税務ニュース2025年03月07日 バカラによる所得は予想的中時に確定(2025年3月10日号・№1066) 地裁、予想が的中したゲームごとに賭けたチップの額面相当額のみ控除
本件は、原告が、海外のカジノ施設で行ったバカラで得た所得をないものとして所得税等の確定申告を行ったところ、処分行政庁が、予想が的中したゲームごとに、配当として得たチップの額面相当額(収入)から同ゲームに賭けたチップの額面相当額(支出)を控除して一時所得の金額を算定すべきとして更正処分等を行ったことから、訴訟に至った事案である。
原告は、いわゆるVIP顧客であり、各カジノ会社との間で、供与された1~2億円程度の信用枠の範囲内でチップを受け取ることができるクレジット契約を締結しており、さらに、一部のカジノ施設では、VIP顧客を対象とするサービスプログラムを利用していた(これらを「本件各プログラム等」という)。
原告は、本件バカラにおいて、取得したチップを賭け、その予想が的中した場合には、配当としてライブチップを受領していた。東京地裁はまず、ライブチップに額面相当額の経済的価値を認めることができるかどうかについて検討し、ライブチップは、その額面相当額について換金、ゲーム利用又はクレジット契約に係る債務の返済に充当することができるのであるから、同額分の経済的価値を有すると判断した。
原告は、ライブチップは、特定の場所・条件においてのみしか利用可能性がなく、不特定多数の当事者間における自由な取引は観念できないから、その客観的交換価値は0円であるなどと主張したが、これに対し東京地裁は、所得税の課税対象は不特定多数の当事者間で自由な取引が観念できる資産に限られるものではないなどとして、原告の主張を斥けた。
そして東京地裁は、原告が配当としてライブチップを得ることは、ライブチップの経済的価値がその価値を確定し得る状況の下で個人に流入したものといえるから、ライブチップに係る経済的利益について原告に現実の収入があるとした。
原告は、本件各プログラム等の規定上、本件各プログラム等が終了し、厳重な本件確認等手続を経ない限り、配当として受け取ったライブチップを換金又は充当することができなかったと主張していたため、東京地裁は、当該制約により経済的価値の流入を否定すべき特段の事情があるといえるかどうかについて検討した。
東京地裁は、①原告は、予想を的中させて配当としてライブチップを得た時点で、その後のゲームをスキップすることにより、当該ライブチップを本件各プログラム等の終了時まで保持することができたこと、②ライブチップの換金は、マネーロンダリング等の不正が認められるなどの特段の事情のない限り、本件確認等手続によって妨げられるものではなく、原告は、本件各プログラム等が終了しさえすれば、確実にライブチップを換金することができたといえること、③本件各プログラム等の利用中であっても、NNチップに交換するなどして新たなゲームに利用することができたことなどを指摘し、以上のことから、本件各プログラム等の終了時まで換金又は充当することができないという制約は、上記の経済的価値の流入を否定すべき特段の事情とはいえないとの判断を下した。
続いて東京地裁は、収入の権利確定時期について検討し、原告は、本件バカラにおいて、その予想を的中しさえすれば、他に特段の行為等を要することなく、配当としてライブチップを確実に受領することができ、原告の予想が的中した時点で、ライブチップに係る経済的利益を得るための権利行使が可能になったといえるから、その時点をもって、収入の原因となる権利が確定したものとの判断を下した。
原告は、本件バカラ所得の収入は本件各プログラム等の終了時のライブチップの残高に係る経済的利益であることを前提に、原告が同収入を無条件で入手できる状態になった時は、本件確認等手続を経た上で、未払債務を完済して本件各プログラム等が終了した時であると主張した。
これに対し東京地裁は、「原告の主張は、本件各プログラム等において行われた各ゲームを一体とみた上で、その場合の収入とは何かを検討したものであると解されるので、本件各プログラム等において行われた各ゲームを一体と見るべきか否かについて検討する」とした。
その上で、まず、バカラにおいては、各ゲームの勝敗に応じて、ライブチップの配当又は没収が都度行われ、また、ゲームごとの参加は任意であり、途中のゲームをスキップすることも可能であるから、各ゲームはそれぞれ独立しているものといえるとした。また、本件各プログラム等の終了時に支払うべき未払債務は、原告が信用枠の範囲内でチップを受け取った時点でその金額を含めて確定しており、本件各プログラム等の終了時に確定するものではないことからも、本件各プログラム等を利用することによって、本件各プログラム等において行われた各ゲームを一体と見るべき根拠は見当たらないとして、原告の主張を斥けている。
そして東京地裁は、本件バカラ所得に係る一時所得の金額の計算に当たっては、ゲームごとに個別的に行い、予想が的中したゲームに賭けたチップの額面相当額のみを総収入金額から控除すべきであるとして、課税処分は適法と結論づけた。
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