解説記事2024年03月18日 特別解説 我が国の上場企業による不正(2024年3月18日号・№1019) ~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~
特別解説
我が国の上場企業による不正
~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~
はじめに
我が国の上場企業で大規模な粉飾決算や横領等の不正が発覚すると、弁護士や公認会計士等の外部の専門家を交えた第三者委員会が組成され、フォレンジック調査等が行われた後に、調査結果が報告書として外部に公表される場合が多い。本稿では、2014年4月1日から2023年12月31日までの期間で、親会社(上場企業)や連結子会社等による不適切な会計処理(粉飾決算)、及びその元役員や元従業員らによる不適切な行為(横領、着服等)等について、第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等を含む)を外部に公表した企業を題材として、前段では不正の発生原因や類型、特徴点等を全体的に分析するとともに、後段では、2023年1月1日から2023年12月31日までに第三者委員会報告書が公表された個別の不正事例を、1件ずつ内容を要約して紹介することとしたい。
調査の対象とした企業
今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2023年12月31日までの期間に、不適切な会計処理(粉飾決算)や元役員、元従業員らによる不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)である。
これまでは、年によって多少の増減はあるものの、年間にほぼ30件程度のペースで不適切な会計処理等に関する調査報告書が公表されてきている(表1を参照。)。

なお、調査報告書が公表された事例のうち、得意先が要求する性能やスペックを満たしていない製品を偽って納入していた等の、会計処理とは直接関係しないような不適切な事例は、今回の調査の対象からは除いている。
全般的な分析
まず、2014年4月から2023年12月末日までの期間に報告書を公表した279社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。なお、2022年4月4日より、東京証券取引所における市場区分の見直しが行われ、従来の(東証1部、東証2部、ジャスダック及びマザーズ)区分から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの区分に再編成が行われたが、本稿では、2014年4月1日から2022年4月1日までの期間については、東証1部、2部などの旧区分、2022年4月4日以後2023年12月31日までは、東証プライムやスタンダード等の再編成後の新しい市場区分に基づいて分類している。

現在の市場区分で言うと、東証プライム上場の企業よりも、東証スタンダード上場の企業やグロース市場上場の企業の比率の方が相対的に高くなっている。
不適切な会計処理の分類と発覚の契機等
不適切な会計処理を生じさせた当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員・従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為を分類している。

新聞報道等でもよく取り上げられているが、親会社に比べてガバナンスが効きにくく、監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に中国をはじめとする海外の子会社)で不適切な会計処理が発生した事例が多くなっている。
次に、不適切な会計処理を形態別に分類すると、表4のとおりとなった。

粉飾決算が全体の6割程度、残りの4割が個人による資金の横領・着服等であったが、最近は後者の割合が増える傾向にある。コロナウイルス感染症の蔓延を契機とした在宅勤務の普及や対面での打合せの減少などにより相互牽制の機会が失われて、個人による不正が起こりやすい環境ができている可能性がある。
会社の業績、特に売上高や利益を実力以上によく見せることを狙ったいわゆる粉飾決算が全体の過半数を占めてはいたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブル等にのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費への充当等)による資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、国内外の連結子会社において、本社が十分に管理監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれている。
さらに、不正の具体的な内容を分類すると、表5のとおりであった。

一つの不適切な会計処理の事例の中に、表5の項目が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事例をどれか一つの項目に分類している。
最後に、不適切な会計処理が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。

調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、企業が自ら異変に気付いて行った自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けたうえでの社内調査も相当数含まれているものと思われる。一般的には、不適切な会計処理を外部者が発見することは難しく、したがって不適切な会計処理を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不適切な会計処理が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。
また、会計監査人が不適切な会計処理の兆候等を発見して会社側に未然に是正を求めたようなケースや、不適切な会計処理が行われはしたものの、第三者委員会を設置しての調査が必要となるほどの規模になるまでの拡大は防いだようなケースも少なからず存在すると思われる。内部統制による相互牽制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人等による外部からのけん制も、不適切な会計処理の抑止に一定の効果があったものと思われる。
2023年に調査報告書が公表された不適切な会計処理の事例
本稿の後段では、2023年1月1日から2023年12月31日までに第三者委員会による調査報告書が公表された事例31件の内容を要約して紹介することとしたい。各事例の概要を要約すると、表7のとおりである。



本稿では全ての不正案件を網羅しているわけではないが、2023年は、売上の水増し計上や棚卸資産の水増しといった、会社の売上高や予算、損益等の達成を目的とした「会社のために手を汚す」粉飾決算よりも、元従業員による会社資金の詐取や流用、架空の外注費の支払いや水増しを行った上でのキックバックの受領、さらには個人的に親密な企業を合理的な理由なく取引に介在させて手数料を取るといった、「元役員や元従業員が私腹を肥やす」目的の不正が多かったと言えるのではないだろうか。
我が国でも収益認識に関する会計基準が適用されたが、工事進行基準による見積りの不確実性を逆手にとった売上高の前倒し計上、工事原価の付け替えや架空計上、翌期への繰延べなどの操作も複数見られた。また、東京衡機やパスコなどの、複数回目の調査報告書を公表せざるを得ない状況に追い込まれた企業や、ビジョナリーホールディングスやヤシマキザイのように、不正の調査の過程で別の不適切な会計処理が新たに発覚し、それに伴って別個の調査報告書を公表した企業もあり、不正を許容する土壌の根絶が容易ではないことを物語っている。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.