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解説記事2023年07月31日 税制改正解説 令和5年度における納税環境整備に関する改正について(下)(2023年7月31日号・№989)

税制改正解説
令和5年度における納税環境整備に関する改正について(下)
 甲田圭人

三 その他納税環境整備関係の改正

1 ダイレクト納付の利便性の向上
(1)改正前の制度の概要

 ダイレクト納付は、次に掲げる事項をあらかじめ税務署長に届出(事前届出)をした者で、国税の納付手続に利用することができる入出力用プログラム又はこれと同様の機能を有するもの(e-Taxシステム)のみを使用して国税の納付を行おうとするものが、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申告等又は納付情報の登録を行った後に、事前届出をした預金口座又は貯金口座からの振替により、即時又は指定した期日に国税の納付をするというものである(旧通法34①ただし書、旧通規1の3①二、②二、国税オンライン化省令4⑤、旧国税オンライン化省令8①)。
① 氏名又は名称、住所又は居所及び法人番号(法人番号を有しない者については、氏名又は名称及び住所又は居所)
② 国税の納付手続に利用する預金口座又は貯金口座のある金融機関の名称並びにその口座の種別及び口座番号
③ その他参考となるべき事項
(2)改正の内容
 ダイレクト納付では、納税者は、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申告等を行った後、e-Taxのメッセージボックスの受信通知(納付区分番号通知)を確認し、改めてダイレクト納付の手続(即時納付又は納付期日指定の選択)をすることで、納税者の預金口座又は貯金口座からの振替により納付が行われるため、申告等の手続と納付手続とを別々に行う必要があった。また、申告等の手続が法定納期限(法定申告期限)までに終了していても、法定納期限当日の金融機関のシステム稼働時間外である場合には、改めて納付手続を行わざるを得ず、法定納期限の翌日以後にその納付手続を行った場合には、結果として延滞税等が課される場合があった。
 このような状況を改善し、ダイレクト納付の利便性の向上を図る観点から、従前のダイレクト納付のシステム(即時納付又は期日指定納付のシステム)に加え、納税者が、法定納期限までに、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行われる申告等と同時に、自動的に納付を行う旨の意思表示として、その申告等の情報に基づき自動的に作成された納付書に記載すべきこととされている事項(以下「納付書記載事項」という。)のデータを送信した場合には、法定納期限当日(法定納期限当日に、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行われる申告等と同時に自動的に納付を行う旨の意思表示(納付書記載事項のデータの送信)を行う場合には、法定納期限の翌日)に自動的に納付が行われるシステム(新たなダイレクト納付のシステム)を構築することとされた。
 今回の改正においては、この新たなダイレクト納付のシステムの構築と併せて、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により法定納期限当日に行われる申告等と同時にその申告等の情報に基づき自動的に作成された納付書記載事項のデータを送信し、法定納期限の翌日までに自動的に納付が行われた場合には、法定納期限に納付があったものとみなして、延滞税等に関する規定を適用する特例が設けられた。
① この特例の概要
  電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による国税の納付の手続が法定納期限に行われた場合(その税額が一定の金額以下である場合に限る。)において、法定納期限の翌日までにその納付がされたときは、その納付は法定納期限においてされたものとみなして、延納及び附帯税(延滞税・不納付加算税)に関する規定を適用することとされている(通法34②、通令6の3、通規1の3③〜⑤)。
② 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による国税の納付の手続
  この特例の対象となる「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による国税の納付の手続」は、電子情報処理組織を使用する方法のうち国税の納付手続に利用することができる入出力用プログラム又はこれと同様の機能を有するもののみを使用して国税の納付の手続を行う方法(ダイレクト納付)により法定納期限当日に行うこととされている(通法34②、通規1の3③)。
  また、上記の「国税の納付の手続」は、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による申請等(国税に関する法律の規定により期限内申告書又は源泉徴収に係る所得税の計算書(所得税徴収高計算書)若しくは国内事業者により特別徴収された国際観光旅客税の計算書に記載すべきこととされている事項のデータの送信に限る。以下同じ。)と同時に行われる納付書記載事項のデータの送信とされている(通規1の3④)。
③ この特例の対象となる納付税額の上限額
  新たなダイレクト納付のシステムの稼働初期の不具合等によるリスクに鑑み、その影響を抑制する観点から、この特例の対象となる納付税額の上限額は、1億円(令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間は1,000万円、同年4月1日から令和10年3月31日までの間は3,000万円)とされている(通法34②、通規1の3⑤、改正通規附則②)。
④ 納付の期日
  この特例の適用を受けるためには、法定納期限の翌日までに国税の納付がされる必要があるが、法定納期限の翌日が日曜日、国民の祝日、振替休日、祝日に挟まれた日、土曜日、12月29日、12月30日、12月31日、1月2日又は1月3日に当たるときは、これらの日の翌日までに国税の納付がされれば、この特例の適用を受けることができる。ただし、災害その他やむを得ない理由によりその法定納期限の翌日までに納付することができないと国税庁長官が認めるときは、その承認する日までに国税の納付がされれば、この特例の適用を受けることができる(通法34②、通令6の3)。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年4月1日から施行され(改正法附則1四ハ、改正通令附則ただし書、改正通規附則①)、同日以後に行うダイレクト納付の手続について適用される。

2 公示送達制度の見直し
(1)改正前の制度の概要

 税務署長その他の行政機関の長は、送達すべき書類について、その送達を受けるべき者の住所及び居所が明らかでない場合又は外国においてすべき送達につき困難な事情があると認められる場合には、その送達に代えて公示送達をすることができることとされている(通法14①)。
 この公示送達は、送達すべき書類の名称、その送達を受けるべき者の氏名及び税務署長その他の行政機関の長がその書類をいつでも送達を受けるべき者に交付する旨を、その行政機関の掲示場に掲示して行うこととされている(旧通法14②)。
 なお、この公示送達の効力については、掲示を始めた日から起算して7日を経過したときは、書類の送達があったものとみなすこととされている(旧通法14③)。
(2)改正の内容
 令和3年11月に設置された「デジタル臨時行政調査会」(以下「調査会」という。)において、デジタル改革・規制改革・行政改革に通底する5つの原則からなる「構造改革のためのデジタル原則」が令和3年12月に策定された。この原則の一つである「デジタル完結・自動化原則」では、「書面、目視、常駐、実地参加等を義務付ける手続・業務について、デジタル処理での完結、機械での自動化を基本とし、行政内部も含めエンドツーエンドでのデジタル対応を実現すること。国・地方公共団体を挙げてデジタルシフトへの組織文化作りと具体的対応を進めること。」とされている。これを踏まえ、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン(令和4年6月3日デジタル臨時行政調査会決定)」に基づき、各府省庁は、書面掲示規制(国家資格等、公的な証明書等を対面確認や紙発行で、特定の場所に掲示することを求めている規制)を含む代表的なアナログ規制について、集中改革期間(令和4年7月から令和7年6月までの3年間)において規制・制度の見直し等を行うこととされている。
 上記のとおり、国税通則法における公示送達制度については、公示事項を記載した書面をその行政機関の掲示場に掲示して行うこととされているため、税務署等の行政機関に赴かなければその送達すべき書類の内容の確認が困難であり、デジタル処理での完結ができない仕組みの改善が課題とされていた。
 こうした中、令和4年5月に、民事訴訟法における公示送達制度について、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号。以下「民事訴訟法等改正法」という。)による民事訴訟法の改正により、インターネットを用いた方法が整備されており、国税当局においても早急な対応が求められている状況であった。
 こうした課題や状況を踏まえ、納税者の利便を向上し、公示送達を合理化する観点から、国税についてもインターネットを利用する公示送達の方法が導入された。
 具体的には、公示送達は、公示事項をインターネットを利用する一定の方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、公示事項が記載された書面を税務署等の掲示場に掲示し、又は公示事項をその税務署等に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く措置をとることによってすることとされた(通法14②)。
 このように、公示送達については、インターネットを利用する方法に加えて、従前と同様の公示事項が記載された書面を税務署等の掲示場に掲示する措置又は公示事項をその税務署等に設置した電子計算機(パソコン)の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く措置をとることによってすることとされたが、これは、公示送達について、インターネットを利用した方法のみによった場合には、インターネットの利用に通じない者やインターネットを利用することのできる環境にない者は公示送達の内容を確認することができなくなるため、このような者の公示送達を受ける機会に配慮することとされたものである。
 なお、公示送達は、上記の措置を開始した日から起算して7日を経過したときは、書類の送達があったものとみなすこととされているが(通法14③)、具体的には、「公示事項をインターネットを利用する一定の方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置」と「公示事項が記載された書面を税務署等の掲示場に掲示する措置又は公示事項を税務署等に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く措置」のいずれか遅い方の措置が開始された日から起算することとなるものと考えられる。
 また、上記(1)のとおり、従前、「送達すべき書類の名称」が公示事項とされていたが、公示送達についてインターネットを利用する方法により行うことで、公示送達に関する情報がインターネットを通じて不特定多数の者に公開されることとなり、その情報へのアクセスが飛躍的に向上することになることを踏まえ、送達を受けるべき者のプライバシーに配慮する観点から、「送達すべき書類の名称」に代えて「送達すべき書類を特定するために必要な情報」が公示事項とされた。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、改正法の公布の日(令和5年3月31日)から起算して3年3月を超えない範囲内において政令で定める日以後にする公示送達について適用し、同日前にした公示送達については従前どおりとされている(改正法附則1七、23①)。

3 税理士に対する懲戒処分等の公告方法の電子化
(1)改正前の制度の概要

 税理士法は、税理士、税理士であった者又は税理士法人に対する処分をそれぞれ定めているが、その処分の内容については、次のとおりとされている。
① 税理士に対する懲戒処分
 イ 懲戒処分の種類
   税理士法は、税理士に対する懲戒処分として、次の3種類を規定している(税理士法44)。
 (イ)戒告
 (ロ)2年以内の税理士業務の停止
 (ハ)税理士業務の禁止
 ロ 懲戒処分の事由
   懲戒処分の事由は、次のとおりとされている。
 (イ)脱税相談等をした場合の懲戒
  財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は税理士法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができることとされている(税理士法45①)。
  また、財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は税理士法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、戒告又は2年以内の税理士業務の停止の処分をすることができることとされている(税理士法45②)。
 (ロ)一般の懲戒
  財務大臣は、上記(イ)に該当する場合を除くほか、税理士が、税理士法第33条の2第1項若しくは第2項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき、又は税理士法若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは、戒告、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができることとされている(税理士法46)。
② 税理士であった者に対する懲戒処分を受けるべきであったことについての決定
  上記①の懲戒処分は、「現職の税理士」のみが対象となるため、税理士法では、税理士であった期間内(在職期間内)に税理士法違反行為をした税理士であった者に対しても懲戒処分に準じて懲戒処分を受けるべきであったことについての決定処分が定められている。
  具体的には、財務大臣は、税理士であった者につき税理士であった期間内に懲戒処分の事由となる行為又は事実があると認めたときは、その税理士であった者が懲戒処分を受けるべきであったことについて決定をすることができることとされている(税理士法48①前段)。
  この場合において、財務大臣は、その税理士であった者が受けるべきであった懲戒処分の種類(その懲戒処分が2年以内の税理士業務の停止の処分である場合には、懲戒処分の種類及び税理士業務の停止をすべき期間)を明らかにしなければならないこととされている(税理士法48①後段)。
③ 税理士法人に対する違法行為等についての処分
  上記①のとおり、自然人である税理士に対して懲戒処分が設けられていることとのバランスから、税理士法では、税理士法人に対する違法行為等についての処分についても定められている。
  具体的には、財務大臣は、税理士法人が、税理士法等に違反し、又は運営が著しく不当と認められるときは、その税理士法人に対し、戒告し、若しくは2年以内の期間を定めて業務の全部又は一部の停止を命じ、又は解散を命ずることができることとされている(税理士法48の20①)。
 なお、財務大臣は、上記①の税理士に対する懲戒処分、上記②の税理士であった者に対する懲戒処分を受けるべきであったことについての決定又は上記③の税理士法人に対する違法行為等についての処分(以下「税理士に対する懲戒処分等」という。)をしたときは、遅滞なくその旨を官報をもって公告しなければならないこととされている(旧税理士法47の4、税理士法48③、48の20②)。
(2)改正の内容
 社会一般に懲戒処分等があったことを周知することにより、その懲戒処分等の実効性を高めるとともに、委嘱者である納税者等が不測の損害を被ることを防止しようとするため、上記(1)のとおり税理士に対する懲戒処分等をした旨を官報をもって公告しなければならないこととされている。
 一方、税理士業務の執行が、税務行政全般に重大な影響を与えるものであることを踏まえ、更にその懲戒処分等の情報の入手を容易にし、懲戒処分等の実効性を高めることが課題とされていた。
 このような課題を踏まえ、官報によるほか、税理士に対する懲戒処分等をした旨をインターネットを利用する方法により公告しなければならないこととされるとともに、インターネットを利用することにより情報へのアクセスが飛躍的に向上することを踏まえ、インターネットを利用する方法による公告期間について、公告対象者のプライバシーに配慮するための措置が講じられた。
 具体的には、財務大臣は、税理士に対する懲戒処分等をしたときは、遅滞なくその旨を、相当と認める期間、インターネットに接続された自動公衆送信装置に記録する方法(インターネットを利用する方法)により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、官報をもって公告しなければならないこととされた(税理士法47の4、48③、48の20②、税理士規則20の2、20の3、22の2)。
 なお、公告対象者のプライバシーに配慮する観点から、インターネットを利用する方法による公告期間は、財務大臣が「相当と認める期間」に限ることが明確化され(税理士規則20の2、20の3、22の2)、この「相当と認める期間」とは、概ね、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める期間として取り扱うこととされているが(令和5年度税制改正の大綱(令和4年12月23日閣議決定))、具体的な取扱いについては、今後、通達等において示される予定である。
① 税理士業務の禁止の懲戒処分又は税理士法人の解散の命令の公告である場合 税理士等がその処分を受けた日から3年間
② 税理士業務の停止の懲戒処分等の公告である場合 税理士業務の停止の期間
③ 戒告の懲戒処分等の公告である場合 税理士等がその処分を受けた日から1月間
④ 懲戒処分を受けるべきであったことについての決定の公告である場合 税理士であった者が受けるべきであったその懲戒処分の種類に応じ上記①から③までに定める期間に準ずる期間
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年4月1日から施行され(改正法附則1四ホ、改正税理士規則附則)、同日以後にする税理士に対する懲戒処分等の公告について適用される。

4 税理士試験合格者の公告方法の電子化等
(1)改正前の制度の概要

 国税審議会会長は、税理士試験実施の初日の2月前までに、税理士試験実施の日時及び場所並びに税理士試験受験願書の受付期間その他税理士試験の受験に関し必要な事項を官報をもって公告しなければならないこととされている(旧税理士規則6)。
 また、国税審議会会長は、税理士試験に合格した者及び税理士試験の免除科目が試験科目の全部に及ぶ者(以下「税理士試験全科目免除者」という。)の氏名を官報をもって公告しなければならないこととされていた(旧税理士規則7)。
(2)改正の内容
① 税理士試験合格者の公告方法等の電子化
  上記(1)のとおり、税理士試験実施の日時及び場所等の公告や税理士試験に合格した者等の公告については、官報をもってしなければならないこととされているが、税理士試験等に関する各種情報をより広く適切に周知する観点から、インターネットを利用した税理士試験等に関する各種情報の伝達手段の整備が課題とされていた。
  今回の改正においては、このような課題を踏まえ、官報によるほか、税理士試験実施の日時及び場所や税理士試験に合格した者に関する情報等をインターネットを利用する方法により公告しなければならないこととするとともに、インターネットを利用することにより情報へのアクセスが飛躍的に向上することを踏まえ、税理士試験に合格した者のプライバシーに配慮するための措置等を講ずることとされた。
  具体的には、国税審議会会長は、税理士試験実施の日時及び場所並びに税理士試験受験願書の受付期間その他税理士試験の受験に関し必要な事項を、相当と認める期間、インターネットに接続された自動公衆送信装置に記録する方法(インターネットを利用する方法)により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、官報をもって公告しなければならないこととされた(税理士規則6①)。
  また、国税審議会会長は、税理士試験に合格した者の受験番号(改正前:氏名)を、相当と認める期間、インターネットに接続された自動公衆送信装置に記録する方法(インターネットを利用する方法)により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、官報をもって公告しなければならないこととされた(税理士規則7)。
  なお、上記のとおり、税理士試験合格者の公告について、公告事項が「氏名」から「受験番号」とされた。
  これは、従前は、税務に関する専門家として申告納税制度に大きな影響を及ぼす税理士の職務の重要性を踏まえ、政府情報の公的な伝達手段である官報により、将来的に税理士となり得る税理士試験に合格した者の「氏名」を広く一般に知らせること自体にも意義があるものと考えられていた。一方、現在は、日本税理士会連合会は、登録された税理士に関する情報について、官報により公告しなければならないこととされており(税理士法27)、運用上、日本税理士会連合会のホームページにおいても、税理士登録された者を検索することが可能であることを踏まえると、税理士試験に合格した者の氏名を公告しておく必要性は乏しくなっていると考えられることから、他の士業資格における取扱いやその合格した者のプライバシーに配慮する観点も踏まえ、インターネットを利用する方法による公告方法の整備と併せて、見直しが行われたものである。
② 税理士試験全科目免除者の公告の廃止
  税理士試験全科目免除者については、国税審議会会長より免除を決定した旨の通知(以下「免除通知」という。)がされているが(税理士規則3③④)、この免除通知は、合格証書の授与とは異なり、通常、公告よりも前に行われ、公告により、改めて免除申請の結果を申請者に知らせる必要性が乏しいと考えられることや、税理士試験全科目免除者については、一般的な受験番号を持たないこと等を踏まえ、上記①の改正に併せて、税理士試験全科目免除者の公告が廃止された(税理士規則7)。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年4月1日から施行され(改正税理士規則附則)、令和6年度(第74回(予定))の税理士試験に係る公告から適用される。

5 スマートフォン用電子証明書を利用したe-Taxの利便性の向上
(1)改正前の制度の概要

① 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による申請等
  電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う者は、その申請等につき規定した法令の規定において書面等に記載すべきこととされている事項(以下「申請書面等記載事項」という。)並びに税務署長から通知された識別符号(ID)及び暗証符号(パスワード)(以下「e-Tax用ID・PW」という。)を入力して、その申請等の情報に電子署名を行い、その電子署名に係る電子証明書と併せてこれらを送信することにより、その申請等を行わなければならないこととされている(旧国税オンライン化省令5①)。ただし、個人番号カードを用いて電子情報処理組織(e-Tax)にログインする場合には、e-Tax用ID・PWを入力すること(あらかじめその申請等を行う者が本人であることを確認するための措置として国税庁長官が定める措置がとられている場合には、e-Tax用ID・PWを入力すること並びにその申請等の情報に電子署名を行うこと及びその電子署名に係る電子証明書を送信すること)は要しないこととされている(旧国税オンライン化省令5①ただし書、①一)。
② 申請等において氏名等を明らかにする措置
  申請等のうちその申請等に関する他の法令の規定において署名等(署名、記名、自署、連署、押印その他氏名又は名称を書面等に記載することをいう。以下同じ。)をすることが規定されているものについて電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行う場合には、その法令の規定にかかわらず、氏名又は名称を明らかにする措置として次に掲げるものをもってその署名等に代えることができることとされている(情報通信技術活用法6④、旧国税オンライン化省令6①)。
 イ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行う申請等の情報に電子署名を行い、その電子署名に係る電子証明書をその申請等と併せて送信すること。
 ロ e-Tax用ID・PWを入力して申請等を行うこと。
 ハ 個人番号カードを用いて電子情報処理組織(e-Tax)にログインし、申請等を行うこと。
 ニ 税務署長に対して、認定特定電子計算機(認定クラウド等)に備えられたファイル(特定ファイル)に記録されたその申請等情報を閲覧し、及び国税庁の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する権限(アクセス権限)を付与して、認定特定電子計算機(認定クラウド等)を使用する方法により申請等を行うこと。
③ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法による国税の納付手続
  電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により国税の納付を行おうとする者は、納付書に記載すべきこととされている事項及びe-Tax用ID・PWを入力して、これらを送信することにより、その納付を行わなければならないこととされている(旧国税オンライン化省令8①)。ただし、個人番号カードを用いて電子情報処理組織(e-Tax)にログインする場合には、e-Tax用ID・PWを入力することを要しないこととされている(旧国税オンライン化省令8①ただし書)。
(2)改正の内容
 デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)による電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成14年法律第153号。以下「公的個人認証法」という。)の改正により、個人番号カード所持者について、署名用電子証明書及び利用者証明用電子証明書の移動端末設備(スマートフォン)への搭載が可能となった(公的個人認証法16の2①、35の2①)。
 今回の改正においては、上記の公的個人認証法の改正を踏まえ、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う際に送信すべき電子証明書の範囲に、移動端末設備(スマートフォン)に搭載された移動端末設備用署名用電子証明書が追加されるとともに、電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に移動端末設備用利用者証明用電子証明書が搭載された移動端末設備(スマートフォン)を用いて電子利用者証明を行い、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等又は国税の納付を行う場合には、e-Tax用ID・PWを入力することを要しないこととする等の整備が行われた。
 具体的には、次のとおりである。
① 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う際に送信すべき電子証明書の範囲の整備
  電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う際に送信すべき電子証明書の範囲に、移動端末設備用署名用電子証明書が追加された(国税オンライン化省令2①二ロ)。
② 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等又は国税の納付を行う場合のe-Tax用ID・PWの入力の省略
  電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に移動端末設備(スマートフォン)(その移動端末設備に組み込まれた電磁的記録媒体(ICチップ)に移動端末設備用利用者証明用電子証明書が記録されているものに限る。以下同じ。)を用いて電子利用者証明を行い、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等又は国税の納付を行う場合には、e-Tax用ID・PWを入力することを要しないこととされた(国税オンライン化省令5①一、8①ただし書)。
③ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う場合のe-Tax用ID・PWの入力及び電子署名等の省略
  電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に個人番号カード(個人番号カード用利用者証明用電子証明書が記録されているものに限る。以下同じ。)又は移動端末設備(スマートフォン)を用いて電子利用者証明を行い、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う場合において、あらかじめその申請等を行う者が本人であることを確認するための措置として国税庁長官が定める措置がとられているときは、e-Tax用ID・PWを入力すること並びにその申請等の情報に電子署名を行うこと及びその電子署名に係る電子証明書を送信することを要しないこととされた(国税オンライン化省令5①一)。
  また、上記の「国税庁長官が定める措置」は、その申請等に係る税務署長等が、次に掲げる電磁的記録の送信を受けることとされた(令和5年国税庁告示第13号)。
 イ 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める電磁的記録
 (イ)電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に個人番号カードを用いて電子利用者証明を行い、その申請等を行う場合……その申請等を行う者の個人番号カード用利用者証明用電子証明書
 (ロ)電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に移動端末設備(スマートフォン)を用いて電子利用者証明を行い、その申請等を行う場合……その申請等を行う者の移動端末設備用利用者証明用電子証明書
 ロ その申請等を行う者の個人番号カード用署名用電子証明書又は移動端末設備用署名用電子証明書
④ 電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う場合の氏名等を明らかにする措置の整備
  上記(1)②の電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により申請等を行う場合の氏名又は名称を明らかにする措置に、「電子情報処理組織(e-Tax)の利用(ログイン)の際に移動端末設備(スマートフォン)を用いて電子利用者証明を行い、申請等を行うこと」が追加された(国税オンライン化省令6①三)。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和7年1月1日から施行される(改正国税オンライン化省令附則)。

6 滞納処分免脱罪の適用対象の整備
(1)改正前の制度の概要

 滞納処分免脱罪の類型は、次の①から③までに掲げる者の区分に応じそれぞれ次の①から③までの罰則の構成要件及び刑罰の内容が定められている。また、これらの違反行為に係る次の④の両罰規定が定められている。
① 納税者
  納税者が滞納処分の執行又は租税条約等の相手国等に対する共助対象国税の徴収の共助の要請による徴収を免れる目的でその財産を隠蔽し、損壊し、国の不利益に処分し、又はその財産に係る負担を偽って増加する行為をしたときは、その者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている(旧徴法187①)。
② 納税者の財産を占有する第三者
  納税者の財産を占有する第三者が納税者に滞納処分の執行又は租税条約等の相手国等に対する共助対象国税の徴収の共助の要請による徴収を免れさせる目的で上記①の行為をしたときは、その第三者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている(旧徴法187②)。
③ 情を知って上記①又は②の行為につき納税者又はその財産を占有する第三者の相手方となった者
  情を知って上記①又は②の行為につき納税者又はその財産を占有する第三者の相手方となった者は、2年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされている(旧徴法187③)。
④ 両罰規定
  法人の代表者(人格のない社団等の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人、使用人、その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して上記①から③までの違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対しそれぞれ上記①から③までの罰金刑を科することとされている(徴法190①)。
(2)改正の内容
 上記(1)のとおり、滞納処分免脱罪は、納税者が滞納処分の執行又は租税条約等の相手国等に対する共助対象国税の徴収の共助の要請による徴収(以下「滞納処分の執行等」という。)を免れる目的(故意)でその財産を隠蔽し、損壊し、国の不利益に処分し、又はその財産に係る負担を偽って増加する行為をしたことが構成要件とされている。しかし、この財産の「損壊」については、構造の一部又は全部について損傷を与えて性質、形状を変える等、その財産の財産的価値を害する行為をいうものと解されているため、差押不動産上に廃棄物を持ち込む等の差押財産自体に直接損傷を与えない行為について、その滞納処分の執行等を免れる目的があったとしても、その行為をした者に対して滞納処分免脱罪の適用が困難となっていた。
 そのため、滞納処分の執行等を免れる目的があるのは同様であるにもかかわらず、その行為が財産自体に直接損傷を与えるものかどうかが滞納処分免脱罪の適用の有無に影響を与えてしまうことや、納税者が故意に差押不動産上に廃棄物を持ち込む等の財産自体に直接損傷を与えない行為をした場合には、民事の強制執行について適用される刑法上の強制執行妨害目的財産損壊等罪の対象とされる一方で、滞納処分免脱罪の適用対象とはならないといったアンバランスが生じていることが課題とされていた。
 今回の改正においては、こうした課題に対応するため、納税者が滞納処分の執行等を免れる目的で、財産自体に直接損傷を与えずにその現状を改変して、その財産の価額を減損し、又はその滞納処分に係る滞納処分費等を増大させる行為についても、滞納処分免脱罪の対象とされた。
 具体的には、納税者が、滞納処分の執行等を免れる目的で、その現状を改変して、その財産の価額を減損し、又はその滞納処分に係る滞納処分費若しくは租税条約等の相手国等に対する共助対象国税の徴収の共助の要請による徴収に関する費用を増大させる行為をしたときは、その者は、滞納処分免脱罪の対象として、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされた(徴法187①)。また、納税者の財産を占有する第三者が納税者に滞納処分の執行等を免れさせる目的で同様の行為をしたときも同様とされ(徴法187②)、情を知ってこれらの行為につきその納税者又はその財産を占有する第三者の相手方となったときは、その相手方としてその違反行為をした者も、滞納処分免脱罪の対象として、2年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされた(徴法187③)。
 なお、租税条約等の相手国等に対する共助対象国税の徴収の共助の要請による徴収に関する費用を増大させる行為についても、滞納処分免脱罪の対象とされている。これは、その徴収を免れる目的で我が国が徴収共助の要請をすることができる国又は地域(以下「徴収共助可能国」という。)に所在する財産を移転する等の隠蔽等の行為は「国外」で行われる場合についても滞納処分免脱罪の対象とされているが(徴法187④⑤)、同様の目的により、徴収共助可能国に所在する財産に直接損傷を与えずにその徴収に関する費用を増大させる行為が行われる場合も想定されることが勘案されたものである。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年1月1日以後にした違反行為について適用し、同日前にされた違反行為に対する罰則の適用については従前どおりとされている(改正法附則1三ハ、78)。

7 徴収職員の滞納処分に関する調査手続等の見直し
(1)改正前の制度の概要

① 滞納処分に関する調査に係る質問検査権
  徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類を検査することができることとされている(旧徴法141)。
 イ 滞納者
 ロ 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
 ハ 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
 ニ 滞納者が株主又は出資者である法人
  なお、徴収職員は、この質問検査権を行使する場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならないこととされ(旧徴法147①、旧徴規2①)、この質問検査権限については、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないこととされている(旧徴法147②)。
  また、この質問検査権を担保する罰則として、徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした者及び上記の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされている(旧徴法188)。
② 納税の猶予の申請に係る事項に関する調査に係る質問検査権等
  税務署長等は納税の猶予の申請に係る事項に関する調査をするため必要があると認めるときは、その必要な限度で、その職員に、その申請者に質問させ、又はその者の帳簿書類その他の物件を検査させることができることとされている(旧通法46の2⑪)。
  なお、この質問又は検査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならないこととされ(旧通法46の2⑫、旧通規10の2)、この質問検査権限については、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないこととされている(通法46の2⑬)。
  また、納税の猶予等の申請書の提出があった場合において、その申請者が、その職員の質問に対して答弁をせず、又は上記の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、猶予の不許可事由に該当し、税務署長等は、納税の猶予等を認めないことができることとされている(旧通法46の2⑩二)。
(2)改正の内容
 令和3年度税制改正における電子帳簿等保存制度の見直しにより、帳簿書類等を電子的に保存する際の手続について抜本的に簡素化される等、今後、更に、いわゆる電子帳簿書類の普及及び一般化が見込まれる中、滞納処分に関する調査に係る質問検査権については、電子帳簿書類のダウンロード(帳簿書類の提示又は提出)を求めることができる明文の規定がないこと等から、こうした電子化に対応するための調査手続等の整備が課題とされていた。また、課税調査の質問検査権については、帳簿書類以外の物件も対象とされているほか、物件の提示又は提出を求める権限や提出された物件の留置き手続に関する規定が整備されているが、課税調査に比して、滞納処分に関する調査については、こうした明文の規定がないことから、滞納者等から協力を得られないケースも生じていた。
 今回の改正においては、こうした状況に対応するため、滞納処分に関する調査手続について、次の①のとおり見直しが行われた。また、この見直しに併せて、同様の状況が生じ得る納税の猶予の申請に係る事項に関する調査手続等についても、次の②のとおり見直しが行われた。
① 滞納処分に関する調査手続等の整備
 イ 滞納処分に関する調査に係る質問検査権の対象範囲・手続の整備
   課税調査における取扱いを踏まえ、滞納処分に関する調査に係る質問検査権について、その対象に、帳簿書類以外の物件が追加されるとともに、滞納処分に関する調査の相手方に対し、帳簿書類その他の物件の提示又は提出を求めることができることが法令上明確化された。 
  具体的には、徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、滞納者等の財産に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができることとされた(徴法141)。
   また、この物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出したときは、その違反行為をした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされた(徴法188三)。
 ロ 滞納処分に関する調査に係る質問検査権の行使先の範囲の明確化
   従前、滞納処分に関する調査に係る質問検査権の行使先のうちいわゆる反面調査先については、「滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者」とされており(旧徴法141三)、現に滞納者に対し債権又は債務がある者のほか、過去に滞納者に対し債権又は債務があった者が対象となるかどうかについて法令上明確ではなかった。
   こうした点を踏まえ、滞納処分に関する調査に係る質問検査権の行使先について、滞納者に対して過去に債権又は債務があったと認めるに足りる相当の理由がある者が含まれることが法令上明確化され、具体的には、滞納処分に関する調査に係る質問検査権の行使先のうちいわゆる反面先について「滞納者に対し債権若しくは債務があつた、若しくはあると認めるに足りる相当の理由がある者又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者」とされた(徴法141三)。
 ハ 滞納処分に関する調査等において提出された物件の留置き手続の明確化
   滞納処分に関する調査の過程における「滞納者等から提出された物件」の徴収職員による留置き(預かり)については、従来から、滞納者等の承諾を得て「預り証」を交付した上で預かり、その後「預り証」と引換えに返還することが運用上行われてきたところである。他方、課税調査において提出された物件の留置き手続については、平成23年度税制改正において、既に明文の根拠規定が整備されていた。
   今回の改正においては、こうした滞納処分に関する調査における「物件の留置き(預かり)」等の手続について、課税調査における取扱いも踏まえ、法令上明確化された。
   具体的には、徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、その調査において提出された物件を留め置くことができることとされた(徴法141の2)。
   また、滞納処分に関する調査において提出された物件を留め置く際の手続については、次のとおりとされた(徴令51の2、通令30の3)。
 (イ)徴収職員は、物件を留め置く場合には、その物件の名称又は種類及びその数量、その物件の提出年月日並びにその物件を提出した者の氏名及び住所又は居所その他その物件の留置きに関し必要な事項を記載した書面を作成し、その物件を提出した者にこれを交付しなければならない。
 (ロ)徴収職員は、留め置いた物件につき留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。
 (ハ)徴収職員は、その物件を善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。
② 納税の猶予の申請に係る事項に関する調査手続等の整備
  上記①イハの見直しと併せて、納税の猶予の申請に係る事項に関する調査の相手方に対し、帳簿書類その他の物件の提示若しくは提出を求め、又は調査において提出された物件を留め置くことができることが法令上明確化された。
  具体的には、税務署長等は、納税の猶予の申請に係る事項に関する調査をするため必要があると認めるときは、その必要な限度で、その職員に、その申請者にその者の帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めさせ、又はその調査において提出された物件を留め置かせることができることとされた(通法46の2⑪)。
  なお、納税の猶予の申請に係る事項に関する調査において提出された物件を留め置く際の手続については、次のとおりとされた。
 イ 上記の職員は、物件を留め置く場合には、その物件の名称又は種類及びその数量、その物件の提出年月日並びにその物件を提出した者の氏名及び住所又は居所その他その物件の留置きに関し必要な事項を記載した書面を作成し、その物件を提出した者にこれを交付しなければならない(通令15の2⑧)。
 ロ 上記の職員は、留め置いた物件につき留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく、これを返還しなければならない(通令15の2⑨)。
 ハ 上記の職員は、物件を善良な管理者の注意をもって管理しなければならない(通令15の2⑩)。
  また、上記①の物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出したとき等が、納税の猶予等の不許可事由に追加され、この事由に該当する場合には、納税の猶予等を認めないことができることとされた(通法46の2⑩二)。なお、換価の猶予についても同様である(徴法152④)。
(3)適用関係
① 上記(2)①イロの改正は、令和6年1月1日以後に滞納者等に対して行う質問検査等(同日前から引き続き行われている一定の調査に係るものを除く。)について適用し、同日前に滞納者等に対して行った質問検査(同日前から引き続き行われている一定の調査に係るものを含む。)については従前どおりとされている(改正法附則24①)。なお、令和6年1月1日前から滞納者等に対して引き続き行われている一定の調査については、滞納者等の予見可能性に配意して、従前の規定を適用することとされている。
② 上記(2)①ハの改正は、令和6年1月1日以後に提出される物件について適用される(改正法附則24②)。
③ 上記(2)②の改正は、令和6年1月1日以後に申請される納税の猶予について適用し、同日前に申請された納税の猶予については従前どおりとされている(改正法附則23②)。

8 徴収職員の事業者等への協力を求める措置の整備
(1)改正前の制度の概要

 徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、官公署又は政府関係機関に、その調査に関し参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めることができることとされている(旧徴法146の2)。
 他方、事業者に対してもその協力を得て行う任意の照会を実施しているところであるが、こうした事業者に対する協力要請については、その根拠となる国税徴収法上の明文の規定を欠いている状況となっていた。
(2)改正の内容
 事業者への協力要請については、その根拠となる国税徴収法上の明文の規定を欠いていることから、対象者(顧客)とのトラブルを懸念して協力要請に応じないケースも生じており、結果として、事業者間、納税者間のそれぞれにおいて不公平が生じる状況となっており、その解消が課題とされていた。
 今回の改正においては、こうした課題に対応し、滞納処分の適正な執行に資するため、国税通則法上の課税調査における事業者等への協力を求める措置(通法74の12①)の例も踏まえ、上記(1)の協力を求める措置の対象範囲に、「事業者」が追加された。
 具体的には、徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、事業者(特別の法律により設立された法人を含む。)に、その調査に関し参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧又は提供その他の協力を求めることができることとされ、事業者への協力要請について法令上明確化された(徴法146の2)。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年1月1日から施行され(改正法附則1三ハ)、同日以後にする協力の求めについて適用されることとなる。

9 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等
(1)制度創設の背景等

 現行、税理士又は税理士法人でない者(以下「税理士等でない者」という。)は、税理士法に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないこととされており(税理士法52)、これに違反した者は、税理士業務の制限違反への罰則として、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとされている(税理士法59①四)。
 これは、税理士の使命の重要性に鑑み、税理士業務が税理士の独占業務であることを明らかにするとともに、税理士等でない者がこの税理士業務を行ういわゆる「ニセ税理士行為」について禁止するものである。また、このような「ニセ税理士行為」については、税理士等でない者が他人の求めに応じ、税理士業務を反復継続して行うことが、納税義務の適正な実現を阻むおそれがあることを踏まえると、これをあらかじめ防止する必要があるものと考えられる。
 他方、近年、SNSの普及等に伴い、税理士等でない者によって不特定多数の者に脱税相談(指南)等が行われるリスクが高まっている中、多数の者が脱税等を行い、納税義務の適正な実現に重大な影響が及ぶ事態を防止するためには、こうした脱税相談等が行われるよりも前に行政上の対応を行うことを可能とすることが必要であり、税理士業務のうち特にこうした脱税相談等を未然に防止するための実効性のある措置の整備が課題とされていた。
 さらに、こうした税理士等でない者に対して実際に行政上の対応のための情報収集をしようとした場合、現行では、通常の課税調査と異なり、調査忌避等に対して罰則が科されるような調査に関する根拠規定がないため、応じる必要がないとして対象者が対応を拒否するといった課題に直面することになる。
 こうした課題を踏まえ、今回の改正においては、旅館業法等における類似の制度を参考として、税理士等でない者による脱税相談等により、納税義務の適正な実現に重大な影響が及ぶ事態を防止するために、上記の税理士業務の制限違反への罰則とは別に、より機動的な行政上の対応が可能となる枠組みを整備することとされた。具体的には、税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度が創設されるとともに、その税務相談を行った者に対する調査権限等が整備された。
(2)制度の内容
① 税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令
  財務大臣は、税理士等でない者が税務相談を行った場合(税理士法の別段の定めにより税務相談を行った場合を除く。)において、更に反復してその税務相談が行われることにより、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れさせ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けさせることによる納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、その税理士等でない者に対し、その税務相談の停止その他その停止が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずることを命ずることができることとされた(税理士法54の2①)。
  また、上記の命令に違反したときは、その違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとされた(税理士法60四、63)。
② 上記①の命令をした旨の公告
  財務大臣は、税理士に対する懲戒処分をしたときは、遅滞なくその旨を一定の方法により公告しなければならないこととされている(この懲戒処分の公告の方法については今回改正が行われており、その詳細については前掲「三 3 税理士に対する懲戒処分等の公告方法の電子化」を参照。)。財務大臣が上記①の命令をした場合についても、こうした税理士に対する懲戒処分等の取扱いを踏まえ、税理士等でない者に対する命令があったことを社会一般に広く周知することにより、納税者の不測の被害を防止する観点から、懲戒処分と同様の方法により、その命令をした旨を公告しなければならないこととされた。
  具体的には、財務大臣は、上記①の命令をしたときは、遅滞なくその旨を、相当と認める期間、インターネットに接続された自動公衆送信装置に記録する方法(インターネットを利用する方法)により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、官報をもって公告しなければならないこととされた(税理士法47の4、54の2②、税理士規則20の2、26の2)。
③ 税務相談を行った者に対する報告の徴取、質問又は検査の権限(調査権限)
  現行、税理士又は税理士法人等に対する報告の徴取、質問又は検査の権限が整備されているが、これに加えて、上記①の税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設に伴い、その税務相談を行った者に対する同様の調査権限が整備された。
  具体的には、国税庁長官は、命令をすべきか否かを調査する必要があると認めるときは、税務相談を行った者から報告を徴し、又は当該職員をしてその者に質問し、若しくはその業務に関する帳簿書類を検査させることができることとされた(税理士法55③)。ただし、この報告の徴取、質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないこととされている(税理士法55④)。
  また、上記の調査権限の行使に対して、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、質問に答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、その違反行為をした者は、30万円以下の罰金に処することとされた(税理士法62二、63)。
(3)適用関係
 上記(2)の改正は、令和6年4月1日から施行される(改正法附則1四ホ、改正税理士令附則、改正税理士規則附則)。

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