解説記事2024年09月23日 第2特集 被相続人の死亡で取得した米国遺族年金はみなし相続財産(2024年9月23日号・№1044)
第2特集
審判所、非課税規定は設けられておらず
被相続人の死亡で取得した米国遺族年金はみなし相続財産
被相続人の死亡により取得した米国の遺族年金に関する権利がみなし相続財産に該当するか争われた裁決で、国税不服審判所は、米国遺族年金は被相続人の死亡により連邦規則集の規定に基づき原始的に配偶者が取得したものであったと認められるとし、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3条1項6号)に該当するとした。その上で、米国遺族年金を受給する権利については、法令上、相続税が課税されないこととなる非課税規定は設けられていないことから、みなし相続財産に該当し、相続税が課税されるとの判断を示した(東裁(諸)令5第45号)。なお、本件については、東京地裁に訴訟が提起されている。
被相続人の死亡により米国遺族年金の受給権を取得
本件は、請求人の母が被相続人の死亡により取得した米国の遺族年金に関する権利がみなし相続財産に該当するか争われた事案だ。
被相続人は、相続開始日前に米国退職年金を受給。配偶者は、米国退職年金を受給する権利を有する被相続人の配偶者として一定の要件を満たしていたことから、相続開始日前に米国家族年金を受給していた(退職年金受給者に65歳以上の配偶者がいる場合、当該配偶者は退職年金の50%に相当する額を家族年金として受けることができる)。その後、被相続人が死亡したことにより、米国退職年金及び米国家族年金は終了し、配偶者は、米国遺族年金を受給する権利を取得することになった。
なお、米国の年金制度である遺族年金は、被保険者が死亡した場合、婚姻関係が9か月以上継続していたことなどの一定の要件(表参照)を満たす被保険者の配偶者は、被保険者の寡婦又は寡夫として遺族年金を受ける権利があるとしている。ただし、米国遺族年金を一時金など年金以外の形式で受給することはできず、受給を自ら停止しても解約返戻金を受領することはできないこととされている。
【表】配偶者が米国遺族年金を受けることができる一定の要件
・被保険者が死亡する直前まで少なくとも9か月間婚姻関係が継続していたこと。 ・被保険者の配偶者が申請すること。ただし、被保険者が死亡した月の前月において、米国家族年金を受ける権利があり、満額受給年齢に達している場合には、申請することができない。 ・60歳以上であること。 ・被保険者の一時保険金額(被保険者が受給する米国退職年金の金額)の給付額以上の米国退職年金を受ける権利を有していないこと。 ・未婚であること。 |
「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当
審判所は、相続税法3条(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)1項6号の規定による相続又は遺贈により取得したものとみなされる定期金に関する権利は、相続の効果として被相続人から承継するものではなく、法律の規定その他契約以外の事由によって相続人その他の者が取得するもので、契約に基づかない定期金に関する権利を被相続人の死亡により原始的に遺族等が取得する場合が含まれるとした。そして、定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のものを被相続人の死亡により原始的に遺族等が取得する場合としては、船員保険法の規定による遺族年金、厚生年金保険法の規定による遺族年金、国民年金法の規定による遺族基礎年金等を被相続人の遺族が取得した場合があると解されるが、これらの遺族年金については、それぞれの法律に非課税規定が設けられているので、これにより相続税は課税されないものと解するのが相当であるとした。
本件の受給権について審判所は、被相続人の死亡により、配偶者が取得した米国遺族年金を受給する権利であり、米国遺族年金は、連邦規則集の規定に基づき、被保険者が死亡した場合に、一定の要件(表参照)を満たす被保険者の配偶者が支給を受けるものであると指摘。したがって、受給権は相続の効果として配偶者が被相続人から承継したものではなく、被相続人の死亡により連邦規則集の規定に基づき原始的に配偶者が取得したものであったと認められるとし、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3条1項6号)に該当するとの判断を示した。その上で、米国遺族年金を受給する権利は、法令上、相続税が課税されないこととなる非課税規定は設けられていないことからすれば、みなし相続財産に該当し、相続税が課税されるとし、請求人の請求を棄却した。
年金受給権に財産的価値があることは明らか
請求人は、みなし相続財産に該当するためには、①被相続人に帰属するべき権利又は被相続人の出捐に基づいて発生した権利が被相続人の死亡に直接起因して相続人に移転した実体のある場合に当たることが必要であり、②相続開始時点で客観的時価が存在していなければならないが、本件受給権は①及び②に該当しないなどと主張したが、審判所は、受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当するか否かの判断において、請求人が主張する①の要件があると解すべき根拠は相続税法3条1項6号の文言上見当たらず、②の点に関していえば、請求人が根拠として挙げる相続税法22条及び24条の規定は、財産の評価に関する規定であってみなし相続財産該当性の判断において検討すべき規定ではないと指摘。この点をおくとしても、本件受給権は、被相続人の死亡により、配偶者が取得した米国遺族年金を受給する権利であり、このような基本権としての年金受給権に財産的価値があることは明らかであるとした。
また、請求人は、仮に受給権は相続税の課税対象になるとしても、配偶者は相続開始日前に被相続人が受給していた米国の退職年金の50%相当額の家族年金を受給しており、相続開始日以後に当該退職年金と同額の米国遺族年金を受給することにより米国退職年金の50%相当額が増加したものであるから、米国遺族年金の50%相当額についてのみ、みなし相続財産として課税されるべきであると主張したが、審判所は、被相続人の死亡により、被相続人が受給していた米国退職年金及び配偶者が受給していた米国家族年金の給付がいずれも終了し、配偶者が米国遺族年金を受給する権利の全部を原始的に取得したのであるから、みなし相続財産となるのは受給権の全部であって、その50%相当額ではないとした。
合理的な金額や利率を用いるべきことを相続税法は予定
本件では、受給権の価額を相続税法24条1項3号の規定の準用により評価するに当たり、受給額及び実効金利を用いて評価できるかどうかについても争点となっていた。原処分庁は、本件受給権の価額について、「給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」として本件受給額を、また「予定利率による複利年金現価率」として本件実効金利による複利年金現価率をそれぞれ用いて評価していた。この点、請求人は、①本件受給権を取得した時点では、配偶者が余命年数にわたり受け取れる年金総額は定まっておらず、余命年数を通じて受ける金額の平均額は算定できないところ、配偶者が受給権により給付を受ける相続開始の年の受給額は、配偶者が受給権により給付を受ける初年度の受給額であって平均額になりようがないので、「給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」として用いることはできない、②米国の社会保障年金信託基金の実効金利は、予定利率ではなく、予定利率と全く性質の異なるものを恣意的に相続税法24条1項3号ハの「予定利率」として用いることはできないと主張した。
審判所は、相続税法24条5項により「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」について、同条1項3号ハの規定を準用して評価する場合には、そもそも契約がないから、当該規定の「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」や「当該契約に係る予定利率」もないことは明らかであり、このような場合にはこれらに替わる合理的な金額や利率を用いるべきことを相続税法は予定しているものといえるとした。
その上で、審判所は、本件受給額は判明している相続開始の年の1年間に給付を受けるべき金額であり、「給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」として用いるのに合理的なものといえるとしたほか、本件実効金利は、米国の社会保障制度において社会保障税として徴収された金額の運用利回りの実績として公表されている社会保障年金信託基金の実効金利であり、配偶者が将来にわたって受け取るべき米国遺族年金の金額を現在価値に引き直すための利率として合理的なものといえることから、これらを「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額」や「当該契約に係る予定利率」に替わるものとして用いることは相当であるとの判断を示した。
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