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解説記事2023年12月04日 ニュース特集 OECD コーウィンCTPA局長インタビュー(2023年12月4日号・№1005)

巻頭特集
デジタル課税・執行フェーズのキーパーソンに聞く
OECD コーウィンCTPA局長インタビュー


 デジタル課税の適用開始に向けた議論が大詰めを迎える中、制度設計からデジタル課税の導入を主導してきたOECDの租税政策・税務行政センター(CTPA=Centre for Tax Policy and Administration)の局長にマナル・コーウィン氏が就任してから約7か月が経過した。
 コーウィン局長が当面取り組むべき最大の課題と言えるのが、制度の枠組みが概ね固まったデジタル課税の実行・執行への移行だ。ただ、第1の柱では、利益Aに米国が署名するかどうかという問題、利益BをOECD移転価格ガイドラインに組み込むスケジュール、強制適用かセーフハーバーか、市場国の販社への過度に高い利益率の設定、第2の柱ではCFC税制との重複、各国でIIR、UTPR、QDMTTの法制化が進む中での一貫性・整合性の確保など、課題や企業側の懸念は少なくない。
 経団連との年次会合に出席するための東京訪問の機会を捉え、今後デジタル課税をはじめとする歴史的な法人所得税の国際ルール改革に臨むOECDコーウィン局長に、現状への問題意識や今後の抱負をうかがった。

国際課税への問題意識

デジタル課税の実行・執行フェーズに向け包摂性を高める必要

−−CTPA局長に就任され、約7か月が経過しました。OECDの今後の国際課税の課題について、短期/中長期の問題意識や抱負をお聞かせください。
コーウィン局長:
まず実現したいと考えているのは、国際税務の問題で世界中の関係者がコラボレーションする際、実効性のある不可欠なプラットフォームとしてのOECDへの信頼を一層強化するということです。これまでおよそ10年間にわたってOECDが行ってきた活動と、その努力の結果としての成果物についても、先進国のみならず途上国にも広く、きちんと理解していただきたいと願っています。
 また、市民社会や産業界など幅広いステークホルダーとの関係をこれまで以上に強固で良好なものとしていかなければなりません。多国間あるいは国際的なソリューションに合意するまでの過程においてあらゆるステークホルダーの声をしっかりと聞いて反映させるため、中身の伴った、形式的でない包摂性を高めていく必要があります。
 今後の作業について言えば、デジタル課税の2本柱を実行・執行フェーズに移していく上でこれまでと同様の努力を続けるとともに、将来の連携と活動について優先順位を付けていきたいと思っています。
−−国連との役割分担についてはどのようにお考えでしょうか。
コーウィン局長:
我々が現在進めている第1の柱、第2の柱に関する作業もそうですが、包摂的枠組み(IF=Inclusive Framework)という幅広いイニシアティブを構築して法人所得税など国際的なルール改革をしていこうというのがOECDの活動になります。
 この活動は日本のリーダーシップで立ち上がり、進んできました。2016年に京都で第1回の包摂的枠組みの会合があり、その時はOECD租税委員会(CFA)の議長を財務省の浅川雅嗣財務官が務め、日本が2019年のG20の議長国であったということもあり、同会合を日本にリードしていただきました。
 こうした活動の結果、全世界的な国際課税のアーキテクチャ(構造)が変わってきたと感じています。引き続き各世界のパートナーと連携し、真に包摂的な形で成果をあげたいと思っています。それによって、成長、包摂性、公正性、公平性を確保するというゴールを追及していきたいと考えています。

第1の柱 利益A

妥協が必要な分野には技術的ソリューションを提示

−−利益Aについては多国間条約(Multilateral Convention to Implement Amount A of Pillar One=MLC)が公表されましたが、ブラジルやインド等の新興国が一部の論点について反対しています。これらの課題にどのように対応していくか、お考えをお聞かせください。
コーウィン局長:
重要なポイントとしては、MLCについては既に非常に幅広い関係者のコンセンサスが得られているということです。包摂的枠組みのほとんどのメンバー、具体的には143もの法域が合意しており、また、残された課題もごく僅かです。
 とはいえ、残された課題は若干テクニカルな問題であり、それについて意見が異なる法域が数か国存在していることは認識しています。ただ、意見が異なる中でも、可能な限り早く解決をしようと、非常に積極的・建設的な議論が関係者の間で続いています。なるべく早く署名を解放できるよう、文書の最終化に向けて進んでいるところです。
−−米国は「署名」の見通しが立たず、議会で「批准」される可能性も低いと言われています。この問題に対するOECDのアクションについてお聞かせください。
コーウィン局長:
これはどのような分野でも我々がいつも行っているアプローチなのですが、合意を達成するためにOECDができることは、残っている問題を解決するために技術的なサポートを提供すること、同様に、妥協が必要な分野についてもコンセンサスを得るために技術的なソリューションを提示するということです。これが物事を前に進め続けるためのフォーミュラ(公式)だと考えています。最終的な意思決定は政治レベルで行われることになりますが、それに間に合うよう、そして署名の手続きを始めることができるように、できるだけ早く進めていきたいと思っています。
 米国のコンサルテーションについては承知していますし、締切りが12月11日に迫っていますが、米国その他の関係機関とも緊密に連携をとっています。米国の状況を理解した上でプロセスが予定通り進むという前提に基づき、次のステップを意識して、可能な限り早く署名に進むことができるよう努めていきたいと思います。

第1の柱 利益B

市中協議文書では、各国による利益Bの実施には意図的に触れず

−−議論の成果は来年1月にOECD移転価格ガイドラインに組み込むというのが目標だと思いますが、アウトカムステートメントに書いてあったように、利益Bについては予定通り進めることができそうでしょうか。
コーウィン局長:
IFのメンバーは、指示(mandate)に従って移転価格ガイドラインをアップデートすべく頻繁に会合を開催するなど合意形成に向けて努力を続けています。我々としては、予定通り2024年1月に議論の成果をOECD移転価格ガイドラインに組み込むことができると考えています。
−−利益Bは強制適用かセーフハーバーかという論点がありますが、どうなりそうでしょうか。
コーウィン局長:
かなり具体的な質問をいただきましたが、7月の市中協議文書(Public Consultation Document)では、各国における利益Bの実施のあり方については意図的に触れていません。実施のあり方について実質的な議論をするためには、もう少し中身の検討を深める必要があると考えたため、7月の市中協議文書では、どのような選択肢を用意するかまでは示しませんでした。
 企業、産業界にはセーフハーバーを支持する声があることは理解する一方で、十分な対応力のない法域においては自国に所在する企業に対しルールとして利益Bを適用するニーズがあることも理解しています。こうした全ての状況を踏まえた上で、バランスの取れたアプローチを選択する必要があります。
−−日本企業は、基礎的な機能しかない市場国の販社の利益率が過度に高く設定されることを懸念しています。価格算定マトリックス(pricing matrix)について、これからドキュメントの内容を変えていく可能性はあるのでしょうか。
コーウィン局長:
7月のアウトカムステートメントで示した価格マトリックスについては、統計的な分析を行いながら、検証している段階です。最終的な結果(アウトカム)を得るため、まだ分析作業は続いています。今のところ、価格マトリックスの構造、利益指標や利益率等に大きな変更はありませんが、引き続き精査しているところです。

第2の柱

現行CFC税制を継続するか、変更するかは各国・法域次第

−−第2の柱については、各国でIIR(所得合算ルール=Income Inclusion Rule)やUTPR(軽課税所得ルール=Undertaxed Profits Rule)、QDMTT(国内ミニマム課税=Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)の法制化が進み、実施フェーズに入っています。OECDは今後、第2の柱をどのようにして一貫性、整合性のある形で実施していくのでしょうか。
コーウィン局長:
一貫性、整合性を確保するためには、4つの方法があると考えています。
 1つ目は、詳細なモデルルール、コメンタリーなどを作成してリリースするということです。既に包摂的枠組みにおいても、一貫性、整合性を確保するため、モデルルールやコメンタリーを出しています。ルールについては、事実や状況に応じてその適用を判断するのは「例外的な場合」のみとし、その他は機械的に適用できるよう構成しています。
 2つ目として、包摂的枠組みの下で、段階的に実施ガイダンスを出すことです。これはコメンタリーを補完するものであり、具体的な問題についてどのように解釈すべきかを示すものです。
 3つ目として、各国のルールとモデルルールとの間の整合性、一貫性を担保する視点をもって作業を進めることです。そこで、国内ルールを適用した場合と我々が作成したモデルルールを適用した場合に一貫性のある結論が出ることを検証するため、ピアレビューの手続やモニタリングのルールを検討しています。
 最後に、税務上の手続を調和させることも重要だと考えています。そのために、多国籍企業グループ、税務当局双方で標準化された情報を得ることができるようにすることを目的として、GloBE情報申告書(GloBE Information Return=GIR)を公表したところです。今後もGloBEルールの一貫した適用が可能となるよう、必要に応じて追加的なメカニズムの導入についても考えていきます。
−−日本企業は、第2の柱と類似するCFC税制の重複を懸念しています。OECDでCFC税制の簡素化を議論する余地はあるのでしょうか。
コーウィン局長:
そもそもCFC税制はGloBEルールよりもターゲットが広いので、最低税率はいわば下限という想定になります。したがって、各国・法域としては、さらに高い税率を設定する余地、可能性はあるわけです。タックスヘイブンに関するルールは目的が広いことを考えると、現在のCFC税制を継続するのか、あるいは今回の最低税率の導入によって変える必要があると考えるのかは、各国・各法域の判断次第だと思います。
 OECDとしても効率化のプロジェクトは行っています。「片付ける」ということを意味する“declutter”という言葉を使っていますが、国際課税のルールについて重複、冗長性などがないか、より整理をすることができないか、国内及び国際の両方の視点から、GloBEルールを踏まえて簡素化は考えています。

日本への期待

日本企業からのインプットと対話を期待、合意には「妥協」も必要

−−最後に、持続可能な国際税制枠組みを作る上で、国際課税の議論において日本政府、日本の経済界に対する期待をお聞かせください。
コーウィン局長:
まず日本政府には多大な支援をいただいていることについて感謝を申し上げなければなりません。様々なやり取りや議論に参加していただいたり、サポートしていただいたりしていることは我々にとって非常に重要であり、また、日本の企業関係者、産業界からも大変貴重なコメント、意見をいただいています。
 今後も、2本柱を適用、実施フェーズに移していく中で、日本が引き続き大きな役割を果たしていくものと確信しています。OECDの将来のコンサルテーション、あるいは我々が行う全ての活動について、これまで同様、日本企業の皆様には重要かつ貴重なインプットをいただくとともに、我々と意義のある対話を続けていくことを期待しています。
 難しい課題についてagreement(合意)に至るには、communication(コミュニケーション)、collaboration(コラボレーション)、そしてcompromise(妥協)が必要だと思います。その結果、consistency(一貫性、整合性)、certainty(安定性、確実性)、そしてcohesiveness(連帯、結束)を得ることができます。つまり、合意に達するためには、コミュニケーションやコラボレーションも大事ですが、やはり妥協もしなければならないないということです。妥協することにより、結果として得られる報酬、成果も大きいと考えています。
−−大変貴重なお話をうかがうことができました。本日はありがとうございました。

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