解説記事2024年04月01日 ニュース特集 最近の裁決事例から読む隠蔽又は仮装行為(2024年4月1日号・№1021)
ニュース特集
審判所が重加算税を取消した3事案
最近の裁決事例から読む隠蔽又は仮装行為
納税者が国税の課税標準等の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、または仮装し、これに基づき納税申告書を提出していたときには、過少申告加算税に代え、重加算税が課されることになる。国税通則法68条1項にいう「事実を隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解されている。
今回の特集では、課税当局より隠蔽又は仮装行為があったとして重加算税が賦課されたものの、審判所の判断により、賦課決定処分が取り消された3つの裁決事例を紹介する。
覚書の記載が「住宅の貸付け」と特定できないようにしたものか
最初に紹介する裁決事例は、請求人が不動産会社との覚書に「居住用及び事業用を問わない」と記載したことが、非課税取引となる「住宅の貸付け」と特定されないような状態を作出するための行為であるとして隠蔽又は仮装行為に該当するか争われたものである。
請求人が建物等の取得に係る課税仕入れについて、課税資産の譲渡等にのみ要するものとして控除対象仕入税額を計算し消費税等の確定申告をしたが、原処分庁が建物の貸付けは「住宅の貸付け」に該当し非課税取引であり、請求人に「偽りその他不正の行為」があるなどとして更正処分等を行ったことから、請求人が審査請求を行っている。
建物の転貸借を目的とした賃貸借契約
審判所は、まず、各建物の貸付けが非課税取引である「住宅の貸付け」に該当するかどうかについては、貸付けに係る契約において、最終的にそれを借り受ける者により居住の用に供されることが明らかにされているものであるか否かを、貸付けに係る契約書の契約条項だけでなく、契約締結に至る経緯をはじめ、建物の種類・用途や関連する契約の定め等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当であるとした。
本件については、各賃貸借契約書が交わされる前に管理会社との間で各建物の転貸借を目的として賃貸する各一括賃貸借契約を締結していると指摘。したがって、各建物の貸付けは、各賃貸借契約において、各建物が管理会社の再転貸先により居住の用に供されることが明らかにされているものであると認められることから「住宅の貸付け」に該当し、非課税取引になるとした。
「居住用及び事業用を問わない」と記載
その上で隠蔽又は仮装行為に該当するかどうかについては、原処分庁は税理士から各建物を居住用か事業用かを問わずに賃貸することにより消費税等の還付を受けられる旨説明を受け、還付額の概算額を了知した上で、各建物が住宅として管理会社に貸し付けられることを前提としているにもかかわらず、請求人が不動産会社との覚書に「居住用及び事業用を問わない」と記載したことは、各建物の貸付けが非課税取引となる「住宅の貸付け」と特定されないような状態を作出するための行為であると認められるとして、仮装行為に該当すると主張している。
この点について審判所は、覚書における「居住用及び事業用を問わない」との記載が各建物の貸付けの実情とは異なっていたとしても、そのことから、請求人が、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲する行為に及んだと直ちに認めることはできないとした。
また、覚書によれば、管理会社が各建物を居住用として転貸することに合意していたと認められ、請求人が税理士から各建物を居住用・事業用問わずに賃貸することにより各課税期間の消費税等が還付になる旨の説明を受けていることからすれば、請求人が各課税期間の消費税等の還付を受けることを目的として覚書を作成した可能性は否定できないとしたが、審判所は、各建物の貸付けが非課税取引となるか否かは請求人と不動産会社との間の賃貸借契約の契約条項のみで判断すべきものではなく、各申告が過少申告になったのは請求人の法令解釈に誤りがあったことに起因するものであるといえることからしても、消費税等の還付を受けることを目的として覚書を作成したからといって、不動産会社が各建物を管理会社に転貸し、管理会社が各建物を居住用として再転貸するという賃貸借契約の前提となる事実をわい曲する意図が請求人にあったとまでは認めることはできないとし、隠蔽又は仮装行為には該当しないとの判断を示した。
エクセルファイルの金額を改ざん、更新日時で発覚?
次に紹介する裁決事例は、請求人のパソコン内に保存されていたエクセルファイルを改ざんし、土地の売買金額の一部を隠匿したかどうかが争われたものである。
原処分庁が、不動産業を営む請求人に対し、申告に係る販売用の土地の収入金額が過少であり、土地造成費が過大であるとして所得税等の更正処分等を行ったことから、請求人が原処分庁の算定した事業所得に係る総収入金額及び必要経費の金額にいずれも誤りがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めたものである。
原処分庁は、税務調査で入手した請求人の土地の収入金額を入力したエクセルファイルのうち、第1ファイルには30,900,000円、第2ファイルには29,550,000円と入力され、第1ファイルは平成27年2月25日に更新され、第2ファイルは平成27年2月27日に更新されていることからすると、確定的な脱税の意思に基づいて第2ファイルの金額を改ざんすることにより、差額である1,350,000円を隠匿しているため、当該行為は隠蔽又は仮装行為に該当するとした。一方、請求人は、パソコン内のデータは、事業計画を効果的に遂行するため、取引金額のシミュレーションを繰り返し行い、作成されたものであると主張。一般に、パソコン内のデータファイルに記録される更新日時とは、一度でもデータファイルが開かれた場合に、日時が更新されて記録される仕組みであり、データファイルの内容が更新された場合に、日時が更新されて記録される仕組みではないとした。
更新日時が変更の最終更新日と断定できず
審判所は、表計算ソフトのファイルを開いた後に入力又は訂正等を行わずに終了した場合においても、「保存」等の表示がされ、誤って「保存」をクリックした場合であっても、その日時が更新日時として記録されることからすれば、これらの各ファイルの更新日時が入力内容の変更に係る最終更新日時を示すものと断定することはできず、入力内容を何も変更しないままファイルを閉じた際の日時が最終更新日時となった可能性を否定できないとした。また、原処分庁からの証拠からでは、第1ファイルと第2ファイルの作成の時期や前後関係は明らかではないことから、第2ファイルが第1ファイルの後に作成され、申告書(収支内訳書)の作成の基になったものということはできず、請求人が第2ファイルに基づいて申告書を作成・提出したとまで認めることはできないとし、隠蔽・仮装行為には該当しないとの判断を示した。
パソコン内のすべてのデータの持ち帰りは違法?
2件目に紹介した裁決事例では、調査担当者が請求人のパソコン内に保存していたプライベートなデータを含むすべてのデータを持ち帰ったことに違法性があるかどうかも争点となっている。
請求人は、調査担当者がパソコンに保存しているデータを選別することなく、裁判所の令状等の法律的な根拠なしにデータを収奪しており、証拠資料の収集手続に重大な違法があると主張した。
しかし、審判所は、質問検査権(通則法74条の2)に基づいて書類等の提出を求める場合には、裁判所の令状は要求されておらず、また、調査担当者は、パソコンから出力された書類と申告額に開差があったことから、請求人の申告の基となったパソコンのデータが必要と判断し、請求人に提出の承諾を受けた上でデータを選別し、本件調査に必要なデータを取得したと認められるから、調査手続に原処分を取り消すべき違法は認められないとしている。
両社とも請求人が代表取締役を務める法人同士との取引は存在したか
最後に紹介する裁決事例は、リゾート開発の許可を巡り、その開発許可に基づく地位の売買が行われたか争われたものである。
本件は、リゾート用地を売却した請求人が、リゾート用地の売却益の額から、代表取締役を同じくする別法人から買い受けたとする開発許可に基づく地位の代金額を減算して所得の金額を算出し、法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が開発許可に基づく地位の売買が行われた事実はなく、契約書等は仮装されたものであるとして、青色申告の承認の取消処分を行うとともに、売買の代金として支出された金銭は寄附金に該当するなどとして、法人税等の更正処分及び重加算税等の賦課決定処分を行ったものである。
原処分庁は、請求人が所有する土地を第三者に売却するに際し、請求人と代表取締役を同じくする別法人との間で行われた、当該土地の開発許可に基づく地位の売買契約に関し、請求人は契約以前に行われた土地売買において、既に本件開発許可に基づく地位を別法人から取得していたと認められることから、本件契約は実体を欠くものであり、請求人が本件契約によって本件開発許可に基づく地位を買い受けたとは認められないなどとして、請求人による別法人への本件契約に基づく代金の支払は対価性のない支出であり、その支出額は「寄附金の額」に該当するなどと主張。一方、請求人は、開発許可に基づく地位の売買は実際に行われており仮装ではないなどと主張した。
開発許可の地位の売買にあらず
審判所は、土地売買の際の契約書の記載内容、代金額、本件土地売買に至る動機・目的等を踏まえると(表参照)、土地売買は開発許可に基づく地位を売買の目的物としたものであったとは認められないとし、契約の内容、契約締結の必要性などに照らすと、契約が実体のないものであったとはいえないから、本件支出は契約に基づく代金の支払であり、資産を対価なく他に移転したものとは認められないため、「寄附金の額」に該当しないとの判断を示した。したがって、審判所は、契約は仮装された実態のないものであったとはいえないことから、原処分の全部を取り消した。
【表】審判所の判断
契約書の記載内容 |
平成25年土地売買に係る契約書の第1条には、「甲は、本物件を乙に売り渡し、乙は別表(2)記載の事業を行うためこれを買受ける。」及び「乙は、本件土地につき、別表(1)の抵当権、根抵当権の負担があることを了承した。」との各記載がある。一方、開発許可については、その存在をうかがわせる記載はない。(開発許可に基づく地位についても売買の目的とされた平成28年土地売買に係る契約書においては、開発許可に基づく地位の存在が明示され、その承継に関して売主の協力義務が定められることなどの記載があることと対照的である。) |
売買代金 |
平成25年土地売買の代金額は、鑑定書評価額と同額であるところ、原処分庁は鑑定書の評価額は開発許可に基づく地位の価値を織り込んだ価額であると主張するが、鑑定書は、土地をリゾート適地ではなく、開発許可を要しない農地見込地と評価した上で鑑定評価額を算出したものであるから、鑑定書の評価額は、開発許可に基づく地位の価値を含まない土地のみの価値を示すものとみることもできる。そうすると、平成25年土地売買の代金額が鑑定書の評価額と同額であるという事実だけで、平成25年土地売買の代金額に開発許可に基づく地位の対価も含まれていたとまではいえない。 |
売買の動機・目的 |
土地の一部や開発許可に基づく地位に関連して、理由のない2件の民事訴訟を立て続けに提起され、対応を余儀なくされていたことが認められることなどからすると、平成25年土地売買の主たる動機・目的は、別会社の事業に対する第三者からの妨害行為阻止のために土地と開発許可に基づく地位を切り離すことにあった可能性を否定できない。 |
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