カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2023年07月24日 税制改正解説 令和5年度における租税条約の改正について(日本・アゼルバイジャン租税条約、日本・アルジェリア租税条約)(2023年7月24日号・№988)

税制改正解説
令和5年度における租税条約の改正について
(日本・アゼルバイジャン租税条約、日本・アルジェリア租税条約)
 加茂佑介

はじめに

 我が国とアゼルバイジャン共和国(以下「アゼルバイジャン」という。)との間では、これまで昭和61年(1986年)に締結された「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」(以下「旧条約」という。)の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られてきた。旧条約は、その締結から長年が経過し、現在の両国の経済関係にそぐわない内容となっていたため、両国政府は、令和3年(2021年)5月に旧条約を改正するための交渉を開始した。その結果、令和4年(2022年)12月27日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアゼルバイジャン共和国との間の条約」(以下「条約」という。)についてバクーにおいて署名が行われた。
 アゼルバイジャン新条約は、事業利得に対する課税の改正、投資所得に対する課税の更なる軽減のほか、条約の濫用防止措置及び租税債権の徴収に関する相互支援(徴収共助)の導入、さらに、租税に関する情報交換の拡充を行うものである。
 また、我が国とアルジェリア民主人民共和国(以下「アルジェリア」という。)との間には、これまで租税条約は存在しなかったが、両国間の経済関係の発展を踏まえ、両国政府は、令和4年(2022年)6月に租税条約を締結するための交渉を開始した。その結果、令和5年(2023年)2月7日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアルジェリア民主人民共和国との間の条約」(以下「条約」という。)についてアルジェにおいて署名が行われた。
 アルジェリア条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、投資所得に対する投資先の国における課税の軽減又は免除等、両国において課税することができる範囲を定める規定等を設けている。また、条約の締結により、両国の税務当局間において、条約の規定に適合しない課税についての相互協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収に関する相互支援(徴収共助)の実施が可能となる。
 これらにより、二重課税を除去し、脱税・租税回避行為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。
 これらの条約は、我が国と各国においてそれぞれの国内手続(我が国においては国会の承認を得ることが必要であり、条約は第211回国会で承認された。)を経た後、外交上の経路を通じて、その国内手続の完了を確認する通告を相互に行い、遅い方の通告が受領された日の後30日目の日に効力を生ずることとなる。
 以下では、これらの条約の主な条項及び特徴的な条項について、解説する。なお、各条項の解説は、特記なき限り両条約共通とし、条約によって異なる場合には、A:アゼルバイジャン新条約、B:アルジェリア条約と分類して記述することとする。

一 対象となる者(第1条)

1 本条の趣旨
 条約が適用される者の範囲等を規定している。

2 解説
(1)課税上存在しないものとして取り扱われる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用(本条2)

 例えば、ある事業体が受け取る所得について、その所得が生じた国(源泉地国)では事業体を納税義務者として認識する(事業体課税が行われる)のに対し、事業体が所在する国では事業体の構成員を納税義務者として認識する(構成員課税が行われる)場合がある。このように、ある事業体に関する課税上の取扱いが両締約国で異なる場合には、条約の特典を受ける者に関する認識が両締約国で異なるため、実質的な二重課税が生じているにもかかわらず条約が適用できないこととなる。
 そこで、本条2は、いずれかの締約国の租税に関する法令の下において全面的若しくは部分的に課税上存在しないものとして取り扱われる団体若しくは仕組みによって又はこのような団体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、一方の締約国における課税上当該一方の締約国の居住者の所得として取り扱われる限りにおいて、当該一方の締約国の居住者の所得とみなすことを規定している。
 これにより、いずれか一方の締約国により、課税上存在しないものとして取り扱われる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用関係を明らかにしている。
(2)セービング・クローズ(本条3)
 条約の規定は原則として一方の締約国が自国の居住者に対して課税する権利を制限しないことを規定するとともに、例外として、その課税する権利を制限する条約の条項を列挙している。

二 居住者(第4条)

1 本条の趣旨
 「一方の締約国の居住者」の定義等を規定している。

2 解説
双方居住者の振分けルール(本条2及び3)

 本条2及び3は、双方居住者を条約上いずれか一方の締約国の居住者に振り分けるためのルールを規定している。
 個人が双方居住者に該当する場合には、次の①から③までの基準によって、いずれか一方の締約国の居住者とみなすこととされており、これらによっても決定することができない場合には、両締約国の権限のある当局の合意によって解決することとされている(本条2)。
① その使用する恒久的住居が存在する締約国の居住者とみなす。双方の締約国に恒久的住居を有する場合には、人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある締約国)の居住者とみなす。
② 上記①によって決定することができない場合には、その有する常用の住居が存在する締約国の居住者とみなす。
③ 上記②によって決定することができない場合には、その個人が国民である締約国の居住者とみなす。
 また、個人以外の者が双方居住者に該当する場合には、両締約国の権限のある当局が、その者の本店又は主たる事務所の所在地、その者の事業の実質的な管理の場所、その者が設立された場所その他関連する全ての要因を考慮して、その居住地国を合意によって決定するよう努め、そのような合意がない場合には、その者は、条約に基づいて与えられる租税の軽減又は免除を受けることができないこととされている(本条3)。

三 恒久的施設(第5条)

1 本条の趣旨
 条約は、事業利得に対する課税、配当等に対する課税、給与所得に関する短期滞在者免税等について、「恒久的施設」との関連を基準として課税関係を決定している。本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設」の定義(本条1)

 本条1は、「恒久的施設」の定義を規定している。「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。
(2)恒久的施設の例示(本条2)
 本条2は、本条1の定義を踏まえ、恒久的施設に該当するものとして、次のものを例示している。
① 事業の管理の場所
② 支店
③ 事務所
④ 工場
⑤ 作業場
⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他の天然資源を採取する場所
(3)建築工事現場等(本条3)
 建築工事現場等が恒久的施設を構成する場合を規定している。
① アゼルバイジャン新条約
 (i)建築工事現場若しくは建設若しくは据付けの工事又はこれらに関連する監督活動。ただし、これらの現場、工事又は活動が9か月を超える期間存続する場合に限る。
 (ii)企業が行う役務の提供(コンサルタントの役務の提供を含む。)であって、使用人その他の職員(当該役務の提供のために採用されたものに限る。)を通じて行われるもの。ただし、このような活動が、単一の又は関連するプロジェクトにつき当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計183日を超える期間一方の締約国内において行われる場合に限る。
 (iii)一方の締約国内に存在する天然資源の探査又は開発に関連して当該一方の締約国内において行われる活動。ただし、このような活動が、当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計183日を超える期間行われる場合に限る。
② アルジェリア条約
 (i)建築工事現場若しくは建設、組立て若しくは据付けの工事又はこれらに関連する監督活動。ただし、これらの現場、工事又は活動が6か月を超える期間存続する場合に限る。
 (ii)企業が行う役務の提供(コンサルタントの役務の提供を含む。)であって、使用人その他の職員(当該役務の提供のために採用されたものに限る。)を通じて行われるもの。ただし、このような活動が、単一の又は関連するプロジェクトにつき当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計183日を超える期間一方の締約国内において行われる場合に限る。
(4)恒久的施設を有するとはされない準備的又は補助的な活動(本条4)
 本条4は、事業を行う一定の場所であっても、次のいずれかに該当する活動を行う場合には、恒久的施設に当たらないものとすることを規定している。
① 企業に属する物品又は商品の保管又は展示のためにのみ施設を使用すること。
② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管又は展示のためにのみ保有すること。
③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
⑤ 企業のために上記①から④までに規定されていない活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その活動が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
⑥ 上記①から⑤までに規定する活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
(5)事業活動の細分化への対抗(本条5)
 本条5は、事業活動を複数の企業又は場所に細分化し、本条4の適用を受けることによって、恒久的施設の認定を回避しようとする行為に対抗するための措置である。
 具体的には、ある企業が使用し又は保有する「事業を行う一定の場所」について、その企業又はその企業と密接に関連する企業が、当該一定の場所又は当該一定の場所が存在する締約国内の他の場所において事業活動を行う場合において、次の①又は②に該当するときは、本条4の規定は適用されず、当該一定の場所は恒久的施設に該当することを規定している。
① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は当該他の場所が、その企業又はその企業と密接に関連する企業の恒久的施設を構成する場合
② その企業及びその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所においてそれぞれ行う活動の組合せ又はその企業若しくはその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所及び当該他の場所において行う活動の組合せによる活動の全体が、準備的又は補助的な性格のものでない場合
 ただし、この規定が適用されるのは、これらの企業がそれぞれの場所において行う事業活動が、一体的な業務の一部として補完的な機能を果たす場合に限る。
(6)従属代理人(本条6)
 本条6は、企業が代理人を通じて行う活動について、事業を行う一定の場所があるかどうかにかかわらず、恒久的施設を有するものとされる場合を規定している。具体的には、ある企業の代理人(条約に規定する独立の代理人(下記(7)参照)を除く。)が、一方の締約国内で当該企業に代わって行動するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす場合において、これらの契約が次の①から③までのいずれかに該当するときは、当該企業は、その代理人が当該企業のために行う全ての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
① 当該企業の名において締結される契約
② 当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約
③ 当該企業による役務の提供のための契約
 ただし、代理人の活動が、上記(4)に規定する活動であって、事業を行う一定の場所(上記(5)の規定が適用されることとなるものを除く。)を通じて行われたとしても上記(4)の規定により当該一定の場所が恒久的施設とはされないこととなるもののみである場合は、恒久的施設を有するものとはされない。
(7)独立の代理人(本条7)
 本条7は、一方の締約国内において活動する他方の締約国の企業の代理人が、当該一方の締約国内において独立の代理人として事業を行い、かつ、当該企業のために通常の方法で当該事業を行う場合には、上記(6)の規定は適用されず、当該企業は、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされないことを規定している。ただし、その代理人が、専ら又は主として、代理人自身と密接に関連する一又は二以上の企業に代わって行動する場合には、そのような企業との関係において、その代理人は、独立の代理人には該当しないこととされている。

四 事業利得(第7条)

(注)ここでは、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を規定しているアゼルバイジャン新条約を扱うこととする。

1 本条の趣旨
 アゼルバイジャン新条約では、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を踏まえ、外国法人・非居住者の支店等(恒久的施設)に帰属する事業利得に対する課税について、本支店間の内部取引を認識し、独立企業原則を適用して恒久的施設に帰属する利得を計算することを規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(本条1)

 企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、二つの原則を規定している。
 一つは、いわゆる「恒久的施設なければ課税なし」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができるとされている。
 もう一つは、いわゆる「帰属主義」の原則で、一方の締約国の企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうちその恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、恒久的施設が存在する当該他方の締約国において課税することができるとされている。
(2)恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条2)
 本条及びアゼルバイジャン新条約の第23条(二重課税の除去)の規定の適用上、各締約国において恒久的施設に帰せられる利得は、企業が当該恒久的施設及び当該企業の他の構成部分を通じて果たす機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮した上で、当該恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、特に当該企業の他の構成部分との取引においても、当該恒久的施設が取得したとみられる利得とすることを規定している。
 本条2の下では、①恒久的施設の果たす機能及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、②恒久的施設とその企業の他の構成部分との取引(以下「内部取引」という。)を認識し、その内部取引が独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)で行われたものとして、当該恒久的施設に帰せられる利得を算定することとなる。したがって、恒久的施設とその企業の他の構成部分との間の無形資産の貸借による使用料や金銭の貸借による利子等も、損益として認識される。
 なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的施設に帰せられる利得の算定のために行われるものであって、条約の他の条に及ぶものではない。例えば、恒久的施設とその企業の他の構成部分との間の金銭貸借に基づく利子の支払を恒久的施設に帰せられる利得を算定するために認識するとしても、そのような支払については、「利子(下記参照)」の規定は適用されない。
(3)恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整(本条3)
 一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の恒久的施設に帰せられる利得を本条2の規定によって調整し、それに伴い、他方の締約国において課税されたその企業の利得に課税する場合には、双方の締約国が同一の利得に対して課税することとなり、二重課税の状態が生ずることになる。本条3は、当該他方の締約国が、その利得に対する二重課税を除去するために必要な範囲に限り、その利得に対して当該他方の締約国において課された租税の額について適当な調整(対応的調整)を行うことを規定している。また、この調整に当たっては、両締約国の権限のある当局は、必要があるときは、相互に協議することとされている。
(4)恒久的施設に帰せられる利得の送金時に行われる課税の取扱い(本条4)
 一方の締約国の企業が他方の締約国内に恒久的施設を有する場合には、当該恒久的施設に帰せられる利得に対しては、当該利得が当該恒久的施設から当該他方の締約国外に存在する当該企業の他の構成部分に送金される時に、恒久的施設が存在する当該他方の締約国において、当該他方の締約国の法令に従って付加的な租税を課することができることを規定している。ただし、その租税の額は、その送金される利得の額の7%を超えないものとされている。
(5)本条と他の条との関係(本条5)
 配当や利子等、他の条で別個に取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれる場合には、他の条の規定が優先的に適用されることを規定している。もっとも、「配当(下記参照)」、「利子(下記参照)」、「使用料(下記参照)」及び「その他の所得」の規定は、これらの所得の支払の基因となった資産が、これらの所得が生ずる締約国内に存在する恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、本条が適用されることを規定している。

五 関連企業(第9条)

 関連企業間の取引においては、独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)とは異なる取引価格を用いることによって、所得が関連企業間で移転されることがある。
 本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転価格税制)に関するルールを定めている。

六 配当(第10条)

1 本条の趣旨
 配当に対する源泉地国における限度税率等、配当に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 本条1は、一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、配当を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2)
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を規定している。
① アゼルバイジャン新条約
  配当の額の7%
② アルジェリア条約
 (i)配当の受益者が、配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む365日の期間を通じ、配当を支払う法人の持分(日本法人が支払う場合には議決権、アルジェリア法人が支払う場合には資本)の25%以上を直接に所有する法人である場合には、その配当の額の5%。なお、365日の期間の計算に当たり、配当の受益者である法人又は配当を支払う法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
 (ii)その他の全ての場合には、その配当の額の10%
(3)配当を控除することができる法人が支払う配当の取扱い(本条3)
 本条3は、配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当に対しては、本条2に規定する限度税率を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。

七 利子(第11条)

1 本条の趣旨
 利子に対する源泉地国における限度税率や免税等、利子に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、利子を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2及び3)
 利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を、7%と規定している。
 さらに、本条3は、次の①又は②に該当する場合については、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
① 利子の受益者が、次に掲げる者である場合
 (i)当該他方の締約国
 (ii)当該他方の締約国の地方政府又は地方公共団体
 (iii)当該他方の締約国の中央銀行
 (iv)(i)又は(ii)に掲げる者によって全面的に所有される機関
② 利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が上記①(i)から(iv)までに掲げる者によって保証された債権、これらによって保険の引受けが行われた債権又はこれらによって行われた間接融資に係る債権に関して支払われる場合

八 使用料(第12条)

1 本条の趣旨
 使用料に対する源泉地国における限度税率等、使用料に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、使用料を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2)
 本条2は、使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を規定している。
① アゼルバイジャン新条約
  使用料の額の7%
② アルジェリア条約
  使用料の額の10%

九 譲渡収益(第13条)

1 本条の趣旨
 財産の譲渡によって取得する収益に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)不動産の譲渡(本条1)

 本条1は、一方の締約国の居住者が第6条(不動産所得)に規定する不動産であって他方の締約国内に存在するものの譲渡によって取得する収益に対しては、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)不動産化体株式の譲渡(本条4)
 本条1では、不動産の譲渡によって取得する収益に対しては不動産の存在する締約国において課税することができることを規定しているが、例えば、不動産を法人に保有させ、その法人の株式を譲渡することにより、実質的には不動産の譲渡をしながら本条1の適用を免れることが可能となる。そこで、本条4は、本条1の潜脱を防止する観点から、その価値の一定割合以上が不動産によって構成される法人の株式(いわゆる不動産化体株式)の譲渡によって取得される収益に対して、不動産が存在する締約国において課税することができることを規定している。
 具体的には、一方の締約国の居住者が法人の株式又は同等の持分(組合又は信託財産の持分を含む。)の譲渡によって取得する収益に対しては、当該株式又は同等の持分の価値の50%以上が、当該譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産(第6条(不動産所得)に規定する不動産をいう。)によって直接又は間接に構成される場合には、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることとされている。

十 独立の人的役務(A:第14条)

 独立の人的役務について取得する所得に対する課税上の取扱いを規定している。

十一 匿名組合(A:第21条、B:第20条)

1 本条の趣旨
 匿名組合契約等に関連して匿名組合員が取得する所得に対する課税上の取扱いについて規定している。

2 解説
① アゼルバイジャン新条約
  条約の他の規定にかかわらず、匿名組合契約その他これに類する契約に関連して一方の締約国の居住者である匿名組合員が取得する所得に対しては、その所得が他方の締約国内において生じ、かつ、当該他方の締約国におけるその支払者の課税所得の計算上控除される場合には、所得の源泉地国である当該他方の締約国において、当該他方の締約国の法令に従って課税することができることを規定している。
② アルジェリア条約
  条約の他の規定にかかわらず、匿名組合契約その他これに類する契約に関連してアルジェリアの居住者である匿名組合員が取得する所得に対しては、その所得が我が国の国内において生じ、かつ、我が国におけるその支払者の課税所得の計算上控除される場合には、所得の源泉地国である我が国において、我が国の法令に従って課税することができることを規定している。

十二 相互協議手続(A:第25条、B:第24条)

1 本条の趣旨
 条約の規定に適合しない課税に係る事案等を解決するための相互協議手続について規定している。

2 解説
納税者の申立て(本条1)

 本条1は、いずれか一方又は双方の締約国の措置により条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることとなると認める者は、その事案につき、一方又は双方の締約国の法令に定める救済手段(異議申立て、訴訟の提起等)とは別に、いずれかの締約国の権限のある当局に対して、申立てをすることができることを規定している。ただし、その申立ては、その課税措置の最初の通知の日から3年以内にしなければならないこととされている。

十三 情報の交換(A:第26条、B:第25条)

 両締約国の権限のある当局が租税に関する情報を交換することを規定している。

十四 租税の徴収における支援(A:第27条、B:第26条)

 両締約国が、滞納された租税の徴収を相互に支援することを規定している。

十五 特典を受ける権利(A:第29条、B:第28条)

① アゼルバイジャン新条約
  本条1は、両締約国以外の国(以下「第三国」という。)内に存在する恒久的施設に帰属する所得について課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
  また、本条2は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:Principal Purpose Test)であり、条約に基づく特典を受けることがその取引等の主たる目的の一つであると認められる場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
② アルジェリア条約
  本条は、条約の他の規定にかかわらず、全ての関連する事実及び状況を考慮して、条約の特典を受けることがその特典を直接又は間接に得ることとなる仕組み又は取引の主たる目的の一つであったと判断することが妥当である場合には、その所得については、条約の特典は与えられないことを規定している。ただし、そのような場合においてもその特典を与えることが条約の関連する規定の目的に適合することが立証されるときを除く。

十六 効力発生(A:第30条、B:第29条)

1 本条の趣旨
 条約の効力発生及び適用開始について規定している。

2 解説
(1)効力発生(本条1)

 本条1は、各締約国が、相手国に対し、外交上の経路を通じて、書面により、条約の効力発生のために必要とされる国内手続(注)が完了したことを確認する通告を行うものとし、条約は、遅い方の通告が受領された日の後30日目の日に効力を生ずることを規定している。
(注)我が国においては国会の承認が必要であり、条約は第211回国会で承認された。
(2)適用開始(本条2)
① アゼルバイジャン新条約
  本条2は、条約は、次のものについて適用されることを規定している。
 (i)アゼルバイジャンにおいては、
  (a)源泉徴収される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に取得される所得
  (b)その他の租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度について課される租税
 (ii)我が国においては、
  (a)課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
  (b)課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
② アルジェリア条約
  本条2は、条約は、次のものについて適用されることを規定している。
 (i)課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
 (ii)課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
(3)情報の交換及び租税の徴収における支援の適用開始(本条3)
① アゼルバイジャン新条約
  本条3は、第26条(情報の交換)及び第27条(租税の徴収における支援)の規定については、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、条約の効力発生の日から適用されることを規定している。
② アルジェリア条約
  本条3は、第25条(情報の交換)及び第26条(租税の徴収における支援)の規定については、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、条約の効力発生の日から適用されることを規定している。
(4)旧条約の適用終了(A:本条4)
 本条4は、旧条約は、本条2及び3の規定に従って条約が適用される租税について、条約が適用される日以後、適用されなくなることを規定している。
(5)経過措置(A:本条5)
 本条5は、条約の効力発生の時において旧条約第17条(教授)の規定に基づく特典を受ける権利を有する個人は、条約が効力を生じた後においても、旧条約がなおその効力を有するとした場合に同条に基づき特典を受ける権利を失う時まで特典を受ける権利を引き続き有することを規定している。
(6)旧条約の終了(A:本条6)
 本条6は、旧条約が、本条1から5までの規定に従って適用される最後の日に我が国とアゼルバイジャンとの間において終了することを規定している。

十七 終了(A:第31条、B:第30条)

 本条は、条約の終了及び適用終了について規定している。

十八 議定書(B)

 条約の不可分の一部を成す議定書が付されている。この議定書の各規定の国際法上の効力は、条約本体の各規定のそれと何ら変わるところはない。この議定書は、以下の事項を定めている。

1 「退職年金その他これに類する報酬」の意義(条約第17条関連)(議定書1)
 議定書1では、条約の規定に関し、アルジェリアについては、「退職年金その他これに類する報酬」とは、過去の雇用につき支払われる退職年金その他これに類する報酬をいうことを確認している。

2 アルジェリアの租税について我が国が二重課税の除去義務を負う範囲の確認(条約第22条2関連)(議定書2)
 議定書2では、条約の規定は、アルジェリアの「炭化水素の探査、調査、開発及びパイプラインによる輸送の活動に関する成果に対する使用税その他の租税」については、第2条1及び2(対象となる租税)に規定する所得に対する租税に該当する限りにおいて、適用することを確認している。

3 仲裁に関する再交渉(条約第24条関連)(議定書3)
 議定書3では、条約第24条(相互協議手続)の規定に関し、アルジェリアが、条約の署名の日の後に、所得に対する租税に関する二重課税の回避のための協定であって、仲裁に関する規定(同条1の規定に相当する当該協定の規定に基づいて事案の申立てをする者からの要請にのみ基づいて我が国以外の国又は地域とアルジェリアとの間で適用されるものに限る。)を含むものを締結する場合には、両締約国は、我が国の要請に基づき、そのような仲裁に関する規定を条約に規定することを目的として交渉を開始することを確認している。アルジェリアの権限のある当局は、この場合に該当することとなった後直ちに、我が国の権限のある当局に対してその旨を通知することとされている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索