最低限行われることが目指されており、理論的には、必ずしもコロナ禍でなければ採用できないものではないとも考えられる。また、かかる短縮シナリオは、これまでの株主総会シナリオにおいて、様式的に守られてきたフォーマットの再評価の動きとみる事もでき、例えば必ずしも法的な要請ではない定足数の報告等、平時でも簡略化の余地があると考えられる項目は確かに存在する。かかる点については、コロナ禍における検討も踏まえて、今後もシナリオの簡略化を継続していくことは考えられよう。しかし、報告事項の報告や決議事項の説明を極端に簡略化するような進行は、それが株主総会における本来の報告・説明の在り方として適切かという点に疑問が残るところであり、今後は、要点は絞りつつも実質的な内容の報告・説明をすることが望まれるのではないかと考えられる。
 なお、上記のとおり、HP掲載文において、「ITの活用」が指摘されているところ、近時は、企業のホームページにおいて、招集通知のほか、決算説明の動画を掲載するなど、株主総会における報告事項の報告に代替し得るようなコンテンツが豊富に提供されている場合がある。しかし、既に述べたとおり、株主総会Q&A(及びHP掲載文)は、新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由とする措置について述べるものであるから、インターネットを通じた情報提供によって十分な情報提供がされているということをもって、当日の議事を簡略化して良いかという点について見解を述べるものではないと考えるべきである。
 報告事項の報告方法のほか、審議(質疑応答)の時間も論点となる。コロナ禍では、時間を短縮するという観点で、従前よりも短い時間で質疑を打ち切ることも検討されていたものと思われる(ただし、実際には、そもそも出席者及び質問自体が少なく、打ち切りが問題とならなかったケースも多かったものと思われる)。コロナ前からも、株主総会の開催時間自体は次第に短縮される傾向にあり、一定の時間を目安に質疑打ち切りを行う実務は一般的であった。したがって、今後もかかる対応が否定されるわけではないが、今後は、株主総会の時間を短縮する必要性が低下すると考えられるため、打ち切りの目安時間を設定する場合には、それが適切か改めて慎重に検討する必要があろう。なお、近時は、株主総会前に、インターネットで事前質問を受け付け、当日その質問への回答を説明するという運営もみられる。これは、当日出され得る質問に先行して回答することで、質疑応答の時間をコンパクトにするという効果も期待できる。かかる取組み自体は特段株主権を制限するものでもないため今後も継続されて良いと考えられるが、それを理由として当日の審議を短時間で打ち切って良いということではない。
 株主総会後の株主懇談会その他の交流会等は、もとより法律上の要請によるものではなく、コロナ禍以前から、開催をとりやめる会社も徐々にみられていたところである。したがって、新型コロナウイルス感染症への配慮にかかわらず、交流会等を行わないことには特段の問題はないし、コロナ禍を理由として交流会等をとりやめていた場合に、今後それを復活すべきというわけでもない。これらの交流会等には、企業PRや、個人株主の満足度向上等の様々な目的があり得るところであり、これらの目的と、準備負担等を勘案して各社で方針を判断すれば足りると考えられる。
 また、類似する論点として、お土産の取扱いをどうするかという問題もある。お土産についても、株主の積極的な来場を促す効果があることから、コロナ禍では提供を取りやめていた会社が多いと思われるが、今後の取扱いはその目的等に照らして方針を判断すべき問題であると考えられる。なお、コロナ禍を機に株主総会の模様をウェブで配信する会社においては、オンライン参加者がお土産を受け取ることができないという点で、不公平感があり得るという点にも留意を要する。

脚注
1 https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai.html
2 なお、本稿において意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が所属し、又は過去に所属した組織の見解を述べるものではない。
3 「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更等に関する対応方針について」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_r2_050127.pdf
4 「マスク着用の考え方の見直し等について」(https://corona.go.jp/news/news_20230210_01.html
5 「基本的対処方針に基づくイベントの開催制限、施設の使用制限等に係る留意事項等について」(https://corona.go.jp/package/assets/pdf/jimurenraku_seigen_20230210.pdf)において、「イベント主催者等が感染対策上又は事業上の理由等により、出演者や参加者等にマスクの着用を求めることができる」との指摘がある。

若林功晃 わかばやし のりあき
森・濱田松本法律事務所パートナー。東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学法学部卒業、米国ミシガン大学ロースクールLL.M.修了。株主総会業務を中心に、アクティビスト対応や危機管理を含むコーポレートガバナンス案件、その他M&Aから商事紛争まで会社法関連分野を幅広く取り扱う。法務省民事局に出向し、令和元年会社法改正やコロナ禍での会社法関連諸施策に従事した経験も有する。

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