カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2023年09月18日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)①(2023年9月18日号・№995)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)①

はじめに

 わが国の企業に対して、国際財務報告基準(IFRS)を任意に適用して連結財務諸表を作成・公表することが認められてからすでに15年近くが経過し、250社を超える日本企業がIFRSを適用するまでになった。これまでわが国の会計処理や表示の基準を適用していた日本企業がIFRSに移行する場合、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならない。これは、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)と呼ばれ、ここでは、利用者が財政状態計算書及び包括利益計算書に対する重要な修正を理解できるようにするのに十分な詳細を示さなければならないとされている(IFRS第1号第25項)。この「重要な修正」には、のれんの償却/非償却に代表される、IFRSとわが国の会計基準との間の差であるいわゆる「GAAP差異の修正(認識と測定に係る修正)」と、特別損益項目の区分表示の可否などの「財務諸表の表示科目の差異の修正」の2種類があり、いずれも調整表で説明が加えられている。本稿では、IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)の各社が、IFRSを初めて適用した期に作成した調整表を題材として、どのような項目が「財務諸表の表示科目の差異の修正」や「認識と測定にかかる差異の修正」として説明されているかを調査分析した。本稿ではその結果を、実際の開示例を参照しつつ、2回に分けて紹介することとしたい。

今回調査対象とした企業

 今回の調査の対象とした企業は、日本の会計基準又は米国会計基準からIFRSへ任意で移行し、2023年3月期の有価証券報告書(及び2023年9月期の第一四半期報告書)までに調整表を作成して開示したIFRS任意適用日本企業の257社である。なお、開示例は、なるべく直近の決算期のもの(2023年3月期や2022年12月期等)を紹介している。

IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した表示組替の内容

 IFRS任意適用日本企業が、IFRSの初度適用時に調整表で開示した連結貸借対照表及び連結損益計算書の表示科目の主な組替を、開示数が多い(開示件数が50件以上のもの)順に示すと、表1のとおりであった。


 わが国でもよく知られている営業外・特別損益項目の組替に関する相違点に関する開示の件数が圧倒的に多く、以下、貸倒引当金の表示方法や預入期間が3か月超の定期預金の表示方法、持分法適用投資及び持分法投資損益の区分表示といった項目が続いている。以下で、それぞれの項目について、わが国の会計基準とIFRS間との相違を簡単に説明するとともに、具体的な開示例も紹介することとしたい。

① 営業外・特別損益項目の組替
 IAS第1号「財務諸表の表示」第87項において、企業は収益又は費用のいかなる項目も、純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記において、異常項目(extraordinary item)として表示してはならないとされている。そしてIFRSでは、わが国でいう営業外損益や特別損益といった括りを設けない代わりに、金融(財務)収益と金融費用という区分を設けている。そのため、従来わが国において営業外収益・費用とされてきた項目(受取利息、支払利息、為替差損益等)の大部分は、金融収益又は金融費用に組み替えられている。そして、金融収益、金融費用以外の営業外収益・費用の項目については、例えば売上割引(営業外費用)は売上高から控除され、雑収益はその他の(営業)収益の区分に表示されることとなる。営業外損益に比較すると、特別損益項目は更にバラエティに富んでいる。投資有価証券の売却損や評価損はIFRSでは金融費用に含めて表示され、リストラ費用、訴訟損失、固定資産売却損、減損損失、本社移転費用等は、その他の(営業)費用に組替表示されていた事例が多い。

【開示例】ローソン(2023年2月期)

 日本基準では、「営業外収益」、「営業外費用」、「特別利益」及び「特別損失」に表示していた項目を、IFRSでは財務関係損益については「金融収益」及び「金融費用」として計上し、それ以外については、営業項目として「その他の収益」、「その他の費用」及び「持分法による投資損益」に表示しております。

② 貸倒引当金の債権からの直接控除
 IFRSでは、引当金は「時期又は金額が不確実な負債をいう」と定義されており(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」第10項)、引当金であるためには負債であることが条件とされている。したがって、貸倒引当金や投資損失引当金のようないわゆる「評価性引当金」の計上は、IFRSでは認められない。その代わり、営業債権(売掛金)や貸付金から直接控除して純額で表示されることとなる。

【開示例】ジーニー(2023年3月期)

 日本基準では区分掲記していた「貸倒引当金(流動)」については、IFRSでは「営業債権及びその他の債権」から直接控除して純額で表示するように組替え、また、「貸倒引当金(固定)」についても同様に、「その他の金融資産(非流動)」から直接控除して純額で表示するように組替えております。

③ 預入期間が3か月超の定期預金の区分変更及び、⑥ 短期有価証券等の現金同等物への振替
 IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」では、現金同等物は「短期の流動性の高い投資のうち、容易に一定の金額に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わないものをいう」と定義されており(第6項)、第7項において、「投資は通常、満期が取得日から例えば3か月以内といった短期である場合にのみ、現金同等物に該当する。」とされている。一方、我が国においては、預金や有価証券といった、資産の性質に注目した表示がなされている場合が多い。

【開示例】日鉄ソリューションズ(2023年3月期)

 日本基準では「預け金」を区分掲記していましたが、IFRSでは「現金及び現金同等物」に含めて表示しております。また、預入期間が3か月超の定期預金は流動資産の「その他の金融資産」に含めて表示しております。

④ 持分法適用投資や投資損益の区分掲記
 IAS第1号「財務諸表の表示」第54項(e)では「持分法で会計処理されている投資」を、第82項(c)では、「持分法で会計処理されている関連会社及び共同支配企業の純損益に対する持分」をそれぞれ区分表示することが求められているが、わが国の連結財務諸表規則においては、これらの項目は個別に重要性があるような場合を除き、区分表示は求められていない。

【開示例】NIPPON EXPRESSホールディングス(2022年12月期)

 日本基準では「投資その他の資産」に含めていた「持分法で会計処理されている投資」について、IFRSでは非流動資産に区分掲記しております。

⑤ 資産除去債務を引当金として表示
 わが国では、米国会計基準と同様に、資産除去債務に関する独立した会計基準(企業会計基準第18号)と同適用指針があるが、IFRSの場合には、借方側はIAS第16号「有形固定資産」が適用され、貸方はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が適用される(資産除去債務は、引当金や負債の定義を満たす)。また、わが国の資産除去債務適用指針第9項では、建物等賃借契約に関連して敷金を支出し、資産計上されている場合には、当該計上額に関連する部分について、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができるとされていたが、IFRSではこのような簡便法は認められず、原則どおり資産除去債務の負債(引当金)計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行うことになる。

【開示例】モンスターラボHD(2021年12月期)

 資産除去債務について、IFRSではすべて引当金に組替えております。

【開示例】デジタルプラス(2023年9月期)

 日本基準では資産除去債務を敷金から控除しておりましたが、IFRSでは資産除去債務として認識し、非流動項目の引当金として表示しております。また、対応する有形固定資産の取得原価に加算したうえで、減価償却を行う会計処理を行っております。

⑦ 法人税等調整額を法人所得税に組替
 わが国の損益計算書においては、「法人税、住民税及び所得税」と「法人税等調整額」とに区分して表示することが要求されているが(連結財務諸表規則第65条)、IAS第1号第82項(d)では、「税金費用」を区分表示することが求められている。このため、法人税等調整額が法人所得税(税金費用)に組み替えられて、税金関連費用が一本で表示されることになる。

【開示例】ローソン(2023年2月期)

 日本基準では「法人税、住民税及び事業税」、「法人税等調整額」を区分掲記しておりましたが、IFRSでは「法人所得税」として一括して表示しております。

⑧ 原材料、仕掛品、製品等を棚卸資産に集約表示
 連結財務諸表規則第23条では、商品及び製品(半製品を含む)、仕掛品、原材料及び貯蔵品に区分して表示することが求められているが(金額的に重要性がないため、他の項目と一括して表示する場合を除く)、IAS第1号では、第54項(g)において、棚卸資産(Inventories)として区分表示することが要求されている。

【開示例】川崎重工業(2023年3月期)

 日本基準では区分掲記していた「商品及び製品」、「仕掛品」及び「原材料及び貯蔵品」について、IFRSでは「棚卸資産」として表示しています。

⑨ 新株予約権等をその他の資本の構成要素へ振替
 新株予約権は、株主に帰属するものではないため株主資本ではなく、かつ負債でもないと整理されているために、わが国では純資産の部に「新株予約権」の科目にて掲記しなければならないとされている(連結財務諸表規則第43条の3)。一方IFRSでは、新株予約権は資本の構成要素として表示されるため、振替が生じることになる。

【開示例】デジタルプラス(2023年9月期)

 日本基準において区分掲記していた「新株予約権」を、IFRSにおいては、「資本剰余金」に含めて表示しております。

IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容

 次に、IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として説明していた認識・測定に係る項目を、企業数が多い(開示の件数が60件以上のもの)順に列挙すると、次の表2のとおりであった。有給休暇引当金(未払有給休暇)の計上、のれんの非償却、在外営業活動体に係る累積換算差額の振替及び退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法については、ほとんどのIFRS任意適用日本企業が、日本の会計基準とIFRSとの間の差異として開示を行っていた。

 前段の表示に関する差異に関する説明と同様に、認識・測定に関する差異についても個別に内容を簡潔に説明したのち、直近の開示例を紹介することとしたい。

① 有給休暇引当金(未払有給休暇)の計上
 IFRSを適用する企業は、有給休暇の形式による短期従業員給付の予想コストを、次の時期に認識しなければならないとされている(IAS第19号「従業員給付」第13項)。
(a)累積型有給休暇の場合には、将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を従業員が提供した時
(b)非累積型有給休暇の場合には、休暇が発生した時
 そして企業は、累積型有給休暇の予想コストを、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない(IAS第19号「従業員給付」第13項)。これに対して、わが国の会計基準では未消化の有給休暇について負債として認識していないため、IFRSを新たに適用する際には、未消化の有給休暇について、「有給休暇引当金」等の負債を新たに計上することが必要となる。

【開示例】ジーニー(2023年3月期)

 日本基準では会計処理をしていなかった未消化の有給休暇について、IFRSでは人件費として認識しております。

② のれんの非償却
 わが国の会計基準では正ののれんは20年以内の合理的な年数での償却が求められるが、IFRSでは償却してはならず、毎期末及び減損の兆候があるときはいつでも、減損テストの実施が要求される。これはもっともよく知られた日本基準とIFRSとの間のいわゆる「GA
AP差異」の一つであり、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」では、在外子会社等において、のれんを償却していない場合には、当該修正額に重要性が乏しい場合を除き、当期純利益が適切に計上されるように、連結決算手続上、その計上後20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し、当該金額を当期の費用とするよう修正しなければならないとされている。

【開示例】ハルメクホールディングス(2022年3月期)

 当社が取得した(旧)株式会社ハルメクホールディングスより受け入れた資産及び負債の金額が、日本基準とIFRSにおいて異なることから、これらの資産・負債の認識額の差について、日本基準で認識した「のれん」の金額を修正しております。また、のれんについて20年で償却した費用を計上しておりましたが、IFRSでは償却は行わず、年に1度又は減損の兆候が存在する場合にはその都度、減損テストを行うこととしております。

③ 在外営業活動体に係る累積換算差額の振替
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。そのうちの1つとして、初度適用企業は、IFRS移行日現在で存在していた換算差額累計額については、下記の免除措置を使用することができる。
(a)すべての在外営業活動体に係る換算差額累計額をIFRS移行日現在でゼロとみなす。
(b)在外営業活動体のその後の処分による利得又は損失は、IFRS移行日前に生じた換算差額を除外し、その後の換算差額を含めなければならない。
 この初度適用にあたっての免除規定(IFRS第1号D13項)は、初度適用企業の間で最も幅広く利用されている規定のうちの一つであると思われる。この免除規定を利用する企業は、IFRS移行日時点における在外営業活動体の為替換算差額累計額を、すべて利益剰余金に振り替える。
 我が国の会計基準や(開示例として取り上げているワコールホールディングスがこれまで適用していた)米国の会計基準では、そのような規定はない。

【開示例】ワコールホールディングス(2023年3月期)

 初度適用に際して、IFRS第1号に規定されている免除規定を選択し、移行日における累積換算差額を全て利益剰余金に振り替えております。

 次回の解説(パート2)では、「退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法」以降の各項目について、わが国の会計基準とIFRSとの間の相違を簡単に説明するとともに、具体的な開示例も紹介することとしたい。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索