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解説記事2023年10月02日 ニュース特集 1,000万円以下への連年圧縮、事務提要で無申告重加指示(2023年10月2日号・№997)

ニュース特集
当局、消費税ボーダーライン層を注視
1,000万円以下への連年圧縮、事務提要で無申告重加指示


 消費税の基準期間における隠蔽・仮装は、課税期間の重加算税の判断に影響しないが、その行為が客観的にみて課税期間の隠蔽・仮装と評価できる場合には、重加算税の賦課要件を満たすとされる。この点、課税当局が、特に基準期間の課税売上高を連年1,000万円以下に圧縮している事案において、その圧縮に合理的な説明がなければ、課税期間における消費税の増差税額全額に無申告重加算税を賦課することを事務提要に明記していたことがわかった。
 本特集では、基準期間の隠蔽・仮装と課税期間の関係等について、「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」、平成23年4月19日裁決、当局作成の「実地調査マニュアル」等から確認する。

1,000万円以下への調整に係る裁決が多数公表

 基準期間の課税売上高を連年1,000万円以下に調整したことに対する無申告重加算税の賦課を適法とする裁決事例が、近年多く公表されている。
 具体的には、①請求人が7年間にわたり年間販売金額の合計額が1,000万円を超えないように販売金額を過少に記載した下書用の収支内訳書を作成していた事例(平成28年9月30日裁決)、②請求人が平成21年課税期間以降に消費税等の課税事業者にならないように、平成19年分以降、売上金額の合計が1,000万円以下となるように調整していた事例(平成30年12月4日裁決)、③事業所得の金額を正確に把握していたにもかかわらず、7年もの長期にわたり収入金額を1,000万円を下回るように調整して極めて過少な所得金額を記載した確定申告書を提出し続けた事例(令和2年2月19日裁決)がある。

課税要件に平成23年4月19日裁決(消費税連年無申告)

 大阪国税局は、所得税等の調査で「重加算税賦課判定表」を導入した。争訟の見込みがない(納税者が隠蔽・仮装行為を認めている)事案について、争点整理表の記載を簡略化し、調査担当者、統括官、審理専門官等の事務負担を軽減することが狙いだ。
 「重加算税賦課判定表」には、①納税者名、②業種、③青色・白色申告、④適用条文・事務運営指針等(課税要件)、⑤隠蔽又は仮装の事実(認定事実)、⑥証拠書類等、⑦審理専門官の意見などが記載される。
 上記④課税要件では、選択(該当)項目として、国税通則法、事務運営指針、最高裁平成7年4月28日判決(特段の行動)と並び、平成23年4月19日裁決(消費税連年無申告)が記載されている(表1参照)。

【表1】「重加算税賦課判定表」 課税要件の選択項目

国税通則法68条1項(過少重加)/68条2項(無申告重加)/70条5項(6・7年前遡及)
申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
  第1の1 (1)、(2)①、(2)②、(2)③、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)
消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)
  Ⅳ 重加算税 2、3イ、3ロ、3ハ、3ニ、3ホ
最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決(特段の行動)
平成23年4月19日裁決(消費税連年無申告)
その他

課税期間の隠蔽・仮装と評価できない場合の定め

 平成23年4月19日裁決は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であった請求人が、消費税の還付を受けるため、その基準期間の課税売上げを1,000万円超とする修正申告書を提出した事案。審判所は、請求人が課税事業者であるか否かは、消費税等の納税義務者に該当するか否かという課税要件事実そのものであり、不正に消費税の還付を受けるため、課税事業者であるかのように装った請求人の行為は「仮装」に該当し、重加算税の賦課要件を充足すると判断した。 
 また、この裁決で注目されたのは、「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第2のⅣの5「重加算税を課する場合の留意事項」(下掲参照)の解釈を示したことだ。
 審判所は、当該「留意事項」について、基準期間の隠蔽・仮装行為が、客観的にみて課税期間の隠蔽・仮装行為と評価できない場合には、重加算税の賦課要件を満たさないことに留意すべき旨を定めたものにすぎないと指摘している。

事務運営指針 第2のⅣの5(要旨)
(重加算税を課する場合の留意事項)
 その課税期間の基準期間たる課税期間(前々課税期間)に係る消費税の増差税額に対して重加算税を課す場合には、その原因たる前々課税期間の不正事実に連動した次の事実に起因して当該課税期間に係る消費税額が増加するときであっても、その増加額に重加算税を課すべきことにならないのであるから留意する。
(1)基準期間における課税売上高が1,000万円を超え、当該課税期間について課税事業者となることが判明した場合
(2)基準期間の課税売上高が5,000万円を超え、簡易課税制度の適用を受けられないことが判明した場合

個人課税事務提要、無申告重加算税を確実に賦課

 平成23年4月19日裁決の事務運営指針「留意事項」に係る解釈を受けて、課税当局は、各課税期間の消費税の納税義務を隠蔽するために、それに対応する基準期間の課税売上高の一部を隠蔽する行為が、客観的にみて各課税期間の隠蔽行為と評価できる場合は、消費税の増差税額の全額について、無申告重加算税を確実に賦課することを個人課税事務提要に明記している。
 また、当該事務提要では、特に基準期間の課税売上高を連年1,000万円以下に圧縮している事案を取り上げ、連年の1,000万円以下への圧縮について合理的な説明がなければ、原則として、その課税期間における消費税の増差税額の全額に無申告重加算税を賦課するとしている(下掲参照)。

個人課税事務提要【事務手続編】第10章第6節11(1)(抜粋) ※「実地調査マニュアル」より
基準期間の課税売上高に隠蔽又は仮装があった場合の無申告重加算税の取扱い
 消費税の加算税の取扱いについては、平成12年7月3日付課消2−17ほか5課共同「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」に定めているところ、国税不服審判所の平成23年4月19日裁決を踏まえ、各課税期間の消費税の納税義務を隠蔽するために、これに対応する基準期間の課税売上高の一部を隠蔽する行為が、客観的にみて各課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽行為と評価することができる場合については、消費税の増差税額の全額について、無申告重加算税を確実に賦課する。
 特に、基準期間の課税売上高を連年1,000万円以下に圧縮している事案については、連年1,000万円以下に圧縮したことについて合理的な説明がなければ、原則として、その課税期間における消費税の増差税額の全額について、無申告重加算税を賦課する。  (下線は編集部)

実地調査マニュアル、事務運営指針・事務提要を整理

 上記、事務運営指針と個人課税事務提要の関係について、当局の「実地調査マニュアル」は、以下のように整理しており、参考となりそうだ。
(1)基準期間において「隠蔽又は仮装」の行為による課税売上の除外が判明したため、①基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより課税期間において課税事業者となり、これに起因して消費税等の納付税額が発生した場合の当該発生した納付税額、②基準期間における課税売上高が5,000万円を超えたことにより課税期間において簡易課税制度の適用を受けることができなくなり、これに起因して消費税等の納付義務が発生した場合の当該増加した納付税額は、重加算税の対象とならない(事務運営指針・第2のⅣの5)。
⇒基準期間における「隠蔽又は仮装」の有無は、原則として、当該課税期間の重加算税の判断に影響しない。
(2)ただし、消費税の納税義務を免れることを目的に、基準期間の課税売上げを「隠蔽又は仮装」の行為により除外したと評価できる場合は、当該課税期間において発生した消費税の増差税額の全額が無申告重加算税の対象となる(個人課税事務提要)。

業界の景況感等から意図的な消費税逃れを想定

 課税当局は近年、消費税の適正課税の確保を重点課題の一つとし、不正還付への対応を強化しているが、消費税固有の非違・消費税ボーダーライン層も注視しているようだ。
 消費税ボーダーライン層とは、所得税の申告事績やその業種の景況感等から意図的に所得税・消費税を免れていると想定される者のこと。
 課税当局は、消費税ボーダーライン層を調査対象として的確に把握し、実地調査等を実施するとしている。 
 なお、特別調査、一般調査、着眼調査(実地)の調査事績は、統括官や調査担当者がKSKシステム等に入力するが、「所得税の申告事績のある消費税無申告事案、免税点を利用した消費税無申告事案」については、他の無申告事案や消費税の高額還付申告事案の悉皆的調査事案などとは区分して管理されている(表2参照)。

基準期間の課税売上高の調整は「隠蔽・仮装」and/or「特段の行動」?
 本特集で取り上げた裁決事例を比較すると、平成23年4月19日裁決は、基準期間の課税売上高を1,000万円超としたことを「仮装」(通則法68①)とし、平成30年12月4日裁決は、課税売上高1,000万円以下への調整を「隠蔽又は仮装」(通則法68②)と判断している。
 一方、平成28年9月30日裁決は、課税売上高1,000万円以下への調整+収支内訳書のb市職員(臨税)への提示等から「特段の行動」(平成7年最高裁判決)、令和2年2月19日裁決は、課税売上高1,000万円以下への調整+調査担当者への虚偽書類の提示等から「特段の行動」(平成6、7年最高裁判決)としている。

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