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解説記事2020年01月27日 SCOPE インサイダー取引で課徴金も証券担当者の供述曖昧で取消し(2020年1月27日号・№820)

東京地裁、重要事実伝達の直接的裏付けはなし
インサイダー取引で課徴金も証券担当者の供述曖昧で取消し


 東京地裁(古田孝夫裁判長)は令和元年8月28日、インサイダー取引に違反(金商法166条3項)したとして金融庁が投資会社(原告)に対して行った課徴金54万円の納付命令を取り消す判決を下した。東京地裁の古田裁判長は、証券会社の担当者の証言は本件重要事実の伝達についての記憶がなく、チャットのやり取りから推測した内容に終始しており、原告に対する重要事実の伝達を直接的に裏付けるものではないと判断した。なお、同事件については東京高裁に控訴されている。

原告、証券会社担当者の供述は信用することができず

 本件は、国際石油開発帝石(東証1部)の公募増資に関してインサイダー取引に違反したとして、金融庁から課徴金納付命令(54万円)を受けた原告である投資会社が、違反事実の認定に誤りがあるなどと主張して、本件処分の取消しを求めた事案である(表1参照)。

 課徴金の納付命令は、原告のファンドマネージャーがN証券から国際石油開発帝石が公募増資を行うことについての決定をした事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないにもかかわらず、本件重要事実の公表前に売付けを行ったというものであった。
 しかし、原告は、N証券の担当者の供述は、記憶による裏付けがなく、根拠も示されないものであるから、信用することができないなどと主張した(表2参照)。

【表2】当事者の主張(重要事実の伝達の有無について)

国(被告)の主張 投資会社(原告)の主張
・N証券の担当者は遅くとも平成22年7月2日までに原告に対して本件公募増資に関する情報を伝えた。
・原告は、本件株式が急激に値上がりした状況において、N証券の担当者に対し、チャットで「まだかなぁ」と送信した。これを公募増資の公表に関する問い合わせと考えれば、本件株式の急激な値上がりに対する焦りから、担当者に対して公募増資の公表がまだかと尋ねたものとして、合理的に理解することができる。また、翌日、担当者に対し、チャットで「なくなったんですかね」と送信し、担当者がチャットで「ラージ後、自席待機と言われています」と返信していた。これは当時のN証券では、公募増資の公表当日の朝、市場の立会時間終了後も自席で待機するよう指示を出し、その日に行われる公募増資の公表後に当該公募増資に関する説明会が開催されることを示唆することによって、社員が公募増資の公表が行われることを知るという慣行があった。
・本件株式に対する投資は、ファンドの投資ポリシーから大きく逸脱した異常な規模の投資であり、原告において公募増資が実施されるとの確信をもって売付けをしたことが推認される。
・N証券の担当者は、原告に対して本件公募増資に関する情報を伝えたことについて、質問調査の段階から一貫して記憶がなく、チャットでやり取りされたメッセージを基に、伝えた可能性が高いとの推測を述べているにすぎない。また、担当者は、伝えた内容を覚えておらず、伝えた際の言葉や情景等の具体的事実を何ら挙げることができない。このように担当者の供述は、記憶による裏付けがなく、根拠も示されないものであるから、信用することができない。

証言はチャットのやり取りから推測した内容に終始

 東京地裁は、被告(国)はN証券の担当者の供述を基に、遅くとも平成22年7月2日までに担当者は原告に対して本件公募増資に関する情報を伝えたとするが、担当者の証言は本件重要事実の伝達についての記憶がなく、チャットのやり取りから推測した内容に終始しており、原告に対する重要事実の伝達を直接的に裏付けるものではないとした。被告の主張するチャットで送信したメッセージに関しても、本件公募増資の公表について尋ねるものであることを明らかに示すものでもなく、その前後に関連すると思われるメッセージのやり取りも見当たらないとした。
 また、被告は本件株式に対する投資について、原告のファンドの投資ポリシーから大きく逸脱した異常な規模の投資であり、本件公募増資が実施されるとの確信をもって売付けをしたことが推認されると主張するが、本件株式の空売りの規模は最大ではあったものの8.58%であり、同ファンドの目論見書上、特定銘柄の組入れは純資産総額の10%未満とする旨が定められており、この上限を超えるものとは認められないとした。
 したがって、N証券の担当者が原告に対して重要事実を伝達した事実を認めることはできず、本件処分における違反事実を認めることはできないと判断し、課徴金納付命令を取り消した。

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