解説記事2024年08月12日 SCOPE 同族会社の行為計算否認規定、経済的合理性を欠くかで判断(2024年8月12日号・№1039)
大阪地裁、国の所得税の更正処分を一部取消し
同族会社の行為計算否認規定、経済的合理性を欠くかで判断
原告が代表取締役を務める不動産会社(同族会社)との賃貸借契約に対し、国が適用した同族会社の行為計算否認規定が適法であるか争われた裁判で、大阪地方裁判所(横田典子裁判長)は令和6年3月13日、賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮すれば、本件賃貸借契約は「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(所法157条1項)には当たらないとの判断を示し、所得税の更正処分等の一部を取り消した(令和4年(行ウ)第60号)。なお、本件については、国が大阪高裁に控訴している。
国、賃貸料は著しく低額であり経済的合理性に欠けると主張
本件は、司法書士業及び不動産賃貸業を営む原告が、自身が代表取締役を務める不動産会社(同族会社)であるX社と締結した賃貸借契約について、税務署が同族会社の行為計算否認規定(所法157条1項)を適用したことから、その可否が争われたものである。
原告は、平成23年頃までは自己の所有する不動産を個別に第三者に賃貸して第三者から賃料収入を得るなどしていたが、平成24年7月以降、自己が所有していた不動産をX社に一括して賃貸し、賃貸料収入を得るようになった。この賃貸借契約は、X社が不動産を第三者に個別に賃貸する(転貸する)ことを前提とするものであった。原告の所有不動産は戸数が非常に多く、これを物件ごとに管理委託方式で管理業者に任せることになれば、管理業者のやり方に応じて個別に対応することとなり、その作業は非常に煩雑となるほか、空室リスク等も避けられず、転貸借関係に係る訴訟リスクも見過ごせないことから、原告は、これらのリスクを回避するため、管理委託方式ではなくサブリース(転貸方式)を選択したものであると主張。一方、国(被告)は、原告が賃貸借契約により取得した賃貸料は、X社の転貸料収入の60%にも満たず著しく低額であり、経済的合理性を欠くものであると主張した。
なお、訴訟が提起される前に行われた審査請求では、審判所が「転貸方式の場合においても、管理委託方式を採用する同業者をもとに不動産賃貸料の適正額を算定する方法が合理的」であるとの見解を示し、請求人の請求を棄却していた(本誌969号参照)。
賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮
裁判所は、所得税法157条1項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、当該株主等の所得税の負担を減少させる結果となるものと解するのが相当であるとした(最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決、法人税132条1項に関する最高裁令和4年4月21日第一小法廷判決)。本件のような株主等を賃貸人とし同族会社等を賃借人とする不動産の賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かについては、賃貸借契約の目的、賃貸借の金額や契約の諸条件を含む賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当であるとし、賃貸借契約が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外に賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当であるとの見解を示した。
管理委託方式による国の賃貸料算定を否定
まず裁判所は、本件賃貸借契約は、一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な種別の異なる多数の不動産を一括して転貸方式で賃貸するものであり、また、対象不動産が売却により減少しても契約期間中の賃料の額が減額されないことによる負担を賃借人(X社)に負わせるものであると指摘。このような賃貸借契約の内容や特殊性に照らせば、管理委託方式を基に賃貸料を算定すべきとの国の主張はその前提で誤っているとした。その上で裁判所は、賃貸借契約の目的、賃貸料の金額や契約の諸条件を含む賃貸借契約の内容等の諸事情を総合的に考慮すれば(表参照)、本件賃貸借契約は「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらないとし、同族会社の行為計算否認規定を適用した所得税の更正処分等の一部を取り消した。
【表】裁判所の判断のポイント
賃貸借契約が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したり、その賃貸料が適正な賃貸料に比して著しく低額なものにされたりしているなど、不自然なものであるかどうか。 |
・賃貸借契約は、①転貸方式(マスターリース契約)であって空室リスク等を借主(X社)が負担するものであること、②一般的には同一のサブリース業者に一括して転貸方式で賃貸することが困難な種別や所在地域の異なる多数の不動産を一括してX社に賃貸するものであること、③対象不動産の一部が売却されて対象不動産が減少しても、契約期間中の賃料は減額されないことによる負担(売却リスク)を借主(X社)に負わせるものになっていることといった特殊性を有しており、これらの①から③までの事情は賃貸借契約における賃貸料の減額要因となり得るものである。 ・本件賃貸借契約の契約書記載の契約条項等の内容は、一般のマスターリース契約の契約書のものと同様である上、実際に原告はX社に対して一括して不動産を賃貸していると認められるから、本件賃貸借契約は、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりしているとはいえない。 ・原告及びX社は、同社が負うことになる空室リスク等を具体的に計算した上で賃貸料の金額を決定したわけではなく、その意味では、一般の不動産業者ないしサブリース業者が借主となって締結されるマスターリース契約とは異なる面があるが、本件賃貸借契約の内容及び特殊性を踏まえると、直ちに本件賃貸借契約が不自然、不合理なものであるということはできない。 |
税負担の減少以外に賃貸借契約を締結することの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか。 |
・本件賃貸借契約は、原告が、不動産賃貸業のX社への移転という事業目的を実現するために、平成24年以降、自己の所有する不動産をX社又は第三者に売却することと並行して、不動産を一括してX社に対して転貸方式により賃貸したものと認められ、このような賃貸借契約の目的は合理的なものといえる。 |
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