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解説記事2023年05月22日 SCOPE 差押処分で消滅時効が中断、その後取立がなく時効進行せず(2023年5月22日号・№979)

滞納租税債権の消滅時効の完成巡り納税者敗訴
差押処分で消滅時効が中断、その後取立がなく時効進行せず


 租税債権の消滅時効が完成したかどうかが争われていた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和5年4月21日、差押処分による租税債権の時効中断の効力は滞納租税債権全体に及ぶとして、差押処分の後相当期間が経過した場合、差し押さえられた債権の金額を超過する部分については新たに時効が進行するとの原告の主張を斥けた。
 また原告は、処分行政庁が消滅時効の新たな進行を防ぐために、差押処分をしたにもかかわらず、長期間にわたりその後の取立手続を行わず放置していたなどと主張したが、その主張も認められなかった。

東京地裁、差し押さえ債権額超える部分は時効が進行するとの主張認めず

国は生命保険契約の解約返戻金を差押え
 国税の徴収権の消滅時効は5年とされており、法定納期限から5年間行使されなければ、時効によって消滅する(国通法72)。本件は、租税債権の消滅時効が完成したかどうかが争われた事案である。
 原告は、納付すべき所得税を納期限(平成21年3月16日)までに完納しなかった。所轄税務署長は平成21年5月15日、原告に対し、国税通則法37条1項の規定に基づき督促状を発し、平成20年分の所得税の納付を督促した(本件督促処分)。
 それから約4年後の平成25年2月15日、本件租税債権を徴収するため、国税徴収法47条1項及び62条1項の規定により、原告が有する生命保険契約に基づく解約返戻金の支払請求権を差し押さえ(本件差押処分)、同月19日、第三債務者であるA生命保険会社に対し、債権差押通知書を送達した。その後、本件差押処分に基づく本件解約返戻金債権の取立は行われていない。
 東京地裁は、のとおり、本件租税債権の消滅時効は、法定納期限(平成21年3月16日)から進行を開始したが、本件督促処分に係る督促状が発せられた平成21年5月15日に中断し、同日から起算して10日を経過した日の翌日から新たに進行した(国通法73①四)と指摘。

 そして、本件差押処分に係る債権差押通知書が第三債務者に送達された平成25年2月19日に、新たに進行した消滅時効が中断した(国通法72③)と認定した。
時効中断の効力は租税債権全体に及ぶ
 原告は、裁判上の請求のうち明示的一部請求による時効中断の効力が残部に及ばないと解されていることや、差押えの後には速やかな換価が可能であることに鑑みれば、差押処分の後、相当期間が経過した場合、差し押さえられた債権の金額を超過する部分については新たに時効が進行すると主張したが、東京地裁は、そのように解すべき法令上の根拠はないとして原告の主張を斥けた。
 そして、滞納処分としての差押処分(国税徴収法47条1項)は、滞納租税額全体について租税債権を行使するものであるから、同処分によって差し押さえられた財産の価値が滞納租税額に満たない場合であっても、同処分による租税債権の時効中断の効力は当該滞納租税額全体に及ぶとの解釈を示した上で、本件差押処分による時効中断の効力は本件租税債権全体に及ぶとして、本件租税債権全体について消滅時効が完成したということはできないと結論づけた。

国が取立をしないのは、消滅時効の進行を防ぐためとの主張も認められず

 さらに原告は、処分行政庁が消滅時効の新たな進行を防ぐために、本件差押処分をしたにもかかわらず、長期間にわたりその後の手続を行わず放置していた、また、少額の財産を差し押さえた上であえて換価等をしなかったとなどして、本件租税債権の行使は権利濫用に当たるとも主張していた。
 しかし、これに対し東京地裁はまず、「本件解約返戻金債権は、原告が加入する生命保険に係る解約返戻金の支払請求権であるところ、被告において第三債務者からの取立をするために本件保険契約に係る解約権を行使すれば、状況によっては、原告に対し、将来発生する可能性がある保険金の支払請求権を喪失するなどの不利益を生じさせるおそれがある一方、債権差押通知書到達時点での本件解約返戻金債権の額は3万5,670円にとどまり、本件租税債権の額と比べて少額であったことを考慮して、所轄税務署長において、解約権の行使の適否を慎重に検討することとし、その間は第三債務者たる保険者からの取立を行わないことには、相応の合理性が認められる」との考えを示した。また、「被告の徴収職員は、本件差押処分の後、平成26年2月26日から令和4年6月10日に至るまで多数回にわたり、原告の住所地への臨場、電話及び書面の郵送といった手段を用いて連絡を試み、租税の納付を慫慂(ショウヨウ)しており、本件差押処分をした後、本件租税債権の行使を漫然と怠り、これを放置していたとはいえない」などとして、原告の主張を斥けた。
 国税の徴収権の消滅時効は5年とされているものの、国税の滞納に関して時効が成立するケースはほぼあり得ないと言っていいだろう。

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