解説記事2025年02月24日 特別解説 我が国の上場企業による不正〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜(2025年2月24日号・№1064)
特別解説
我が国の上場企業による不正
〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜
はじめに
我が国の上場企業で大規模な粉飾決算や横領等の不正が発覚すると、弁護士や公認会計士等の外部の専門家を交えた第三者委員会が組成され、フォレンジック調査等が行われた後に、調査結果が報告書として外部に公表される場合が多い。本稿では、2014年4月1日から2024年12月31日までの期間で、親会社(上場企業)や連結子会社等による不適切な会計処理(粉飾決算)、及びその元役員や元従業員らによる不適切な行為(横領、着服等)等について、第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等を含む)を外部に公表した企業を題材として、本稿の前半では、不正の発生原因や類型、特徴点等を全体的に分析するとともに、後半では、2024年1月1日から2024年12月31日までに第三者委員会報告書が公表された個別の不正事例を、1件ずつ内容を要約して紹介することとしたい。
調査の対象とした企業
今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2024年12月31日までの期間に、不適切な会計処理(粉飾決算)や元役員、元従業員らによる不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)である。
これまでは、年によって多少の増減はあるものの、年間にほぼ30件程度のペースで不適切な会計処理等に関する調査報告書が公表されてきている(表1を参照。)。

なお、調査報告書が公表された事例のうち、得意先が要求する性能やスペックを満たしていない製品を偽って納入していた等の、会計処理とは直接関係しないような不適切な事例は、今回の調査の対象からは除いている。
全体的な分析
まず、2014年4月から2024年12月末日までの期間に報告書を公表したのべ303社(調査報告書を複数回公表している会社もある。)を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。なお、2022年4月4日より、東京証券取引所における市場区分の見直しが行われ、従来の(東証1部、東証2部、ジャスダック及びマザーズ)区分から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの区分に再編成が行われたが、本稿では、2014年4月1日から2022年4月1日までの期間については、東証1部、2部などの旧区分、2022年4月4日以後2024年12月31日までは、プライムやスタンダード等の再編成後の新しい市場区分に基づいて分類している。

現在の市場区分でいうと、プライム上場の企業よりも、スタンダード上場の企業やグロース市場上場の企業の比率の方が相対的に若干高くなっている。
不適切な会計処理の分類と発覚の原因等
不適切な会計処理を生じさせた当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員・従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為を分類している。

新聞報道等でもよく取り上げられているが、親会社に比べてガバナンスが効きにくく、監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に中国をはじめとする海外の子会社)で不適切な会計処理が発生した事例が多くなっている。
次に、不適切な会計処理を形態別に分類すると、表4のとおりとなった。

粉飾決算が全体の半分程度、残りの半分が主に個人の行為に起因する資金の横領・着服等や実体のない取引への関与等であったが、最近は後者の割合が増える傾向にある。コロナウイルス感染症の蔓延を契機とした在宅勤務の普及や対面での打合せの機会の減少などによってチーム内のコミュニケーションが疎遠となり、相互牽制の機会が失われて、個人が主導する不正が起こりやすい環境ができやすくなっている可能性がある。
会社の業績、特に売上高や利益を実態以上によく見せることを狙ったいわゆる粉飾決算がほぼ半分を占めてはいたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブル等にのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費への充当等)による会社の資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、国内外の連結子会社において、本社が十分に管理監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれていた。
さらに、不正の具体的な内容を分類すると、表5のとおりであった。

一つの不適切な会計処理の事例の中に、表5の項目が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事例をどれか一つの項目に分類している。
最後に、不適切な会計処理が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。

調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、企業が自ら異変に気付いて行った自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けたうえでの社内調査も相当数含まれているものと思われる。一般的には、不適切な会計処理を外部者が発見することは難しく、したがって不適切な会計処理を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不適切な会計処理が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。
また、会計監査人が不適切な会計処理の兆候等を発見して会社側に未然に是正を求めたようなケースや、不適切な会計処理が行われはしたものの、第三者委員会を設置しての調査が必要となるほどの規模になるまでの拡大は防いだようなケース(いずれも今回の調査分析の対象外)も少なからず存在すると思われる。社内の内部統制による相互牽制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人や税務当局等による外部からのけん制やモニタリングも、不適切な会計処理の抑止に一定の効果があるものと思われる。
2024年に調査報告書が公表された不適切な会計処理の事例
本稿の後段では、2024年1月1日から2024年12月31日までに第三者委員会による調査報告書が公表された事例24件(23社)の内容を要約して紹介することとしたい。各事例の不適切な会計処理の概要を要約すると、表7のとおりである。
【表7】2024年中に第三者委員会の調査報告書が公表された事例の一覧と不適切な会計処理等の概要
| 会社名(五十音順) | 不適切な会計処理等の概要 |
| アサヒペン |
連結子会社の元従業員が1年4か月にわたり、当該子会社の銀行預金口座から、当該元従業員名義、当該元従業員の複数の親族名義及び当該子会社と取引関係のない複数の第三者名義の銀行預金口座に対し、当該預金口座のインターネットバンキングを利用し不正に送金を繰り返していた(金額合計140百万円)。そしてそのうち68百万円を口座から引き出して着服した。 |
| abalance |
連結子会社と太陽光発電所の建設工事業者との間の一部取引において有償支給取引が行われており、収益認識に関する会計基準の適用指針に照らすと売上及び売上原価が誤って計上されていた。すなわち、工事業者に対する有償支給品は売上計上せず原価ベースで資産計上して管理すべきであったが、売上と売上原価が計上されていた。 |
| イメージワン | 元取締役2名が在任中に、子会社における新規事業参入にあたって第三者に不正に金品を供与し、これに関連する不正な行為を行った。 |
| nmsホールディングス |
会社の代表者による金銭の私的流用。虚偽の経費申請等に伴う交際費等の不正使用が行われた。
|
| 建設技術研究所 |
従業員が、自身が部長に就任している技術部において、会社が受託した業務において生じた人件費等を当該業務以外の業務に付け替えた。 また、会社は、社員が当社の外注システムを利用して架空発注を行い、自らが実質的に経営する会社に還流させ、当該会社から当社に転籍した者への給与補填と当該会社の運転資金等に充当していた不正について、2021年8月12日付で、特別調査委員会調査報告書を公表しており、調査報告書の公表は今回が2度目となる。 |
| 鴻池運輸 |
元従業員が会社の取引業者と共謀して架空の外注費用などの計上を行った。 |
| ジェイフロンティア | 一部の広告売上取引における売上高及び売上原価の計上について、不適切な会計処理(還流取引)が行われた。 |
| スターゼン |
会社の営業拠点において、従業員が過年度から循環取引等の不正ないし不適切な取引を行い、会社における架空在庫及び取引先に対する架空売上が生じた。 |
| セーラー広告 | 従業員が下請け取引業者に発注代金を支払い、必要の都度キックバックを要求し、私的費用(飲食費、遊興費等)に流用していた。 |
| タムラ製作所 |
中国の連結子会社2社において購入部品在庫の会計処理が社内ルールに照らし適切に行われていなかった(エイジング評価損の毎月の計上額を操作した)。 |
| 中部水産 | A社から仕入れた商品(水産物C)を継続的にB社に販売する取引を行っていたところ、2023年11月30日、当社のB社に対する売掛金債権について約定弁済がなされなかったことを機に、A社が、会社に対し、一部取引について実在しない商品を販売するという架空取引を行っていたことが判明し、その後、水産物Cに関するA社から会社、会社からB社へと販売される一連の取引が循環取引であったことも判明した。 |
| DTS |
海外子会社において、経営者等による取引先からのキックバックと不正な支払いが行われていた。なお、不正な支払いの相手方には、現地で公務員とみなされる銀行員や税務当局関係者が含まれていた。 |
| テクノフレックス |
連結子会社であるN社において、複数の相手に対し、複数年に渡って架空の代金を支払い、その支払われた代金の一部を、元代表取締役が私的に受け取っていた。 |
| 東京産業① |
会社が関連する太陽光発電(メガソーラー)案件に係る長期未収入金の回収可能性の評価が不適切であった。 |
| 東京産業② |
会社が元請けとして受注する別の太陽光発電工事請負案件において、追加工事に係る費用負担に関連して、工事原価の増額に伴う工事原価総額の見積り変更が適切に処理されていなかった。 |
| 東京衡機 | グループ会社の営業担当者が、外注先と委託加工費の金額について協議する中、グループ会社の元社長がグループ会社の外注先に対する製造委託料の水増しを行い、外注先等を介して関係者に水増し分のキックバックを行っていた。 |
| 日東工器 | 連結子会社で、棚卸資産の残高について過大計上が行われた。 |
| バルカー | 会社の幹部社員が特定の取引先と示し合わせるなどして取引先に対し代金の水増し発注を行い、捻出した資金の一部を着服していた。 |
| ピクセルカンパニーズ |
① グループ会社の取引会社への前渡金が、会社の代表取締役個人の借入金に対する返済であった。 ② グループ会社において計上された再生可能エネルギー施設等の開発に関わる土地や権利等の取得に関する前渡金等の取引について、取引実態がなかった。 ③ 会社が取締役会の承認を得ずに、会社の代表取締役の個人借入について連帯保証を行った。 |
| ファインシンター | 海外子会社において棚卸資産の不適切な会計処理が行われた。また、国内工場において製造されていた部品の一部について、販売予定が無くなったにもかかわらず、複数年にわたって棚卸資産として資産計上されたままとなっていた。 |
| ブックオフグループホールディングス |
架空買取りによる店舗従業員の横領。また、それを隠蔽するための不適切な在庫計上が行われていた。 |
| プロトコーポレーション |
元社員が架空取引(役務提供の裏付けが確認できないままに取引先等と送受金がなされている取引)を行い、会社において一定の規模で取引先に対する架空の売上及び売上原価が計上されていた。 |
| MIXI |
連結子会社の当時の代表取締役及び営業本部長が、連結子会社の取引先との間で不適切な資金のやり取りを行っていた。 |
| ラックランド |
社長が交際接待費等として精算申請を行った費用の一部について、精算申請時に申告した情報に事実と異なる内容が含まれていた。 |
本稿では全ての不正案件を網羅しているわけではないが、2024年は、売上の水増し計上や棚卸資産の水増しといった、会社の売上高や予算、損益等の達成を目的とした「会社のために個人が手を汚す」粉飾決算よりも、元従業員や役員による会社資金の詐取や流用、架空の外注費の支払いや水増しを行った上でのキックバックの受領やその隠蔽工作といった、「元役員や元従業員が私腹を肥やす」「遊興費等をねん出する」等の目的の、個人主導型の不正が多かったと言えるのではないだろうか。2023年度においても同様の傾向が見られた。
また、本社の目が届きにくいとされる連結子会社、特に海外に所在する子会社での会計上の不祥事の事例も従来同様に散見された。
かつての東芝やオリンパスのような、市場を大きく揺るがし、監査制度の変更をもたらすような大規模な会計上の不祥事は、幸いなことにここのところ数年間は生じていないが、最終的に関係者全員を不幸にする不正の根絶に向けた努力は今後も欠かせない。
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