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解説記事2023年06月26日 ニュース特集 新しい資本主義実行計画における注目の税制措置(2023年6月26日号・№984)

ニュース特集
ランニングコストを対象とした租特、イノベーションボックス検討も
新しい資本主義実行計画における注目の税制措置


 政府の「新しい資本主義実現会議」は6月16日、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(以下、改訂版)を閣議決定したが、本文だけで70頁近くに及ぶ改訂版には多くの税制措置をはじめとする重要政策が盛り込まれている。
 特に注目されるのが、租税特別措置の大幅な拡充と「イノベーションボックス」だろう。
 従来、日本の特別償却・税額控除制度は基本的に初期投資を対象としてきたが、「ランニングコスト」も同制度の対象にすることや、通常2~3年ということが多い適用期間を「中長期にわたって十分な予見可能性が確保されている」程度の期間に延長することが検討される。
 また、改訂版には「知的財産の創出に向けた研究開発投資を促すための税制」としか記載はないが、本誌取材により、これは「イノベーションボックス」を想定していることが判明している。イノベーションボックスとはパテントボックスを包含するより広い意味での優遇税制のことを指すが、日本に根強く残る「パテントボックス=有害税制」というイメージを乗り越えて導入が実現するか、注目される。
 このほか、ストックオプション関連の政策も目に付く。既に国税庁からはストックオプション税制における「一株あたりの価額の算定」等について実務上の指針が示されているが、本件に加え、税制適格ストックオプションの上限額(1,200万円)の引き上げ又は撤廃など、自民党が5月12日にとりまとめた『「スタートアップ育成5か年計画」の実現に向けた提言』を踏まえた内容が盛り込まれている。
 本特集では、注目措置の実現可能性やポイント、改訂版の記述だけでは分からない措置の内容等について、本誌の独自取材情報を交えお伝えする。

適用期間が5年超の特別償却・税額控除が導入される可能性も

 6月6日の「新しい資本主義実現会議」では、昨年同時期にとりまとめられた「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の2023改訂版案が示されたが、同16日に閣議決定され、確定している(以下、改訂版)。
 以下、注目の措置について解説していこう。
退職所得課税制度の見直し
 退職所得は、原則として「退職金額−退職所得控除額)×1/2×税率」により税額を計算することになっているが、改訂版の12頁②に掲載された「退職所得課税制度の見直し」には、人材流動化を促進するため、現行制度上、勤続20年を境に勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額される退職所得控除額を見直すことが明記された。改訂版では触れられていないが、具体的には、勤続年数を問わず「一律」の金額とする。
 退職所得控除の見直しは「新しい資本主義実現会議」が5月16日に公表した「三位一体の労働市場改革の指針」案にも盛り込まれており(本誌980号参照)、政府内では事実上、実施が確定していることが本誌取材により確認されている。これは、本措置の末尾が「見直しを行う」という断定的な表現になっていることが示している。

退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、……中略……、本税制の見直しを行う

 現時点では金額までは決まっていないが、仮に一律70万円とすれば財源の問題が生じ、逆に一律40万円とすれば、勤続20年を超えた者からの反発が見込まれることから、40万円と70万円の間の金額となる可能性が高そうだ。
 退職所得控除の見直しは令和6年度税制改正で実施されるが、施行までには数年間の猶予期間が設けられる可能性もある。
初期投資にとどまらないランニングコストを含めた包括的支援
 16頁下部~17頁上部には、外国の事例を引用しつつ、「初期投資にとどまらずランニングコストを含めた包括的支援」「国内外の企業に中長期的な予見可能性を示すことができる規模・期間での包括的な支援」との記述があるが、これは従来の特別償却・税額控除制度の大胆な拡充を意図したもの。
 具体的には、従来、日本の特別償却・税額控除制度は基本的に初期投資を対象としてきたところ、「ランニングコスト」も同制度の対象にすることが検討される。また、「中長期的な予見可能性を示すことができる規模・期間での包括的な支援」とは、特別償却や税額控除等の租税特別措置の適用期間を現状より長いものとすることを意図している。租税特別措置の適用期間は通常2~3年ということが多いが、これに対し企業側からは、「投資を計画していざ実行しようという時には適用期限切れになっている」といった指摘も聞かれる。改訂版にある「中長期にわたって十分な予見可能性が確保されている」期間がどれくらいになるのかはまだ決まっていないが、外国の事例として示されているように、仮に5年、10年といった期間となれば画期的と言える。ただし、対象は「半導体・蓄電池・バイオものづくり・データセンターといった戦略的分野」に限定される方向。
 本措置は末尾が「以上のような諸点を踏まえ、世界に遜色ない水準で、税制面、予算面の支援を検討する。」となっていることから、実施することが確定したわけではないが、改訂版にここまで書き込まれている以上、“ゼロ回答”は考えにくいだろう。

イノベーションボックスはネクサス・アプローチとの整合性などが課題に

イノベーション環境の整備
 18頁の下部には、「民間による無形資産投資を後押しする観点から、海外と比べて遜色なく知的財産の創出に向けた研究開発投資を促すための税制面の検討」とある。ここでいう「知的財産の創出に向けた研究開発投資を促すための税制」とは、経済産業省が4月に立ち上げた「民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会」で検討が進むイノベーションボックスが想定されていることが本誌取材により判明している。
 イノベーションボックスとは、知財等由来の所得に対しても優遇税率を適用するという、パテントボックスを包含するより広い意味での優遇税制のことを指す。イノベーションには様々な段階があるが、日本には研究開発段階における研究開発税制は存在するものの、製品化が成功し、社会実装した段階での優遇税制はない。一方、欧州ではかねてから研究開発税制のみならずイノベーションボックスが存在しており、米国でもトランプ大統領の税制改革により、国外無形資産由来所得の特別控除を行うFDIIが導入された。近年ではシンガポール、インドがイノベーションボックスを導入したほか、オーストラリアや香港も導入を検討している。
 類似の税制として、特許由来の所得に優遇税率を適用するパテントボックスがあるが、イノベーションボックスは特許以外の知財等由来の所得に対しても優遇税率を適用するという点で、パテントボックスを包含するより広い意味での優遇税制、とひとまずは理解しておけばよいだろう(現状、イノベーションボックスについて厳密な定義はない)。
 日本でも、英国におけるパテントボックスの導入を受け、平成25年度税制改正前後において、製造業を中心に一旦導入議論が盛り上がったことがあるが、結局、パテントボックスを導入するのであれば既存の研究開発税制を縮減するという「税収中立」の観点からの議論になることへの懸念から、具体的な税制改正要望には至らなかった。
 その後、OECDでBEPSプロジェクトが始まり、パテントボックスは有害税制の代表格としてやり玉にあがった。その背景には、主にドイツが、欧州の他国のパテントボックスにより自国の産業基盤/知的財産権が流出していると主張したことがある。この結果、2015年のBEPS行動5(有害税制への対抗)最終報告書では「ネクサス・アプローチ」が提示され、企業が研究開発費の支出という形で自ら貢献した程度に応じて、パテントボックスの優遇度合いが変動することとされた。これによれば、自ら汗をかかず、単に他国から知財を買ってきたとしても、パテントボックスの優遇税制は受けられないことになる。
 OECDにおける議論は、パテントボックス自体を否定するものではなく、許容できるパテントボックスの範囲を示したものであったが、「有害税制」との“レッテル張り”の効果は大きく、日本では導入機運が急速にしぼみ、その後、税制改正の過程でパテントボックスが真剣に議論されることはなかった。
 民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会は、7月下旬に「取りまとめ(案)」の公表を予定しており、8月末の経産省の税制改正要望に盛り込まれる可能性がある。ただ、仮に正式に税改正要望に盛り込まれれば、税制当局は「政策としての妥当性」「財源論」「BEPS行動5最終報告書のネクサス・アプローチとの整合性」などを厳しくチェックしてくることが予想される。この点を踏まえると、令和6年度税制改正に限定せず、中長期的な期間での検討事項となる可能性もありそうだ。
 また、イノベーションボックスについて改訂版では「税制面の検討」との表現にとどまっていることから、導入が確定したわけではない点にも留意する必要がある。

SO税制の上限額の引上げ又は撤廃には高い税制当局のハードル

高度外国人材の呼び込み
 近年、外国人を経営幹部に採用する企業が増加する中、19頁(4)には「高度人材呼び込みに向けた税制や規制などの制度面も含めた課題の把握・検討」との記述が盛り込まれた。
 既に令和3年度税制改正では、日本に居住する外国人に係る相続・贈与について、居住期間にかかわらず、国外に居住する外国人や日本に短期的に滞在する外国人が相続人・受贈者として取得する国外財産を相続税・贈与税の課税対象外とする改正が行われていることから、令和6年度税制改正では、所得税制の見直しが検討される可能性がある。
ストックオプションの環境整備
 ストックオプションの環境整備(37頁上部~)では、①会社法上の手続の見直し、②非公開会社における株式保管委託要件の見直し、③社外高度人材へのSO付与における認定手続の簡素化、④未上場会社の株価算定ルールの策定などが打ち出されている。これらは、基本的には自民党が5月12日にとりまとめた『「スタートアップ育成5か年計画」の実現に向けた提言』に盛り込まれた内容を踏まえたものとなっている。
 このうち⑤未上場会社の株価算定ルールの策定については、既に国税庁から、「一株当たりの価額を算定」について、財産評価基本通達における算式(純資産価額方式や配当還元方式等)を用いた場合には、一株当たりの価額として適正である旨のセーフハーバーを設けることや、種類株を発行している場合の計算例など実務上の指針が示されたところ(本誌982号参照)。
 また、①の会社法上の手続きの見直しについては、現行会社法上、ストックオプションの発行枠の決議から1年以内に発行する必要があるが、これが柔軟なストックオプションの発行を妨げているとの指摘を受け、見直しが実現することになりそうだ。
 ②非公開会社における株式保管委託要件の見直しについても、既に上場会社は株券を発行しておらず、株主の権利は「ほふり」により電子的に管理されていることとの整合性から、廃止される可能性が高いだろう。
 このほか自民党の「スタートアップ育成5か年計画」では上限額(1,200万円)の引き上げ又は撤廃が打ち出されているが、減収が生じること、また、米国においても上限額が同様の水準であることから、これまで税制当局が難色を示してきた経緯があり、実現に向けては依然としてハードルは高いだろう。

のれんの償却額を調整した利益を決算短信で開示することに“お墨付き”も

RSUの活用に向けた環境整備
 スタートアップにおいて事後交付型譲渡制限付株式(RSU=Restricted Stock Unit)を付与する場合、これが金商法の定める年1億円以上の新株発行に対する有価証券届出書の開示義務の対象になるのかが不明確であり、スタートアップにおけるRSUの導入の障害になっているとの指摘を受け、その取扱いの明確化が図られる(42頁⑰)。
 方向性としては、有価証券届出書の提出は不要とされる可能性が高そうだ。
スタートアップのための資金供給の強化
 個人からベンチャーキャピタルへの投資促進として、ファンド経由でスタートアップに投資する場合もエンジェル税制の対象とすることを検討する(44頁⑨)。
有価証券届出書・会社登記等における個人情報の取扱いの見直し
 ベンチャー投資を促進するため、個人情報の保護も強化される(48頁)。
 現行制度上、IPO時に提出される有価証券届出書等には、ストックオプション保有者の氏名・住所等の記載が求められているが、これを本年「度」内に見直しを行う。
 また、会社の登記簿への代表取締役の住所の記載についても、本年内に見直しを行う。
 両政策の実施時期には若干の差はあるものの、いずれも見直しを「行う」との断定的な表現となっており、実施することが事実上確定している。
海外投資家に対する税制度の利便性向上
 令和3年度税制改正では、海外投資家が海外ファンドを通じて日本のファンドに投資する場合、その海外ファンドの持分が25%以上であっても、個別の投資家単位で25%未満であれば日本で事業所得として所得税を課税しない旨の税制改正が実施されたところ。これに続き、令和6年度税制改正では、海外LP(Limited Partner:有限責任組合員)から国内GP(General Partner:無限責任組合員)への投資を促すための税制改正が検討される(48頁.)。
オープンイノベーションの推進
 令和5年度税制改正では、オープンイノベーション促進税制について、スタートアップの成長に資するものであれば「5億円以上の取得」で既存発行株式も対象とする旨の改正が実施されたが、改訂版には「適用期限の延長等を検討する」との記述が盛り込まれた(49頁①)。
 もっとも、オープンイノベーション促進税制は昨年度改正が行われたばかりであること、今年度で期限切れを迎えることを踏まえると、適用期限の延長が実施されるだけにとどまる可能性もある。
M&Aを促進するためのIFRSの任意適用拡大、M&Aの成果に関する情報開示の在り方
 日本の会計基準とIFRSの最大の違いの一つとして指摘されるのが「のれん」の償却の要否だ。のれんの償却を求める日本基準に対しIFRSでは償却が求められないため、決算への影響を考慮し、IFRSを選択する企業もある。
 こうした実態を踏まえ改訂版では、「IFRSの任意適用を拡大することを促す」としているが(49頁④)、現実には、大手メーカーを除き、IFRS任意適用企業数は伸び悩んでいる。そこで改訂版では、「のれんの償却額を調整した利益(Adjusted EBITDAベース)を決算短信において開示するなど、投資家がM&Aの成果をより理解できる方策を検討する。」としている(同⑤)。既に20社程度がそのような開示を決算短信において任意で行っているが、今後、このような開示に対し“お墨付き”が与えられることになりそうだ。

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