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解説記事2021年02月08日 税務マエストロ 居住用賃貸建物の定義(2021年2月8日号・№869)

税務マエストロ
居住用賃貸建物の定義
#257
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 仕入税額控除が制限される「居住用賃貸建物」については、消費税法30条10項で、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するものをいう。」と定義されている。
 居住用賃貸建物に該当するかどうかの判断については、その建物の構造によるのか取得時の用途によるのかが法律からはっきりと読み取れないこともあり、実務家の間でも意見が錯綜しているようである。こういった実情を踏まえ、今回は「居住用賃貸建物の定義」に的を絞り、検討することにした。
 なお、改正法の詳細(居住用賃貸建物に対する仕入税額控除の制限)については本誌2020.11.2号(No.856)を参照されたい。

1 居住用賃貸建物とは?

 「居住用賃貸建物」とは、次の①と②のいずれにも該当するものをいう(消法30⑩)。

① 事業者が国内において行う住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であること
② 高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当する建物であること
(注)「建物」にはその附属設備も含まれる

 上図のように、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」以外の建物が居住用賃貸建物に該当し、仕入税額控除が制限されることとなる。
 「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造や設備の状況・その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、消費税法基本通達では下記のような建物を具体的に例示している(消基通11−7−1)。

(1)建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
(2)旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
(3)棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの

2 用途による判断

 消費税法基本通達11−7−1で例示している上記(1)〜(3)の建物について、その用途により居住用賃貸建物に該当するかどうかを検討する。
(1)建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
 店舗や工場などのように、事業用として利用することを目的に取得する物件はそもそもが賃貸目的で取得するものではない。よって、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」であるから居住用賃貸建物には該当しないことになる。
 また、賃貸目的で店舗や工場などの事業用施設を取得した場合にも、その家賃は非課税となる住宅家賃には該当しないため、取得する物件は「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」として居住用賃貸建物には該当しないことになる。
(2)旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
 旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業、リゾートマンション、貸別荘等、旅館業法に規定する旅館業に係る施設の貸付けは非課税となる住宅の貸付けから除外されている(消法別表第1十三、消令16の2、消基通6−13−4)。
 よって、旅館やホテルとして貸付けることが明らかな建物を取得した場合には、その取得物件は「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」として居住用賃貸建物には該当しないことになる。
(3)棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
 建売住宅や分譲マンションのような棚卸資産は、購入者が住宅として使用するものではあるが、販売者が住宅として貸付けるものではない。よって、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」であるから、保有期間中に住宅として賃貸しないことを条件に、居住用賃貸建物に該当しないものとして取り扱うことができる。
 販売目的で現住建造物(入居者が居住した状態の建物)を取得する場合には、取得と同時に住宅として賃貸していることとなるので、たとえ最終目的が販売用であったとしても、取得した物件は、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」ではないので、居住用賃貸建物に該当することになる。

3 混合物件の取扱い

 賃貸マンションやアパートなど、居住用の賃貸物件は居住用賃貸建物に該当する。
 1階が貸店舗で2階が居住用の貸室となっているような物件は、1階から発生する家賃は消費税が課税されるものの、2階部分が居住用貸室となっていることから「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」には該当しないため、物件全体が居住用賃貸建物に該当することになる。
 なお、居住用賃貸建物を、建物の構造や設備の状況・その他の状況により、商業用部分(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分)と居住用賃貸部分とに合理的に区分しているときは、居住用賃貸部分についてのみ、仕入税額控除を制限することとしている(消令50の2①)。
 具体的には、建物の一部が店舗用の構造等となっている居住用賃貸建物などについて、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合など、その建物の実態に応じた合理的な基準により区分することになる(消基通11−7−3)。

4 下宿・下宿営業・民泊

 旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業、リゾートマンション、貸別荘等、旅館業法に規定する旅館業に係る施設の貸付けは非課税となる住宅の貸付けから除外されている。ただし、貸家業及び貸間業については旅館業には該当しないことから、賃貸借期間が1か月以上であることを条件に、その貸付けは非課税となる(消法別表第1十三、消令16の2、消基通6−13−4)。
 また、消費税法基本通達11−7−1の(2)では、旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物は居住用賃貸建物に該当しないと例示を示している。
(1)下宿と下宿営業
 「下宿」とは、学生等に部屋等を提供して生活させることをいう。「下宿」は旅館業には該当せず、貸間業としてその貸付けは非課税となる。
 「下宿営業」とは、施設を設け、1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業をいう。「下宿営業」は旅館業の適用を受けることから、たとえ貸付期間が1か月以上になるとしても非課税とはならず、利用料金には消費税が課税されることになる。
(2)下宿営業用の建物は居住用賃貸建物に該当するか?
 下宿営業の範囲については、昭和61年3月31日衛指第44号・各都道府県各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生省生活衛生局指導課長通知で下記のように通知されている。

……「下宿営業」とは、法第二条第五項に定義するとおり、「人を宿泊させる営業」であつて、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けるものをいうが、「人を宿泊させる営業」という旅館業の営業の本質においては、他の旅館業の営業と相違はないものである。
 ここで、「人を宿泊させる営業」とは、アパート、間貸し等の貸室業との関連でみると、
一 施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること。
二 施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として、営業しているものであること。
の二点を条件として有するものであり、これは下宿営業についても同様である。……

 上記の下宿営業に関する通知を読む限り、施設の管理責任は旅館やホテルと同様に営業者にあることから、その営業実態は旅館やホテルと何ら変わるものではない。よって、下宿営業の目的で利用することが明らかな建物であれば、居住用賃貸建物には該当しないことになるように思われる。
(3)住宅宿泊事業(民泊)
 いわゆる「民泊」は旅館業法に規定する旅館業に該当することとされている。したがって、たとえ貸付期間が1か月以上になるとしても非課税とはならず、利用料金には消費税が課税されることになる。
(4)民泊用の建物は居住用賃貸建物に該当するか?
 住宅宿泊事業法では、2条1項において「当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして……設備が設けられていること」と「住宅」を定義し、同条3項において、「住宅宿泊事業」とは、「……宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業……」と定義している。

住宅宿泊事業法(抄)
    :
第二条 この法律において「住宅」とは、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する家屋をいう。
 一 当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること。
 二 現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって、人の居住の用に供されていると認められるものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること。
2 この法律において「宿泊」とは、寝具を使用して施設を利用することをいう。
3 この法律において「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。
    :

 住宅宿泊事業法の「住宅」という文言に着目した場合、民泊用の建物は居住用賃貸建物に該当するように思えなくもない。しかし、消費税法では、「住宅」について「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。」と定義しているのであり、住宅宿泊事業法の「住宅」の定義は援用していないのである(消法別表第1十三)。
 また、民泊営業については、国土交通省住宅局・観光庁等が策定した住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)において詳細な解説がされており、このガイドラインを読む限り、民泊営業と下宿営業とのさしたる違いはないように思われる。

5 構造による判断

 消費税法基本通達では、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、「建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい……」としている(消基通11−7−1)。そうすると、居住用賃貸建物に該当するかどうかの判断に当たっては、2の用途による判断だけでなく、その構造についても考慮する必要があるのだろうか?
 週刊税務通信3637号(2021年01月11日号)の10頁では、『民泊サービスとは、「住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供すること」……建物の構造等から判断すれば住宅であることに変わりはないため、「居住用賃貸建物」に該当し、建物取得時には仕入税額控除ができない……』(下線は筆者加筆)と説明している。
 建物の構造や設備の状況などを勘案して判断するとした場合、店舗や工場のような事業用施設であれば居住用賃貸建物に該当しないことは明白であるが、事務所として賃貸する目的で取得する物件などはどうやって判断すればいいのかがわからない。
 居住用賃貸建物の判定に建物の構造や設備の状況などを勘案するとした場合、分譲マンションの一室を購入して事務所として賃貸するケースでは、その用途に関係なく、居住用賃貸建物に該当することになるように思われる。
 バスタブやキッチンの有無、畳部屋の有無や間取り、収納スペースの大小や床面積などを総合勘案して判断するのだろうか……もしそうだとしたならば、その判断基準(境界線)はどこにあるというのであろう?

6 居住用賃貸建物の判定時期(消基通11-7-2)

 居住用賃貸建物に該当するかどうかについては、課税仕入れを行った日の状況により判定することとされており、取得の時点において用途が未定であるなどの理由により、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかでない建物は、居住用賃貸建物に該当することとなる。
 つまり、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物でない限りは居住用賃貸建物から除外することはできないということである。
 なお、消費税法基本通達11−7−2(居住用賃貸建物の判定時期)によれば、取得時に用途未定の物件であっても、課税仕入れを行った日の属する課税期間の末日において住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとすることができるとのことであるが、本通達の取扱いは、どのようなケースを想定しているのかがわからない。
 物件の用途に関係なく、取得時に建物の構造や設備の状況などを勘案して判断するとしたならば、取得時に判定が確定するのであるから、課税期間の末日において住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされることなどあり得ないように思えるのである。

7 居住用賃貸建物の定義に関する疑問点

 「居住用賃貸建物」については、消費税法30条10項において「事業者が国内において行う住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」と定義しているだけで、法律からは、消費税法基本通達11−7−1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)に書かれている「建物の構造や設備の状況を考慮して判断する」という文言の手がかりを読み取ることはできない。
 言い換えれば、法律を読む限り、民泊を目的とした建物の取得や事務所としての賃貸を目的とした分譲マンションの取得は「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」の取得に該当し、居住用賃貸建物には該当しないように思えるのである。
 建物の構造や設備の状況を判断要素とする前に、まずはその建物の用途を優先して勘案し、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかであるならば、居住用賃貸建物に該当しないものとして仕入税額控除を認めるべきである。その結果、物件の取得後に非課税となる住宅家賃が発生するような状況となった場合には、消費税法33条(課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整)あるいは同法34条(課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整)の規定により、仕入控除税額が調整されるものと整理すべきではないだろうか?

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