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解説記事2023年07月10日 税務マエストロ 消費税法基本通達の制定(2023年7月10日号・№986)

税務マエストロ
消費税法基本通達の制定
#289
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 令和5年6月1日に国税庁から『「消費税法基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)に対する意見公募手続の実施について』が公表され、個別通達(法令解釈通達)として運用されていた「インボイス通達・軽減通達・総額表示通達」が令和5年10月1日より基本通達に統合されることになった。
 改正の概要については、既存の取扱通達を基本通達のどこに挿入したかということが、「消費税法基本通達改正対象通達一覧表(別紙1)」により表示されている。また、取扱通達の基本通達への取込みのほか、インボイスQ&Aの基本通達への取込みや、インボイス制度、軽減税率制度を踏まえた取扱いの明確化・技術的修正が予定されている。
 本稿では、新基本通達の制定に伴い、追加改訂された箇所や実務上重要となりそうな箇所を拾い出して解説を試みることとする。

Ⅰ (共同)相続があった場合の登録の効力

 相続があった場合の登録の効力については、インボイス通達2−6を基本通達1−7−4として取り込むこととした。また、共同相続があった場合の登録の効力について、新たに基本通達1−7−5を追加した。

□相続があった場合の登録の効力

(相続があった場合の登録の効力)
1−7−4
 相続があった場合(適格請求書発行事業者以外の相続人が事業を承継した場合に限る。)における適格請求書発行事業者である被相続人の登録は、みなし登録期間(法第57条の3第3項《適格請求書発行事業者が死亡した場合における手続等》に規定する「みなし登録期間」をいう。以下同じ。)後にその効力を失う。したがって、当該被相続人の事業を承継した相続人が当該みなし登録期間後においても適格請求書を交付しようとするときは、新たに登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受けなければならないことに留意する。
  なお、当該相続人が当該みなし登録期間中に登録申請書を提出した場合において、当該みなし登録期間の末日までに当該申請書に係る適格請求書発行事業者の登録又は法第57条の2第5項《適格請求書発行事業者の登録の拒否》の処分に係る通知がないときは、同日の翌日から当該通知が当該相続人に到達するまでの期間はみなし登録期間とみなされることから、その間の相続人による適格請求書の交付は被相続人の登録番号により行うこととなる。
(注)免税事業者である相続人が適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継した場合、当該相続人は、法第57条の3第3項の規定により適格請求書発行事業者とみなされ、法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の適用を受けないこととなるため、当該相続人がみなし登録期間中に適格請求書発行事業者の登録を受けようとするときは、登録申請書のみを提出すればよく、課税事業者選択届出書の提出を要しないことに留意する。


※下線の箇所が基本通達の制定に伴い追加された箇所である。

<ポイント>

1 被相続人の登録の効力と登録申請書の提出

 被相続人の登録の効力は相続人に承継されないので、事業を承継した相続人が登録を受けるためには、改めて登録申請書を提出する必要がある。
 なお、被相続人の登録の効力は、相続人が登録申請をするかどうかに関係なく、一定期間継続した後で、下記の日に失効することになる。

 上記のとおり、被相続人の登録は死亡届出書の提出によって失効することとなるが、仮に死亡届出書が提出されなかったとしても、被相続人の死亡日の翌日から4か月目にはその効力は失効することになる。言い換えるならば、効力が失効するまでの間は被相続人の登録番号は有効となり、相続人はインボイスの発行と申告義務を承継することになるのである(インボイスQ&A問16【答】2(※))。
 店舗や事務所などの賃借人は、家主である被相続人が死亡し、遺産分割も確定していない状況ではインボイスの交付を受けられるかどうかがわからない。そこで、家主(被相続人)が登録事業者の場合には、事業を承継した相続人は、登録の意思に関係なく、少なくとも4か月間は登録事業者として申告義務を承継することになる。

2 事業を承継した相続人がいる場合の取扱い(新消法57の3③④、新消令70の6②)
 事業を承継した相続人がいる場合には、みなし登録期間中は、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす。
 免税事業者である相続人が登録申請をする場合、みなし登録期間中は課税事業者となることから、登録申請書のみの提出で適格請求書発行事業者になることができる。
※免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録申請する場合には、課税事業者選択届出書の提出は必要ないこととされている(平成28年改正法附則44④)。基本通達1−4−7に追記された(注)は、この経過措置の適用期間が終了した場合でも、免税事業者である相続人が登録申請をする場合には、みなし登録期間中は登録申請書のみの提出で適格請求書発行事業者になることができることを明らかにしたものと思われる。

 この場合において、相続人がみなし登録期間経過後も適格請求書を交付しようとするときは、新たに登録申請書を提出して登録を受ける必要がある。
 また、相続人がみなし登録期間中に登録申請書を提出した場合において、みなし登録期間の末日までに登録または処分の通知がないときは、通知が相続人に到達するまでの期間はみなし登録期間とみなされ、適格請求書の交付は被相続人の登録番号によることとなる。

共同相続があった場合の登録の効力

(共同相続があった場合の登録の効力)
1−7−5
 相続があった場合において、2以上の相続人があるときには、相続財産の分割が実行されるまでの間は適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、これらの相続人(適格請求書発行事業者を除く。以下1−7−5において同じ。)は法第57条の3第3項《適格請求書発行事業者が死亡した場合における手続等》に規定する「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人」に該当するものとして取り扱う。なお、みなし登録期間の末日までに相続財産の分割が実行された場合において、適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継しないこととなった相続人は、相続財産の分割が実行された日以後同項の規定が適用されないため、同日以後適格請求書発行事業者とみなされないことに留意する。

<ポイント>
 相続財産が未分割の場合には、財産の分割が実行されるまでの間は各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととされている。したがって、みなし登録期間中は、遺産分割が確定するまでの間、各相続人は法定相続分割合に応じたインボイスの発行と申告が義務付けられることになる。
 また、みなし登録期間中であっても、被相続人の事業を承継しないこととなった相続人は、遺産分割確定後の期間については適格請求書発行事業者とはみなされないため、インボイスの発行と申告義務はない。
【具体例】
 3月31日に相続が発生し、相続人である長男と次男による遺産分割協議の結果、6月30日に適格請求書発行事業者である被相続人の事業はすべて長男が承継することが確定した。

Ⅱ 委託販売・共同事業

□委託販売

(委託販売による資産の譲渡の時期)
9−1−3
 棚卸資産の委託販売に係る委託者における資産の譲渡をした日は、その委託品について受託者が譲渡した日とする。ただし、当該委託品についての売上計算書が売上げの都度作成されている場合において、事業者が継続して当該売上計算書の到着した日を棚卸資産の譲渡をした日としているときは、これを認める。
(注)受託者が週、旬、月を単位として一括して売上計算書を作成しているときは、「売上げの都度作成されている場合」に該当する。
  なお、ただし書の取扱いを適用している委託者が適格請求書発行事業者の登録を取りやめる場合、受託者が行った委託品の譲渡について、当該譲渡に係る売上計算書の到着した日が法第57条の2第10項第1号《適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める場合の届出》に定める日以後となるときは、当該到着した日の資産の譲渡とすることはできない。

※下線の箇所が基本通達の制定に伴い追加された箇所である。

<ポイント>
 委託販売については、受託者が商品を譲渡した日が委託者の売上計上日となるのであるが、継続適用を条件として、売上計算書の到着日に売上計上することも認められている。この基本通達9−1−3について、委託者が登録事業者でなくなった場合の取扱いが、新たに注書に追記された。

【具体例】
 下記の取引において、3月決算法人である委託者の売上計上日は3月30日になるが、委託品についての売上計算書が売上げの都度作成されている場合には、4月5日を売上計上日とすることも認められる。

 この場合において、委託者が3月17日までに登録取消届出書を提出した場合には、売上計算書が送付された4月5日に売上計上することはできない。

□共同事業

(共同事業の計算期間が構成員の課税期間と異なる場合の資産の譲渡等の時期)
9−1−28
 共同事業において、1−3−1により各構成員が行ったこととされる資産の譲渡等については、原則として、当該共同事業として資産の譲渡等を行った時に各構成員が資産の譲渡等を行ったこととなる。
  ただし、各構成員が、当該資産の譲渡等の時期を、当該共同事業の計算期間(1年以内のものに限る。以下9−1−28において同じ。)の終了する日の属する自己の課税期間において行ったものとして取り扱っている場合には、これを認める。
(注)ただし書の取扱いを適用している構成員が適格請求書発行事業者の登録を取りやめる場合、共同事業として行った資産の譲渡等について、当該資産の譲渡等に係る共同事業の計算期間の終了する日が法第57条の2第10項第1号《適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める場合の届出》に定める日以後となるときは、当該共同事業の計算期間の終了する日の属する課税期間における資産の譲渡等とすることはできない。

※下線の箇所が基本通達の制定に伴い追加された箇所である。

<ポイント>
 共同事業については、その共同事業の計算期間の終了日の属する課税期間において、その共同事業の各構成員が資産の譲渡等の対価を計上している場合、その処理を認めることとしている。この基本通達9−1−28について、その構成員が登録事業者でなくなった場合の取扱いが、新たに注書に追記された。

Ⅲ 郵便切手類、物品切手等の評価・売上計上時期・支払対価の額

□売上代金として物品切手等を取得した場合の取扱い

(物品切手等の評価)
10−1−9
 次に掲げる資産を課税資産の譲渡等の対価として取得した場合には、それぞれ次に掲げる金額が当該課税資産の譲渡等の金額となる。
(1)物品切手等(法別表第二第4号に規定する物品切手等をいう。以下10−1−9において同じ。
 イ 物品切手等と引換えに物品の給付等を行う者が当該物品切手等を発行している場合については、その発行により受領した金額
 ロ 物品切手等と引換えに物品の給付等を行う者以外の者が当該物品切手等を発行している場合については、当該物品切手等につき発行者等から受領する金額
                 :
               (省略)

※下線の箇所が基本通達の制定に伴い改訂・追加された箇所である。

<ポイント>
 金銭に代え、売上代金として物品切手等を取得した場合には、次の金額を課税売上高として計上することとされている。

1 物品切手等と引換えに物品の給付等を行う者が当該物品切手等を発行している場合(基本通達10−1−9(1)のイ)
 販売者(物品の給付等を行う者)と物品切手等の発行者が同一の場合には、販売者(発行者)がその物品切手等の販売(発行)により受領した金額がその課税売上高(物品切手等の評価額)になる。
【取引例1】
 12,000円の商品券を販売(発行)し、その後、商品券と引き換えに商品を引き渡した場合

【取引例2】
 自らが主催する演劇の入場券(額面12,000円)を1,000円引きの11,000円で販売した場合には、実際に受領する11,000円を基に譲渡対価を計算することになる。
 また、買手の仕入控除税額は、額面金額ではなく、簡易インボイスに記載された11,000円を基に計算する(インボイスQ&A問69)。

2 物品切手等と引換えに物品の給付等を行う者以外の者が物品切手等を発行している場合(基本通達10−1−9(1)のロ)
 改正基本通達では、物品切手等と引換えに物品の給付等を行う者以外の者が当該物品切手等を発行している場合については、当該物品切手等につき発行者等から受領する金額を課税売上高として計上することとしているのであるが、この日本語の意味がよくわからない。
 改正前の基本通達では、売上代金として券面金額がない物品切手等を取得した場合には、引換給付される物品又は役務について取得し、又は提供を受けるために通常要する金額を売上計上することとしていた。よって、券面金額のない演劇の入場券を取得したような場合には、主催者(売手)は、その観劇の入場料に相当する金額を課税売上高として認識することになる。
【取引例】
 商店街組合で使用することのできる額面10,000円の共通利用券を9,000円で購入し、額面相当額の買い物をした場合

□郵便切手類又は物品切手等を取得した場合の課税仕入れの時期

(郵便切手類又は物品切手等の引換給付に係る課税仕入れの時期)
11−3−7
 法別表第二第4号イ又はハ《郵便切手類等の非課税》に規定する郵便切手類又は物品切手等は、購入時においては課税仕入れには該当せず、役務又は物品の引換給付を受けた時に当該引換給付を受けた事業者の課税仕入れとなるのであるから留意する
  ただし、次の場合において、郵便切手類又は物品切手等(自ら引換給付を受けるものに限る。)を購入した事業者が、継続して当該郵便切手類又は物品切手等の対価を支払った日の属する課税期間の課税仕入れとしているときは、これを認める。
(1)当該郵便切手類の引換給付に係る課税仕入れが、規則第26条の6第2号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する郵便の役務及び貨物の運送に係る課税仕入れに該当する場合
(2)当該物品切手等の引換給付に係る課税仕入れが、令第49条第1項第1号ロ《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》に規定する課税仕入れに該当する場合

※下線の箇所が基本通達の制定に伴い改訂・追加された箇所である。

<ポイント>

1 改正前の取扱い
 改正前の基本通達では、自ら引換給付を受ける業務用の郵便切手類について、課税期間中に使用した分だけを仕入税額控除の対象とすることを原則としつつ、継続適用を条件に、未使用の分も含め、購入時点で課税仕入れを認識することを認めている。
(注)印紙、証紙については、使用時に税金や行政手数料の支払となるものであり、原則として購入時、使用時ともに税額控除はできないことになる。ただし、チケットショップなどで販売する印紙は非課税規定が適用されないため、購入時に仕入税額控除の対象とすることができる(消基通6−4−1)。
  また、テレホンカードなどの物品切手等についても、自ら引換給付を受ける業務用のものについては、郵便切手類と同様に購入時点で課税仕入れを認識することが認められている。なお、贈答用のものは購入時、贈与時共に税額控除はできないので、物品切手等については、その使用目的により課税区分を工夫する必要がある。
  商品券、ビール券などは贈答目的で購入するわけであるから、基本的には仕入税額控除はできないものと考えるべきである。

2 改正後の取扱い
 改正後の基本通達では、改正前の基本通達と同様に、継続適用を条件として、下記(1)と(2)のケースについて、購入時に課税仕入れを認識することを認めることとした。
(1)「郵便局特例」の適用を受けるための郵便切手類の購入
(2)「入場券特例」が適用される物品切手等の購入
 具体的には、ポストに投函する郵便物に貼付するための郵便切手類の購入や福利厚生目的で観劇の入場券を購入したような場合には、その郵便切手類や入場券を購入した時点で課税仕入れを認識することができるというものである。

3 疑問点
 改正基本通達の取扱いについては、インボイスQ&A問98において詳細に解説がされている。

(郵便切手類又は物品切手等により課税仕入れを行った場合における課税仕入れの時期)
問98
 当社は、購入した郵便切手類又は物品切手等のうち、自社で引換給付を受けるものについては、継続的に郵便切手類又は物品切手等を購入した時に課税仕入れを計上しています。
  適格請求書等保存方式において、引き続き、郵便切手類又は物品切手等を購入した時に課税仕入れを計上しているものについて仕入税額控除の適用を受けることができますか。【令和4年11月追加】
【答】
  郵便切手類又は物品切手等は、購入時においては原則として、課税仕入れには該当せず、役務又は物品の引換給付を受けた時にその引換給付を受けた事業者の課税仕入れとなりますが、現行の取扱いとして、郵便切手類又は物品切手等を購入した事業者が、その購入した郵便切手類又は物品切手等のうち、自ら引換給付を受けるものにつき、継続してその郵便切手類又は物品切手等の対価を支払った日の属する課税期間の課税仕入れとしている場合には、これを認めています(基通11−3−7)。
  他方、適格請求書等保存方式においては、仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として、適格請求書等の保存が必要となりますが、郵便切手類のみを対価とする郵便ポスト等への投函による郵便サービスは、適格請求書の交付義務が免除されており、買手においては、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることができます(新消令49①一ニ、新消規15の4一)。
  また、物品切手等で適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されているものが、引換給付を受ける際に適格請求書発行事業者により回収される場合、当該物品切手等により役務又は物品の引換給付を受ける買手は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることができます(新消令49①一ロ)。
  したがって、このような郵便切手類及び物品切手等(適格請求書発行事業者により回収されることが明らかなものに限ります。)のうち、自ら引換給付を受けるものについては、適格請求書等保存方式においても、引き続き、購入(対価の支払)時に課税仕入れとして計上し、一定の事項を記載した帳簿を保存することにより、仕入税額控除の適用を受けることができます。
  なお、上記(一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることができるもの)以外の物品切手等に係る課税仕入れは、購入(対価の支払)時ではなく、適格請求書等の交付を受けることとなるその引換給付を受けた時に課税仕入れを計上し、仕入税額控除の適用を受けることとなります。

 ここで気になるのは上記Q&Aの【答】のなお書き(下線の箇所)である。ここを読むと、「入場券特例」の適用を受けることができるような物品切手等でなければ購入時に課税仕入れを認識することができないということになるので、業務用として購入する交通系電子マネーなどは、インボイス導入後は購入時に課税仕入れを認識することはできなくなるものと思われる。

 Suica(スイカ)やPASMO(パスモ)などの交通系電子マネーは、使用時に課税仕入れを認識することが原則とされているものの、郵便切手類と同様に、継続適用を条件として購入時に課税仕入れを認識することが認められるようである。ただし、電子マネーは飲食や買物などにも利用できるので、業務用に利用したかどうかの確認作業が必要になるとの説明がされている(勘定科目別消費税の実務手引1054ノ4~1056)。

 いまはほとんど使われなくなったテレホンカードは、業務用として購入したものは購入時に課税仕入れを認識することが認められているところ、インボイス導入後はどのような取扱いになるのだろう……?
 公衆電話の利用時にインボイスは発行されない。通信費なので「公共交通機関特例」は適用できない。「入場券特例」にも該当しないので、仕入税額控除のチャンスがないのでは……?
 あるいは、公衆電話をATMと同じように認識し、「自動販売機特例」を使うことになるのであろうか……。仮に「自動販売機特例」が使えるとしても、課税仕入れの時期はテレホンカードの使用時ということになると、公衆電話の利用の都度、帳簿への記帳が必要となり、事務が繁雑になることが危惧されるところである。

□郵便切手類又は物品切手等による課税仕入高

(郵便切手類又は物品切手等の引換給付を受けた場合の課税仕入れに係る支払対価の額)
11−4−3
 法別表第二第4号イ又はハ《郵便切手類等の非課税》に規定する郵便切手類(日本郵便株式会社又は法別表第二第4号イに規定する施設若しくは承認販売所から直接購入したものに限る。)又は物品切手等(当該物品切手等の引換給付を行う者から直接購入したものに限る。)による引換給付として次の課税仕入れを行った場合の課税仕入れに係る支払対価の額は、事業者が当該郵便切手類又は物品切手等の取得に要した金額とする。
(1)規則第26条の6第2号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する郵便の役務及び貨物の運送に係る課税仕入れ
(2)令第49条第1項第1号ロ《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等》に規定する課税仕入れ

※下線の箇所が基本通達の制定に伴い改訂・追加された箇所である。

<ポイント>
 この通達は、改正基本通達11−3−7(郵便切手類又は物品切手等の引換給付に係る課税仕入れの時期)を適用する場合の課税仕入高を定めたものである。改正前の基本通達では、「……郵便切手類又は物品切手等の取得に要した金額……」としていたものを、改正後の基本通達では、郵便局や演劇場などの発行(販売)者から直接購入したものに限り、取得に要した金額を課税仕入高と認識するとしている。よって、郵便切手類であれば切手の購入額、演劇の入場券であれば、(割引後の)購入額を基に仕入控除税額を計算することになるようだ。
 チケットショップで額面金額より安く購入した郵便切手などについては、購入時点で課税仕入れを認識し、その購入金額を基に仕入控除税額を計算する。割引で購入した商品券は、改正基本通達11−3−7(郵便切手類又は物品切手等の引換給付に係る課税仕入れの時期)は使えないことになるようなので、実際に使用した時点で、額面金額を基に仕入控除税額を計算するものと理解してよいのであろうか……。

 改正前の基本通達11−4−3(郵便切手類又は物品切手等の引換給付を受けた場合の課税仕入れに係る支払対価の額)には、「……直接購入したものに限り……」という要件はなく、課税仕入高は、単に「取得に要した金額」と定めていた。
 そうすると、改正前の取扱いでは、割引で購入した商品券などは、券面額ではなく、購入金額が課税仕入高になるものと思われる(上記の仕訳例では9,000が課税仕入高になるということである)。
 この点に関し、森田修税理士は、インボイス制度の導入により物品切手等による課税仕入れの取扱いが変わるものではなく、割引で購入した商品券については、従来から上記仕訳例のように雑益を計上して課税仕入高を認識するものと整理されていると述べている(租税研究2023年5月号192~193頁)。しかし筆者には、森田税理士の言うように、雑益を計上するような処理が従来から行われていたという認識はない。改正前の基本通達11−4−3に書かれているように、割引で購入した商品券を使用した場合の課税仕入高は、割引後の購入金額になるのではないか? つまり、インボイスの導入をきっかけに、物品切手等を使用した場合の取扱いが変わるものと理解するほうがむしろ自然ではないかと思えるのである。
 複雑すぎて、筆者は未だ頭の整理が追いついていない。こんな状況なので、令和5年6月末日を期限と定められたパブリックコメントにも、どのように書いたらいいのかわからずに困っている。勝手ながら、読者の皆様のご意見とご批判をお待ちしたいと考える次第である。

Ⅳ 相続人が適格請求書発行事業者でなくなった場合の課税売上割合の計算

□適格請求書発行事業者でなくなった期間中の売上高は課税売上割合の計算に関係させない

(相続等により課税事業者となった場合の課税売上割合の計算)
11−5−3
 法第10条第1項《相続があった場合の納税義務の免除の特例》、第11条第1項《合併があった場合の納税義務の免除の特例》、第12条第1項若しくは第5項《分割等があった場合の納税義務の免除の特例》又は第57条の3第3項《適格請求書発行事業者が死亡した場合における手続等》の規定の適用により、課税期間の中途において法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用を受けないこととなった場合の相続人、合併法人、新設分割子法人又は分割承継法人の課税売上割合の計算については、次のとおり行うのであるから留意する。
(1)相続があった日の属する課税期間における相続人の課税売上割合は、当該相続があった日の翌日から当該課税期間の末日までの間における資産の譲渡等の対価の額の合計額及び課税資産の譲渡等の対価の額の合計額を基礎として計算する。
(注)みなし登録期間の末日の翌日以後について、法第9条第1項本文の規定の適用を受ける場合の同日を含む課税期間においては、当該みなし登録期間の末日の翌日から当該課税期間の末日までの間における資産の譲渡等の対価の額の合計額及び課税資産の譲渡等の対価の額の合計額は含まないことに留意する。
(2)~(4)(省略)

<ポイント>

1 改正前の基本通達における取扱い(相続のケース)

 相続のあった年においては、被相続人の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合には、相続のあった日の翌日から年末までの期間について、相続人は課税事業者となる(消法10①)。

 上図において、7月10日に相続による事業承継があった場合には、相続人は、7月11日から12月31日までの期間について、課税事業者として申告義務が生ずることになる。
 この場合の課税売上割合は、7月11日から12月31日までの期間中の売上高により計算する。また、仕入控除税額は、7月11日から12月31日までの期間中の課税仕入れ等の税額を基に計算する(消基通11−1−8)。

2 改正により追加された(注)の取扱い
 相続により適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継した相続人がいる場合には、みなし登録期間中は、相続人を適格請求書発行事業者とみなし、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなすこととされており、みなし登録期間の末日の翌日以後は、みなし登録事業者としての効力は失効することになる(新消法57の3③④)。
 この場合において、みなし登録期間終了後に免税事業者となる場合における相続人の課税売上割合の計算は、みなし登録期間中(4月1日~7月31日)の売上高のみにより計算することになる。

Ⅴ その他の留意事項

□土地建物の一括取得(改正基本通達11−4−2)
 インボイス導入後に土地建物を同時に取得した場合には、建物に関するインボイスの交付を受けることが仕入税額控除の要件となる。よって、近年何かと話題になっている土地建物の一括取得に関する実務上のトラブルは基本的には解消されることとなるのであるが、宅建業免許を有する不動産業者が買い受ける販売用の建物については、インボイスがなくても仕入税額控除を認めることとしている(新消令49①一ハ(3))。
 そこで、宅建業免許を有する不動産業者が買い受ける販売用の建物については、従来通り合理的に区分することが必要となる。
□旧基本通達の廃止と「告示」への格下げ
 インボイスの導入に伴い、帳簿の保存のみで仕入税額控除を認めるという、いわゆる3万円基準が廃止になったことに伴い、改正前の基本通達11−6−2(支払対価の額の合計額が3万円未満の判定単位)が削除となる。また、改正前の基本通達11−6−3(請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときの範囲)についても、やむを得ない理由がある場合の宥恕規定がなくなることに伴い削除となる。
 改正前の基本通達11−6−4(課税仕入れの相手方の住所又は所在地を記載しなくてよいものとして国税庁長官が指定する者の範囲)も削除となるのであるが、本通達に記載のあった公共交通機関や郵便局の所在地、従業員の住所などは帳簿に記載しなくてもよいという、ある意味下らない細々としたことは通達に載せるレベルのものではないということなのであろう……令和5年10月より「告示」に格下げすることとなった。

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