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解説記事2023年07月31日 SCOPE DCF法による実際の取引価格は適正な時価と認められず(2023年7月31日号・№989)

吸収分割の承継資産負債の時価巡り国が敗訴
DCF法による実際の取引価格は適正な時価と認められず


 吸収分割における承継資産負債の時価の算定が争われた事案で、東京地裁民事2部(品田幸男裁判長)は令和5年7月20日、DCF法により算定された実際の取引価格に基づく処分行政庁の算定について、論理性・客観性が担保された公正なものとはいえないとし、原告により提出された第三者評価機関の意見書の評価額の上限価額を相当と認め、課税処分を取り消した。

原告提出の第三者評価機関の意見書の評価額が相当と認められる

 酒類・食品総合卸売業大手の国分グループ本社(株)(原告・旧商号は国分(株))の100%子会社であったD社は、吸収分割の方法により、物流事業に関する権利義務の一部をR社に承継させた。D社は、法人税等の申告において、本件分割が適格分社型分割(法法62の3①)に該当することを前提として、本件承継資産負債につき分割の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、譲渡損益を計上していなかった。なお、D社は、平成26年12月31日に解散し、平成27年12月1日に原告に吸収合併された(参照)。

 処分行政庁は、本件分割が適格分社型分割に該当せず時価による譲渡をしたものとして、本件承継資産負債の分割時の価額を、DCF法により算定された、吸収分割契約における実際の取引価格である6億132万円として、課税処分を行った。
 これに対し原告は、当該金額は合理的でなく、第三者評価機関の意見書の評価額であるべきと主張して各処分の取消しを求めた。
本件価値算定に論理性・客観性なし
 東京地裁はまず、本件分割契約に係る対価の価額が、独立当事者間の交渉により形成されたものではないと指摘した上で、独立当事者間の組織再編と同程度の公正な手続を経て価格が決定されたと認められるか否かについて検討した。
 東京地裁は、「DCF法は、将来キャッシュ・フローの予測や予測期間以降の成長率の見積りを正確に行うことは容易ではなく、経営者や投資家の恣意性が大きく介入する可能性があり、また、割引率も見積りや判断の要素が含まれることから、DCF法により算定された株主資本価値をもって適正な時価というためには、その算定過程において論理性と客観性が相応に担保された公正なものである必要がある」との考えを示した。
 その上で、本件事業計画の策定内容については、役務収益、販売・管理費の予測などの点で、合理性・客観性があるとはいい難いとし、本件価値算定については、法人税が考慮されていないこと、恒常的設備投資に係る長期的な影響が考慮されていないこと、5%という割引率(WACC)を設定した過程などから、論理性・客観性が担保された公正なものであったとはいえないとした。
意見書は収益還元法と類似会社比較法の併用
 一方、の内容が記載された第三者評価機関作成の意見書については、「本件分割の検討がされた当時の資料に基づき、D社の平成24年12月期及び平成25年12月期の平均利益を用いて本件事業の価値算定をしていること、収益還元法及び類似会社比較法のいずれもが企業価値の算定方法として一般的に合理性が認められている手法であるといえるところ、収益還元法及び類似会社比較法を併用した第三者評価機関の本件事業の価値算定過程につき、特に不合理と認めるに足りる点は見当たらないことからすると、本件事業の価値、すなわち本件承継資産負債の価値が最大で1,729万5,000円の価値を有するとする第三者評価機関の意見書にも相応の合理性がある」とした。

【表】第三者評価機関が作成した意見書の内容

① 本件事業計画は一般的にDCF法による算定の基礎たり得ないが、物流事業の経営環境は成熟化しており、過去の平均的な利益が将来も維持されるとの想定には一応の合理性が認められること等から、収益還元法及び類似会社比較法による評価結果の重複をもって本件事業の価値算定を行うべきであった
② 平成24年12月期及び平成25年12月期の平均利益を用いた場合の事業価値は1,729万5,000円であるから、収益還元法による本件事業の評価額は0円から1,729万5,000円となる
③ 平成24年12月期及び平成25年12月期の平均利益を用いた場合の事業価値は、EV/EBIT倍率を用いた場合が1,422万2,000円、EV/EBITDA倍率を用いた場合が2,438万4,000円となり、適用される倍率の違いを特に考慮しない場合、類似会社比較法による本件事業の評価額は0円から2,438万4,000円となる
④ 簿価純資産法により求められる簿価純資産は3万9,425円となる
⑤ 収益還元法と類似会社比較法を採用し、それぞれによる評価結果を併用法で総合評価することにより、本件事業の価値は0円から1,729万5,000円の範囲となり、簿価純資産法による評価額3万9,425円が同範囲に含まれることからも相当である

 国は、第三者評価機関の上記評価は、本件分割契約を成立させるための種々の経済性を考慮していないなどと主張したが、東京地裁は、「本件承継資産負債の時価を算定するには複数の手法があり、本件分割契約を成立させるための種々の経済性を考慮することは必要不可欠な要素ではない」などと指摘してその主張を排斥し、本件承継資産負債の時価を、第三者評価機関の意見書の評価額の上限である1,729万5,000円と認めるのが相当であるとして、課税処分を取り消した。

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