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解説記事2023年10月09日 SCOPE 税理士に障害者認定の判断義務はなし(2023年10月9日号・№998)

障害者控除の適用を巡る税理士賠償請求事件
税理士に障害者認定の判断義務はなし


 原告の父が障害者控除を受けられたにもかかわらず適用しなかったとして、父の確定申告業務を受けていた税理士(被告)に対して105万円超の損害賠償を求めた事件で、東京地方裁判所民事第16部(藤永かおる裁判官)は令和5年3月29日、原告の請求を棄却した(令和3年(ワ)第31022号)。税理士としては、顧客が障害者として認定された場合にはその事実に基づいて税の専門家としてどのような制度を利用できるかを検討することになるのであり、その前の段階である障害者として認定されるかどうかを判断する義務まで負わないとした。

課税要件等の確認を含む事実関係の究明をすべき義務はあり

 本件は、原告の父(以下「K」という)が障害者控除を受けられたとして、Kの確定申告業務を受けていた税理士(被告)に対し、相続人である原告が債務不履行又は不法行為に基づき105万円超の損害賠償を求めたもの。被告は税理士であり、Kが代表者であった有限会社の監査役も務めていた。また、被告は、Kから依頼を受け、平成16年分から平成27年分までの確定申告を行ったが、その際、障害者控除の申請はしていなかった。
 裁判所は、依頼者と締結した税申告の契約の性質は委任契約又は準委任契約と解され、善管注意義務を負い(民法644条)、法令の範囲内で依頼者の利益を最大に実現するように考えて業務を遂行すべき義務を負うとともに、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図る使命を負っていることから、一般的に要求されるよりも高度の注意義務が要求されるというべきであるとした。具体的には、委任された業務については、依頼者が述べた事実や提示された資料から判明する事実に基づいて業務を遂行すれば足りるものではなく、課税要件等に関係する制度の確認を含む事実関係の究明をすべき義務を負うものと解するのが相当であるとした。
税理士は障害者認定事実に基づき制度を検討
 本件については、Kに障害者手帳が交付されたのは平成26年5月27日であり、障害者控除対象者認定を受けたのは同年12月31日であるところ、これより前に、被告がKは障害者控除対象者認定又は障害者手帳の交付を受けられる状態にあることを認識し得たと認める証拠はないとした。
 また、障害者として認定され得る状態にあることは、その本人にとっては心情的に直ぐには受け入れ難い場合もあることからすれば、被告は、仮にKの健康状態が弱ってきていることを感じていたとしても、医療の専門家ではなく、そして、Kの家族でもない以上、K本人から訴え等がない限り、障害者と評価し得る状態にあることをKに伝え、障害者手帳の交付や障害者控除対象者認定を受けることを勧めるのは容易ではないと指摘。税理士は課税要件等に関係する制度の確認を含む事実関係の究明をすべき義務を負うものの、課税要件等は税理士が専門とするところではあるが、障害者として認定されるか否かは税理士の専門とするところではなく、税理士としては、顧客が障害者として認定された場合においては、その事実に基づいて、税の専門家としてどのような制度を利用できるかを検討することになるのであり、その前の段階である障害者として認定されるかどうかを判断する義務まで負わないというべきであるとした。したがって、裁判所は、被告に善管注意義務違反は認められないとし、原告の請求を棄却した。
 なお、原告は、被告及び被告と同じ事務所に所属するS税理士の進言により、生命保険契約を締結するにあたって支障が生じ得る障害者手帳をKに返還させたとして、被告がKの障害を知っていた旨を主張したが、Kが加入した生命保険は健康診断さえ要しない保険である上、生命保険加入後に、Kの障害者手帳が返還されているのであるから、原告の主張は採用できないとした。

【表】当事者の主な主張

原  告 被  告
 K(父)は、遅くとも平成16年には重度の糖尿病を患い、平成26年5月、呼吸器機能障害を理由とする障害者手帳の交付を受けた。しかし、Kは相続税対策で生命保険に入ることを検討しており、障害者手帳を有していることによって生命保険加入に支障が生じることから、被告及びS税理士の進言によって、平成27年2月、障害者手帳を返還した。このことから、被告は、Kが障害者手帳を有していることを把握していたことが分かる。
 しかも、被告は、10年以上にわたって、Kの税務申告を担当していたのであり、Kの視力が極端に悪く、日常的に不自由である状態を見て、障害を疑ってしかるべきであった。また、Kから障害について申告等がなかったとしても、Kの年齢から比較的取得が容易な障害者控除対象者認定書を受けることを提案することは難しくなかった。そして、被告は、Kが代表を務める有限会社の監査役も務め、決算書も作成していたのであるから、被告に求められる注意義務は、相当程度に重かった。
 それにも関わらず、被告は、平成16年分から平成27年分までの確定申告において、障害者控除をせずに確定申告をして、Kに多額の所得税及び住民税を負わせた。このように、Kは左目が不自由で、呼吸器機能障害でもあったのだから、被告は、障害者控除対象者認定書の交付や障害者手帳の交付を受けられるようにする義務を負っていたが、それを怠ったのであり、注意義務違反が認められる。
 平成16年分から平成27年分の確定申告期において、Kは障害者控除対象者認定書も障害者手帳も所持していなかったから、確定申告において、それらを提示することは不可能であった。
 そして、被告は、Kとの間で税務に関する顧問契約を締結しておらず、年1回、確定申告書の作成及び提出を依頼されて行ってきたにすぎない。被告は、Kの確定申告を行うに当たっては、毎年、申告書及び提出書類を準備した上で、Kの自宅等に赴き、Kと直接面会して最終確認を行い、Kの了解を得た上で申告書等を提出してきたが、平成26年分及び平成27年分の確定申告において、Kから障害者控除対象認定を受けた事実を聞いていないし、同認定書の写しも交付されなかった。
 また、被告は、平成26年12月31日前後の数年間、Kの健康状態に特段の変化を感じなかった上、被告は税理士であって、医師ではないから、一般人以上に医療や障害に関する知識経験を有しておらず、Kが障害者控除対象認定を受けられる心身の状況にあるか否かを判断し得る立場になかった。そもそも、注文主が障害者であるか否か、その等級がどの程度かについて専門的知識も判断能力も有しない税理士に、善管注意義務として、注文主に対して、障害者手帳の交付申請や障害者控除対象者認定の申請を行うよう助言すべき義務が発生することはあり得ない。したがって、被告には、何らの注意義務違反もない。

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