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解説記事2025年03月03日 未公開判決事例紹介 仕入先の名称が真実でなく仕入税額控除を認めず(2025年3月3日号・№1065)

未公開判決事例紹介
仕入先の名称が真実でなく仕入税額控除を認めず
東京地裁、法定帳簿書類には該当せず

 本誌1038号10頁で紹介した消費税更正処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇原告の帳簿書類が法定帳簿書類に該当するか争われた事件。東京地方裁判所(岡田幸人裁判長)は令和6年7月11日、帳簿書類には各課税期間における課税仕入れの相手方等を特定し得る真実の氏名又は名称が記載されているものとは認められず、消費税法30条7項で保存が要求されている法定帳簿書類には該当しないとの判断を示し、原告の請求を棄却した(令和5年(行ウ)第316号)。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 O税務署長(以下「処分行政庁」という。)が令和3年7月9日付けで原告に対してした別紙1記載の各課税期間における消費税及び地方消費税の各更正処分のうち、別紙1記載の消費税及び地方消費税の各還付金額を下回る部分並びに上記各処分に伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2 事案の概要等
 雑貨等の輸出等を目的とした法人である原告は、平成30年10月期(平成30年10月1日から同月31日までの課税期間をいい、以下、他の課税期間も同様に表記する。)から令和元年11月期までの各課税期間(以下、併せて「本件各課税期間」という。)において、輸出目的で行ったとする雑貨等の課税仕入れに係る消費税額を課税標準に対する消費税額から控除してもなお不足があるとして、消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の還付を受けるための確定申告(以下「本件各確定申告」という。)をした。処分行政庁は、別紙2−1ないし2−14の仕入取引(以下「本件各仕入れ」と総称する。)については、本件各仕入れに係る領収証(以下「本件各領収証」と総称する。)及び原告の総勘定元帳(以下「本件総勘定元帳」といい、本件各領収証と併せて「本件帳簿書類」という。)に記載された仕入先の氏名が真実と認められず、原告が消費税法30条7項本文に規定する「帳簿及び請求書等」を保存しているとは認められないから仕入税額控除を適用することができないなどとして、本件各課税期間の消費税等について各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をするとともに、これに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
 本件は、原告が、被告を相手に、本件各処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令等
 本件に関する法令の定めの概要は、別紙3のとおりである。
2 前提事実(以下、証拠番号は特に断りのない限り枝番を含む。)
(1)原告について

 原告は、平成26年10月1日、雑貨等の輸出等を目的として設立された内国法人である(乙3)。
(2)申告等について
ア 原告は、平成26年11月14日、処分行政庁に対し、適用開始課税期間を同年10月1日から平成27年9月30日までとする消費税課税事業者選択届出書を提出した(乙4)。
イ 原告は、平成29年1月31日、処分行政庁に対し、同年2月1日から課税期間を1月ごとの期間に短縮する旨希望する消費税課税期間特例変更届出書を提出した(乙6)。
ウ 原告は、本件各課税期間に係る消費税等について、別紙4の「確定申告」欄のとおり、確定申告をした(乙7)。
(3)本件各更正処分等について
 処分行政庁は、本件各仕入れの消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)に基づき、本件帳簿書類に課税仕入れの相手方として記載された氏名はいずれも真実のものとは認められず、本件総勘定元帳には課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載がなく(消費税法30条8項1号イ)、また、本件各領収証には書類の作成者の氏名若しくは名称(同条9項1号イ)又は課税仕入れの相手方の氏名若しくは名称(同項2号ロ)の記載がないものと判断し、本件各仕入れは法定帳簿書類を保存しない場合(同条7項)に該当するから仕入税額控除を適用することができないなどとして、別紙4の「更正処分等」欄のとおり、令和3年7月9日付けで、本件各課税期間の消費税等について各更正処分(本件各更正処分)及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)をした(乙13)。
(4)再調査の請求及び審査請求について
ア 原告は、令和3年10月6日付けで、本件各処分を不服として、別紙4の「再調査の請求」欄のとおり、処分行政庁に対して再調査の請求をした。
  処分行政庁は、令和4年1月12日付けで、別紙4の「再調査決定」欄のとおり、上記再調査の請求を棄却する旨の決定をした(甲1)。
イ 原告は、令和4年2月9日付けで、本件各処分を不服として、別紙4の「審査請求」欄のとおり、国税不服審判所長に対して審査請求をした。
  国税不服審判所長は、令和5年1月24日付けで、別紙4の「審査裁決」欄のとおり、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲1)。
(5)本件訴えの提起
 原告は、令和5年7月28日、本件訴訟を提起した。
3 争点
 本件の争点は、本件各仕入れに係る消費税額について仕入税額控除が適用されるか否かであり、具体的には以下のとおりである。
(1)本件帳簿書類は法定帳簿書類に該当するか(争点1)
(2)原告の事業は再生資源卸売業に準ずるもの(消費税法施行令49条2項)に該当するか(争点2)
(3)法定帳簿書類の保存がない場合であっても、本件各仕入れが実際に行われたことを理由として仕入税額控除が適用されるか(争点3)
4 争点に関する当事者の主張の要旨
 争点に関する当事者の主張の要旨は、以下のとおりである。また、被告が主張する課税の根拠及び計算は別紙5のとおりであるところ、原告は、前記3において争点となっている点を除き、これを争うことを明らかにしていない。
(1)争点1(本件帳簿書類は法定帳簿書類に該当するか)について
(被告の主張の要旨)

 消費税法30条8項及び9項によれば、法定帳簿書類には、仕入れの相手方の真実の氏名又は名称が記載されていることを要する。
 ここで、本件各仕入れの相手方は、本件帳簿書類にその旨記載された氏名の者(以下「本件各名義人」という。)であると解されるため、本件帳簿書類が法定帳簿書類に該当するためには、本件各名義人の氏名が真実のものである必要がある。
 しかるに、本件調査の結果によれば、本件各領収証に記載された本件各名義人の住所地(以下「本件各対象住所地」という。)における本件各名義人の居住又は所在(以下「居住等」という。)の事実を確認することができず、また、本件各領収証に記載された本件各名義人の電話番号(以下「本件各対象電話番号」という。)に係る本件各名義人の契約等の事実も確認することができなかった。加えて、本件各対象住所地における居住等の事実(過去の一時点におけるものを含む。)がうかがわれる者(以下「本件各対象住所地居住者」という。)も、本件各対象電話番号について通信会社と契約し若しくは過去に契約していたとみられる者又は上記の者から当該電話の貸与を受けた使用者(以下、併せて「本件各対象電話番号契約者等」という。)も、原告との本件各仕入れに係る取引の存在を否定した。
 以上によれば、本件各名義人の氏名は真実のものであるとはいえないため、本件帳簿書類は法定帳簿書類に該当しない。
(原告の主張の要旨)
 被告は、本件調査の結果をもって、本件帳簿書類に記載された本件各名義人の氏名が真実でない旨主張するが、以下のとおり、立証不十分である。
ア 原告の仕入先は多数の中国人であるところ、各中国人は数名でグループを作り、その内の1名が、各中国人が小売店から購入した雑貨等をまとめて原告の下に運搬する形で、本件各仕入れが行われている(以下、実際に小売店から購入した者を「実際の購入者ら」ということがある。)。
  そして、上記仕入先は、原告との取引において自己の所属するグループの代表者の氏名を繰り返し用いていたため、本件各領収証に記載された本件各名義人の氏名は、仕入れの相手方の真実の氏名と扱われるべきである。
  また、「●●」(別紙8別表の一連番号16)はグループの代表者の氏名であるところ、同人は在留資格の関係で就労時間に制限があったことから、原告との取引に当たり、同じグループに所属していた▲▲▲▲こと△△の住所及び電話番号を繰り返し用いていたため、「●●」は、仕入れの相手方の真実の氏名である。
  その他、本件各名義人の氏名が、仕入れの相手方の通称名である可能性も存在する。
イ 中国人の中には日本での納税に消極的な者も少なからず存在し、本件調査に際して素直に自らの真実の氏名又は名称を回答しないことも考えられるため、本件調査の結果によっては、本件各領収証に記載された本件各名義人の氏名が真実でないものとはいえない。
ウ 本件各対象住所地の地番に誤記があったとしても、必ずしも本件各領収証に記載された本件各名義人の氏名が真実でないものとは限らない。
(2)争点2(原告の事業は再生資源卸売業に準ずるもの(消費税法施行令49条2項)に該当するか)について
(原告の主張の要旨)

 本件各仕入れは、一見するとそれぞれ1名の個人からの仕入れに見えるが、前記(1)のとおり、当該各個人の背後には極めて多数の実際の購入者らが存在している。そして、各グループの代表者も、実際の購入者らの氏名や人数を把握していないのであって、実際の購入者らは多種多様な不特定多数の者であるといえる。また、その取引金額もさほど高額には至らない場合がほとんどである。
 そうすると、原告の事業は、不特定かつ多数の者と取引を行うものであり、かつ、取引価格も少額である点で再生資源卸売業に準ずるもの(消費税法施行令49条2項)に該当することになるから、原告は、法定帳簿書類における課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載を省略することができるものというべきである。
(被告の主張の要旨)
 本件各名義人の背後に不特定多数の実際の購入者らが存在しており、その取引金額もさほど高額には至らない場合がほとんどであるとの原告の主張を裏付けるに足りる証拠の存在は認められない。また、本件帳簿書類の記載や原告の経理担当者の供述内容からすれば、原告は、本件各名義人本人が本件各仕入れの相手方であると認識していたものと認められ、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行っていたものとは認められない。そうすると、原告の事業は再生資源卸売業に準ずるもの(消費税法施行令49条2項)には当たらない。
 なお、仮に本件各名義人の背後に実際の購入者らが存在するのであれば、本件各名義人は「媒介又は取次ぎに係る業務を行う者」に該当し得るため、原告は法定帳簿書類に本件各名義人の氏名又は名称を記載しなければならないが(消費税法30条9項1号、消費税法施行令49条3項)、前記(1)のとおり、本件各名義人の氏名又は名称は真実のものであるとは認められない。
(3)争点3(法定帳簿書類の保存がない場合であっても、本件各仕入れが実際に行われたことを理由として仕入税額控除が適用されるか)について
(原告の主張の要旨)

 法定帳簿書類の保存は、真に課税仕入れが存在するかを確認するための手段として要求されているものであり、仮に法定帳簿書類の保存が認められない場合であっても、他の証拠により真に課税仕入れが存在すると認められる場合には、仕入税額控除を認めるべきであり、このように解することが消費税法の趣旨にも合致する。
 本件において、原告は、仕入れた雑貨等の全てを中国に輸出しているところ、輸出に当たり、仕入れた雑貨等は種類と数量を明示した上で税関の検査を受けており、当該輸出時の書類に記載された内容は、本件各領収証の記載内容と一致する。
 よって、本件においては、真に課税仕入れが存在すると認められるため、本件各仕入れについては、仕入税額控除が認められるべきである。
(被告の主張の要旨)
 事業者が仕入税額控除を受けるためには、課税仕入れが行われ、かつ、当該課税仕入れの事実を証明するための法定帳簿書類が保存されていることが必要であるため(消費税法30条7項)、課税仕入れが存在しさえすれば仕入税額控除を受けられるというものではない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(1)本件帳簿書類について

 原告は、本件総勘定元帳の「仕入高」勘定に、国内において行った雑貨等の仕入れ(本件各仕入れ)に係る仕入年月日及び仕入金額を記載し、「摘要」欄や「補助科目」欄に仕入先の氏名(氏のみのものも一部含まれる。以下同じ。)等を記載していた(乙8)。
(2)本件調査の結果について
 本件各仕入れの消費税等に係る調査(本件調査)の結果は、要旨、以下のとおりであった。
ア 原告の経理担当者の聴取調査結果について
 原告の経理等を担当していた×××(以下「本件経理担当者」という。)は、原告における仕入れの流れについて、以下のとおり述べた(乙2、9)。
 (ア)本件経理担当者は、初めて取引を行う仕入先とは直接会って契約を締結しており、その際、仕入先から提示を受けた名刺に基づき、仕入先の氏名、住所及び電話番号を住所録に記載し、仕入先に印鑑を押してもらう。
 (イ)2度目以降の取引は、上記仕入先に対し、原告が注文を受けた商品についてウィーチャットというメッセージアプリで(原告への納品を)呼び掛けるなどして行う。
 (ウ)仕入取引に係る領収証については、仕入先が作成する場合と本件経理担当者が作成する場合があるが、本件経理担当者が作成する場合には、上記(ア)の住所録に基づいて仕入先の氏名、住所及び電話番号を記載する。
 (エ)本件経理担当者は、商品が倉庫に搬入された際、中身を確認し、仕入先に対して代金を支払うが、この時、領収証に仕入先の印鑑を押してもらい、その控えを仕入先に対して交付する。原告においては、領収証が納品書を兼ねている。
 (オ)本件経理担当者としては、仕入先は上記(ア)の住所録に記載された者であり、領収証に記載された氏名、住所及び電話番号は真実のものであると認識している。
イ 本件帳簿書類に係る調査について
 本件帳簿書類に係る調査の方法及び結果は、別紙8のとおりである(乙10、12)。
2 争点1(本件帳簿書類は法定帳簿書類に該当するか)について
(1)法定帳簿書類の保存の意義

 消費税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、事業者が税額を算定するのに必要な資料に基づいて適正な申告による納税を行うこととしているが、かかる納税方式の下では、納税義務者のする申告が事実に基づいて適正に行われることが肝要であり、必要に応じて税務職員がこの点を確認することができなければならない。
 そこで、消費税法30条7項は、法定帳簿書類が税務職員による検査の対象となり得ることを前提として、事業者が国内において行った課税仕入れに関し、同条8項1号所定の事項が記載されている帳簿及び同条9項各号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれかを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、仕入税額控除に係る同条1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。これは、消費税法施行令50条1項が、帳簿書類の保存年限を税務当局において課税権限を行使し得る最長期限である7年(通則法70条5項(ただし、本件各課税期間においては同条4項)、74条の2第1項3号参照)と定め、その保存場所を納税地等に限っていることとも符合するところである。
 そして、帳簿書類に記載されている課税仕入れに係る消費税額は、前段階の取引の相手方が誰であるかが特定されて初めて適正かつ正確であるか否かを確認することができるため、消費税法30条8項及び9項が、帳簿書類に課税仕入れに係る取引の内容のみならず、仕入れの相手方ないしその取引において媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(以下、仕入れの相手方と消費税法30条9項1号及び消費税法施行令49条3項所定の「媒介又は取次ぎに係る業務を行う者」とを併せて「(仕入れの)相手方等」ということがある。)の氏名又は名称の記載を求めたのは、仕入税額控除の対象となる課税仕入れの相手方等及びその内容を特定させて、仕入税額控除の信頼性、正確性を担保しようとしたものであると解される。このことからすれば、法定帳簿書類における課税仕入れの相手方等の氏名又は名称の記載は、真実のものであることが原則であり、少なくとも、相手方等を示す屋号であるなどその者を特定し得るものである必要があるというべきである。
(2)検討
ア 原告が本件各仕入れに係る消費税法30条9項所定の請求書等(法定請求書等)であると主張する書類は本件各領収証であるところ、本件各領収証には、本件各名義人の氏名のほか、住所(本件各対象住所地)及び電話番号(本件各対象電話番号)が記載されている(ただし、別紙8別表の一連番号7に係る本件各領収証には、電話番号の記載はない。)。そして、本件各領収証において、氏名、住所及び電話番号は一体として記載されており、いずれも当然に当該仕入れの相手方等を特定する趣旨で記載されているものと解される。しかるに、本件調査の結果によれば、本件各領収証の中には、①同一の氏名が記載されているにもかかわらず異なる住所ないし電話番号が記載されたものや、同一の住所ないし電話番号が記載されているにもかかわらず異なる氏名が記載されているものが複数存在していること、②氏名、住所及び電話番号が一対一対応の関係で記載されたものについても、その氏名の者の本件各対象住所地における居住等の事実及び本件各対象電話番号に係る契約等の事実の双方を確認することができた事例はなかったこと、③本件各対象住所地居住者及び本件各対象電話番号契約者等の中に本件各仕入れに係る取引を行った旨述べた者はいなかったことが明らかとなっている。
  加えて、原告が本件各仕入れに係る消費税法30条8項所定の帳簿(法定帳簿)であると主張する帳簿は本件総勘定元帳であるところ、本件総勘定元帳にも、本件各領収証における氏名(一部については電話番号を含む。)の記載があるのみであった(乙8)。
  以上によれば、本件帳簿書類によっても本件各仕入れの相手方等は不明というほかはなく、本件帳簿書類に、本件各課税期間における課税仕入れの相手方等を特定し得る真実の氏名又は名称が記載されているものとは認められない。したがって、相手方等とされる者の氏名等が形式的には記載されているものの、本件帳簿書類は、法30条7項で保存が要求されている法定帳簿書類には該当しないものというべきである。
イ(ア)これに対し、原告は、①仕入先は、原告との取引に当たり、自己の所属するグループの代表者の氏名を繰り返し用いていたため、本件各領収証に記載された氏名は、仕入れの相手方等の真実の氏名が記載されたものといえる、②別紙8別表の一連番号16につき、「●●」はグループの代表者の氏名であるところ、同人は在留資格の関係で就労時間に制限があったことから、原告との取引時に、同じグループに所属していた▲▲▲▲こと△△の住所及び電話番号を繰り返し用いていたため、「●●」は真実の氏名である、③本件各名義人の氏名又は名称は仕入先(本件各対象住所地居住者ないし本件各対象電話番号契約者等)の通称名である可能性があるため、本件帳簿書類に記載された本件各名義人の氏名は真実でない旨の被告の主張は、立証不十分であるなどと主張する。
 (イ)しかしながら、消費税法30条7項が、税務職員が課税仕入れの事実に係る調査をするための資料として帳簿書類の保存を義務付け、その保存を欠く課税仕入れに係る消費税額については仕入税額控除をしない旨定めているものと解されることからすれば、法定帳簿書類は、通則法74条の2第1項3号に基づく税務職員による検査に当たり、適時に仕入れの相手方等の氏名又は名称を特定し、課税仕入れの事実を確認することのできる形で保存されている必要があるものと解すべきであるところ、本件帳薄書類それ自体において本件各仕入れの相手方等が不明といわざるを得ないことは、前記アのとおりである。このことは、本件帳簿書類の体裁は同様であるにもかかわらず、本件各仕入れの相手方等は、本件各対象住所地居住者ないし本件各対象電話番号契約者等である場合(前記(ア)①及び③)と本件各名義人である場合(前記(ア)②)とがあるとの原告の前記主張自体からも明らかである。そして、本件経理担当者は、本件調査時に、本件各領収証に記載された氏名、住所及び電話番号は真実であると認識している旨を述べるのみであって、本件各仕入れの相手方等が前記(ア)①ないし③に当たるなどという説明をすることもなかったというのである。そうすると、本件帳簿書類は、税務職員による検査(本件調査)に当たり、適時に仕入れの相手方等の氏名又は名称を特定し、課税仕入れの事実を確認することのできる形で保存されたものではなかったものというほかはない。
  以上によれば、原告の前記(ア)の主張を踏まえても、本件帳簿書類は法30条7項で保存が要求されている帳簿書類には該当しないものというべきである。
 (ウ)なお、原告は、前記(ア)①の主張を裏付ける証拠として、乙第19号証の存在を指摘するところ、乙第19号証は、別紙8別表の一連番号14及び61の1に係る本件各領収証と同一の住所及び電話番号の記載された領収証の控えにつき、「A」(一連番号14。以下「A氏」という。)並びに「○△□」及び「○△■」(一連番号61の1。以下、両者を併せて「B氏」という。)が、それぞれ、原告から当該領収証の控えを受領した旨を記載し、署名したものである。
  しかしながら、A氏は、本件各仕入れに係る領収証の控えを1枚も保管しておらず、上記記載は裏付けを欠くものである上に、本件調査においては本件各仕入れを行ったことを否定している。また、B氏は、本件各仕入れに係る領収証の控えを保管していたというのであるが、その枚数は1枚のみである上に、やはり本件調査においては本件各仕入れを行ったことを否定しており(乙10の22、乙10の60)、C貿易株式会社に関する税務職員による検査においては、税理士から領収証に記載されている取引をしたことにするよう依頼され、○△■において印鑑を押した旨述べていることすら認められる(乙10の22)。以上によれば、乙第19号証におけるA氏らの上記記載内容を直ちに信用することはできない。
  加えて、乙第19号証添付の各領収証には、原告による仕入れの際にその控えを原告から受領した旨が記載されているのみであって、上記領収証記載の氏名(A氏に係る領収書については「▲○」、B氏に係る領収証については「▲△」)と自己の氏名が一致しない理由についての説明は一切記載されていない。そして、乙第19号証に添付された領収証のうち、A氏に係るものはその時期からみて本件各仕入れにおける領収証ではない。B氏に係る領収証についてみても、本件各領収証のうちB氏の住所及び電話番号が記載されたものには、「▲△」との名義が記載されたものと「▲□」との名義が記載されたものとが混在している(別紙8別表の一連番号23の3、同61の1)。
  これらのことからすれば、本件各領収証の中に乙第19号証に添付された領収証と同一の住所及び電話番号が記載されているものがあるとしても、当該領収証に係る仕入れの相手方等がA氏ないしB氏であるか否かは明らかでないというほかはなく、上記証拠を踏まえても、本件帳簿書類に本件各仕入れの真実の取引の相手方等が記載されていたものと認めるには到底足りないというべきである。
 (エ)以上によれば、原告の前記(ア)の主張は採用することができない。
ウ(ア)また、原告は、日本で生活する中国人の中には、日本での納税に消極的な者も少なからず存在し、調査に対して素直に自らの真実の氏名又は名称を回答しないことも考えられる旨主張する。
 (イ)しかしながら、本件調査において、本件各対象住所地居住者ないし本件各対象電話番号契約者等の氏名と本件各名義人の氏名が異なることは、調査対象者に質問するまでもなく、住民基本台帳の閲覧や本件各対象住所地に臨場して表札を確認するなどの客観的な調査により明らかとなっている。また、本件各対象住所地居住者及び本件各対象電話番号契約者等のうち、税務職員による調査に対し、自らの氏名を一切述べなかった者の存在は認められない。
   これらのことからすれば、原告の前記主張は、抽象的な可能性を指摘するものにすぎず、前記アの判断を左右するものではない。
エ(ア)さらに、原告は、本件各対象住所地の記載に誤記がある可能性がある旨主張する。
  (イ)しかしながら、本件担当職員は、本件各対象住所地のうち誤記の可能性があるものにつき、正しいと思われる住所地がある場合には当該住所地について本件各名義人の居住等が認められるか否か調査を行うなどしている上に、本件各対象電話番号の契約内容についての調査等も行っているのであるから(なお、本件各領収証のうち別紙8別表の一連番号7に係るものには電話番号の記載がなかったものの、当該領収証に記載された住所地と同一住所が記載された領収証記載の電話番号の契約者等に対して本件各調査事項を直接聴取している。)、本件各対象住所地の記載に誤記がある可能性があるとしても、そのことは、前記アの判断を左右するものではない。
3 争点2(原告の事業は再生資源卸売業に準ずるもの(消費税法施行令49条2項)に該当するか)について
 原告は、本件各名義人はグループの代表者であり、その背後には不特定多数の実際の購入者らがいるため、原告の事業は「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業で再生資源卸売業に準ずるもの」(消費税法施行令49条2項)に該当し、法定帳簿における課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載を省略することが可能である旨主張する。
 ここで、再生資源卸売業につき相手方の氏名又は名称の記載の省略が許されているのは、その通常の事業形態として課税仕入れの相手方が不特定かつ多数の一般消費者であり個々の取引額も少額であるため、個々の課税仕入れの相手方の氏名又は名称の記載を求めることは酷であるという事情を考慮したものであると解される。そうすると、消費税法施行令49条2項に規定する再生資源卸売業に準ずるものとは、当該業種の通常の形態として、課税仕入れに係る相手方が不特定かつ多数の者であり取引の価格も少額である等、個々の取引の相手方の氏名又は名称を帳簿に記載することを要求することが酷であると認められるような業種をいうものと解すべきである。
 しかしながら、本件各名義人の背後に不特定多数の実際の購入者らが存在することを裏付ける証拠は存在しないから、原告の上記主張はその前提を欠くものというほかはない。なお、仮に原告の上記主張を前提としたとしても、本件調査の結果によれば、本件経理担当者は、取引に際しては本件各名義人に対して主にウィーチャットで呼び掛けを行うものの、一度は直接対面して契約を締結していたというのであって(認定事実(2)ア)、このような取引形態であれば、実際の購入者らと直接取引する場合であっても、これらの者が不特定かつ多数の一般消費者であるとは認められず、その代表者と取引する場合であっても、当該代表者は「媒介又は取次ぎに係る業務を行う者」に該当し得るものであり、法定帳簿に課税仕入れの相手方の氏名又は名称に代えて当該代表者の氏名又は名称を記載することができるのであるから(消費税法30条8項1号、消費税法施行令49条3項)、当該代表者又は実際の購入者らの氏名又は名称を帳簿に記載することを要求することが酷であるとはいえない。
 したがって、いずれにせよ、原告の本件各仕入れに係る事業が再生資源卸売業に準ずるものに該当すると解することはできないものというべきである。
4 争点3(法定帳簿書類の保存がない場合であっても、本件各仕入れが実際に行われたことを理由として仕入税額控除が適用されるか)について
 原告は、法定帳簿書類が保存されていない場合であっても、他の証拠により真に課税仕入れが存在すると認められる場合には仕入税額控除が適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、税関の検査から明らかになるのはせいぜい原告が輸出した雑貨等の種類と数量にすぎず、それらが本件帳簿書類に記載されたとおりの仕入先からその価格で仕入れたものである事実を裏付けるに足りるものではない。この点をおくとしても、前記2(1)のとおり、申告納税制度の下では、納税義務者のする申告が事実に基づいて適正に行われることが肝要であり、必要に応じて税務職員がこの点を確認することができなければならない。消費税法30条7項は、そのための制度として、税務職員が課税仕入れに係る帳簿及び請求書等を検査し、課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条1項を適用することができることを明らかにしたものと解されるのであって、このような同条7項の趣旨及び目的に照らせば、同項が規定する「帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当するにもかかわらず、他の資料により課税仕入れを認定することは、同項に反し許されないものというべきである。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
5 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 岡田幸人
裁判官 村井壯太郎
裁判官 藤本思帆音

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