解説記事2023年05月15日 ニュース特集 富裕層の複数税目調査で企画特官の設置相次ぐ(2023年5月15日号・№978)
ニュース特集
保有資産を踏まえ税目横断的管理
富裕層の複数税目調査で企画特官の設置相次ぐ
税務署で管理する富裕層について複数税目の観点からの調査企画を行う企画担当特別国税調査官の設置が進んでいる。令和4事務年度においては、大阪局が「調査企画特官(富裕層管理)」を新設、名古屋局は「特別国税調査官(富裕層企画担当)」を設置した。福岡局は「調査企画を主業務とする特官」(企画特官)を博多署に試行的に配置している。富裕層調査では、主宰法人との取引や生前贈与等に対する個人課税部門と他部門等による連携調査も増加しそうだ。
なお、富裕層(継続2管理事案)の管理区分・管理基準については、必要な調査事務量の確保等のため、令和5事務年度に向けて見直しが行われているもようだ。
資産の異動・保有状況を把握、運用形態の解明で文書照会
消費税の適正課税の確保、国際化への取組等と並び、富裕層(継続2管理事案)への対応を国税当局が重点課題としているのは周知のとおり。そこで国税当局の富裕層への取組方針をみると、納税者管理については、関係個人・法人を一体的に捉えた上で、国外財産調書、財産債務調書、国外送金等調書、CRS情報などから資産の異動や保有状況を把握するとしている。また、資産の運用形態を解明する必要がある者に対して文書照会(行政指導)を行い、ストック面にも着目した管理を実施している。
富裕層の調査については、調査事務量の優先確保を指示。調査選定の際は、調査必要度の高い事案を見極め、調査必要度の低い事案への調査事務量の投下を回避する意向だ。
運用益等へ適正な課税
また、富裕層は資産運用等から生じる非事業性所得の割合が高く、資産運用等も多様化していることを踏まえ、運用益等に適正な課税を行うよう指示している。
なお、富裕層の調査では、必要に応じて複数税目観点から多角的な分析が継続的に行われ、取引の実態解明、生前の財産移転に着目した管理によって、計画的に連携調査が実施されるようだ。
非上場株式を用いた財産圧縮スキーム事案等の調査企画
富裕層の複数税目観点での分析等に関しては、東京局が上位富裕層担当特官の総合特官的運用を実施し、上位富裕層以外の富裕層を管理する個人特官からの調査企画依頼も行われている(本誌973号特集参照)。
大阪局も上位富裕層の調査企画を担当する特官を設置しているが、令和4事務年度において、さらに富裕層対応を強化するため「調査企画特官(富裕層管理)」を下京署、堺署に新設した。同特官は、保有資産や資産異動等を踏まえた税目横断的な管理を行うとともに、複数税目にわたる特に複雑な事案の調査企画を実施する。
また、名古屋局は、非上場株式を用いた財産圧縮スキーム等を行う者などの調査ノウハウが必要な事案の調査企画を行う「特別国税調査官(富裕層企画担当)」を名古屋中署に設置した。
福岡局も令和4事務年度において、富裕層の保有資産に着目した複数税目観点からの多角的な事案組成や事案の適切な管理等を目的として、博多署に「調査企画を主業務とする特官」(企画特官)を試行的に配置している(表参照)。
能動的な情報蓄積が必要な者、それ以外の者に区分
名古屋局における富裕層(継続2管理事案)の管理・調査について確認すると、まず調査で接触する必要度に基づき、管理対象者を「調査に軸足を置く者」と「情報蓄積に軸足を置く者」に分類している。
その上で、「情報蓄積に軸足を置く者」を「能動的な情報蓄積が必要な者」と「能動的な情報蓄積が必要な者以外の者」に区分し、「能動的な情報蓄積が必要な者」に対して財産債務調書、国外財産調書等に係る文書照会等を実施している。
調査は、「調査に軸足を置く者」について優先的に調査事務量を確保して実地調査等を実施。一方、「能動的な情報蓄積が必要な者」については、文書照会等の結果、調査すべきと判断した場合に、時期を捉えて実地調査等を実施するとしている(次頁図参照)。
そのほか、名古屋局では、①調査部または法人課税部門との連携調査の実施が効果的な事案については、積極的に連携調査を実施する、②継続2管理事案においては資産運用等が多様化・国際化していることから、署国際税務専門官と連携を図る、③資産の保有状況等を踏まえ、「資産の所有等に関する資料せん」(114資料)を作成することなどを指示している。
取引金融機関情報など贈与税、将来の相続税課税を視野に
複数税目観点からの調査企画を行う企画特官を博多署に配置した福岡局は、富裕層の国際取引事案、贈与税課税に注力しているもようだ。具体的には、①管理対象者のうち国際取引事案について、先端分野取引専門官等(署国際税務専門官、署情報技術専門官)と情報を共有し積極的に選定する、②海外取引事案や主宰法人との取引など多角的な観点からの調査展開を図るため資産課税部門・法人課税部門と情報を共有し、積極的に連携調査を実施するとしている。
また、調査選定、調査展開、資料収集に当たって、ストック情報や取引金融機関情報など贈与税、将来の相続税課税を視野に入れて実施すること、調査で把握した生前贈与について資産課税部門との連携調査などを的確に実施することを指示している。
なお、福岡局では、調査で把握した保有資産のうち不動産や美術品等に関する情報は「資産の所有等に関する資料せん」(114資料)としてシステム入力することなども確認している。
「資産の所有等に関する資料せん」(114資料)とは
富裕層の調査等で把握した資産の保有情報について、将来の相続税の適正課税も視野に入れた蓄積を行うための法定外資料。資産の住所、種類(現金、預貯金、有価証券、土地、建物、機械・装置、無体財産権、書画骨とう美術工芸品、宝石、貴金属、ゴルフ会員権、競走馬、自動車、船舶、航空機、庭園、盆栽、水石、ペット類など)、取得年月日、価額などが把握される。
収集された114資料は、資料調査システムで検索・出力できることから、調査・選定においても活用される。
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