解説記事2023年08月07日 ニュース特集 グローバル・ミニマム課税の税効果、“当面の取扱い”の適用を継続へ(2023年8月7日号・№990)

ニュース特集
国際的な動向が変化するまでは注視
グローバル・ミニマム課税の税効果、“当面の取扱い”の適用を継続へ


 令和5年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税の導入を盛り込んだ法人税法の改正が行われており、令和6年4月1日以後開始する事業年度から適用されることになるが、企業会計基準委員会(ASBJ)は、税効果会計については実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」の適用を継続する方向で検討していることが明らかとなった。実務対応報告第44号における当面の取扱いは、現行のIFRS会計基準や米国会計基準と整合していることなどがその理由であり、国際的な動向が変化するまでは、税効果適用指針の定めにかかわらずグローバル・ミニマム課税の影響を反映しないことになる。企業にとっては朗報といえよう。
 また、連結財務諸表及び個別財務諸表においては、グローバル・ミニマム課税を所得に対する「法人税等」として表示する方向。連結財務諸表及び個別財務諸表においては、経過措置は定めず、適用初年度よりグローバル・ミニマム課税制度に基づく上乗せ法人税等(当期税金)に計上する。ただし、企業における見積りが明らかに不合理である場合を除き、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて最善の見積を行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらない旨を明確化する方針だ。

“当面の取扱い”によりグローバル・ミニマム課税の影響は反映せず

 OECDのBEPS(税源侵食と利益移転)プロジェクトにおける行動計画に基づき、令和3年10月にOECD/G20による包摂的枠組みとして「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための二本の柱からなる解決策に関する声明」が取りまとめられ、同年12月にグローバル・ミニマム課税の導入を盛り込んだ「第2の柱モデルルール」が公表されたことを受け、各国において、「第2の柱モデルルール」の導入に向けた取り組みが進められている。日本では令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税への対応として、所得合算ルール(IIR)が導入されることになった。所得合算ルールとは、軽課税国に所在する子会社等の税負担が国際的に合意された最低税率(15%)に至るまで、親会社の所在する国において課税を行う制度のこと(図表1参照)。総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額(150円/ユーロで換算すると約1,125億円)以上の多国籍企業を対象として令和6年4月1日以後開始する事業年度から適用が開始される。

 令和5年度税制改正法案については、令和5年3月30日に国会で成立しているため、グローバル・ミニマム課税の適用が見込まれる企業においては、令和5年3月期以降の決算において、同税制の適用を前提として税効果会計の適用を行う必要があったわけだ。しかし、グローバル・ミニマム課税を前提とした税効果会計の適用については、実務上対応が困難であることから、企業会計基準委員会は、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を3月31日に公表し、同委員会が実務対応報告第44号の適用を終了するまでの間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税の影響を反映しないこととしている(本誌977号等参照)。
 なお、グローバル・ミニマム課税に対する税効果会計の取扱いは、IASB(国際会計基準審議会)及びFASB(米国財務会計基準審議会)においても同じである。

実務対応報告第44号は現行のIFRS会計基準や米国会計基準と整合

 前述のとおり、現時点では、税効果会計の適用に当たっては、グローバル・ミニマム課税の影響を反映しないことになっているが、これはあくまでも税効果会計の取扱いが定められるまでの措置だ。このため、企業会計基準委員会では、税効果適用指針等の会計基準等の改正の要否の検討を行うとしている。
 ただし、企業会計基準委員会によれば、グローバル・ミニマム課税制度は税効果会計の適用となる可能性が高いものの、日本において税効果会計に関する会計基準の開発を先んじて行った場合には、その結論がIASBやFASBが会計基準を開発した際の結論と異なる可能性があるほか、①実務対応報告第44号における当面の取扱いは、現行のIFRS会計基準や米国会計基準と整合している、②今後、グローバル・ミニマム課税が各法域の税法に組み込まれた場合、国内ミニマム課税(自国の事業体の税負担が15%に満たない場合、15%まで追加課税。他国において上乗せ課税されるのを防ぐため、各国が導入できる制度)などにより、親会社等での税負担が解消され、当該税制の影響が収斂する可能性があることなどから、グローバル・ミニマム課税制度に関する税効果会計については、国際的な動向に変化が生じるまでは実務対応報告第44号の当面の取扱いの適用を継続する方向となっている。

グローバル・ミニマム課税は「法人税等」として表示へ

 税効果会計の取扱いは以上のとおりだが、グローバル・ミニマム課税が導入されたことにより、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」の見直しも検討されることになる。
 前述したとおり、グローバル・ミニマム課税は多国籍企業のグループに対して、最低15%の法人税を負担させることを目的としており、軽課税国に所在する子会社等の税負担が国際的に合意された最低税率に至るまで、親会社等の所在する国で課税を行う制度のことである。子会社において現地の税率に基づいて法人税等が計上され、さらに親会社においてグローバル・ミニマム課税が最低税率としている税率(15%)と現地の税率との差に基づいて法人税等が計上されることにより、その合計が連結財務諸表における税金等調整前当期純利益に対してグローバル・ミニマム課税が最低税率としている税率(15%)に相当する法人税等が計上されることになる。このため、企業会計基準委員会では、連結財務諸表における税金等調整前当期純利益と、グローバル・ミニマム課税との対応関係の観点から、連結財務諸表においては、グローバル・ミニマム課税を所得に対する法人税等として会計処理することになるとしている。
 一方、グローバル・ミニマム課税は、グローバル・ミニマム課税の源泉となる純所得(利得)が生じる企業(子会社等)と、個別財務諸表の作成主体である納税義務が生じる企業(親会社等)が異なるため、親会社等の個別財務諸表において、法人税等として表示するかどうかが論点となるが、企業会計基準委員会は、グループ内の子会社等の所得(利益)に対する税額を親会社等が納税することから、所得に対する法人税等と捉え、個別財務諸表においても法人税等に含めて表示する方向で検討が行われている。

見積りが困難でも当事業年度に法人税等を計上

 そのほか、実務対応報告第44号の公開草案を公表した際には、当期税金費用の見積りについても困難であることが想定されるため、当期税金費用の見積もりに関する当面の取扱いなどを示してほしいとのコメントが企業会計基準委員会に寄せられている。
 同委員会は、見積りが困難な理由として、例えば、グローバル・ミニマム課税における国際最低課税額については、国別に算定したグループ国際最低課税額に基づき、個社単位の会社等別国際最低課税額を算定し、当該金額に所有持分等を勘案し、国際最低課税額を算定することとされているため、国際最低課税額の算定にあたり、国別の各構成会社等の詳細な情報を入手することが求められることなどを挙げている(図表2参照)。

【図表2】グローバル・ミニマム課税制度に関する当期税金の見積りが困難である主な理由

・各構成会社等の個別計算所得等の金額は、当該構成会社等の各対象会計年度に係る当期純利益金額に一定の調整を行い算定されるが、当該調整項目は通常の法人税等の課税所得の加算及び減算項目とは異なる。
・国別の実効税率は、会計上の法人税等に一定の調整を加えた調整後対象租税額を、会計上の当期純損益に一定の調整を加えた個別計算所得等の金額で除することで算定される。このため、通常の法人税等と異なり、分子となる「調整後対象租税額」の算定においても調整が求められる。
・グローバル・ミニマム課税における国際最低課税額については、国別に算定したグループ国際最低課税額に基づき、個社単位の会社等別国際最低課税額を算定し、当該金額に所有持分等を勘案し、国際最低課税額を算定することとされている。このため、国際最低課税額の算定にあたり、国別の各構成会社等の詳細な情報を入手することが求められる。

 しかし、仮に適用初年度の連結財務諸表において、グローバル・ミニマム課税制度に基づく上乗せ税額を法人税等(当期税金)に計上しないことができるとする経過措置を設けた場合には、税引前当期純利益と、所得に対する法人税、住民税及び事業税等との間の税負担の対応関係が図られないこととなるため、見積りが困難であっても当事業年度(対象会計年度)において当期税金を見積り、計上する方針だ。また、個別財務諸表についても同様に、グローバル・ミニマム課税制度に基づく上乗せ税額を法人税等(当期税金)に計上する。仮に個別財務諸表において、当事業年度において計上すべき税金費用を計上しない場合には配当限度額に影響を与えてしまうからだとしている。

見積りに乖離があったとしても「誤謬」には該当せず

 ただし、グローバル・ミニマム課税制度では、国際最低課税額確定申告書の申告期限が各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月以内(適用初年度は1年6月以内)とされ、申告期限が通常より長くなっているため、企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と翌事業年度の見積金額又は確定額が異なることはあり得るとしている。このため、企業会計基準委員会では、企業における見積りが明らかに不合理である場合を除き、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて最善の見積りを行った結果として見積られた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」には該当しないとの見解を示しており、その旨を明記するとしている。
四半期財務諸表には経過措置あり
 なお、グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度の四半期財務諸表については、同制度に基づく上乗せ税額を法人税等(当期税金)に計上しないことができる経過措置を設ける方針だ(金融商品取引法の改正により四半期財務諸表会計基準等が改正された場合には、改めて対応する予定)。法人税等は年度末において確定するものであり、グローバル・ミニマム課税の調整計算が複雑であることから、適用初年度の四半期において、四半期会計期間を含む年度の法人税等の計算に適用される税率を見積ることは、通常困難であるとしている。

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