解説記事2024年05月06日 ニュース特集 隠ぺい仮装で重加算税、税理士に損害賠償責任(2024年5月6日号・№1026)
ニュース特集
善管注意義務違反を認め、賠償金は500万円超
隠ぺい仮装で重加算税、税理士に損害賠償責任
重加算税等の賦課決定処分が行われたのは、税務申告を委任した税理士が消費税の申告及び記帳代行の事務を履行せず、所得税の申告につきその善管注意義務に違反したものであるとした税理士損害賠償請求事件で、東京地方裁判所(武見敬太郎裁判官)は令和5年11月30日、税理士に対しておよそ500万円超の損害賠償責任を負うとの判決を下した(令和元年(ワ)第34567号)。裁判所は、税理士が税務に関する専門家として高度の注意をもって各通帳の写し等を確認すれば資金移動の状況を把握し、重加算税を賦課される可能性が高い取引であることを認識することができたとし、委任契約上の善管注意義務に違反したと判断した。
原告の弟のコンサル会社社長が外注費の一部を原告名義の預金口座に送金
本件は、眼科クリニックを営む原告(医師)が、税理士である被告に対し、所得税・消費税の申告及び記帳代行の各事務を委任したところ、被告が消費税の申告及び記帳代行の事務を履行せず、所得税の申告につきその善管注意義務に違反し、このために税務署長から重加算税等の賦課決定を受けたと主張して(表1参照)、債務不履行に基づく損害賠償としておよそ500万円超を求める事案である。

各賦課決定において、重加算税が賦課された理由については、①原告がW社(原告の弟が代表取締役を務める経営コンサルティング会社。なお、弟は原告クリニックの事務長も務める)に対してコンサルティング契約の報酬として支払った外注費として必要経費に算入された送金のうち、その一部が原告名義の預金口座に送金等されていること、②原告の弟が原告名義の各口座の出入金及び原告の事業の経理業務全般を行っていたことから、実際には報酬が支払われておらず、原告からW社への外注費名目での支払いや同社が原告に対して報酬に関する請求書を発行したことなどの行為が、原告が真実と異なる見せかけの外注費の支出状態を作出したものと認められ、これが隠ぺい又は仮装に当たると判断されたものとされている。
また、過少申告加算税が賦課された理由については、隠ぺい又は仮装事由に基づく部分を除き、修正申告前までは、修正申告後に比べて、平成28年分は2,345万7,547円、平成29年分は1,870万6,037円の総所得額がそれぞれ過少に申告されており、これに対応して納付すべき税額が修正申告後に増額され、これが更正を予知せずに修正されたものではなく、正当な理由も認められないと判断されたことによるものとされている。
なお、本事案に関する認定事実は表2のとおりである。

税理士は不適正申告のおそれがあれば資料の趣旨を委任者に確認
裁判所は、税理士が委任者から交付された資料に基づき税務申告を代理するにあたっては、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、税務に関する専門家として高度の注意をもって資料を確認した上、加算税等が賦課されるおそれがあるときは委任者に確認し、委任者の意思に反しない限り、適正な内容の税務申告を代理して行う義務を負うものと解するのが相当であるとした。
税務調査で収入金額及び必要経費が激減
本件について裁判所は、被告の税理士は原告側から請求書、領収書等の資料も交付を受けていたことから、被告事務所の事務員が一定程度はこれらの資料に基づいて仕訳をすることができたとみられるが、各年分のいずれの所得税申告においても、税務調査を踏まえた修正申告において、総収入金額及び必要経費の額が共に著しく減じられていることからすれば、およそ正確な仕訳がなされず、税務上の専門的知見に基づいた相当な注意をすることなく、売上げに計上すべきでない入金を売上げに計上し、経費に計上すべきでない出金を経費に計上したことが推認されると指摘。税理士は、請求書、領収書等の資料から明らかにならない出入金については、その趣旨等を原告側に確認した上、原告の意思に反しない限り、適正な内容の各年分の所得税申告を代理して行う義務を負っていたものと認めるのが相当であるとし、委任契約上の善管注意義務に違反したものとの判断を示した。
通帳の写し等を確認すれば
原告とW社の間の取引に係る事務処理に関しては、平成28年中の原告クリニックの事業に係る原告の預金口座とW社の預金口座の間の資金移動の状況をみれば、一見すると、原告からW社への送金がコンサルティング契約に基づく報酬の支払としてされているようにみられるものの、例えば、平成28年12月分の資金移動をみると、同月の原告からW社への送金のうち合計630万円は、原告からW社への資金移動と同日に同額がW社から原告に還流しており、しかも、W社から原告への資金移動は、あえて直接の振込みによらず、捕捉のより困難な現金の出入金によっているものとみられると指摘。また、原告とW社の代表者が姉弟の関係にあることなども考えれば、原告からW社への送金のすべてをコンサルティング契約に基づく報酬の支払として必要経費に計上して所得税の申告をすれば、事実を隠ぺいし又は仮装していると税務署長から認定されることもやむを得ず、重加算税を賦課される可能性が高い状況にあったというべきであるとした。
したがって、裁判所は、被告が税務に関する専門家として高度の注意をもって各通帳の写し等を確認すれば、資金移動の状況を把握し、原告からW社への送金をそのまま必要経費として計上すれば重加算税を賦課される可能性が高いことを認識できたというべきであるとし、委任契約上の善管注意義務に違反したものと認められるとの判断を示した。
重加の原因は納税者、9割を過失相殺
なお、損害額については、被告に対して約505万円の損害賠償責任を認めている。損害額の主な内訳をみると、過少申告加算税については、被告による記帳代行事務の不履行及び善管注意義務違反によるものであるため、9割を被告の債務不履行と相当因果関係のある損害としている。また、重加算税については、原告が所得税の課税標準等の計算となるべき事実を隠ぺい又は仮装していると税務署長に認定されることもやむを得ない所為に出たことによるものであることから、損害額の9割を過失相殺により控除している。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.