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解説記事2020年03月02日 SCOPE 虚偽の取締役会議事録に基づく申告を仮装・隠蔽行為と認定(2020年3月2日号・№825)

最善を尽くした相続税申告で税理士に懲戒処分
虚偽の取締役会議事録に基づく申告を仮装・隠蔽行為と認定


 虚偽の取締役会議事録を作成したところ、この議事録に基づいた相続税の申告が仮装・隠蔽行為に該当すると認定され、税理士業務の禁止処分(懲戒処分)を受けた税理士による懲戒処分の取消請求訴訟が東京地裁に提起されている。
 非上場会社においては、実際には開催されていない株主総会・取締役会の議事録作成を関与税理士に依頼することもあり得るのが現実だ。税理士・税理士法人からすると、その作成によって税理士業務の禁止処分を受けてはたまらないだろう。なぜ、何が、懲戒処分を受ける行為と認定されたのか、事案の概要及び当事者の主張を確認しておきたい。

混合財産の明確化が問題に

 本件では、相続税申告書の作成が前提となっている。懲戒処分の対象となったA税理士は、相続税の申告期限の2~3月前に初めて相続人らと面談した(その後、相続税申告の依頼を受けることになる。)。
 被相続人Bは株式会社Cの前代表者であった。Bには妻と3人の子の法定相続人がいる。C社は前代表者のBから多額の借入れがあった。相続人らはC社の事業に協力してきたが、小遣い程度しかもらっておらず、自分たちの名義の財産もない。C社の給与計上額と実際の支給額は一致せず、被相続人からの借入金は被相続人からの借入金だけでなく、家族のものも含まれているということであった。その給与由来の財産が、被相続人の貸付金(以下「自社貸付金」)の中に混在しているのは間違いないと聞き、限られた時間の中で、その混在している金額を確定しようとした。
 A税理士は、その混在している金額(自社貸付金となっているが、本来はC社から相続人らへの給与・賃金として扱われるべき金額、すなわち被相続人の財産ではなく相続人の固有財産)を被相続人Bの貸付金と相続人らの貸付金に区分・確定しようとし、できるだけ客観的な情報に基づいて明らかにしようとしたものであり、その内容が取締役会議事録での確認を経て、相続税申告書に反映されたものである。結果として1億1千万円を下らない金額を課税財産から圧縮したとされている。

確認・説明のための議事録作成が仮装・隠蔽に

 A税理士の主張・状況は上記の表1・表2のとおりだが、A税理士は、「相続人らが自身の預貯金等がないと述べる中、原告としては限られた時間において、混在している財産の金額をできるだけ客観的な情報に基づいて明らかにしようとしたのである。」と本件相続税申告の状況を明かし、「仮に本件申告書の作成が税理士法第45条第1項を充たすとしても、原告に対する業務停止処分は、以上の諸事情からして過重であり、その処分は、行政庁の裁量権の範囲を逸脱している。」として、懲戒処分の取消し請求を提訴した。

【表1】両当事者の主張

処分庁の主張 A税理士の主張
税理士法45条1項
「故意に、真正の事実に反して税務書類の作成をしたとき」の解釈
 開催されていない虚偽の取締役会議事録に基づき自社貸付金の金額を圧縮したことは仮装・隠蔽行為に該当する。  同項に該当するか否かは、取締役会議事録ではなく、当初申告の相続税の申告書が真正の事実に反するか否かで判断されるべきである。
取締役会議事録は税理士が作成したものか  取締役会が開催された事実はなく、取締役会で確認されたとする事項が自社貸付金のことであり、自社貸付金の存在を税理士が説明するまで知らなかった相続人が話し合うことはあり得ない。  取締役会議事録については、原告ではなく、相続人が、自己が作成した文書として押印しているのであって、取締役会議事録を原告が作成したと評価する余地はない。

【表2】A税理士の主張

A税理士の主張
税理士の故意について  原告は、追加財産の存在を認識していなかったのであるから、当初申告の際に追加財産について申告していないことについては、原告には故意がない。
 原告は、相続人らに確認のうえ、混在財産が存在しており、これが自社貸付金中にのみ混在していることを確認し、その金額については、関係者が調査の上、合理的に算定したものを根拠として当初申告を行っているのであって、追加財産に混在財産が混在している可能性については、原告には故意がない。
なぜ1億円以上も相続財産が圧縮されたのか 処分庁は、原告が少なくとも1億1000万円を下らない金額の相続財産を圧縮したことをもって、税理士業務の禁止の処分を下している。
 しかしながら、そもそも、相続人らの給与由来の財産は存在したのであり、修正申告において、当初申告から1億円以上も相続財産が増加しているのは、原告及び相続人らと○○統括官との間で、被相続人のC社に対する貸付金をすべて修正申告する一方で、追加財産の一部については、相続財産としないこととするという「政治決着」を行った結果に過ぎず、修正申告の内容が真正の事実と符合しているものではなく、本来的には、追加財産のみを修正申告するのが相続財産の総額としては真正の事実と符合している。

 相続財産の内容を確認・説明するための取締役会議事録の作成が、作成税理士の意図に反して仮装・隠蔽と評価されることがあるので留意しておきたい。
供述調書の内容から懲戒へ
 また、A税理士及び相続人らの供述調書の存在が仮装・隠蔽行為の事実認定となり、懲戒処分の根拠事実となっている。A税理士は、依頼者である相続人らや調査担当官に迷惑が掛からないように供述を行ったとしており、A税理士自身に懲戒処分を受けることは想定していなかったことが窺える。供述調書の内容次第では、税理士への懲戒処分が行われることにも留意しておかなければならない。

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