解説記事2024年07月01日 税制改正解説 令和6年度における納税環境整備に関する改正について(2024年7月1日号・№1033)
税制改正解説
令和6年度における納税環境整備に関する改正について
甲田圭人
はじめに
令和6年度税制改正では、物価の上昇を上回る持続的な賃金の上昇が行われる経済の実現、生産性の向上等による供給力の強化等の観点から、個人所得課税、資産課税、法人課税、消費課税、国際課税、納税環境整備等について所要の措置が講じられ、関係法令の改正が行われた。
このうち納税環境整備関係の改正では、処分通知等の電子交付の抜本的拡充、隠蔽・仮装がされた事実に基づき更正請求書を提出していた場合の重加算税制度の整備、偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備等の改正が行われた。
以下では、これらの法令改正の主な内容について説明することとする。
一 処分通知等の電子交付の拡充
1 改正前の制度の概要
(1)電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができる処分通知等
国税に関する処分通知等については、各税法の規定により通知書等(書面)を交付して行うことが原則とされているが、処分通知等に関する他の法令の規定において書面等により行うこと等が規定されているものについては、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができることとされている(情報通信技術活用法7①)。ただし、その処分通知等を受ける者が電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により受ける旨の一定の方式による表示をする場合に限定されている(情報通信技術活用法7①ただし書)。
(注)上記の「一定の方式」は、「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨」をその処分通知等に係る申請等に併せて入力して送信する方式とされていた(旧国税オンライン化省令11)。すなわち、税務署長等が納税者(処分通知等を受ける者)に対して電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を行う場合には、あらかじめ、納税者(処分通知等を受ける者)がその処分通知等に係る申請等を行う都度、「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法によりその処分通知等を受ける旨」の表示(同意)をする必要があった。
(2)電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができる処分通知等の範囲
電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができる処分通知等は、法令の規定に基づき税務署長等が行う処分通知等のうち国税庁長官が定めるものに限定されており、具体的には、次に掲げる処分通知等とされている(旧国税オンライン化省令9②、旧令和3年国税庁告示第15号)。
① 所得税の予定納税基準額及び予定納税額の通知又は予定納税額の減額承認申請に対する処分の通知
② 適格請求書発行事業者の登録に係る通知
③ 更正の請求に係る次に掲げる処分通知等
イ 更正通知書の送達
ロ 更正をすべき理由がない旨の通知
④ 更正の請求に係る更正があった場合に課する加算税に係る賦課決定通知書の送達
⑤ 期限後申告書又は修正申告書の提出があった場合に課する加算税の賦課決定通知書の送達
⑥ 納税証明書の交付
⑦ 住宅ローン控除証明書の交付
⑧ 電子申請等証明書の交付
⑨ 国税庁長官による電子計算機(クラウド等)の認定若しくは認定申請の却下又は認定電子計算機(認定クラウド等)の認定の取消しの処分の通知
(3)電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行われた処分通知等の到達時期
電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行われた処分通知等は、その処分通知等を受ける者の使用に係る電子計算機(以下「特定電子計算機」という。)に備えられたファイルへの記録がされた時にその処分通知等を受ける者に到達したものとみなすこととされている(情報通信技術活用法7③)。
2 改正の内容
(1)電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができる処分通知等の範囲の抜本的拡充
令和4年6月7日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においては、国税当局からの処分通知等のデジタル化を推進する方針が示されており、同年12月23日に閣議決定された「令和5年度税制改正の大綱」においては、国税庁の新たな基幹システムの導入時期に合わせて、処分通知等の更なる電子化に取り組むこととされている。
今回の改正においては、これらの閣議決定で示された方針を踏まえ、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができる処分通知等の範囲について、上記1(2)の「国税庁長官が定めるもの(処分通知等)」という限定が廃止された(国税オンライン化省令9②、令和6年国税庁告示第6号)。すなわち、この改正により、国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令(平成15年財務省令第71号)(国税オンライン化省令)上は、法令の規定に基づき税務署長等が行う処分通知等の全てについて、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行うことができることとなる。
(2)電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨の表示の方式の見直し等
上記(1)の改正に伴い、上記1(1)(注)の「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨」の表示の方式について、従前の「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨」をその処分通知等に係る申請等に併せて入力して送信する方式から、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により、特定電子計算機から、あらかじめ、「電子メールアドレス」及び「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨」を入力して送信する方式に改められた(国税オンライン化省令11①)。
上記の「電子メールアドレス」の入力及び送信については、納税者(処分通知等を受ける者)の見落としを防止する観点から、納税者(処分通知等を受ける者)に対し、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を行った旨を電子メールで送信するために、新たに求めることとされたものである。
また、この改正に伴い、処分通知等を受ける者が、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により、「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受けない旨」の表示をしたときは、税務署長等は、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を行ってはならないこととされた(国税オンライン化省令11②)。ただし、その処分通知等を受ける者が再度「電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を受ける旨」の表示をした場合には、税務署長等は、電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により処分通知等を行うことができることとされている(国税オンライン化省令11②ただし書)。
3 適用関係
上記2の改正は、令和8年9月24日から施行される(改正国税オンライン化省令附則)。
二 隠蔽し、又は仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合の重加算税制度の整備
1 改正前の制度の概要
申告納税方式による国税については、納税申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、その申告の適正性を担保するため、行政制裁として過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税の制度が設けられている(通法65、66、68)。これらの各加算税の概要は、次のとおりである。
(1)過少申告加算税の概要
期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正(以下「修正申告等」という。)があったときは、納税者に対し、その修正申告等に基づいて納付すべき税額に10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すこととされている(通法65①②)。ただし、修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ、調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すこととされている(通法65①②)。なお、その修正申告書の提出が調査による更正を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税を課されないこととされている(通法65⑥)。
(2)無申告加算税の概要
期限後申告書の提出若しくは決定があった場合又はその期限後申告書の提出若しくは決定があった後に修正申告書の提出若しくは更正があった場合には、納税者に対し、その期限後申告書若しくは修正申告書の提出又は更正若しくは決定に基づいて納付すべき税額に15%(納税額が50万円を超える部分は20%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととされている(通法66①②)。ただし、期限後申告書又は修正申告書の提出が、調査通知以後、かつ、調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10%(納税額が50万円を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととされている(通法66①②)。
また、納付すべき税額が300万円を超える部分については、無申告加算税の割合は30%(調査通知以後に、かつ、その調査があることにより更正又は決定があるべきことを予知する前にされた期限後申告又は修正申告に基づいて納付すべき税額に係る無申告加算税の割合については、25%)とされているが、この300万円を超えるかどうかについては、納税者の責めに帰すべき事由がないと認められる事実に基づく税額を控除して判定することとされている(通法66③)。
なお、その期限後申告書又は修正申告書の提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合において、調査通知がある前に行われたものであるときは、その申告に基づいて納付すべき税額に係る無申告加算税の額は、その税額に5%の割合を乗じて計算した金額とされ、通常の場合よりも軽減することとされている(通法66⑧)。
(3)重加算税の概要
① 過少申告加算税に代えて課される場合の重加算税
過少申告加算税が課される場合(調査による更正を予知しないでされた申告による場合を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して納税申告書を提出していたときは、納税者に対し、過少申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に35%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされている(旧通法68①)。
② 無申告加算税に代えて課される場合の重加算税
無申告加算税が課される場合(調査による更正又は決定を予知しないでされた申告による場合等を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、納税者に対し、無申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に40%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされている(旧通法68②)。
2 改正の内容
近年、申告後に納税者が税額の減額を求めることができる更正の請求において、架空の領収書等の作成といった隠蔽・仮装行為が行われているものの、従前の制度では、重加算税を課すことができず、通常の過少申告加算税が課されるに過ぎないといった事例が把握されている。
また、平成23年12月の国税通則法の改正により、更正の請求期間が1年から5年に延長されたことに伴い、その改正前と比べて更正の請求の処理件数が増加しており、隠蔽・仮装に基づく更正請求書が提出される蓋然性が高まっていると考えられる一方、税務当局では限られた人員等で効果的・効率的な税務調査の運営を行っており、更正の請求の全件に対して、反面調査を行う等の実地調査と同等の事務量を投下した調査を行うことには限界があることから、隠蔽・仮装に基づく更正の請求による納税義務違反の発生を調査により未然防止することが困難な事例が把握されていた。
そのため、こういった税務行政の環境の変化に対応し、更正の請求に係る隠蔽・仮装行為を未然に抑止するための制度上の対応が課題とされていた。
こうした課題等を踏まえ、財務省において有識者をメンバーとして開催された「納税環境整備に関する研究会」において議論が行われ、以下のとおり更正の請求に係る隠蔽・仮装行為に対応するための重加算税制度の整備の必要性について指摘がされている(納税環境整備に関する研究会における主な意見等の整理(令和5年11月))。
・現行では仮装・隠蔽に基づく更正の請求に対して重加算税を課すことができないが、更正の請求も申告納税方式の一部であり、申告秩序を維持する観点から、重加算税を課すことは理論的に問題はない。不納付についても重加算税が課されており、狭義の申告秩序に限らず重加算税が法制化されている。
・一般論として、現行法が前提としている立法事実が変化すれば合理的な範囲内で修正することはよくある話であり、仮装・隠蔽に基づく更正の請求に対して重加算税を課すことに賛同する。
・適正な課税所得や税額を明らかにすることについて欺罔的な行為が行われているのであれば、バランスという観点で、仮装・隠蔽に基づく更正の請求に対しても重加算税を課す仕組みを導入することは合理的である。
今回の改正においては、こうした納税環境整備に関する研究会における議論を通じた指摘、更正の請求に係る隠蔽・仮装を未然に防止する必要性の高まり及び税額を確定させる申告と税の減額を求める更正の請求という手続の性質によって、隠蔽・仮装が行われた場合に課される加算税の水準が異なるという制度上の課題等を踏まえ、更正の請求に係る隠蔽・仮装行為を未然に抑止する観点から、過少申告加算税又は無申告加算税に代えて課される重加算税の適用対象に、「隠蔽し、又は仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合」が追加された(通法68①②)。
具体的には、過少申告加算税が課される場合(調査による更正を予知しないでされた申告による場合を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して更正請求書を提出していたときは、納税者に対し、過少申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に35%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされた(通法68①)。
また、無申告加算税が課される場合(調査による更正又は決定を予知しないでされた申告による場合等を除く。)において、納税者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽・仮装して法定申告期限後に更正請求書を提出していたときは、納税者に対し、無申告加算税に代えて計算の基礎となるべき税額に40%の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課すこととされた(通法68②)。
3 適用関係
上記2の改正は、令和7年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用し、同日前に法定申告期限等が到来した国税については、従前どおりとされている(改正法附則19)。したがって、例えば、通常、所得税については令和6年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和6年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることとなる。
三 偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備
1 改正の背景等
滞納となった国税については早期徴収の取組が行われており、そのほとんどが比較的短期間で徴収されている。
他方、法人の代表者が不正に申告を行い、財産を散逸させて納税義務を免れ、調査や滞納処分を行う段階では既にその法人の財産が残存せず、従前の徴収手続では滞納となった国税の徴収が困難な事例が把握されており、こういった事例への対応が課題とされてきた。
こうした課題等を踏まえ、財務省において有識者をメンバーとして開催された「納税環境整備に関する研究会」において議論が行われ、以下のとおり不正申告を行った株式会社の役員等に対する徴収手続の整備の必要性について指摘がされている(納税環境整備に関する研究会における主な意見等の整理(令和5年11月))。
・現行の無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務を適用できない場合に、これと類似した形で、悪意等は要件とせずに財産の移転の事実を捉えて第二次納税義務を課すことが考えられる。
・現行の第二次納税義務制度では欠けている面もあり、事例にあるような代表者に対して第二次納税義務を課すことは合理的である。一般論として、行為主体である自然人への責任追及に加え、民法では使用者責任として法人に責任を追及し、会社法では役員の一定の行為を法人に帰属させる規定がある。刑法では両罰規定に基づき行為者の行為を法人に帰属させる。他方、重加算税や課徴金については法人自体に課される。所有と経営の分離がなされていないような法人について、日本の法人課税方式では行為主体である自然人に対する規律が弱くなっている場合に部分的にカバーすべく、第二次納税義務を課すと説明できるのではないか。
今回の改正においては、こうした議論を通じた指摘などに関する滞納処分の執行上の課題を踏まえ、法人を支配する役員等が法人の財産を散逸させて納税義務を免れる行為を未然に防止する観点から、偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備をすることとされた。
2 改正の内容
(1)偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務制度の概要
偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた株式会社、合資会社又は合同会社がその国税を納付していない場合において、滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する(以下「徴収不足」という。)と認められるときは、その偽りその他不正の行為をしたその株式会社の役員又はその合資会社若しくは合同会社の業務を執行する有限責任社員(その役員又は有限責任社員を判定の基礎となる株主又は社員として選定した場合にその株式会社、合資会社又は合同会社が被支配会社に該当する場合におけるその役員又は有限責任社員に限る。以下「特定役員等」という。)は、その偽りその他不正の行為により免れ、若しくは還付を受けた国税の額又はその株式会社、合資会社若しくは合同会社の財産のうち、その偽りその他不正の行為があった時以後に、その特定役員等が移転を受けたもの及びその特定役員等が移転をしたもの(その取引の内容その他の事情を勘案して、その取引の相手方との間で通常の取引の条件に従って行われたと認められる一定の取引(以下「通常の取引」という。)として移転をしたものを除く。)の価額のいずれか低い額を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負うこととされた(徴法40)。
(2)本措置の対象となる法人(滞納者)
本措置の対象となる法人(滞納者)は、「株式会社、合資会社又は合同会社」とされている。これは、税務当局において把握されている法人を支配する役員等が納税義務を免れるためにその法人の財産を散逸させる事例の多くは株式会社が滞納者のものであることを踏まえたものであるが、会社法上、株式会社と持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)は組織変更をすることができることとされていること等から、本措置の対象から逃れようとする潜脱行為に対応するため、対応の必要性が高い株式会社のほか、合資会社及び合同会社についてもその対象とされたものである。
なお、合名会社及び合資会社の無限責任社員は、既存の第二次納税義務(合名会社等の社員の第二次納税義務)の対象とされている(徴法33)。そのため、合名会社については、本措置の対象外とされ、合資会社については、その第二次納税義務を負う無限責任社員に対し滞納処分を執行しても徴収不足と認められる場合に限り、合資会社の業務を執行する有限責任社員に対し本措置が適用される。
(3)偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税
本措置の対象となる国税は、株式会社、合資会社又は合同会社が「偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税」とされているが、この「偽りその他不正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段としての税の賦課徴収を不能とし、又は著しく困難とするような何らかの偽計その他工作を行うことをいい、重加算税の賦課要件である「隠蔽・仮装行為」も、これに該当するものと考えられる。
なお、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた株式会社、合資会社又は合同会社については、通常、その後の調査において、本税のほか、重加算税や延滞税等の附帯税についても納付する必要があるところ、本措置は、「偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税」のほか、こういった本税に付随する附帯税についても対象とされている。
(4)本措置の対象となる被支配会社の役員等(第二次納税義務者)
本措置は、近年把握されている「オーナー企業」のような法人の悪質事例に対処することが目的であることや、所有と経営が分離されていない会社の役員については一般的に、株主による経営陣への監視体制が不十分であることを踏まえ、その対象を「株式会社の役員又はその合資会社若しくは合同会社の業務を執行する有限責任社員を判定の基礎となる株主又は社員として選定した場合にその株式会社、合資会社又は合同会社が被支配会社に該当する場合におけるその役員又は有限責任社員」として、株式50%超(親族等の一定の者と合わせて50%超を含む。)を保有するなどによりその法人を支配している役員に第二納税義務を負う対象が限定されている。
なお、この「被支配会社」とは、1株主グループの所有株式数が会社の発行済株式又は出資の50%を超える場合等におけるその会社をいうが、具体的には、会社の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の1人並びにこれと一定の特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の50%を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合等におけるその会社をいう(法法67②、法令139の7)。
他方、特定役員等が移転をした株式会社、合資会社又は合同会社の財産の移転の相手方については、本措置の対象外とされている。これは、この移転の相手方は特定役員等による不正行為に加担している認識がない場合や、その意思に反して不正行為及び社外への財産の移転に加担している場合も存在し得ることから、仮に財産の移転の相手方に対して第二次納税義務を課すこととした場合、その置かれた状況から、不正行為により移転された財産の移転先であることだけをもって、第二次納税義務の対象とするのは酷な場合も存在することなど、近年把握されている国税の徴収が困難な事例の実態や、本来の納税者以外の第三者に新たに納税義務を課す影響の大きさが勘案されたものである。
(5)特定役員等の偽りその他不正の行為の実行
本措置は、第二次納税義務という重い責務を負わせることから、その範囲は謙抑的に設定され、偽りその他不正の行為(財産の移転)をした役員等本人のみを対象とし、無関係の役員等は義務を負わないこととされている。
なお、従業員等への指示による場合については、明示的な指示であって明らかに役員の直接の行為と同視し得るものであれば対象となり得るが、役員等が主体的に関与したと認められない場合については射程に含まれないものと考えられる。
(6)特定役員等の責任の限度
本措置は、次に掲げる額のいずれか低い額を限度として不正行為により免れた国税の第二次納税義務を課すものである。
① その偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税の額
② その偽りその他不正の行為があった時以後に、「その特定役員等が移転を受けた財産」及び「その特定役員等が移転をした財産(通常の取引として移転をしたものを除く。)」の価額
なお、「その特定役員等が移転をした財産」については、「通常の取引として移転をしたもの(財産)」が除外されている。これは、通常の営業活動の一環として行われる取引としての移転等に係る財産の価額についてまで、その移転を直接受けていない役員に追及するのは酷であり、かつ、結果として取引の相手方との関係で、取引の安定性を阻害することになりかねないことが考慮されたものである。
また、「通常の取引」の範囲については、具体的には、その取引の内容その他の事情を勘案して、その取引の相手方との間で通常の取引の条件に従って行われたと認められる一定の取引であり、業界慣行等に照らした客観基準により判断されるものと考えられる。
(7)無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務との関係
滞納者の国税につき滞納処分を執行しても徴収不足と認められる場合において、その徴収不足と認められることが、その国税の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った無償譲渡等の処分に基因すると認められるときは、その無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者(利益を受けた者)は、その無償譲渡等の処分により受けた利益が現に存する限度(その利益を受けた者がその無償譲渡等の処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、その無償譲渡等の処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負うこととされている(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務:徴法39)。
そのため、法人から役員等へ財産が移転された場合については、その移転が、上記無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務の無償譲渡等の処分で行われること等の要件に該当し、かつ、本措置の偽りその他不正の行為をした役員等が受けた財産の移転に該当するときがあり得るが、その場合には、「無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務(徴法39)」と本措置のそれぞれにおいて、責任の限度を計算し、滞納国税の範囲内で第二次納税義務を課すことができることになる。
3 適用関係
上記の改正は、令和7年1月1日以後に偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税について適用される(改正法附則20①)。なお、この「偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税」については、具体的には、期限内申告しているときは「法定申告期限経過の時」を、期限後申告しているときは「期限後申告の時」を、還付申告しているときは「還付申告の時」を、無申告のときは「法定申告期限経過の時」を、それぞれ基準として判断することになるものと考えられる。
四 保全差押え等を解除しなければならない期限の整備
1 改正前の制度の概要
(1)保全差押えの要件
納税義務があると認められる者が不正に国税を免れ、又は国税の還付を受けたことの嫌疑に基づき、国税通則法第11章(犯則事件の調査及び処分)の規定による差押え、記録命令付差押え若しくは領置又は刑事訴訟法の規定による押収、領置若しくは逮捕を受けた場合において、その処分に係る国税の納付すべき額の確定(申告、更正又は決定による確定をいい、源泉徴収等による国税についての納税の告知を含む。以下同じ。)後においてはその国税の徴収を確保することができないと認められるときは、税務署長は、その国税の納付すべき額の確定前に、その確定をすると見込まれる国税の金額のうちその徴収を確保するためあらかじめ滞納処分を執行することを要すると認める金額(以下「保全差押金額」という。)を決定することができることとされている。この場合において、徴収職員は、その保全差押金額を限度として、その者の財産を直ちに差し押さえることができることとされている(徴法159①)。
(2)保全差押えの手続
① 国税局長の承認
税務署長は、保全差押金額を決定しようとするときは、あらかじめ、その所属する国税局長の承認を受けなければならないこととされている(徴法159②)。
② 保全差押金額の通知
税務署長は、保全差押金額を決定するときは、その保全差押金額を納税義務があると認められる者に書面で通知(以下「保全差押金額の決定通知」という。)をしなければならないこととされている(徴法159③)。
③ 担保の提供
保全差押金額の決定通知をした場合において、納税義務があると認められる者がその保全差押金額の決定通知に係る保全差押金額に相当する担保を提供してその差押えをしないことを求めたときは、徴収職員は、その差押えをすることができないこととされている(徴法159④)。
(3)保全差押え又は担保の解除
徴収職員は、次の①又は②に該当するときは差押えを、次の③に該当するときは担保を、それぞれ解除しなければならないこととされている(旧徴法159⑤)。
① 差押えを受けた者が担保を提供して、その差押えの解除を請求したとき。
② 保全差押金額の決定通知をした日から6月を経過した日までに、その差押えに係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。
③ 保全差押金額の決定通知をした日から6月を経過した日までに、保全差押金額について提供されている担保に係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。
2 改正の内容
近年、経済取引の国際化等に伴い脱税の手段が複雑化・巧妙化しているほか、証拠物等のデジタル化の急速な進展により、査察調査の期間が長期化する傾向にある。
このため、保全差押えを解除しなければならない期限までに納付すべき額の確定がなく、保全差押えが解除され、その後、税額が確定して滞納となった国税の徴収が困難な事例が把握されており、こうした事例への対応が課題とされていた。
こうした課題等を踏まえ、財務省において有識者をメンバーとして開催された「納税環境整備に関する研究会」において議論が行われ、保全差押え等を解除しなければならない期限の整備の必要性について指摘がされている(納税環境整備に関する研究会における主な意見等の整理(令和5年11月))。
今回の改正においては、こうした納税環境整備に関する研究会における指摘や、保全差押えを解除しなければならない期限までに納付すべき額の確定がないため、保全差押えを解除せざるを得なかった事例への対応といった制度上の課題を踏まえ、保全差押え又はその保全差押金額について提供されている担保に係る国税について、その納付すべき額の確定がない場合におけるその保全差押え又は担保を解除しなければならない期限を、その保全差押金額をその者に通知をした日から1年を経過した日までに延長する措置が講じられた。
具体的には、徴収職員は、次の(1)又は(2)に該当するときは差押えを、次の(3)に該当するときは担保を、それぞれ解除しなければならないこととされた(徴法159⑤)。
(1)差押えを受けた者が担保を提供して、その差押えの解除を請求したとき。
(2)保全差押金額の決定通知をした日から1年(改正前:6月)を経過した日までに、その差押えに係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。
(3)保全差押金額の決定通知をした日から1年(改正前:6月)を経過した日までに、保全差押金額について提供されている担保に係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。
3 適用関係
上記2の改正は、令和7年1月1日以後にされる保全差押金額の決定について適用し、同日前にされた保全差押金額の決定については従前どおりとされている(改正法附則20②)。
五 その他納税環境整備関係の改正
1 税務代理権限証書等の様式の整備
(1)改正前の制度の概要
① 税務代理権限証書の提出
税理士又は税理士法人は、税務代理をする場合においては、その権限を有することを証する書面(以下「税務代理権限証書」という。)を税務官公署に提出しなければならないこととされている(税理士法30、48の16、税理士規則15、旧税理士規則第8号様式)。
② 計算事項等記載書面の添付
税理士又は税理士法人は、申告納税方式又は申告納付若しくは申告納入の方法による租税の課税標準等を記載した申告書を作成したときは、その申告書の作成に関する計算事項等を記載した書面(以下「計算事項等記載書面」という。)をその申告書に添付することができることとされている(税理士法33の2①、税理士規則17、旧税理士規則第9号様式)。
③ 審査事項等記載書面の添付
税理士又は税理士法人は、上記②の申告書で他人の作成したものにつき相談を受けてこれを審査した場合において、その申告書が租税に関する法令の規定に従って作成されていると認めたときは、その審査した事項等を記載した書面(以下「審査事項等記載書面」という。)をその申告書に添付することができることとされている(税理士法33の2②、税理士規則17、旧税理士規則第10号様式)。
(2)改正の内容
国税庁においては、令和8年度に新たな基幹システム(次世代システム)の導入を予定しており、その導入後は、納税者から書面等で収受した申告書、申請書、届出書等について、原則として、スキャナによりイメージ化をするとともに、AI-OCRによりデータ化をすることとされており、これに対応するため、これらの様式に読取項目を識別するための識別数字・記号の追加等をする必要がある。
書面等で収受した税務代理権限証書、計算事項等記載書面及び審査事項等記載書面についても、次世代システムにおけるAI-OCRによるデータ化等に対応する必要があることから、今回の改正において、国税庁長官は、税務代理権限証書、計算事項等記載書面及び審査事項等記載書面の様式について必要があるときは、所要の事項を付記すること又は一部の事項を削ることができることとされた(税理士規則28)。この改正により、将来のシステム変更等があった場合でも、柔軟に対応することが可能となる。
また、税務代理権限証書、計算事項等記載書面及び審査事項等記載書面の各様式について、「登録番号等(税理士登録番号・税理士法人番号)」の記載があれば、税務当局において、「所属税理士会・支部」を把握することが可能であることを踏まえ、AI-OCRの導入に伴う記載事項の簡素化の観点から、これらの様式の記載事項から、「所属税理士会・支部」が除外された(税理士規則第8号様式~第10号様式)。
(3)適用関係
上記(2)の改正は、令和8年9月1日から施行される(改正税理士規則附則1ただし書)。なお、その施行の際、現に存する改正前の税務代理権限証書、計算事項等記載書面及び審査事項等記載書面の各様式による用紙は、当分の間、これを使用することができることとされている(改正税理士規則附則2⑤)。
2 個人番号を利用した税理士の登録事務等の利便性の向上
(1)改正前の制度の概要
① 税理士の登録申請手続
イ 税理士の登録事項
税理士となる資格を有する者が、税理士となるには、税理士名簿に次に掲げる事項の登録を受けなければならないこととされていた(税理士法18、旧税理士規則8)。
(イ)氏名、生年月日、本籍及び住所並びに税理士となる資格及びその資格の取得年月日
(ロ)次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める事項
a 税理士法人の社員となる場合……その所属する税理士法人又は設立しようとする税理士法人の名称及び執務する事務所等の所在地
b 所属税理士となる場合……その勤務する税理士事務所の名称及び所在地又はその所属する税理士法人の名称及び勤務する事務所等の所在地
c a及びbに掲げる場合以外の場合……設けようとする税理士事務所の名称及び所在地
(ハ)国税又は地方税に関する行政事務に従事していた者については、国税又は地方税に関する行政事務に従事しなくなった日前5年間に従事した職名及びその期間
ロ 税理士の登録申請書の提出
この税理士登録を受けようとする者は、上記の登録事項に加え、学歴、職歴、税理士の欠格条項及び登録拒否事由に該当しない旨等を記載した登録申請書をその者がその登録を受けようとする税理士事務所又は税理士法人の事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会を経由して日本税理士会連合会に提出しなければならないこととされている(税理士法21①、税理士規則11①④)。
また、この登録申請書には、次に掲げるもの(税理士試験受験願書又は税理士試験免除申請書若しくは研究認定書兼税理士試験免除申請書の提出の時から氏名又は本籍に変更があった者以外の者にあっては、下記(ハ)の戸籍抄本を除く。)を添付しなければならないこととされていた(旧税理士規則11②)。
(イ)申請者の写真
(ロ)履歴書
(ハ)戸籍抄本
(ニ)住民票の写し
(ホ)申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者及び準禁治産者でない旨の官公署の証明書等
(ヘ)申請者が欠格条項及び登録拒否事由のいずれにも該当しないことを誓約する書面
(ト)上記(イ)から(ヘ)までに掲げるもののほか、日本税理士会連合会が必要であると認めたもの
ハ 電子情報処理組織による申請等
上記ロの税理士の登録申請書の提出などの日本税理士会連合会又は税理士会に対して行うこととされている申請等については、電子情報処理組織を使用する方法により行うことができることとされている(税理士規則27①)。
この電子情報処理組織を使用する方法により申請等を行う者は、申請等をする者の使用に係る電子計算機(以下「特定電子計算機」という。)から、その申請等に関する規定において書面等に記載すべきこととされている事項を入力して送信することにより、その申請等を行わなければならないこととされている(税理士規則27④)。
また、その申請等に関する規定に基づき添付すべきこととされている書面等に記載されている事項又は記載すべき事項を併せて入力して送信することをもって、その書面等の提出に代えることができることとされている(旧税理士規則27⑤)。
② 税理士試験の受験手続等
イ 税理士試験受験願書等の提出
税理士試験を受けようとする者は、税理士試験受験願書に税理士試験受験申込書、受験票等の一定の書類を添付し、税理士試験受験願書の受付期間内に、その税理士試験を受けようとする場所を管轄する国税局長を経由して、国税審議会会長に提出しなければならないこととされている(税理士規則2の4①)。
この税理士試験の受験の前提となる受験資格について、国税審議会の認定を受けようとする者は、税理士試験受験資格認定申請書に、学歴等を証する書面等の一定の書類を添付して、国税審議会会長に提出しなければならないこととされている(税理士規則2の3①)。
他方、税理士試験においては、一部の科目を合格した場合のほか、一定の資格・経験に基づき税理士となるために必要な学識及び応用能力を有していると認められる場合には、申請によりそれぞれの専門分野に関係する科目の試験を免除することとされている(税理士法7、8)。
この免除の申請について、具体的には、試験科目のうちの一部の科目につき試験の免除を申請しようとする者は、税理士試験受験願書に試験免除を受ける資格を有することを証する書面を添付するとともに、税理士試験受験願書に添付すべき税理士試験受験申込書に免除を受ける科目を記載しなければならないこととされているが(税理士規則2の4②④)、その者のうち、あわせて試験科目の免除に係る国税審議会の認定を受けようとする者は、修士の学位等を授与されたことを証する書面等の一定の書類を添付した研究認定申請書を税理士試験受験願書に添付しなければならないこととされている(税理士規則2の4③)。
また、試験科目の全部につき試験の免除を受けようとする者は、その資格を有することを証する書面等の一定の書類を添付した税理士試験免除申請書又は研究認定申請書兼税理士試験免除申請書を国税審議会会長に提出しなければならないこととされている(税理士規則3①②)。
なお、上記の税理士試験受験願書の提出等の国税審議会会長に対して行う申請等については、電子情報処理組織を使用する方法により行うことができることとされている(国税オンライン化省令3②)。
ロ 税理士試験の受験手数料等の納付
税理士試験を受けようとする者は、受験手数料を納付しなければならないこととされている(税理士法9①)。
また、国税審議会の認定を受けようとする者は、認定手数料を納付しなければならないこととされている(税理士法9②)。
なお、この受験手数料又は認定手数料は、それぞれ税理士試験受験願書又は研究認定申請書若しくは研究認定申請書兼税理士試験免除申請書に収入印紙を貼って納付しなければならないこととされている(税理士規則4)。
(2)改正の内容
税理士を含む社会保障等に係る国家資格等については、マイナンバー(個人番号)を利用した手続のデジタル化を進め、住民基本台帳ネットワークシステム等との連携等により資格取得・更新等の手続時の添付書類の省略等を目指すこととされていた(デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和5年6月9日閣議決定))。
なお、この取組みの前提となる令和3年5月に成立した「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号。以下「デジタル社会形成整備法」という。)」による行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」という。)の改正により、個人番号を活用した情報連携の拡大等による行政手続の効率化の観点から、税理士登録事務及び税理士試験事務等における個人番号の利用等が可能とされた。
また、これにあわせて、資格管理者等が共同利用できる国家資格等情報連携・活用システムの開発・構築が進められ、税理士登録事務及び税理士試験事務等においても、個人番号を利用した資格管理が実施されることとなる。
今回の改正では、こういった税理士登録事務及び税理士試験事務等における国家資格等情報連携・活用システムを通した個人番号の利用及び情報連携等を具体化するため、次の措置が講じられた。
① 税理士の登録申請手続の見直し
イ 税理士の登録事項の整備
税理士登録事務における個人番号を利用した資格管理の実施を可能とするため、上記(1)①イの税理士の登録事項について、「個人番号」が追加された(税理士規則8)。
これにより、税理士登録を受けようとする者は、個人番号等を記載した登録申請書をその者がその登録を受けようとする税理士事務所又は税理士法人の事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会を経由して日本税理士会連合会に提出しなければならないこととなる(税理士法21①、税理士規則11①④)。
また、上記の改正とあわせて、上記(1)①イ(イ)の税理士の登録事項のうち「本籍」が「本籍地都道府県」とされた(税理士規則8)。
これは、今回の改正を契機として、税理士の登録手続の簡素化の観点から、他士業の取扱いも踏まえ、本籍の都道府県名以外の記載が不要とされたものである。
ロ 税理士の登録申請における戸籍抄本等の添付省略
上記のとおり、デジタル社会形成整備法による住民基本台帳法及び番号法の改正による住民基本台帳ネットワークシステム等との連携等により、住所や戸籍関係情報の入手が担保されることを踏まえ、税理士登録申請者の負担軽減を図る観点から、税理士の登録申請時に提出しなければならないこととされている上記(1)①ロの登録申請書について、戸籍抄本及び住民票の写しの添付を要しないこととされた(税理士規則11②)。
ハ 電子情報処理組織を使用する方法により行う添付書面等の提出方法の拡充
上記(1)①ハの電子情報処理組織を使用する方法により申請等を行う者は、その申請等に関する規定に基づき添付すべきこととされている書面等でその書面等に記載されている事項又は記載すべき事項を入力して送信することができないものについて、その書面等の記載事項を次に掲げる要件を満たすようにスキャナにより読み取る方法その他の方法により作成した電磁的記録をその申請等と併せて送信することをもって、その書面等の提出に代えることができることとされた(税理士規則27⑤)。
(イ)解像度が一般文書のスキャニング時の解像度である25.4mm当たり200ドット以上であること。
(ロ)赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上であること。
上記(1)①ハのとおり、これまで、その書面等に記載されている事項又は記載すべき事項を併せて入力して送信する方法以外にその書面等の提出に代えることができる方法は認められていなかったが、登録申請書に添付する申請者の写真など入力して送信することが困難な書面等もあることから、今回の改正においては、こういった書面等に対応し、日本税理士会連合会又は税理士会に対して電子情報処理組織による申請等を行う環境が整備されたものである。
② 税理士試験の受験手続等の見直し
イ 税理士試験受験願書等の様式の整備
税理士試験事務における個人番号を利用した資格管理の実施を可能とするため、次に掲げる申請等の様式について、個人番号を記載することができるよう、所要の整備が行われた(税理士規則第1号様式~第3号様式、第5号様式、第6号様式)。具体的には、これらの様式に個人番号記載欄が設けられることとなる。
(イ)税理士試験受験資格認定申請書
(ロ)税理士試験受験願書
(ハ)研究認定申請書
(ニ)税理士試験免除申請書
(ホ)研究認定申請書兼税理士試験免除申請書
ロ 税理士試験の受験手数料等の電子納付手続の整備
上記(1)②ロのとおり、税理士試験の受験手数料又は認定手数料の納付方法は、収入印紙による方法のみとされていたため、税理士試験受験願書の提出等をオンラインで行ったとしても、出願手続等をオンラインで完結できないことが課題とされている。
今回の改正においては、こういった課題を踏まえ、税理士試験の受験手数料又は認定手数料について、電子情報処理組織を使用する方法による申請等により国税審議会会長から得た納付情報により納付することができることとされた(国税オンライン化省令7③)。
この改正により、税理士試験を受けようとする者又は国税審議会の認定を受けようとする者は、マイナポータルを利用して国家資格等情報連携・活用システムから送信される決済用URLを通じて取得した納付番号及び確認番号等の納付情報を入力して送信することで、電子納付(Pay-easyによる納付)をすることが可能となる。
(3)適用関係
① 上記(2)の改正は、デジタル社会形成整備法の公布の日(令和3年5月19日)から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日(令和6年5月27日)から施行される(改正税理士規則附則1、改正国税オンライン化省令附則ただし書)。
② 上記(2)①ロの改正は、令和6年5月27日以後に提出する登録申請書について適用し、同日前に提出した登録申請書については従前どおりとされている(改正税理士規則附則2①)。
また、上記(2)①ロの改正後においても、令和6年5月27日から令和7年3月31日までの間に提出される税理士の登録申請書について、日本税理士会連合会が税理士登録のため必要があると認める場合には、従前どおり戸籍抄本及び住民票の写しを添付しなければならないこととする経過措置が講じられている(改正税理士規則附則2②)。これは、国家資格等情報連携・活用システムの稼働状況を踏まえ、住民基本台帳ネットワークシステム等との連携等を行うことができずに住所等の一定の本人確認情報や戸籍関係情報を入手することができない場合への対応として、登録申請書の提出先である日本税理士会連合会の判断により従前どおり戸籍抄本及び住民票の写しの添付を求めることができることとされたものである。
③ 上記(2)②イ(イ)、(ニ)及び(ホ)の改正は、令和6年5月27日以後に提出する税理士試験受験資格認定申請書、税理士試験免除申請書又は研究認定申請書兼税理士試験免除申請書について適用し、同日前に提出した税理士試験受験資格認定申請書、税理士試験免除申請書又は研究認定申請書兼税理士試験免除申請書については従前どおりとされている(改正税理士規則附則2③)。
④ 上記(2)②イ(ロ)及び(ハ)の改正は、令和6年5月27日以後に行う試験実施の日時等の公告に係る税理士試験について適用し、同日前に行ったその公告に係る税理士試験については従前どおりとされ(改正税理士規則附則2④)、具体的には、令和7年度(第75回(予定))の税理士試験から適用される。
3 長期間にわたり供託された換価代金等の配当がされない事態へ対応するための措置の整備
(1)改正前の制度の概要
税務署長は、換価代金等の交付期日に配当計算書に従って換価代金等を交付するものとされているが、次の①から③までに掲げる場合において、換価代金等を交付することができないときは、換価代金等は、供託しなければならないこととされている(旧徴法133、旧徴令50①④)。また、次の①に掲げる場合において換価代金等を交付することができないときは、その供託した税務署長は、その旨を異議に関係を有する者に通知しなければならないこととされている(旧徴令50①後段)。
① 換価代金等の交付期日までに配当計算書に関する異議の申出があった場合において、その換価代金等を交付することができないとき。
② 換価代金等を配当すべき債権が停止条件付である場合。
③ 換価代金等を配当すべき債権が仮登記がされた質権、抵当権又は先取特権により担保される債権である場合。
上記の場合において、確定判決、異議に関係を有する者の全員の同意その他の理由により換価代金等の交付を受けるべき者及び金額が明らかになったときは、これに従って配当しなければならないこととされている(旧徴令50②前段、④)。また、税務署長は、その配当を受けるべき者に配当額支払証を交付するとともに、供託した供託所に支払委託書を送付しなければならないこととされている(旧徴令50②後段、④)。
なお、この配当を受けるべき者に対する供託所の支払は、支払委託書に基づき行うものとされている(旧徴令50③④)。
(2)改正の内容
民事執行法においては、配当等を受けるべき債権者の債権について、直ちに配当等を実施することができない事由がある場合等には、その配当等の額に相当する金銭を供託しなければならず(民事執行法91①)、事後的に供託の事由が消滅したときには、執行裁判所は、供託金について追加配当等を実施しなければならないとされているが(民事執行法92①)、従前、換価代金等の供託がされた場合に、その供託に係る債権者が、その供託の事由が消滅したにもかかわらず必要な手続を行わないために、長期間にわたり供託された換価代金等の配当が実施されず、他の債権者が配当を受けることができないケースが生じていた。
このような事態を解消するため、「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)」による民事執行法の改正により、「長期間にわたり債権者への配当がされない事態へ対応する仕組み(民事執行法92③~⑦)」が創設され、必要な手続を行わない供託に係る債権者を除外して配当を実施することが可能とされた。
こうした民事における対応を踏まえ、国税徴収法においても、上記の民事執行法の見直しと同様に、次の措置が講じられた。
① 供託の事由が消滅した旨の届出
換価代金等の供託がされた場合における当該供託に係る債権者は、その供託の事由が消滅したときは、直ちに、その旨を税務署長に届け出なければならないこととされた(徴法133⑥)。
② 届出の催告
税務署長は、換価代金等の供託がされた場合において、その供託がされた日(催告によりその供託に係る供託の事由が消滅していない旨の届出をした場合にあっては、最後にその届出をした日。以下同じ。)から上記①の届出がされることなく2年を経過したときは、当該供託に係る債権者に対し、その供託に係る供託の事由が消滅しているときは上記①の届出をし、又はその供託に係る供託の事由が消滅していないときはその旨の届出をすべき旨を催告しなければならないこととされた(徴法133⑦)。
③ 供託に係る債権者を除外して供託金について換価代金等の配当を実施する旨の決定
上記②の催告を受けた当該供託に係る債権者が、催告を受けた日から14日以内に上記①の届出又は上記②の供託の事由が消滅していない旨の届出をしないときは、税務署長は、当該供託に係る債権者を除外して供託金について換価代金等の配当を実施する旨の決定をすることができることとされた(徴法133⑧)。
この決定に基づき配当が実施されることになるが、具体的には、その供託に係る債権者を除外して換価代金等の配当を実施することを前提とした配当額支払証をその配当を受けるべき者に交付するとともに、同様の内容の支払委託書を供託した供託所に送付し、供託所の支払は、この支払委託書に基づき行われることとなる(徴法133④⑤)。
また、この決定は、供託に係る債権者が当該決定の告知を受けた日から7日を経過した日にその効力を生ずることとされた(徴法133⑨)。ただし、当該供託に係る債権者が当該7日の期間が経過するまでに上記①の届出又は上記②の供託の事由が消滅していない旨の届出をしたときは、この限りではないこととされ、供託に係る債権者に対して一定の猶予期間が設けられている(徴法133⑨ただし書)。
(3)適用関係
上記(2)の改正は、民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)附則第3号に掲げる規定の施行の日から施行することとされている(改正法附則1十一)。これは、民事の強制執行等と滞納処分の手続間の整合性を確保する観点から、同法による民事執行法の改正により創設された「長期間にわたり債権者への配当がされない事態へ対応する仕組み」と同様の施行日とされたものである。
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