解説記事2024年01月29日 SCOPE 永代地上権が設定された土地、納税義務は地上権者にあり(2024年1月29日号・№1012)
名古屋高裁、永代は「百年より永い期間」と判断
永代地上権が設定された土地、納税義務は地上権者にあり
地方税法は、固定資産税の納税義務者を原則として所有者と定めているが、例外的に「質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」については、その質権者又は地上権者としている。「永代」と登記された土地は全国的にも珍しいが、今回紹介する判決は、「永代」と登記された土地が、百年より永い期間に該当するか否かが争われたものである。名古屋高裁は令和4年11月30日、「永代」の文言に地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたものであるとの見解を示し、「永代」地上権が設定された土地の納税義務者は地上権者であると判断し、固定資産税の賦課処分を取り消した。
争点は「永代」が百年より永い期間に該当するか否か
固定資産税の納税義務者は、原則として固定資産の所有者であるが、「質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」については、その質権者又は地上権者を納税義務者とする旨が定められている(地方税法343条1項)。本件は、地上権の存続期間が「永代」と登記された土地の納税義務者が、土地の所有者か地上権者のどちらになるか争われたもの。「永代」の意味する期間が、百年より永い期間であれば納税義務者は地上権者となり、百年より短い期間であれば、原則どおり所有者が納税義務者となる。納税義務者が地上権者と判断された場合には、地方自治体は課税対象の見直しに迫られることになるが、地上権が設定されたのは明治時代であることなどから、権利関係は複雑化しており、固定資産税の徴収に大きな影響を及ぼすため、裁判の行方が注目されていた。
原告、永久とする地上権設定は可能と主張
原告が所有する9筆の土地は、明治33年3月1日付で地上権の存続期間を「永代」とすることが登記されていたが、地方自治体は原告が当該土地の所有者であることを理由に平成30年分の固定資産税の賦課処分を行ったため、原告がその取消しを求めていた。
原告は、存続期間を永久とする地上権を設定することは大審院判決において認められていること(大審院明治36年(オ)第415号、同36年11月16日第2民事部判決・大審院民事判決録9輯1244頁)や、土地の登記簿には、存続期間を「永代」とする地上権設定登記がされていたことに照らせば、本件各土地は「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」に該当するから、納税義務者は地上権者であると主張。一方、被告である地方自治体は、地上権が設定された当時は、多くの法律学者が、存続期間を永久とする地上権の存在を否定していたことや、地上権者は存続期間の定めがない地上権のみを放棄することができるところ、本件地上権と同時期に設定された地上権が現在までに少なくとも7件放棄されていることに照らせば、本件地上権は、存続期間の定めがない地上権として設定されたものであるなどと主張した。
富山地裁、登記簿に基づき課税すれば足りる
一審の富山地裁(松井洋裁判長)は令和4年1月12日、「永代」とは通常の意味からすれば永久、すなわち、地上権が百年以上継続して存続することを意味するものであると解されるから、本件各土地は「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」であると認められるとの見解を示した。あわせて、固定資産税賦課処分は、各土地の登記簿等に所有者(「百年より永い存続期間の定めある地上権の目的である土地」は地上権者)として登記又は登録された者を納税義務者として課税する方法が採用されており(最高裁昭和46年(オ)第766号、同47年1月25日第3小法廷判決)、市町村は、固定資産税賦課処分の名宛人となる所有者についてはあくまで土地の登記簿等の登記に基づいて把握すれば足りるため、本件賦課処分は納税義務者を誤ったものであるとして取り消した(令和2年(行ウ)第3号)。
存続期間を「永久」と定めることを意図
続いて二審の名古屋高裁(吉田尚弘裁判長)も富山地裁の判断を支持し、令和4年11月30日、地方自治体の控訴を棄却し、固定資産税の賦課処分を取り消した(令和4年(行コ)第4号)。名古屋高裁は、本件地上権の登記手続きがされた明治34年ないし明治43年当時の状況を事実認定した上で、地上権を設定した当事者(当時の町長)は、「永代」の文言に地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたのであり、単に「長い期間」という漠然とした期間を定めることを意図していたものではないと推認するのが合理的であるとの判断を示した。なお、最高裁は令和5年4月13日、地方自治体の上告を棄却するとともに、上告不受理を決定。名古屋高裁の判決が確定した。
永代地上権が設定されるに至った明治時代の「地上権騒擾」
本件土地を含め、存続期間が「永代」と設定された土地は、富山県内に約600筆あるという。こうした土地は全国的に珍しいとされるが、地上権の存続期間を「永代」と設定したのは、明治時代に借地人と地主の間で起きた地上権に関する騒擾ともいうべき対立が発端であるとされている。
元禄3年(1690年)の大火災後に、地主と借地人との間で永代借地が慣行となっていたところ、地上権ニ関スル法律(明治33年法律第72号)が公布されたことを受けて、町内では、地上権の登記をしなければ借地人の権利は失われるとの風評が広まった。登記を要求する借地人集団と、これを拒否する地主との間で対立が深まったことから、明治33年9月、町長を調停役として借地人と地主の代表がそれぞれ2~3回にわたって交渉を行った。双方で意見が対立したが、同年9月18日には町長が提示した案(地上権の保有期間は永代とする旨、数年程度の地代の滞納は清算することに尽力する旨など)に沿った合意が成立。その後も多少の曲折はあったものの、明治35年10月までに一連の騒動は終結したという。
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