解説記事2024年03月25日 SCOPE 副業で社労士業務、給与所得と損益通算できるか(2024年3月25日号・№1020)

審判所、営利性は乏しく事業所得に該当せず
副業で社労士業務、給与所得と損益通算できるか


 副業として行っていた社会保険労務士の相談業務(本件業務)から生じた所得の所得区分が争われた裁決で、国税不服審判所は、本件業務は有償性、反復継続性及び物的設備を有していたほか、請求人は社会保険労務士として従事していたことが認められるとしたが、営利性は乏しく、企画遂行性は希薄であり、請求人が業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は必ずしも大きいものではないことに加え、請求人が生活の資としているのは社会保険労務士の業務による収入ではなく、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難いと指摘。したがって、本件業務から生じた所得は事業所得には当たらず、雑所得に該当することから、給与所得との損益通算はできないとして請求人の請求を棄却した(関裁(所)令4−43)。

審判所、社労士業務の有償性、反復継続性等は認めるも営利性は乏しい

 本件は、請求人が社会保険労務士として行った相談業務に係る事業所得の金額の計算上損失が生じたとして他の所得(給与所得)と損益通算する内容の確定申告を行ったところ、原処分庁は雑所得に該当することから損益通算できないとして更正処分等を行ったため、原処分の全部の取消しを求めたものである。請求人は、自身が勤務する3社から給与収入を得るとともに、自宅を中心に社会保険労務士として本件業務を行っていた。
 請求人は、開業登録して以来反復継続して社会保険労務士の業務を営んでおり、その間、事務所を備え、売上げとして相談料を受領している上、経費を負担するなどしていることから、本件業務は自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であることは明らかであり、本件業務から生じた所得は事業所得に該当するなどと主張。一方、原処分庁は、本件業務には有償性及び反復継続性があるともいえるが、各年分において多額の損失が生じており、その営利性は極めて乏しいことから雑所得に該当するとした。
生活の資は社労士業務収入にあらず
 審判所は、ある所得が事業所得に該当するか否かは、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験、社会的地位及び生活状況、相当程度の期間安定した収益を得られる可能性の有無及び程度等を総合的に考慮し、社会通念によって判断するのが相当であるとした。
 その上で審判所は、本件業務は有償性、反復継続性及び物的設備を有していたほか、請求人は社会保険労務士として従事していたことが認められるとしたが、営利性は乏しく、企画遂行性は希薄であり、請求人が業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は必ずしも大きいものではないことに加え、請求人が生活の資としているのは社会保険労務士の業務による収入ではなく、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難いと指摘(参照)。したがって、社会保険労務士としての業務から生じた所得は事業所得には当たらず、雑所得に該当するとの判断を示し、請求人の請求を棄却した。

【表】審判所の判断

営利性及び有償性の有無並びに反復継続性の有無について
・本件業務に係る売上金額は、平成28年分から令和2年分まで生じていることから、本件業務の有償性及び反復継続性については認めることができる。
・一方、必要経費によって、各年分のいずれにおいても利益が生じておらず、売上金額に比して、平成28年分が約13倍、平成29年分が約13倍、平成30年分が約9倍、令和元年分が約7倍、令和2年分が約13倍に相当する。このように多額の損失が5年連続して生じていることからすると、本件業務は、経済合理性に欠け、営利性は乏しいというべきである。
自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無について
・本件業務について多額の必要経費が発生し、多額の損失の金額が5年間継続していたにもかかわらず、請求人は、本件業務に係る売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していないことから、本件業務に係る損失を改善する手段を講じていたということはできず、企画遂行性は希薄である。
精神的及び肉体的労力の有無及び程度について
・請求人が各年分に得た全給与収入のうち9割以上が〇〇〇〇からのものであるところ、請求人と〇〇〇〇の雇用契約上、就業時間は一応取り決められているものの、実際には請求人の裁量に任されており、副業について特に取り決めはないこと、また、本件業務に係る必要経費の内訳には、通信費、広告宣伝費及び接待交際費の支出があることからすると、請求人は本件業務に精神的及び肉体的労力をある程度費やしていたともいえる。
・しかし、本件業務に係る売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していない。また、請求人が営業の電話をかけることはまれであり、本件業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものということはできない。
人的設備及び物的設備の有無について
・請求人は、従業員を雇うことなく1人で本件業務に従事していることから人的設備は有していない一方、自宅1階部分を事務所として使用していることから物的設備は有している。
職業、経験、社会的地位、生活状況及び相当程度の期間安定した収益を得られる可能性について
・請求人は、社会保険労務士として本件業務に従事していた一方で、各年分のいずれにおいても本件業務から利益は生じておらず、請求人の各年分における生計は、〇〇〇〇からの給与収入によって賄うことができていたのであるから、請求人の生活の資となっているのは、本件業務であるとはいえない。
・請求人は、本件業務により多額の損失が連続して生じていたにもかかわらず、損失を改善する手段を講じていたとは認められないこと、及び請求人の顧客が請求人の事務所を訪問することはなく、請求人の業務の規模が安定した収益をもたらす程度のものであったとまではいえないことをも併せ考慮すれば、請求人が、本件業務から相当程度の期間安定した収益を得られる可能性を有していたとはいい難い。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索