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解説記事2020年03月09日 ニュース特集 利益連動給与の算定方法における客観的要件とは?(2020年3月9日号・№826)

ニュース特集
審判所、事後的な評価は恣意を排除できず
利益連動給与の算定方法における客観的要件とは?


 利益連動給与(現行の業績連動給与)に該当するか否かで争われた注目すべき裁決事例が明らかになった。国税不服審判所は、利益連動給与の算定方法が客観的なものであるとの要件について、算定方法に利益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法であるとし、事前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法は客観的なものとの要件は満たさないとの見解を示している。その上で、請求人が利益連動給与の算定方法において用いている考課係数は、マイナス考課とするか否かも含めて事後的に取締役社長が決定しているため、考課係数の決定において恣意が排除されていると認めることはできないとして請求人の請求を棄却している(令和元年6月7日、大裁(法)平30第79号)。

原処分庁、算定方法における考課係数が不明

 今回の事案は、上場会社である請求人が業務執行役員に支給する利益連動給与(編注:本件では平成27年3月期から平成29年3月期での申告が争われているため、現行の「業績連動給与」ではなく、「利益連動給与」としている)を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が利益連動給与の算定方法は客観的なものとはいえないから損金の額に算入できないとして法人税等の更正処分等を行ったものである。
 原処分庁は、有価証券報告書に開示された算定方法において用いられる考課係数について、①取締役社長が算定する、②上限を1.0とし、マイナス考課により1.0未満とすることができるとされており、いかなる場合にどのような係数が用いられるのかが明らかとなっていないことから、本件算定方法は各事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的なものではないとしていた。一方、請求人は、不祥事等の不測の事態が生じた場合などに備えて、算定方法において考課係数を乗じることやマイナス考課の場合に考課係数を1.0未満とすることができることを定めたからといって、本件算定方法が客観的なものではないということはできないなどと主張していた(表1参照)。
 なお、請求人については、平成27年3月期から利益連動給与を導入しており、算定方法を有価証券報告書に開示している(表2参照)。

平成29年度税制改正で「利益連動給与」から「業績連動給与」に名称変更
 平成29年度税制改正では、株式交付信託を利益連動給与の対象にするため、利益連動給与の指標に「株式の市場価格の状況を示す指標及び売上高の状況を示す指標」(株価や売上高)を加えるとともに、「当該事業年度後の事業年度又は将来の所定の時点若しくは期間の指標」(複数年度を対象)を用いることができるようになった。また、利益連動給与の指標として「株価」等が加わったことにより、「利益連動給与」の名称が「業績連動給与」に変更されている。

【表1】当事者の主張

原処分庁 請求人
 以下のとおり、本件算定方法は、各事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的なものではない。
(イ)法人税法が利益連動給与の損金算入について一定の要件を課している趣旨は、支給時期・支給額に対する恣意性を排除した上で支給の透明性・適正性を確保することにある。このような趣旨からすると、利益連動給与の算定方法が客観的であると認められるのは、事前に定められ開示された算定方法が、その内容に基礎となる利益に関する指標を当てはめることにより、個々の業務執行役員への支給額(予定額)を算出することができるものである場合をいうものと解される。
(ロ)本件についてみると、本件開示において開示された算定方法では、算定方法において用いられる考課係数について、①取締役社長が算定する、②上限を1.0とし、マイナス考課により1.0未満とすることができるとされており、いかなる場合にどのような係数が用いられるのかが明らかとなっていない。そのため、本件算定方法は、その内容に基礎となる利益の指標を当てはめても、個々の業務執行役員の本件利益連動給与の額を算定することができない。したがって、本件算定方法は、本件各事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的なものではない。
 以下のとおり、本件算定方法は、各事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的なものである。
(イ)不祥事等の不測の事態が生じた場合に利益連動給与を減額することは当然である。そうすると、そのような場合に備えて、本件算定方法において考課係数を乗じることやマイナス考課の場合に考課係数を1.0未満とすることができることを定めたからといって、本件算定方法が客観的なものではないということはできない。原処分庁の主張の(イ)の法令解釈は確立したものではなく、理由がない。
(ロ)法人税法は、利益連動給与の損金算入の要件として、確定額を限度とすることを規定しているところ、本件利益連動給与の総額は、本件算定方法において最大1億円とされ、現に本件各事業年度において同額以下となっていることから、本件算定方法は、客観的なものである。
(ハ)仮に原処分庁の主張の(イ)の法令解釈を前提としても、本件利益連動給与は、経済人である請求人が節税を図るとともに適用対象取締役が最大の給与を得ることを意図していることから、考課係数を1.0とすることが予定されており、本件算定方法は客観的なものである。

客観的な算定方法とは「利益に関する指標を当てはめれば自動的に算出」

 審判所は、利益連動給与は法人の利益に連動して役員給与の支給額を事後的に定めることを許容することは安易な課税所得の操作の余地を与えかねず、課税上の弊害が極めて大きいことから、損金算入が認められる余地はないと考えられてきたが、このような形態の役員給与であっても、職務執行の対価性に欠けるものではなく、支給時期・支給額に対する恣意性を排除した上で損金算入の余地を与えることとすれば、多様な役員給与の支給形態により中立的な税制を実現し得ることとなることから、平成18年度税制改正により、支給の透明性・適正性を確保するための一定の要件を課した上で、損金算入が可能になったものであるとした。そして、平成18年度税制改正の経緯及び制度の趣旨に鑑みれば、法人税法34条1項3号イの「算定方法が……客観的なもの」という要件を満たすためには、個々の業務執行役員の給与の支給時期・支給額の決定に恣意がないような算定方法、すなわち、算定方法に利益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われるべき利益連動給与の額が自動的に算出されるものであることを要し、事前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法などは要件を満たさないと解するのが相当であるとの見解を示した。
考課係数の具体的な算定方法は記載されず
 その上で審判所が有価証券報告書に開示された算定方法をみると、算定方法に考課係数を用いているが、「上限を1.0とする」「マイナス考課により、考課係数を1.0未満とすることができる」「マイナス考課については、取締役社長が算定する」とされているのみで、マイナス考課の適用条件や考課係数の具体的な算定方法は何ら記載されていないと指摘。マイナス考課とするか否かも含め、開示後に取締役社長が決定しているのであるから、考課係数の決定において恣意が廃除されていると認めることはできず、本件算定方法が利益に関する指標を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対する利益連動給与の額が自動的に算出されるものであるとは認められないとし、法人税法34条1項3号イに規定する「算定方法が……客観的なもの」という要件を満たさないとの判断を示した。

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