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解説記事2024年11月25日 論考 扶養の範囲と年収の壁(2024年11月25日号・№1052)

論 考
扶養の範囲と年収の壁
 神奈川大学名誉教授 葭田英人

1 はじめに

 2024年度税制改正大綱において、2024年10月から児童手当の所得制限が撤廃され、支給期間が高校生まで拡大された。また、ひとり親控除については、対象となるひとり親の所得要件を、合計所得金額500万円以下を1000万円以下に引き上げ、ひとり親控除の所得税の控除額が増額され、2026年から現行の35万円を38万円に引き上げる。合わせて、個人住民税の控除額についても、現行の30万円から33万円に引き上げる見込みである。
 また、扶養控除が見直され、児童手当が18歳まで拡充されるのに伴い、16歳以上は38万円の扶養控除が受けられるが、2026年から25万円に縮小される予定である。これは、子育て世帯に対する支援を拡充し、所得階層間の支援の平準化を図ることを目的としたものである。
 なお、扶養とは、自身で生計を立てられない家族や親族に対して、経済的に支援することをいう。一般的には収入がない、あるいは収入の少ない子どもや配偶者、両親などの親族を自身の収入によって養うことを扶養という。扶養親族は、自分の収入だけでは生活するのが難しいので、一定の要件を満たしている場合、扶養親族の税金や社会保険料の負担を軽減する措置が設けられている。
 扶養のボーダーラインを「税法上の年収103万円の壁」や「社会保険上の年収130万円の壁」などといわれ、扶養親族の年収が103万円以下だと所得税が免除され、130万円以下だと社会保険料が免除される仕組みになっている。
 年収が扶養の壁を超えると所得税や社会保険料の負担が増加し、収入が減少することになる。しかし、フルタイムで働きたいとか、キャリアアップしたいという希望がある場合には、働き方が制限されることになるので、どのように調整すべきかが問題となる。扶養の範囲内での収入調整は、税負担や社会保険料負担の軽減につながるが、収入の伸びやキャリアアップを抑制し、長期的には世帯収入を下げてしまうことになる。
 そこで、本稿においては、扶養控除と配偶者控除・配偶者特別控除の違いについて概観し、税法上や社会保険上の扶養の範囲と年収の壁について検討する。さらに、扶養範囲内の年収のメリット・デメリットを明らかにし、年収の壁引上げの課題とそのあり方について考察する。

2 扶養控除と配偶者控除・配偶者特別控除の対象者の違い

 扶養控除と配偶者控除、配偶者特別控除はいずれも所得控除である。しかし、それぞれ対象者が異なり、扶養控除は16歳以上のその他の扶養親族を対象としているが、配偶者控除と配偶者特別控除は配偶者のみに認められ、それぞれ控除額が異なっている。
(1)控除対象扶養親族(所得税法2条1項34号・84条・85条)
 扶養控除を受けられる控除対象扶養親族は、その年の12月31日の現況で、次の4つのすべての要件に該当する16歳以上の者をいう。
① 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
② 納税者と生計を一にしていること。
③ 年間の合計所得金額が38万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)。
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
 なお、控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円とし、その者が老人扶養親族である場合には48万円とする。)を所得控除する。
(2)控除対象配偶者(所得税法2条1項33号・83条・85条)
 控除対象配偶者は、その年の12月31日の現況で、次の5つのすべての要件に該当する者をいう。
① 民法の規定による配偶者であること。
② 納税者と生計を一にしていること。
③ 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと
 又は白色申告者の事業専従者でないこと。
⑤ 控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えていないこと。
 なお、配偶者控除額は、納税者本人の合計所得金額や控除対象配偶者の年齢により、13万円から48万円の範囲で変動する。
(3)配偶者特別控除対象者(所得税法83条の2・85条)
 配偶者特別控除は、控除対象配偶者としての要件①、②、④に該当しているが、年間の合計所得金額が48万円を超えているため配偶者控除を受けられない配偶者が、所得に応じて一定の所得控除を受けることになる。所得金額が多いほど控除金額は段階的に下がり最終的にはゼロになる。
 配偶者特別控除対象者は、次の5つすべての要件に該当する者をいう。
① 控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
② 配偶者が、次の要件すべてに該当すること。
 イ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の者は該当しない)。
 ロ 控除を受ける人と生計を一にしていること。
 ハ その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
 ニ 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(平成30年分から令和元年分までは38万円を超え123万円以下、平成29年分までは38万円を超え76万円未満)であること。
③ 配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと。
④ 配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く。)。
⑤ 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く。)。
 なお、配偶者特別控除額は、配偶者の合計所得金額に応じて38万円から1万円である。
(4)扶養控除・配偶者控除・配偶者特別控除の動向
 税制改正大綱によると、児童手当が18歳まで拡充されるのに伴い、扶養控除が見直され、16歳以上は38万円の扶養控除が受けられるが、2026年から25万円に縮小される見込みである。
 配偶者控除は1961年から開始されたが、妻の「内助の功」を反映したものである。しかし、現在は共働き世帯が増え、専業主婦やパート主婦が基礎控除と配偶者控除を受けることができることから、二重控除が不公平感を引き起こし問題となっている。この二重控除は、女性の社会進出を妨げている。
 配偶者控除や配偶者特別控除に関する課題をめぐる議論は今も続いており、いつ廃止されても不思議ではない。配偶者控除や配偶者特別控除が廃止されることで、「共働き世帯」と「パート主婦世帯」の不公平感が解消され、節税目的の働き控えがなくなる。さらに、女性が長く働けるようになり正社員化が促進され、世帯収入が増加する。企業も人手不足の解消につながることになる。
 なお、配偶者控除は、年収が103万円を超えると扶養から外れるため控除がなくなり、所得税がかかるようになることから、手取りが減少することが問題となっていた。しかし、2018年からは、配偶者特別控除によって、年収が150万円までなら38万円の満額控除が認められようになり、この問題は改善された。
 一方、配偶者控除や配偶者特別控除が廃止された場合、子育て世帯への負担が増えることとなり、さらに少子化が進む懸念がある。また、生活困窮者に負担を強いることになる。

3 扶養の壁

 被扶養者の年収が扶養範囲内にある場合、被扶養者は、所得税、住民税、社会保険料が免除されるが、年収が上限(扶養の壁)を超えると扶養から外れ、納付義務が発生する。
(1)税制上の扶養の壁
 ① 100万円の壁

 100万円の壁とは、被扶養者の年収が100万円を超えると住民税の所得割の支払い義務が発生するラインのことである。なお、住民税の課税標準は自治体ごとに異なる。
 ② 103万円の壁
 103万円の壁とは、被扶養者の年収が103万円を超えると住民税に加えて所得税が課税される区切りのことをいう。所得税には基礎控除48万円と給与所得控除が最低55万円受けられるため、年収が103万円以下であれば、所得税が非課税となる。
 さらに、被扶養者の年収が103万円以内なら、配偶者控除が適用され、納税者の合計所得金額や控除対象配偶者の年齢により、13万円から48万円の範囲で所得控除される。
 ③ 150万円の壁
 150万円の壁とは、被扶養者の年収が150万円を超えると配偶者特別控除が、満額38万円から年収に応じて段階的に減少していくラインのことである。
 ④ 201万円の壁
 201万円の壁とは、被扶養者の年収が201万円を超えると配偶者特別控除がゼロになるボーダーラインをいう。
(2)社会保険上の扶養の壁
 ① 106万円の壁

 106万円の壁とは、被扶養者の年収が106万円を超えると、社会保険加入条件をすべて満たす場合には、社会保険への加入義務が発生する区切りのことをいう。この壁を超えると扶養から外れ、被扶養者自身が社会保険料を自身で負担しなければならなくなる。
<社会保険加入条件>
・週の労働時間が20時間以上
・月額賃金が88,000円以上
・年間所得が106万円以上
・従業員数が51人以上の企業に勤務していること
・雇用期間が2カ月以上であると見込まれること
・学生ではないこと
 ② 130万円の壁
 130万円の壁とは、被扶養者の年収が130万円を超えると、扶養から外れ、自分自身で社会保険に加入し、保険料を負担しなければならなくなるラインをいう。
(3)社会保険における年収の壁対策
 社会保険に加入すると社会保険料の負担が増えて、手取りが減ることになる。そんな状況から、年収の壁を超えないように労働時間を調整する者が増え人手不足が生じるようになった。そこで政府は、年収の壁を気にせず働けるように、2023年10月から2年間の期間限定で「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始した。
 政府は106万円の壁対策として、パートやアルバイトの社会保険加入にあわせ、手取りを減らさないための取り組みを実施する企業に対し、パート・アルバイト1人当たり最大50万円の支援を行なう。
 また、年収130万円の壁対策として、繁忙期に労働時間が増えることでパート、アルバイトの年収が一時的に130万円を超えても、事業主の証明があれば被扶養者のままでいることができる仕組みとした。これまで被扶養者として働いてきた配偶者が、今後も年収の壁を気にせず働けるようになれば、世帯収入は増加し、消費が増えることにより経済が活性化する狙いがある。

4 扶養範囲内の年収のメリット・デメリット

(1)メリット
 被扶養者が扶養の範囲内で働いた場合のメリットとして、納税者は、扶養控除や配偶者控除・配偶者特別控除が適用され、所得税や住民税の負担が軽減される。また、被扶養者は、第3号被保険者として社会保険料を負担することなく、国民年金に加入し老齢年金や遺族年金を受け取ることができる。さらに、医療費も原則3割負担となる。なお、扶養手当は、法律で定められているものではないが、企業によっては、扶養手当が支給される場合がある。
(2)デメリット
 被扶養者が扶養の範囲内で働いた場合のデメリットとして、被扶養者が国民年金に加入することになるため、厚生年金よりも受け取る年金額が低くなる。さらに、傷病手当金や出産手当金の適用対象外となる。なお、扶養の範囲内の収入調整は、税金や社会保険料の負担は軽減されるが、その分、世帯全体の年収が減少することになり、被扶養者がフルタイムで働きたい、キャリアアップしたいと考えている場合には、働き方が制限されることになる。

5 年収の壁引上げの課題とあり方

 現在、わが国では、扶養控除、配偶者控除・配偶者特別控除の廃止が議論されている。児童手当の拡充を進める一方で、扶養控除の廃止が検討され、人手不足が深刻化するなか、女性の更なる就労促進と経済的な自立を妨げる要因としての配偶者控除・配偶者特別控除を廃止しようとする動きがある。しかし、子育て世帯の負担増加や少子化問題の深刻化を招くおそれがある。
 一方、国会では国民民主党を中心として、年収の壁を引き上げようとする動きがある。年収の壁を超えると税金や社会保険料の負担が生じ、手取りが減ることになる。そこで、年収の壁の範囲内に収まるように働く時間を調整する者は多いが、世帯収入が変わらないだけでなく、企業の人手不足の要因にもなっている。
 たとえ賃上げされても、年収の壁を引上げない限り、税金や社会保険料の負担軽減を目的として労働時間を減らすだけで収入自体は上がらない。現在議論となっているように、被扶養者の年収の壁を引き上げることで、税金や社会保険料の負担を軽減して消費を喚起し、経済を活性化させることは必要であろう。
 ただ、一般的には、Z世代の若者にとっては所得税より社会保険料の負担の方が重いといわれている。税金と社会保険料を一体化させた年収の壁の引上げが必要である。ただし、税収減となることから財源確保が課題となる。
 そこで、配偶者控除や配偶者特別控除の対象者を、子育て世帯や生活困窮者に限定して適用することにより、専業主婦やパート主婦の二重控除による不公平感が解消され、女性の正社員化が促進され、世帯収入が増加する。当然、子育て世帯や生活困窮者の要件を明確に規定する必要がある。さらに、企業も人手不足の解消につながることになり、年収の壁の引き上げによる税収減を相当程度補填することができるものと思われる。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は『コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役』(三省堂・2020)、『会社法入門(第六版)』(同文舘出版・2020)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』(税務経理協会・2019)など

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