解説記事2024年11月04日 SCOPE 「偽計」は投資判断を誤らせ、市場の公正を害するかで判断(2024年11月4日号・№1049)
東京地裁、適時開示と資金移動の実態にそご
「偽計」は投資判断を誤らせ、市場の公正を害するかで判断
偽計を用いて有価証券の価格に影響を与えたとして金融庁から平成29年4月11日付けで40億9,605万円の課徴金納付命令を受けたファンド会社の代表者(原告)がその取消しを求めた裁判で、東京地方裁判所(市原義孝裁判長)は令和5年9月22日、原告の請求を棄却した(平成29年(行ウ)第218号)。資金移動の実態と社債引受けの各公表を閲覧した投資家の認識との間にはそごがあるとし、金商法158条にいう「偽計」に当たるとの判断を示した。
経営状況等を誤信させ、投資判断を誤らせるもの
本件は、平成22年当時にウェッジホールディングス(東証グロース)(以下、ウェッジHD)の取締役会長を務めていた原告自身が実質的に支配するファンド会社(A社)の保有する同社の株価を上昇させることを企て、ウェッジHDがタイ王国法に基づく法人(H社)発行の転換社債を引き受けるに当たり、その払込みを仮装し、虚偽の内容の業績予想値等の公表を行うなど、有価証券の相場の変動を図る目的をもって、偽計を用いて有価証券の価格に影響を与えたとして、金融庁から課徴金40億9,605万円の納付命令が行われたため(なお、その後、金融庁は納付命令決定に明白な誤りがあるとして納付すべき課徴金を40億5,547万円と更正する旨を決定)、原告がその取消しを求めたものである。
裁判所は、金融商品取引法158条にいう「偽計」とは、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段をいうところ、同条の趣旨が、風説の流布や偽計等の手段により市場の公正や適正が害されることを防止することにあることに鑑みれば、ある行為が「偽計」に当たるか否かは、当該行為が投資家の投資判断を誤らせ、市場の公正や適正を害するおそれがあるか否かの観点から判断するのが相当であるとした。
裁判所は、ウェッジHDがH社の社債を引き受ける旨の公表を閲覧した投資家としては、①ウェッジHDはH社に対し、社債の払込みとして8億円を支払い、その対価として社債上の権利及び転換権等を取得し、これを行使することができること、②Zリゾート及びH社には充分な資産性と収益性が認められ、これにより社債の元金の償還及び利息の支払は担保されており、社債の引受けは、投資収益の増加等によりウェッジHDの業績を向上させるものであること、③H社は、ウェッジHDから払い込まれた8億円をZリゾートの設備投資資金として用いる予定であり、これによりZリゾート及びH社の資産性、収益性の向上が見込まれること、④ウェッジHDがオプション権を行使する場合には、Zリゾートの株式持分64%を取得することになり、ZリゾートがウェッジHDの事業に加わることにより更なる事業の拡大が見込まれることなどを認識し、理解するものと認められると指摘。社債引受けの公表を閲覧した投資家が認識し、理解するところと、本件各資金移動の実態とがそごする場合には、投資家をして錯誤に陥らせ、その投資判断を誤らせ、市場の公正や適正を害するおそれがある行為として「偽計」に当たるというべきであるとした。
循環取引であり、事業資金として使用せず
その上で、本件の資金移動の実態を検討すると、ウェッジHDからH社に対し8億円が送金されているものの、H社は、社債をZリゾートに係る設備投資資金を得るために発行するとしながら、Aアセット社(原告代表)に送金。2回目以降の送金は、H社がAアセット社に送金した3億6,000万円の一部をAホールディングスに送金し、これを再びH社に社債の払込金として送金した後、更にH社からAアセット社に送金することを繰り返す方法で行われているから、形式的にはウェッジHDからH社に対して8億円の送金がされているものの、実質的にはA社グループの各社の間で最大3億6,000万円の資金を循環させたにすぎず、H社においてウェッジHDから送金された合計8億円を事業資金として用いる余地が全くなかったといえると指摘(図参照)。そうするとウェッジHDからH社に対して合計8億円が送金されていることをもって、社債について実体を伴う払込みがされたものとは認められないから、本件社債の払込みは、仮装されたものであると認めるのが相当であるとした。

そして、投資家において、本件社債の払込みが、本来の払込金額である8億円の半分以下の最大3億6,000万円の資金を循環させたにすぎない仮装されたものであることを認識したとすれば、ウェッジHDによる本件社債の払込みが有効であるか、ひいてはその対価として本件社債上の権利及び転換権等を取得することができるかについて疑義を抱くであろうことは明らかであるから、本件資金移動の実態と、各公表を閲覧した投資家の認識及び理解との間にはそごがあるというべきであるとした。
したがって、裁判所は、資金移動の実態と各公表を閲覧した投資家の認識及び理解との間のそごは、いずれも投資家をして、ウェッジHDの経営状況及び資産状況等を誤信させ、投資家のウェッジHD株式等に対する投資判断を誤らせるものであり、市場の公正や適正を害するおそれがある行為といえることから、金商法158条にいう「偽計」に当たるとの判断を示し、原告の請求を棄却した。
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