解説記事2025年04月14日 SCOPE 役員不祥事で調査委員会設置、損害賠償はどこまで可能か(2025年4月14日号・№1070)
元代表取締役に3,800万円超の損害賠償責任
役員不祥事で調査委員会設置、損害賠償はどこまで可能か
原告の上場会社が、当時の代表取締役(被告)による金融商品取引法違反によって、調査委員会の設置や株主総会の会場変更等に要した費用、証券取引等監視委員会による強制調査対応の弁護士費用として約1億3,500万円の損害を被ったとして、元代表取締役に対し損害賠償を求めた事件で、東京地方裁判所(笹本哲朗裁判長)は令和6年11月27日、元代表取締役に対して3,800万円余りを支払うよう命じる判決を下した(令和5年(ワ)第70596号)。裁判所は、被告の違法行為は取締役としての任務懈怠に該当するとした上で、原告の支出した費用が被告の違法行為と相当因果関係のある費用かどうかについて判断を行っている。
被告の違法行為と相当因果関係のある費用か否か
本件の原告は、東証のプライム市場に上場するアイ・アールジャパンホールディングス。投資家向け広報活動の受託業務及びコンサルティング業務等を営む会社である。原告の代表取締役を務めていた被告は、原告の通期業績予想値が公表していた予想値よりも14%超減少するとの重要事実の公表前に、知人らに対し、原告の株券の売付けを勧めたものであり、被告の取引推奨行為は、金商法167条の2第1項に違反する行為であるとして、その後、有罪判決が確定した。
原告は、被告が原告在職中にインサイダー取引に関与したとの疑義(本件疑義1)に関し、証券取引等監視委員会による強制調査が開始されたことを受け、第三者で構成される調査委員会を設置。調査委員会は、本件疑義1のほかに、原告の令和4年3月期の業績予想(売上高120億円)について、売上高が95億4,600万円に下振れする見通しが幹部のみが出席する会議で明らかにされ、原告には修正した業績予想を開示すべき義務が発生していたにもかかわらず、これを行わなかった疑い(本件疑義2)があるとの報道がされたことを踏まえ、原告の業績予想値の算出及び公表に係る体制などを対象として調査を行った。
原告は、上場会社である以上、役員の重大な不祥事があった場合には外部専門家による調査委員会を設置し調査することは必須であるとしたほか、株主総会には数百人規模の株主の来場が予想されたため、安全かつ円滑な総会運営を確保するため、原告の本店会議室から会場をホテルに変更する必要が生じたとして、これらの費用は被告の違法行為との間に相当因果関係のある損害であると主張した。
高級ホテルへの会場変更、費用は過大
裁判所は、被告による違法行為は取締役としての任務懈怠に該当し、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負うとした。
その上で、調査委員会の設置・活動費用に関しては、本件疑義1と本件疑義2は別の疑義であると認められ、本件疑義2に関する調査委員会の活動費用は、被告の違反行為と相当因果関係のある損害とは認められないとした。また、株主総会開催に関する増加費用については、企業において不正行為等の疑義が生じた場合において、その直後に予定された株主総会について、どのような形式の株主総会を開催し、それにどの程度の費用を投ずるのかは、不正行為の内容、企業の規模、企業の置かれている状況など諸般の事情を総合的に勘案して、企業が裁量的に判断することであり、それに多額の費用を投じることが企業にとって裁量的判断として不合理とはいえない場合であっても、その支出額について不正行為に関与した取締役に対する損害賠償請求が裁判で認められるかについては、別途、損害の公平な分担という見地から、相当因果関係の有無(相当因果関係のある損害の範囲・金額)を事案ごとに判断すべきであるとの見解を示し、各費用について判断を行っている(表参照)。例えば、本店会議室からホテルの会場に変更した点については、変更自体はやむを得なかったとしたが、変更した会場が大きく費用は過大であったと認定している。
調査委員会の設置・活動費用(本件疑義1のほか、本件疑義2を調査対象に加えた調査委員会の各委員等の報酬並びに実費として1億779万5,380円を支出) |
⇒認定された損害額:2,889万7,690万円 ・本件疑義1は、令和3年3月期の業績予想に関して被告個人がインサイダー取引に関与したという疑義であるのに対し、本件疑義2は、令和4年3月期の業績予想に関して原告が会社として開示義務に違反したという疑義であって、両者は明らかに内容を異にするものであり、本件疑義2に関する調査委員会の活動費用は、被告の違法行為と相当因果関係のある損害とは認められない。 |
株主総会開催に関する増加費用(①ホテルに対し、株主総会の会場関係費用として3,527万8,584円、②H社に対し、総会会場変更の案内文書の印刷及び発送業務料として73万7,681円、③V社等に対し、株主総会の配信費用として403万8,650円を支出) |
⇒認定された損害額:614万3,181万円 ・本店会議室から会場を変更したこと自体はやむを得なかったものというべきであり、会場変更に伴い通常生ずる範囲の費用は、違法行為と相当因果関係のある損害であるといえる。しかし、ホテルの会場は本店会議室の10倍もの広さであり、600名以上を収容することができる会場であるところ、会場変更を決定した時点で株主総会に数百名規模の株主が来場するという具体的な根拠は証拠上見出し難く、会場変更によって生じた費用は過大というほかなく、株主総会の会場費用に係る損害としては、予約可能であった他の会場に要する額等に鑑み、支出費用のうち200万円の限度で、違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 ・総会会場変更の案内文書の印刷及び発送業務料は、会場変更に伴う相当因果関係のある損害であると認められる。 ・株主総会の配信費用のうち、2日間にわたるリハーサルを行う必要性は証拠上認め難く、損害の公平な分担の見地からみて相当とはいえないことから、120万円を限度に、違法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 |
強制調査等の対応のための弁護士相談費用(法律事務所に、証券取引等監視委員会による強制調査の対応支援に加え、株主総会対応支援を依頼し、調査対応案件の法律相談料及び実費として2,428万940円を支出) |
⇒認定された損害額:0円 ・調査対応案件の法律相談料の内容と違法行為との関係性は明らかではなく、原告が任意に依頼した法律相談等に関する費用について被告が負担すべきものということはできない。 |
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