解説記事2024年03月25日 特別解説 IFRSを任意適用して上場した企業(2024年3月25日号・№1020)
特別解説
IFRSを任意適用して上場した企業
はじめに
2023年度の日経平均株価は、年間で28.2%(7,300円強)上昇したと報道されている。このバブル期を上回る水準の株高を背景に、株式を上場する企業数も堅調に推移しているが、国際財務報告基準(IFRS)を任意に適用して新規に上場する企業も2023年には多く見られた。
本稿では、まずIFRSを新規に適用してこれまでに上場した企業の全体像を概観した後、2023年中に上場した企業を個別に見ていくこととしたい。
IFRSを任意適用して株式を上場した企業
2014年10月9日に第1号であるすかいらーくホールディングスが上場して以来、間もなく10年が経とうとしているが、2023年12月31日までに、合計47社がIFRSを任意適用して株式を上場した。
これらの47社を上場した年度別に分類すると、表1のとおりであった。

第1号の上場から現在までに10年が経過してはいるものの、コロナウイルス感染症による経済活動の停滞・制限等もあって2020年までは上場企業数は低空飛行が続いていた。そして、その後の2021年と2023年の2年間だけで、これまでの上場企業数合計の過半数(24社)を占めている一方で、2021年と2023年に挟まれている2022年には1社しか上場していない。このように、IFRSを適用して新規に上場する企業の数は、かなり年度によって波があるといえる。
次に、47社を業種別に分類すると、表2のとおりであった。

サービス業と情報・通信業だけで全体の6割超を占める結果となった。
さらに、株式を上場した市場別に分類すると、表3のとおりであった。

すかいらーく他、初期に上場した企業はプライム市場(当時は東証一部)に上場している場合が多いが、下記表4にも示されているように、2023年中にIFRSを任意適用して上場した企業は、新興企業向けの市場であるグロース市場を選択する場合が多かった。

2023年中に上場した企業の横顔
IFRSを任意適用して2023年中に株式を東京証券取引所(東証)に上場した企業は、表4の13社であった。
なお、2021年12月31日までにIFRSを任意適用して上場した企業については、本誌のNo.922(2022年3月14日号)で取り上げているため、当該記事をご参照頂きたい。
今回調査対象とした13社の事業内容と各社の規模等の紹介
今回調査対象とした、2023年中にIFRSを適用して新規に上場した企業13社の事業内容や各社の規模等を一覧にすると、表5のとおりとなった。

IFRSを任意適用して新規に上場した企業の大きな特徴の一つとして、多額ののれんを計上している場合が多いことが挙げられる。今回取り上げた13社(新設会社の2社を除いた11社)の連結財務諸表には、いずれも10億円を超えるのれんが計上されており、のれんの残高が連結純資産残高を上回っている企業もそのうち6社あった。よく知られているように、IFRSにおいてはのれんは非償却とされていることから、これらの企業については、今後収益力を持続的に高めてのれんの減損処理を回避することが特に求められることになる。
2023年に株式を上場した企業の成り立ち
表5に列挙した13社の中には、新規に上場するまでに、MBOによる上場廃止やファンドによる出資、複数回の吸収合併や商号変更等、複雑な経緯をたどった企業が複数存在する。本稿の後段では、そのような企業の成り立ちを見ていくことにしたい。
ハルメクホールディングス
会社は、1989年に設立されたユーリーグ株式会社を前身としており、同社はシニア女性向けの定期購読誌の発行と通販事業を運営し、50代以上の女性が「いきいきと生きること」を支援することで着実に業績を伸ばしてきた。
しかし、本業ではない不動産・株式投資と自社倉庫及びシステムへの過大投資により、2009年に民事再生を申請、同年にJ-STAR株式会社がいきいき株式会社(以下「(旧)いきいき」という。)を設立し、同社への事業譲渡を実施した。
その後事業の再建が順調に進み、ノーリツ鋼機株式会社の子会社であるNKリレーションズが(旧)いきいきの株式取得のために特別目的会社を設立し、2012年に同社の株式を取得した上で吸収合併を行い、商号もいきいき株式会社に変更した。その後、2016年には株式会社ハルメクに商号変更すると同時にNKリレーションズからシニア向け通販事業を営む株式会社全国通販の株式を取得し、子会社化した。
その後2018年にガバナンスの強化を目的とした持株会社化を実施し、株式会社ハルメクから株式移転により株式会社ハルメクホールディングス(以下「(旧)株式会社ハルメクホールディングス」という。)を新設した。
会社は、マネジメント・バイアウト(MBO)による(旧)株式会社ハルメクホールディングスの株式取得を行うことを目的として、2020年に株式会社HLMK2として設立され、2020年8月3日付で(旧)株式会社ハルメクホールディングスを買収した。その後、2021年に株式会社HLMK2を存続会社として(旧)株式会社ハルメクホールディングスを吸収合併し、同時に株式会社HLMK2から株式会社ハルメクホールディングスへ商号変更し、現在に至っている。
AnyMind Group
会社グループはAdAsia Holdings Limited(英領ケイマン諸島)を最終持株会社として2016年に創業し、その後2018年にAdAsia Holdings LimitedをAnyMind Group Limited(AHC)に商号変更した。会社は、AHCの子会社として2019年に東京都港区で設立された。そして、2020年に会社の子会社であるAnyMind Holdings Limitedを吸収合併存続会社、当時親会社であったAHCを吸収合併消滅会社とする三角合併(ケイマン会社法上の組織再編)を実施して、現在に至っている。
ノバレーゼ
会社は、2000年に設立された株式会社ワーカホリック(2002年に「株式会社ノバレーゼ」に社名変更。以下「旧ノバレーゼ」)を前身としている。設立以来業績を拡大し、2006年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場、2010年には東京証券取引所市場第一部へ市場変更を行った。その後2016年にポラリス・キャピタル・グループ株式会社によって設立されたNAPホールディングス株式会社が同年10月に旧ノバレーゼの株式公開買付けを実施し、これにより旧ノバレーゼはNAPホールディングス株式会社の子会社となり、東京証券取引所市場第一部の株式上場を廃止した。NAPホールディングス株式会社は2017年6月30日を効力発生日として旧ノバレーゼを消滅会社とする合併を行い、同日付でNAPホールディングス株式会社の商号を株式会社ノバレーゼに変更し、現在に至っている。
ナレルグループ
会社は技術者派遣事業を展開する株式会社ワールドコーポレーションを中心とした企業グループの経営管理を行う持株会社である。
主に建設業向けの技術者派遣事業を目的とする株式会社ワールドコーポレーション(現連結子会社)が2008年に設立された。その後2019年に、株式会社アドバンテッジパートナーズが純投資を目的として設立した株式会社AP64(現会社)は、同年11月に株式会社ワールドコーポレーションの全株式を取得し、完全子会社化することにより、会社を持株会社とする体制に移行した。
トライト
会社グループは、2004年に設立された株式会社TS工建を前身としている。2014年、株式会社TS工建より医療業界・介護業界の人材紹介事業を移管して、創業家による100%出資により株式会社ティスメを、また、建設業界・医療業界・介護業界の特化型人材派遣・紹介のWebサイト運営会社として、創業家による100%出資によりメディアメイド株式会社(以下「旧メディアメイド」という。)を設立した。
2016年、株式会社ティスWAYが設立され、同社は株式移転により創業家から株式会社ティスメの株式を100%取得して株式会社ティスメを完全子会社化した。
また、2018年12月、グローバルな投資会社であるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア及びその傘下のファンド(以下、傘下のファンドも併せて、「BPEA」という。)が100%出資するアイルランドのSPC「Padparadscha Limited」(2022年1月5日に「LIFE SCIENCE &DIGITAL HEALTH CO.LIMITED」へ商号変更。以下「LSDH」という。なお、EQT AB(以下、その傘下のファンドも含めて、「EQT」という。)によるBPEAの買収により、LSDHは、本報告書提出日現在EQTにより運営されている。)が株式会社ティスWAYの株式を、増資引受及び創業家からの株式譲受により60%取得した。
同時に、株式会社ティスWAYが創業家より旧メディアメイドの株式を100%取得して完全子会社化、また株式会社ティスメが創業家より株式会社TS工建の株式を100%取得して完全子会社化した。
2019年6月、株式会社ティスWAYを存続会社として旧メディアメイドを吸収合併し、商号をメディアメイド株式会社に変更した後、メディアメイド株式会社を親会社とする旧会社グループを形成した。また、2019年7月、LSDHが創業家よりメディアメイド株式会社の株式を40%取得し、LSDHがメディアメイド株式会社の株式を100%保有する株主となった。
2020年9月、メディアメイド株式会社が株式会社ティスメより株式会社TS工建の株式を100%取得し子会社化(吸収分割による承継)、株式会社TS工建の医療・福祉人材紹介事業を株式会社ティスメに移管した。2020年11月、メディアメイド株式会社の商号を株式会社トライトに変更。同時に株式会社ティスメの商号を株式会社トライトキャリア、株式会社TS工建の商号を株式会社トライトエンジニアリングに変更し、組織再編後、旧トライトを親会社とする旧会社グループを形成した。
また、2021年8月、地方自治体及び中小企業向けに人材採用関連のDXサービスを提供するIT事業を営む株式会社HAB&Co.の全株式を取得し子会社化した。
なお、2020年9月、BPEAにより設立されたJSPC2株式会社(以下「JSPC2」という。)の100%株式をLSDHが取得した。
ライズ・コンサルティング・グループ
会社の前身となる旧株式会社ライズ・コンサルティング・グループは、「Sunrise Capital Ⅲ (JPY),L.P.」、「Sunrise Capital Ⅲ(Non-US), L.P.」及び「Sunrise Capital Ⅲ,L.P.」の3社(以下総称して「Sunrise Capital」という。)との資本提携によるLBO実行のプロセスにおいて、旧株式会社ライズ・コンサルティング・グループを承継するために2020年11月27日に株式会社ライズ・ホールディングスが設立された。株式会社ライズ・ホールディングスは、2020年12月25日に旧株式会社ライズ・コンサルティング・グループの株式の過半数を取得して子会社化し、その後2021年3月1日に旧株式会社ライズ・コンサルティング・グループを吸収合併すると同時に、商号を株式会社ライズ・コンサルティング・グループに変更した。
KOKUSAI ELECTRIC
会社は、株式会社日立製作所の子会社として事業運営していた株式会社日立国際電気における成膜プロセスソリューション事業が前身である。
2017年2月に投資ファンドであるKohlberg Kravis Roberts&Co.L.P.(KKR)が当時の親会社である日立製作所と協議を重ねたうえで、特別目的会社としてHKEホールディングス合同会社(2017年12月にHKEホールディングス株式会社へ組織変更)を組織したうえで2017年12月に株式公開買付(TOB)を成立させたことで2018年3月9日に東京証券取引所市場第一部の上場を廃止した。
その後、2018年6月1日に日立国際電気における成膜プロセスソリューション事業(半導体製造装置事業)を吸収分割し、商号変更を経て現在に至っている。
Japan Eyewear Holdings
会社グループは、持株会社であるJapan Eyewear Holdings、主要な子会社グループである金子眼鏡株式会社を中心とする金子眼鏡グループ及び株式会社フォーナインズ(999.9)を中心とするフォーナインズグループから構成されている。
(1)金子眼鏡グループの沿革の概要は次のとおりである。
① 金子眼鏡株式会社の設立
② 金子ホールディングス株式会社による金子眼鏡株式会社の子会社化
③ 金子眼鏡株式会社によるグループ会社の設立と買収
(2)フォーナインズグループは、下記のような経緯をたどった。
① 株式会社フォーナインズによるグループ会社の設立
② ジャフコ社によるフォーナインズグループへの出資
③ CITIC社によるフォーナインズグループへの出資
その後のグループの沿革は下記のとおりである。
(3)LBOの実施~NICファンドによる金子眼鏡グループへの出資
① Lunettes Holdings株式会社、KG Holdings株式会社、KG株式会社の設立
② 金子ホールディングス株式会社と金子眼鏡株式会社の合併
③ KG株式会社と金子眼鏡株式会社の合併
④ KG株式会社、KG Holdings株式会社の商号変更
(4)Japan Eyewear Holdings株式会社によるフォーナインズグループへの出資
(5)LBOスキームの完了
(参考とさせていただいた資料)
日本取引所ホームページ:IFRSを適用して新規上場した会社一覧
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