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解説記事2024年03月04日 未公開判決事例紹介 永代地上権設定の土地の納税義務者は地上権者(2024年3月4日号・№1017)

未公開判決事例紹介
永代地上権設定の土地の納税義務者は地上権者
名古屋高裁、永代は「百年より永い期間」

 本誌1012号40頁で紹介した固定資産税賦課処分等取消請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇「永代」と登記された土地が、百年より永い期間に該当するか争われた裁判で、名古屋高等裁判所(吉田尚弘裁判長)は令和4年11月30日、富山地方裁判所(松井洋裁判長)の判決を支持し(令和2年(行ウ)第3号)、「永代」地上権が設定された土地の納税義務者は地上権者であるとの判断を示し、N市(控訴人)が行った固定資産税の賦課処分を取り消した(令和4年(行コ)第4号)。

主  文

1 本件控訴を棄却する。
2 原判決主文1項を次のとおり更正する。
3 N市長が平成30年4月2日付けで被控訴人に対してした原判決別紙物件目録に記載の各土地に係る平成30年度固定資産税の賦課処分を取り消す。
4 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 原判決主文1項を取り消す。
2 前項の部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

第2 事案の概要(略語等は原判決の例による。)
1 本件は、被控訴人が、N市長から平成30年4月2日付けで原判決別紙物件目録に記載の土地(本件各土地)に係る平成30年度固定資産税の賦課処分(本件賦課処分)を受け、N市長に対する審査請求も、本件賦課処分は相当でないが取り消すべきではないとして裁決(本件裁決)で棄却されたことから、本件各土地に係る固定資産税の納税義務者は本件各土地の登記簿に存続期間を「永代」とする地上権の地上権者として登記されている者であり、本件賦課処分及び本件裁決はいずれも違法であると主張して、控訴人に対し、本件賦課処分及び本件裁決をいずれも取り消すことを求めた事案である。
  原審は、本件賦課処分の取消請求を認容し(主文1項)、本件裁決を取り消す利益はないとして同取消請求に係る訴えを却下した(同2項)。
  これに対し、控訴人のみが、原判決中の本件賦課処分を取り消した部分のみを不服として控訴した。したがって、本件裁決の取消請求は、当審における審理の対象にはならない。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記3において原判決を補正し、同4において当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第22ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、本件裁決の適法性のみに関する部分を除く。
3 原判決の補正
(1)原判決2頁24行目の「地方公共団体」を「本件各土地が所在する市」と改める。
(2)原判決3頁15行目の「記載」を「記録」と改める。
(3)原判決3頁21行目、24行目、4頁初行、6頁15行目、19行目の各「被告」をいずれも「N市長」と改める。
4 当審における控訴人の主張
(1)原審は、市町村は土地の登記簿等に登記されている事項に基づき固定資産税賦課処分を行わなければならないと解した上で、「永代」との記録は永久を意味するものと一義的に解釈し、本件各土地に係る固定資産税は地方税法343条1項かっこ書きに基づき地上権者に賦課されるべきものと判断したが、誤っている。
  存続期間を永久とする地上権は無効と解すべきである。
  仮にそうでないとしても、国語辞典において「永代」の語は永久や永世のみならず、単に長い年月をも意味するものとされているから、控訴人には「永代」の語の解釈に当たって一定の裁量権があるというべきところ、控訴人は、存続期間を永久とする地上権の有効性に疑義があり、また、登記記録上、地上権設定の目的がいずれ朽廃する建物の所有であることを併せ鑑みて、「永代」を「期限がない」と解したものであって、控訴人に裁量権の濫用・逸脱はない。
  したがって、本件賦課処分は違法ではない。
(2)N町誌上巻(甲6の原本)には地上権に関する騒動の際に地主と借地人との間で「地上権の保有期間は永代とする」との条件にて合意に至った旨の記載があるが、これに記載されているのは借地人側の都合が中心であって、地主側において借地人の都合をどの程度受け容れたかについては判然とせず、むしろ、地主において所有権の権能の一部を永遠に失うこととなるような合意をしたものと考える方が不自然である。上記合意に当たっては、法律や登記に通暁する者の助言・介在がなかったとは言い難く、これらの助言は、本件地上権の設定日付である明治33年3月1日当時の、地上権の存続期間を永久と定めることができないとしていた多数の学説を反映していたはずである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件賦課処分は違法であるからこれを取り消すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 争点1(本件各土地が「百年より長い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」(法343条1項)に当たらないといえるか)について
(1)法343条は、不動産である課税物件(以下「課税不動産」という。)に係る固定資産税(以下、単に「固定資産税」という。)を賦課されるべき者を所有者(以下「納税義務者である所有者」という。質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。)とし(1項)、納税義務者である所有者を、登記簿又は所定の台帳に所有者として登記又は登録がされている者と定義している(2項前段)。そうすると、課税庁は、当該課税不動産を現に所有している者等を納税義務者である所有者と取り扱うことができる場合(2項後段、4項ないし6項)に当たる等の特段の事情のない限り、登記簿又は所定の台帳に所有者として登記又は登録がされている者を納税義務者である所有者と取り扱う必要があり、かつ、これをもって足りるというべきである(租税台帳主義ないしは台帳課税主義)。この点は、同条1項に定める地上権者についても同様と解される。
  もっとも、地上権の存続期間を一義的な文言で定めることを命じた法令が施行されたことはないから、法は、多義的な存続期間の定めが登記され得ることを予定していると解すべきであるが、それにもかかわらず、法はそのような場合の存続期間の定めの解釈方法を置かなかったのであるから、そのような場合の登記された存続期間の定めは、通常の方法、すなわち、文言の国語的意味を基本としつつ、合意の当時に当事者が置かれていた状況等を考慮して、当事者がその文言により表現しようとしたところを探求する方法によって解釈せざるを得ず、法も、そのような解釈をすることを予定していると解すべきである。
  この点に関し、控訴人は、登記記録上の地上権の存続期間の定めが多義的であるときは、控訴人にはその解釈に関して広範な裁量権があると解すべきである旨を主張するが、地上権の存続期間は、本来、当事者間においては一義的に定まるべき性質の事柄であるから、そのような事柄の認定・解釈については、控訴人に司法審査を免れるという意味での裁量の余地があるものと解することはできず、控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)これを本件についてみると、引用に係る原判決記載の前提事実(3)のとおり、本件地上権の存続期間はいずれも「永代」との文言を用いて登記されているところ、「永代」には、永久、永世、長い年月といった意味があることは公刊された国語辞典(乙7の1ないし3)において説明されているとおりであるから、本件地上権の登記手続の当時に当事者が置かれていた状況等を考慮して、上記の国語的意味のいずれを選択するべきかを検討する必要がある。
  この点に関し、被控訴人は、大審院明治36年(オ)第415号同年11月16日判決・民録9輯1244頁を援用して、「永代」との文言は一義的に存続期間を永久と定める趣旨のものと解すべきであり、これと異なる認定をすることは台帳課税主義に違反する旨を主張するものと解されるが、同判決は、「永代」との文言が存続期間を永久と定める趣旨のものと認定することができる事案について、その存続期間の定めを有効と解すべきものと判断した事案であって、その認定の当否そのものが問題となっている本件とは事案が異なる。また、「永代」との文言により当事者が表現しようとしたところを探求することと、台帳課税主義とが矛盾するものでないことは、前記(1)において説示したとおりである。
(3)そこで、本件地上権の登記手続がされた明治34年ないし明治43年当時において、本件地上権の当事者が置かれていた状況について検討する。
  前記前提事実、証拠(甲1の1~9、甲6、甲7)、弁論の全趣旨及び法令の施行日等の公知の事実によると、以下の事実が認められる。
ア 旧N町においては、少数の富豪が町内の宅地を所有し、多数の住民が借地に居宅を構えていたが、元禄3年(西暦1690年)の大火災後、地主と借地人との間の証文に「永代借地」などの文言が現れるようになり、永代借地が慣行となっていった。
イ 地上権ニ関スル法律(明治33年法律第72号)が公布されたことを受けて、町内では地上権の登記をしなければ借地人の権利は失われるとの風評が広まり、登記を要求する借地人集団とこれを拒否する地主との間で対立が深まったことから、明治33年9月、町長を調停役として借地人代表者と地主代表者とが二、三回にわたって交渉を行った。協議当夜には至る所に数十人ほどが集まり、中には地主をののしって不穏な発言をする者もあった。
ウ 交渉においては、地主側に民法に無期の地上権が規定されていることを指摘する者があり、借地人側は無期の地上権は実際には有期の借地である旨の反論をするなどの意見の対立があったが結局、同年9月18日、町長が提示した案に沿った合意が成立した。その合意には、地代は地価1円に対して12銭とする旨、地上権の保有期間は永代とする旨、数年程度の地代の滞納は清算することに尽力する旨などが含まれていた。
エ 合意の成立後も、多少の曲折はあったが、明治35年10月までに地主側が合意に従った登記手続に応じ、一連の騒動は終結した。
オ 本件各土地は旧N町の町域に所在し、本件地上権の設定日付はいずれも明治33年3月1日である旨が登記されている。
(4)前記(3)において認定したとおり、本件地上権の設定日付はN町長の調停によって成立した合意より前であるものの、登記手続はその合意より後になされたものであり、設定日付も同一であることをも考慮すると、本件地上権もN町長の調停によって成立した合意の趣旨に沿って設定されたものと推認することができる。
  そうすると、その設定当事者は、「永代」との文言によって本件地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたのであり、単に「長い期間」というような漠然とした期間を定めることを意図していたのではないものと推認するのが合理的であり、この推認を左右するに足りる証拠はない。
(5)この点に関し、控訴人は、甲第6号証及び甲第7号証の証明力に疑義がある旨を主張するが、特に甲第6号証は、旧N町が公式の町誌として、地上権に関する騒動からわずか十数年後に刊行した文献であり、刊行時から見れば現代史に属する事実に関し、全くの虚偽が述べられているとは考え難いから、前記(3)に摘示した事実を認定する限度では、十分に信用することができる。
  また、控訴人は、地主が存続期間を永久とする地上権の設定に合意したと推認することは不合理である旨を主張するが、上記騒動における合意は、当事者間で任意に成立したのではなく、地上権者の集団による圧力と、町長の仲介とを背景として成立したものであるから、通常の交渉では容易に成立しないほど地上権者に有利な合意が成立したとみる方がむしろ合理的である。仮に、この交渉に法律知識の豊かな者が関与し、その者において、地上権の存続期間を永久と定めることはできない旨の学説があることを知っていたとしても、前記(3)ウにおいて認定したとおり、地上権者は自己の権利が有期のものとされることに反発していたのであるから、上記騒動における合意は、そのような学説には従わないことを前提として成立したものと認められる。
(6)控訴人は、地上権の存続期間を永久と定める合意は無効である旨を主張するが、これを採用することができないことは、前記(2)において挙げた大審院判例が説示するとおりである。
(7)以上によれば、控訴人は本件各土地に係る平成30年度の固定資産税を賦課するに当たって、法343条1項、2項に従い、本件各土地が存続期間を永久とする、すなわち100年より永い存続期間の定めのある地上権の目的であることを前提としなければならなかったにもかかわらず、これに反して、登記記録上の所有者であるという理由で被控訴人を納税義務者と認定し、本件賦課処分を行ったことになるから、本件賦課処分には法343条1項、2項に違反する違法があるといわざるを得ない。
3 争点2(本件賦課処分を取り消すことにより、公の利益に著しい障害が生じ、同処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるか)について
 控訴人は、存続期間を「永代」とする地上権が設定された土地が多数存在することから、本件賦課処分が取り消されることにより課税庁であるN市長に大きな負担が生じる旨を主張するが、そのことをもって、本件賦課処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないといえるものではないことは、次のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の第32に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決10頁15行目、末行及び11頁21行目の各「被告」をいずれも「N市長」と改める。
(2)原判決11頁17行目から20行目までを削る。

第4 結論
 以上によれば、本件賦課処分は違法であって、被控訴人の本件賦課処分の取消請求は理由があるからこれを認容すべきところ、これと同旨の原判決主文1項は結論において相当であるから、本件控訴は理由がない。
 よって、本件控訴を棄却し、原判決主文1項中「被告」とあるのは「N市長」の明白な誤記であるから職権でこれを更正することとし、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官 吉田尚弘
   裁判官 加藤 靖
   裁判官 平野剛史

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