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解説記事2020年02月10日 SCOPE 書面による同意の意思表示、取締役会決議は必要か(2020年2月10日号・№822)

東京地裁、持株会社に重大な影響あり
書面による同意の意思表示、取締役会決議は必要か


 会社法319条1項に基づく書面による同意の意思表示を行う際に取締役会決議を経る必要があるか否かが争われた事件で、東京地裁(松山美樹裁判官)は令和元年9月3日、原告の代表取締役による第三者割当増資の同意の意思表示は、持株比率が49%に低下し支配株主たる地位が失われることに照らせば、持株会社である原告に重大な影響を与えるものというべきであると指摘。会社法362条4項柱書の「その他の重要な業務執行」に該当すると解することが相当であるとし、原告の取締役会決議を経る必要があったと判断。原告の主張を容認した。なお、同事件については東京高裁に控訴されている。

「その他の重要な業務執行」に該当し、取締役会決議は必要

 本件は自動車安全部品の開発、製造及び販売等を行う元東証1部上場会社(T社)のグループ会社(T社グループ)を舞台に、母親(及び次男)と長男との間でその株式保有が争われたもの(参照)。原告(X社)は金属加工品販売等事業及び外国会社の株式を保有することを目的とする株式会社(株式譲渡制限会社)であり、原告の取締役会は母親(A)、長男(B)、次男(C)の3人で構成されている。一方、被告(Y社)は、不動産売買等事業及び外国株式を保有することを目的とした株式会社(株式譲渡制限会社)であり、取締役は同じく、母親(A)、長男(B)、次男(C)の3人で構成されている。

 事の発端は、被告(Y社)とM社が被告を発行会社、M社を引受人として、M社が被告の募集株式100株をすべて引き受ける旨の株式総数引受契約を締結したことに始まる(被告(Y社)及びM社の代表取締役は長男(B))。被告において、M社を提案者としてすべての株主が書面による同意の意思表示をしたことにより、会社法319条1項により、第三者割当増資等の株主提案を可決する旨の株主総会決議があったものとみなされたが、原告の代表取締役である長男(B)は、同意の意思表示を行うに際して、原告の取締役会における決議は経ていなかった。このため、原告(X社の代表取締役は母親(A))は、同意の意思表示は取締役会決議を欠いているため無効であるから、株主総会決議があったものとみなすことはできないとし、新株発行の無効等を求めたものである。
 原告は、第三者割当増資議案に係る同意の意思表示により、原告が保有する被告株式の内容が大きく変化することに照らせば、同意の意思表示は会社法362条4項柱書の「その他の重要な業務執行」に該当することになるため、原告の取締役会決議を経る必要があるなどと主張した。
持株比率低下で支配株主たる地位が失われる
 東京地裁は、親会社の代表取締役が子会社の株主総会において議決権を行使する行為は、一種の業務執行行為に当たるといえ、親会社と子会社との関係、議案の内容等に応じて、それが親会社の業務執行としての重要性を有するものであれば、会社法362条4項柱書の「その他の重要な業務執行」に該当し、取締役会における意思決定を必要とする場合があると解することが相当であるとした。本件については、原告は事業持株会社であるものの、事業による収益はほとんどなく、被告を通じてT社及びT総業の株式を間接的に保有することを目的としており、原告の総資産額に占める被告の株式の帳簿価額は27.15%に達していた。そうした中で、原告の代表取締役であった長男(B)が、第三者割当増資に係る同意の意思表示を行うことにより、原告の被告に対する持株比率は49%となり、被告の支配株主たる地位が失われることに照らせば、本件において、原告の代表取締役による同意の意思表示は、持株会社である原告に重大な影響を与えるものというべきであり、会社法362条4項柱書の「その他の重要な業務執行」に該当すると解することが相当であるとし、原告の取締役会決議を経る必要があったとの判断を示した。
意思表示に関する民法の一般原則の適用あり
 また、東京地裁は、会社法319条1項に基づく同意の意思表示は取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案した場合における株主の意思の表明であり、意思表示に準じたものと解されることから、意思表示等に関する民法の一般原則の適用があるものと解することが相当であるとした。その上で、代表取締役が取締役会決議を経てすることを要する外部的な業務執行行為を、当該決議を経ずに行った場合においては、民法93条但書の法理を準拠して、相手方が取締役会決議を経ていないことを知り又は知ることができた場合には、当該行為は無効と解するのが相当であり(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)、代表取締役が会社法319条1項に基づく同意の意思表示を行った場合も、これと同様に解することができるとみるべきであるとした。
 本件については、原告が第三者割当増資に係る同意の意思表示を行った際、原告、被告及びM社の代表取締役はいずれも長男(B)であり、長男(B)は、本件新株発行によって原告が被告の支配株主たる地位を失うことに加え、原告の取締役決議を経ていないことを当然に認識していたといえるから、同意の意思表示は無効と解することが相当であるとした。

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