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解説記事2023年06月12日 ニュース特集 信託型SOの課税上の取扱いと未上場会社の株価算定ルール(2023年6月12日号・№982)

ニュース特集
「1株当たりの価額」にセーフハーバールール
信託型SOの課税上の取扱いと未上場会社の株価算定ルール


 大きな反響を呼んだ本誌965号(2023年2月6日号)の「信託型SOスキーム権利行使時課税 従来の理解を覆すことに」でお伝えしたとおり、国税庁は5月30日、「ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)」を公表し、信託型ストックオプションについては、行使時に「給与課税」となる旨を明らかにした(本誌981号参照)。国税庁は、信託型ストックオプションの課税関係を広く周知するとともに、信託型ストックオプションについても、一定の要件を満たせば、給与課税を要しない税制適格ストックオプションとして取り扱うことを明らかにしている。また、税制適格ストックオプションに係る付与契約時の株価算定ルール(未上場会社の株価算定ルール)を明確化することにより、税制適格ストックオプションへの移行を促し、より制度を利用しやすいものとする。具体的には、財産評価基本通達による1株当たり価額を算定することを可能にした上で、セーフハーバールールを導入する。
 本特集では、信託型ストックオプションの課税上の取扱いに加え、国税庁が5月30日に公表した「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等の一部改正(案)で示した税制適格ストックオプションに係る付与契約時の株価算定ルール(今号11頁参照)について、取材等に基づきQ&A形式で解説する。

信託型ストックオプションの課税上の取扱い

従来から照会があれば「給与課税」と回答
Q
 国税庁は5月30日、信託型ストックオプション(以下「SO」)の課税上の取扱いとして、権利行使時に給与課税となる旨を公表しましたが、数年前から「給与課税でない」と理解していた信託型SOを導入している企業からすると、なぜ今頃になって公表するのかという疑問が生じます。
A

 国税庁は、これまでも企業や納税者から取扱いに関する照会があったときには「給与課税」と説明していたとしており、従来の取扱いを変更したわけではないとしている。今回、Q&Aを公表した経緯としては、昨年10月~11月頃に信託型SOの税務上の取扱いの照会があった際に「給与課税」であると説明したところ、照会者から信託型SOを導入している多くの企業は「給与課税ではない」との認識を持っており、国税庁の見解とは大きく異なっているとの指摘を受けたことから、このような状況を改善することを目的としてQ&Aを公表したとしている。
 なお、国税庁が全国のすべての税務署に確認したところでは、信託型SOの全体のスキームが示された上で「給与課税ではない」と回答した事案はないとしている。

新株予約権の付与は役職員の労務の対価の結果
Q
 信託型SOについては、役職員が新株予約権を行使して発行会社の株式を取得した場合、その経済的利益は給与所得になるとのことですが、信託型SOを導入している企業との間でどのような点で見解の相違があったのでしょうか。
A

 見解の相違は2点あるようだ。まず1つ目は誰が新株予約権を付与しているかという点だ。(信託会社等の説明を受けた)会社側は、所得税法施行令84条3項の「発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合」に関して、「発行会社」ではなく、「信託会社」が新株予約権を付与しているから条文にある「発行法人」に該当しないとして、給与に該当しないとの認識を持っていたようだ。一方、国税庁側は、発行会社が信託会社に渡して信託が役職員に新株予約権を付与しているスキームになっているが、信託会社は新株予約権の行使や、売却などの行為はすることができず、単に預かっているだけで、役職員に新株予約権を付与することを前提に発行がなされていることから、発行会社から役職員に付与しているとの見解に立っている。
 また、会社側は、信託が新株予約権を購入しているので、役務提供の対価ではなく、金銭を払い込んだ対価として新株予約権が発行され、役職員に引き継がれているから給与には該当しないとの認識となっているが、国税庁は、信託が新株予約権を購入しているものの、役職員は金銭を支出していないので、役職員が新株予約権を付与されたのは労務の対価であるとしている。加えて、会社への貢献度に応じて受益者が指定されることからしても、明らかに役務提供の対価であるとしている。これが見解の相違の2点目である。

信託型から税制適格SOへの移行は可
Q
 信託型SOについて、税制適格SOに移行することは可能ですか。
A

 国税庁は、信託が新株予約権を保有し、役職員に新株予約権が付与されていない段階(図1の④)においては、税制適格SOの要件を満たすのであれば、税制適格SOへの移行も可能としている。

「給与課税」を前提に行使するか否か
Q
 役職員に新株予約権がすでに付与されていますが、まだ権利行使は行われていません。この段階での課税関係を教えてください。
A

 役職員に新株予約権が付与されたものの、権利行使をしていない段階(図1の⑥)であれば、給与課税とはならない。したがって、給与課税を前提に権利行使を行うか、もしくは、信託型SOを廃止し、税制適格SOを付与するということも一つの選択肢となる。

権利行使が行われたと見込まれる上場企業は20数社
Q
 すでに役職員が新株予約権の行使を行い、株式の交付が行われている場合にはどのような対応が考えられますか。
A

 役職員が新株予約権を行使し、株式の交付を受けている場合(図1の⑧)には、給与課税の対象となり、会社が遡及して源泉徴収を行う必要がある(時効は5年)。仮に源泉所得税の一括納付が困難な場合には、税務署に申請をすることで、原則として1年以内の期間に限り、納税の猶予等に基づく分割納付ができるとされており、国税庁は可能な限り企業活動に影響を与えない形で対応したいとしている。
 なお、国税庁によると、新株予約権の行使が行われたと見込まれる上場企業数は20数社とみており、大多数の会社に影響を与えるまでには至っていないとの認識を示している。例えば、グロース市場に上場するエクサウィザーズでは、信託型SOを導入しているものの、確定した受益者及び金額は僅少で、権利行使を行った者はいないと公表。また、プライム市場に上場するラクスルでは、まだ受益者は確定されていない段階である旨を明らかにしている。

未上場会社の株価算定ルール

株価算定ルールは「税制適格ストックオプション」が対象
Q
 国税庁は5月30日に「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等の一部改正(案)を公表していますが、具体的な内容について教えてください。
A

 税制適格SOの権利行使価額については、SOに係る契約締結時の株価を上回る水準で設定することとされている。改正通達案では、この株価については売買実例等により算定した価額であることを明確化した上で、取引相場のない株式(いわゆる未上場株式)については、一定の条件の下、財産評価基本通達の例により算定している場合には、売買実例等により算定した価額の如何にかかわらず、これを認めるというセーフハーバールールを設けるとしている。また、新株予約権の発行会社が種類株式を発行している場合には、その種類株式の内容を勘案して1株当たり価額を算定することができることとしている。具体的な計算方法は、今後、Q&Aで明らかにするとしている。
 このセーフハーバールールは、自民党のスタートアップ政策に関する小委員会(委員長:甘利明衆院議員)が5月11日に取りまとめた「『スタートアップ育成5か年計画』の実現に向けた提言」に盛り込まれたもの。提言では、「種類株式に応じたセーフハーバーとしての株価算定ルールが明示されておらず、税制適格ストックオプション(SO)の発行や役職員等のインセンティブ目的での株式の付与時において不安定な税務実務になっていることから、米国IRC409Aの日本版(日本版409A)として、ガイドラインや国税庁通達等の形で同ルールや指針を策定すること。」とされていた。なお、「IRC409A」とは、未上場会社の普通株式の株価算定ルールとして、米国の内閣歳入庁が策定したものである。

株価算定を容易にし、税制適格の否認リスクの回避も可能
Q
 セーフハーバールールとは、財産評価基本通達により取引相場のない株式の株価を算定している場合には、売買実例等により算定した価額の如何にかかわらず、これを認めてくれるというものとのことですが、もう少し具体的に教えてください。
A

 例えば、税制適格SOを付与するときの株価が200円であった場合には、権利行使価額は「200円」以上で設定しなければならない。税制適格SOの適格要件の1つに「当該新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること。」(措法29条の2①三)とあるからだ。
 企業側からすると、権利行使価額を可能な限り付与時の株価に近づけたいというのが実情だが、未上場株式についてはそもそも取引相場がなく、1株当たりの価額を容易に算定することができないという状況がある。このため、実務においては、税務当局に税制適格を否認されることをおそれ、権利行使価額を「300円」や「400円」と設定することが行われているわけだ。しかし、権利行使価額を高く設定してしまうと、将来的な株式譲渡益となる金額も低くなり、役職員等が享受するメリットも小さくなってしまう。
 このため、実務で浸透している財産評価基本通達により容易に1株当たりの価額を算定できるようにするとともに、これにより算定した株価を下回らなければ、税制適格として取り扱う(税務当局から否認されない)というのがセーフハーバールールであり、今回の改正通達案のポイントといえる。

権利行使価額が1円も可能
Q
 弊社については、純資産がほとんどありません。純資産価額方式により株価を算定した場合、「1株当たりの価額」が1円になってしまいますが、大丈夫でしょうか。
A

 例えば、財産評価基本通達の純資産価額方式の場合、下記の計算例①のとおり、純資産が50万円で全株式が1,000株だとすると、1株当たりの価額は500円となる。この純資産の価額だが、スタートアップのベンチャー企業の場合、払い込みを受けた金額をすぐに広告宣伝費や役員の給与などで支払ってしまうことも多く、純資産の価額が異様に少ないところも多いようだ。このため、純資産の価額が低ければ、自ずと1株当たりの価額も低くなり、「1円」ということもあり得ることになる。仮に権利行使価額が1円になれば、図2のセーフハーバーのラインが1円になるので、役職員等の利益は極大となる。

VCが保有する優先株式を除外して1株当たり価額の算定可
Q
 弊社では、ベンチャーキャピタル(VC)が保有する優先株式があります。改正通達案では、1株当たりの価額はどのように算定することができますか。
A

 スタートアップ期のベンチャー企業の場合、VCから出資を受けることが多いが、契約上、VCは保有する優先株式について優先分配を受け、残りの金額を均等分配することになるケースが多いという。このため、改正通達案では、種類株式の内容を勘案して1株当たりの価額を算定することができるようになり、この場合は、VCの保有する優先株式による優先分配分を除いたところで純資産の額を算定することができる。下記の計算例②によれば、1株当たりの価額は250円となる。
 VCから多額の出資を受けて純資産が多いベンチャー企業についても1株当たり価額を低く設定することが可能になり、この点についても税制適格SOが使いやすくなりそうだ。

過去に付与した新株予約権についても適用可
Q
 改正後の通達はいつから適用になりますか。すでに付与している新株予約権については対象になりませんか。
A

 改正後の通達は、通達の発遣日以後に行う新株予約権の行使について適用するとされている。このため、過去に付与した新株予約権についても通達の発遣後に行使するのであれば適用することができる。
 なお、改正通達案については、6月29日まで意見募集を行っており、7月中には正式決定される運びとなっている。

重要資料

「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等の一部改正(案)の概要

1 改正の背景

 租税特別措置法第29条の2に規定する「特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等」(以下「税制適格ストックオプション」といいます。)については、同条第1項第3号において、「新株予約権の行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」が要件とされています(以下、本要件を「権利行使価額要件」といいます。)。
 この権利行使価額要件に係る「契約時の1株当たりの価額」に関し、取引相場のない株式については、「株価算定ルールが明示されておらず、税制適格ストックオプションの発行等において不安定な税務実務となっている」との指摘がなされていました。

2 改正案の概要
 上記の指摘を踏まえ、「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等を次のとおり改正します。
(1)権利行使価額要件に係る「契約時の1株当たりの価額」については、所得税基本通達23~35共−9の例(売買実例等)によって算定することを明確化します。
  そのうえで、取引相場のない株式の「契約時の1株当たりの価額」については、財産評価基本通達の例によって算定することを認めます。
  本取扱いにより、取引相場のない株式については、財産評価基本通達の例によって算定した「契約時の1株当たりの価額」以上の価額で「権利行使価額」を設定していれば、権利行使価額要件を満たすこととなります。
(2)上記と併せて、次の点を明確化します。
 ① 所得税基本通達23~35共−9(4)イの売買実例については、株式の種類ごとに売買実例の有無を判定すること
 ② 所得税基本通達23~35共−9(4)ニの方法による価額の算定に当たっては、著しく不適当と認められる場合を除き、財産評価基本通達の例により算定できること
 ③ 財産評価基本通達の例により算定する場合には、株式の種類の内容を勘案して算定すること
 (注)具体的な計算例につきましては、参考資料をご参照ください。

3 適用時期
 改正後の取扱いは、本通達発遣後に行う新株予約権の行使について適用します。

4 新旧対照表
 本改正に係る新旧対照表は、別紙のとおりです。

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