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解説記事2024年01月01日 ニュース特集 スタートアップから読み解く令和6年度における税制改正(2024年1月1日号・№1009)

ニュース特集
SO税制の権利行使価額は最大で3,600万円に
スタートアップから読み解く令和6年度における税制改正


 令和6年度税制改正では、昨年に引き続きスタートアップ・エコシステムの抜本的強化が大きなキーワードとなっている。資金調達、人材確保といったスタートアップのステージごと(シード・プレシード、アーリー・ミドル、レイター)の課題に対応し、きめ細やかでメリハリの利いた対応を行うこととしている。特に注目すべきはストックオプション税制の拡充だ。設立5年未満の株式会社が付与する新株予約権については年間の権利行使価額を2,400万円に、さらに設立5年以上20年未満の株式会社や上場後5年未満の株式会社については3,600万円に引き上げることで人材を確保しやすい体制をつくる。また、令和5年度税制改正で導入されたスタートアップへの再投資に係る非課税措置や、エンジェル税制については、新たに新株予約権を対象とするなど、スタートアップ企業の資金調達を後押しする。異例の措置として令和2年度税制改正で創設されたオープンイノベーション促進税制については、現行制度のまま適用期限が2年延長されることになった。

人材確保の面からストックオプション税制を大幅に拡充

 まずは、スタートアップ企業の人材確保の面から講じられる税制からみてみることにしよう。令和5年度税制改正では、スタートアップ企業の役員が海外進出をする場合など、国外転出時課税制度に関する納税猶予の手続きの簡素化(対象となる非上場株式について質権設定を行うことで、株券不発行でも担保提供が可能となり、株券発行会社に移行するための定款変更や株券の管理などが不要となった)が行われている。また、ストックオプション税制については、人材確保を後押しするため、設立から5年未満の未上場企業においては、権利行使期間は付与決議から2年から15年へと延長されている。
 令和6年度税制改正では、ストックオプション税制について、さらなる大きな拡充が実施されることになる。
株式保管委託要件を廃止、株券発行が不要に
 1点目は株式保管委託要件の見直しだ。現行制度では、非上場の段階で税制適格ストックオプションを行使し、株式に転換した場合、税制の対象となるには、証券会社等と契約し、専用の口座を従業員ごとに開設した上で株式を保管委託する必要がある。しかし、そもそも株券を発行していないことの多いスタートアップ企業の場合、株式保管委託要件を満たすために株券を発行しなければならず(さらに上場した場合には株券不発行となる)、事務負担やコストの面で大きな弊害となっていた。このため、同要件を廃止し、発行会社による株式の管理もできるようにすることで、これらのデメリットを回避することが可能になる。
 ただし、譲渡制限株式に限るとの要件が付されている点については留意したい。
大企業は現行通りの1,200万円
 また、一番の注目点が最大で3倍となる年間の権利行使価額の引き上げだ。ステージで権利行使価額の限度額が異なっており、設立5年未満の株式会社が付与する新株予約権については年間の権利行使価額を現行の1,200万円から2倍の「2,400万円」に、さらに設立5年以上20年未満の株式会社や上場しても5年未満の間もない株式会社については3倍の「3,600万円」に引き上げる。権利行使価額を引き上げることで、特に上場が間近に迫っていたり、上場直後のスタートアップ企業の企業価値が高くなった時期にさらなる成長に必要な優秀な人材を採用しやすくするのが目的だ。
 なお、大企業も含め、これら以外の企業のストックオプションの年間の権利行使価額は1,200万円のままである。
教授や非上場企業の役員経験者等を追加
 ストックオプションの社外高度人材要件の見直しも行われる。スタートアップ企業が上場する際に、社外の外部協力者が果たす役割が大きいことを踏まえ、平成31年度税制改正では、弁護士、公認会計士、プログラマー、エンジニアなど、一定の要件を満たす外部協力者についてもストックオプション税制の対象となったが、これまでの利用実績はあまり伸びていない状況だ(本誌1005号9頁参照)。令和6年度税制改正では、認定手続きの緩和とともに、付与要件について、新たに、教授及び准教授や、非上場企業の役員経験者等を追加し、国家資格保有者等に求めていた3年以上の実務経験の要件を撤廃するなどの見直しが行われる。具体的には図表1のとおりとなる。

スタートアップ企業への再投資に係る非課税措置、新株予約権も対象に

 次に資金調達の面からは、エンジェル税制について、令和5年度税制改正で創設されたスタートアップ企業への再投資に係る非課税措置も含め、新株予約権も対象に加えるほか、信託を通じた投資の対象化等の拡充を行うとしている。
 スタートアップ企業への再投資に係る非課税措置とは、保有株式を売却し、自己資金による起業やプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行う際、再投資した分の譲渡益には課税を行わないとする措置のこと。上限は20億円とされており、上限を超えた分については課税の繰延が認められる。
 現行のエンジェル税制については、同非課税措置も含め、株式の取得のみが対象となっているが、令和6年度税制改正では、一定の新株予約権を行使して株式を取得した際に要件を満たせば、新株予約権の取得金額も同税制の対象に加えることができるようにする。
指定金銭信託(単独運用)による活用も可
 また、現行制度では、スタートアップ企業への直接投資のほか、民法上の任意組合や投資事業有限責任組合(LPS)経由の投資が対象となっているが、指定金銭信託(単独運用)を通じた投資も対象に加えられることになる。
 なお、経済産業省では、株式譲渡益を元手とする再投資期間を同一年内から複数年に延長すべきと要望していたが、令和6年度税制改正大綱では、令和7年度税制改正において引き続き検討する旨が明記されている。

オープンイノベーション促進税制は令和6年度改正に限った特例的な対応

 日本にスタートアップ企業を生み育てるエコシステムを強化する観点からは、まずはオープンイノベーション促進税制(特定事業活動として特別新事業開拓事業者の株式の取得をした場合の課税の特例)が挙げられる。
 同税制は、事業会社がスタートアップ企業の株式を取得した場合、一定の要件の下、株式取得価額の25%相当額の所得控除を認めるというもの(令和5年度税制改正では、M&A時の発行済株式の取得に対しても所得控除25%が可能に)(図表2参照)。令和2年度税制改正で創設されたが、税制改正大綱には、出資の一定額の所得控除を認めるという“異例の措置”ではあるが、新しい技術・ノウハウ等を持つイノベーションの担い手であるベンチャー企業と協働し、オープンイノベーションの取組みを重点的に進めていくことが重要であるとして措置されたものだ。令和6年3月31日が適用期限となっていたものの、現在、「スタートアップ育成5か年計画」が始まったばかりの時期であるとして、令和6年度税制改正に限った特例的な対応として見直しを行うことをせず、適用期限を令和8年3月31日まで2年間延長することになった。ただし、令和8年度税制改正議論の際には存廃も含めた議論になりそうだ。

第三者保有の暗号資産、期末時価評価課税の対象外に

 令和5年度税制改正では、自己発行・自己保有の暗号資産について期末時価評価課税の対象外とされたが、令和6年度税制改正では、これに引き続き、一定の要件を満たす第三者保有の暗号資産についても期末時価評価課税の対象外となる。
 期末時価評価課税は、キャッシュ・フローを伴う実現利益がない中で継続して保有される暗号資産についても課税を求めるものであり、国内においてブロックチェーン技術を活用した起業や事業開発を阻害するものであると指摘されていたものだ。
 なお、一定の要件とは、他の者に移転できないようにする技術的措置がとられているなど、暗号資産の譲渡について一定の制限が付されていることなどとされている。

パーシャルスピンオフ税制は4年延長も、既存事業の分離はNGに

 ソニーグループが昨年5月に完全子会社であるソニーフィナンシャルグループのパーシャルスピンオフを検討する旨を公表するなど、令和5年度税制改正では、新たにスピンオフ実施法人に持分を残す(発行済株式総数の20%未満)スピンオフであるパーシャルスピンオフについても、一定の要件を満たせば課税の対象外とする措置が1年間の時限措置として講じられている。今回、適用期限が延長されるかどうかが注目されていたが、令和10年3月31日まで4年間延長されることになった。ただし、要件が1つ追加されることになる。
 パーシャルスピンオフ税制の適用を受けるには、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受ける必要があるが、令和6年度税制改正では、既存の認定要件に加え、「完全子会社の主要な事業として新たな事業活動を行っていること」が要件に追加される(図表3参照)。もともと主としてスタートアップの切り出し等に資する事業再編計画が意図されているものであり(本誌961号4頁参照)、今回の要件追加でそれがより明確になった形だ。現行制度では、前述したソニーグループのように、既存の事業を分離した場合も適用対象となるが、令和6年4月1日以降は、新たな事業、つまり、スタートアップ事業に限られることになる。

 したがって、既存事業の分離を検討している企業においては、令和6年3月31日までに事業再編計画の認定を受ける必要がある(認定を受ければ、パーシャルスピンオフの実施は令和6年4月以降でも可能)。ただし、事前相談から認定までにはおよそ3か月程度要するとされているため、時間的にはかなり厳しいといえそうだ。

パーシャルスピンオフ、会計上も配当は簿価
 企業会計基準委員会(ASBJ)は、令和5年度税制改正でパーシャルスピンオフ税制が創設されたことを踏まえ、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等を公表し、検討を行っている。
 公開草案によると、個別財務諸表上の会計処理は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合には、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。また、日本公認会計士協会が公表した「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正について(案)では、配当財産の時価で配当したとはせず、個別財務諸表における配当の処理に加えて、連結財務諸表上、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額を連結株主資本等変動計算書において処理するとしている。

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