解説記事2024年09月02日 SCOPE 財産債務調書制度の加重措置、必要経費が過大か否かを問わず(2024年9月2日号・№1041)
交際費や修繕費等の直接経費でない場合も対象
財産債務調書制度の加重措置、必要経費が過大か否かを問わず
必要経費の過大計上に基因する過少申告で財産債務調書制度における加重措置が適用できるか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は、不動産所得の金額が過少となり税額に不足額が生じた場合には、その原因が不動産所得に係る総収入金額が過少であることによるのか、それとも必要経費が過大であることによるのかを問わず、いずれの場合も加重措置の対象となるとの見解を示し、請求人の主張を斥けた(大裁(所)令5第15号)。必要経費に関し、請求人が主張する直接経費であるか否かを区分する必要はないとした。
必要経費の過大計上に基因する過少申告に加重措置は適用できるか
本件は、不動産貸付業を営む請求人が、不動産所得の金額が過少であったなどとして、所得税等の修正申告書を提出したが、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分において、財産債務調書の加重措置を適用したことから、請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。
請求人は、財産債務調書を提出する義務があったにもかかわらず、提出期限までに提出しなかったことから、原処分庁は、修正申告に係る所得税等の額のうち、不動産所得に係る必要経費の一部(修繕費、接待交際費及び支払手数料)の過大計上及び減価償却費の一部計上漏れなどの不動産所得の増加額に係る所得税等の額について加重措置を適用している。
提出なければ過少申告加算税に5%加重
財産債務調書制度では、所得2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において総資産が3億円以上又は1億円以上の有価証券等を保有している場合や、10億円以上の財産を有する場合には財産債務調書をその年の翌年6月30日までに提出することが義務付けられている。
仮に財産債務調書の提出がない場合に、その財産債務に係る所得税の申告漏れが生じたときは、その財産債務に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%加重される措置が講じられている。
交際費や修繕費は直接経費でないと主張
請求人は、加重措置の対象となる財産の貸付けによる所得の「所得」とは、財産債務に直接基因して生ずる所得と解されるから、不動産所得に関して過大に計上された経費が個々の不動産の直接経費に該当しない場合は、これに係る部分は加重措置の対象とはならないというべきであり、請求人の支払手数料、接待交際費及び修繕費はいずれも個々の不動産についての直接経費ではないから、これらの必要経費の過大計上額については、加重措置を適用できないなどと主張した(表参照)。
【表】当事者の主な主張
原処分庁 | 請求人 |
国送法6条の3第1項及び2項並びに国送法施行令12条の3第1項3号の規定によると、加重措置は、「財産の貸付けによる所得」に対する所得税を対象としている。租税法の解釈は、原則として文理解釈によるべきであるところ、「財産の貸付けによる所得」を文字どおりに、かつ、本件に即して読めば、「不動産の貸付けによる所得」となる。 そして、租税法の分野において「所得」とは、租税法固有の概念であるところ、所得税の課税標準は各種所得の金額を合計した総所得金額等であり、これを基礎として所得税額が計算されることからすれば、加重措置にいう「所得」とは、その文言どおり、所得金額を意味することは明らかであるし、所得税法23条から同法35条(雑所得)までの規定において、「収入(金額)」と「所得(金額)」は明確に使い分けられている。 したがって、加重措置は、総収入金額の増加額だけでなく、必要経費の過大計上額にも適用されるべきである。 |
国税庁ホームページ掲載の「財産債務調書制度(FAQ)令和3年12月」に記載の加重措置の対象となる「財産の貸付けによる所得」の「所得」とは、財産債務に直接基因して生ずる所得であると解され、「所得」は収入と必要経費で構成されているから、不動産所得の場合、個々の不動産ごとにその不動産と直接関係のある収入(直接収入)と必要経費(直接経費)を抽出しなければならない。そして、直接収入とは、不動産に帰属する地代又は家賃であり、直接経費とは、不動産固有の経費で、かつ、収入と直接関係しているものである。そうすると、個々の不動産ごとにその不動産の直接収入と直接経費を抽出し、修正申告の前後でその差額を計算することによって軽減加重措置の対象の基となる所得を計算するのが正しい方法である。 |
「財産の貸付けによる所得」には「不動産の貸付け」も含む
審判所は、国送法施行令12条の3第1項は「財産の貸付けによる所得」(3号)を掲げており、財産の貸付けには不動産の貸付けが含まれ、また、不動産の貸付けによる所得は不動産所得に該当するから、財産債務調書の過少申告加算税等の特例(国送法6条の3第2項)は、不動産所得に対する所得税等の修正申告があり、通則法65条の規定の適用がある場合において、財産債務調書について提出期限内に提出しなかったときは加重措置が適用されると解することができるとした。
その上で、修正申告は、先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額があるときに提出することができるところ、所得税は、その課税標準を各種所得の金額を合計した総所得金額等として、これを基礎として納付すべき税額を計算することとされており、各種所得のうち、不動産所得の金額は、所得税法26条2項において、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされているから、不動産所得の金額が過少となり税額に不足額が生じるのは、不動産所得に係る総収入金額が過少若しくは必要経費が過大又はその両方となった場合であるということができると指摘。したがって、審判所は、不動産所得の金額が過少となり税額に不足額が生じた場合には、その原因が不動産所得に係る総収入金額が過少であることによるのか、それとも必要経費が過大であることによるのかを問わず、いずれの場合も加重措置の対象となるとの見解を示し、請求人の主張を斥けた。
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