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解説記事2025年04月28日 特別解説 国際財務報告基準(IFRS)や国際サステナビリティ開示基準の作成を支える諮問機関等(2025年4月28日号・№1072)

特別解説
国際財務報告基準(IFRS)や国際サステナビリティ開示基準の作成を支える諮問機関等

はじめに

 収益認識やリース、保険契約といった会計基準を公表した後も、国際財務報告基準(IFRS)を作成・公表する国際会計基準審議会(IASB)は活発に審議を継続しており、2024年にもIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」やIFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」を公表している。
 また、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)によるサステナビリティ開示基準(IFRS S1及びS2)の公表もあり、現在は国際的な会計基準やサステナビリティ開示基準の開発、将来の適用のための準備が急ピッチで進められているといってよい。
 これらの会計基準の開発は前述のIASBとISSBを中心に行われているが、それらの組織を側面から支援する諮問機関や協議機関が多数存在する。これらの組織は会計や開示の基準が全世界で適切に使用されるように作成手続(デュー・プロセス)の適正さを担保したり、基準の利用者からの声やニーズを吸い上げて、基準作りに反映させたりするような役割を主に担っている。
 本稿では、国際的な会計基準やサステナビリティ開示基準の開発、実務への適用を側面から支える諮問機関及び協議機関の概要を紹介することとしたい。

諮問機関の一覧

 IFRSやサステナビリティ開示基準の開発や実務への適用を支援する諮問機関は、大別すると以下の3つの類型に分けられる。
① IFRS財団の諮問グループ
・IFRS諮問会議
 (IFRS Advisory Council:IFRS AC)
・統合報告及びコネクティビティ会議
 (Integrated Reporting and Connectivity Council:IRCC)

② IFRS会計の諮問グループ
(諮問機関 Advisory bodies)

・会計基準アドバイザリーフォーラム
 (Accounting Standards Advisory Forum:ASAF)
(協議グループ Consultative Groups)
・資本市場諮問会議
 (Capital Markets Advisory Council:CMAC)
・新興経済国グループ
 (Emerging Economies Group:EEG)
・グローバル作成者フォーラム
 (Global Preparer’s Forum:GPF)
・IFRSタクソノミ協議グループ
 (IFRS Taxonomy Consultative Group)
・中小企業(SME)適用グループ
 (SME Implementation Group:SMEIG)
(プロジェクト協議グループ Project Consultative Groups)
・料金規制協議グループ
 (Consultative group for rate-regulation)
・経営者による説明協議グループ
 (Consultative group for management commentary)

③ IFRSサステナビリティのグループ
(諮問機関 Advisory bodies)

・サステナビリティ基準アドバイザリーフォーラム
 (Sustainability Standards Advisory Forum:SSAF)
・ISSB投資家諮問グループ
 (ISSB Investors Advisory Group:IIAG)
・サステナビリティ協議委員会
 (Sustainability Consultative Committee:SCC)
(協議グループ Consultative Groups)
・IFRSタクソノミ協議グループ
 (IFRS Taxonomy Consultative Group)
(移行適用グループ Transition Implementation Groups)
・IFRS S1及びIFRS S2の移行適用グループ

 以下では、それぞれの諮問機関や協議グループを簡単に紹介してゆくこととしたい。

IFRS財団及び評議員会

 まず最初に、IFRS財団と評議員(Trustees)及び評議員会の役割を説明しておきたい。
 IFRS財団は、独立した民間の非営利組織であり、公共の利益に貢献する目的で運営されている。ガバナンス及びデュー・プロセス(適正な手続)は、世界中の利害関係者に対する説明責任を十分に果たしながら、基準設定が特定の利害から独立性を維持できるように設計されている。そして、IFRS財団は、金融市場監督当局のような公的機関で構成されるモニタリング・ボードによって監督され、公的説明責任を果たしている。
 IFRS財団の中核組織である評議員会は、国際会計基準審議会(IASB)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のガバナンスと監視、IFRS基準やISSB開示基準の普及促進、組織の資金調達に対する責任を担っている。IFRS財団評議員会を構成する評議員は22名おり、任期は3年で、日本からは河野正道氏(副議長。金融庁出身)と田代桂子氏(大和証券出身)の2名が就任している。
 評議員の主な役割は下記のとおりである。
・ガバナンスと組織的な戦略を監督すること。
・会計基準等開発においてデュープロセス(適正な手続)を経ているかを監督すること。
・組織の定款とデュープロセス・ハンドブックを維持すること。
・IASB、ISSB、IFRS解釈指針委員会及び様々な諮問機関のメンバーを任命すること。
・組織の資金を調達し、確保すること。

 評議員は、IFRSやISSB開示基準に対する技術的な問題には関与しない(IASBやISSBの責任となる。)。そして、評議員の任命と再任は、モニタリング・ボードが所管している。

 直近(2024年10月)のIFRS財団評議員会の議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・IASBの活動状況アップデート
・中小企業向けIFRS第3版の開発に関するデュープロセス
・IASB及びIFRS解釈指針委員会の活動の年次報告
・ISSBの活動状況アップデート
・ISSBの活動の年次報告
・デュープロセス・ハンドブックの更新

IFRS財団の諮問グループ

① IFRS諮問会議(IFRS Advisory Council)
 IFRS諮問会議は、IFRS財団評議員会、IASB及びISSBに対する正式な戦略諮問機関であり、国際的な財務報告に関心を持つ個人や組織など、幅広い代表者で構成されている。諮問会議が注力する事項は、IFRS財団に対して戦略的な支援と助言を提供することであり、少なくとも年に2回、ロンドンで2日間の会議を開催している。メンバーには、投資家、金融アナリスト、財務諸表のその他の利用者、作成者、学者、監査人、規制当局、専門職業団体、基準設定者が含まれる。
 現在メンバーは53名で、我が国からは関根愛子氏(日本公認会計士協会)及び岩崎伸哉氏(有限責任監査法人トーマツ)の2名が参加している。
 直近(2024年11月)のIFRS諮問会議(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・IASBの活動報告
・IFRS財団評議員会の活動報告
・IASBの作業計画の優先順位付け
・ISSBの活動報告
・IFRS財団のマルチロケーション活動モデルについて
・人材の勧誘及び引き留め策について

② 統合報告及びコネクティビティ会議
 (Integrated Reporting and Connectivity Council)

 会議は、次の事項についてガイダンスを提供する。
・IASBとISSBが要求する報告をどのように統合できるか。
・IASBとISSBが統合報告フレームワークの原則と概念をプロジェクトに適用することをどのように検討できるか。
 会議は、IASBの要求事項をISSBの要求事項と整合させるのに役立つ洞察を提供することで、一貫性があり連携した財務報告パッケージの提供を促進する上で重要な役割を果たす、とされている。
 委員は100名で、このうち我が国からは以下の5名の方々が参加している。
・橋本 純佳氏(有限責任あずさ監査法人)
・森 洋一氏(日本公認会計士協会)
・関口 智和氏(有限責任あずさ監査法人)
・住田 孝之氏
 (World Intellectual Capital Initiative(WICI)Japan)
・山道 裕己氏(日本取引所グループ)

 直近(2024年11月)の統合報告及びコネクティビティ会議の議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・IASBとISSBの進捗報告
・コーポレート・ガバナンスに関するパネル
・分科会での議論(将来のコーポレート・レポーティングに関する疑問、統合思考)

IFRS会計の諮問グループ

(諮問機関 Advisory bodies)
① 会計基準アドバイザリーフォーラム
 (Accounting Standards Advisory Forum ASAF)

 ASAFの目的は、世界的に認められる高品質の会計基準を開発するというIASBの目標達成に向けてメンバーが建設的に貢献できる諮問フォーラムを提供することである。
 具体的には、ASAFは次のような目的で設立された。
・IFRS財団の目標を支援し、公共の利益のために、高品質で理解しやすく、強制力があり、世界的に認められる会計基準の単一セットの開発に貢献し、投資家やその他の市場参加者が情報に基づいたリソース配分やその他の経済的決定を行う上で役立つこと。
・IASBの基準設定プロセスにおいて、各国の基準設定機関や地域団体のグローバルコミュニティとIASBの共同関与を正式化し、合理化することで、IASBの基準設定活動に関連する主要な技術的問題に関する国や地域の幅広い意見が議論・検討されるようにすること。
・基準設定上の問題、主にIASBの作業に大きな影響を及ぼすその他の問題も含む可能性のある問題について、十分な深さで、専門能力が高く、各地域に関する十分な知識を持つ代表者との効果的な技術的議論を促進すること。
 ASAFは我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)を含む世界中の14団体が構成しており、通常、年に4回会合を行っている。
 直近(2024年12月)のASAFの議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・料金規制活動
・経営者による説明(マネジメント・コメンタリー)
・キャッシュ・フロー計算書及び関連する事項
・IFRS第19号のアップデート

(協議グループ Consultative Groups)
① 資本市場諮問会議
 (Capital Markets Advisory Council)

 CMACは、IASBおよびIFRS財団から独立した組織として設立され、財務諸表利用者コミュニティからの定期的な意見をIASBに提供することを具体的な目的としている。CMACは、財務情報の分析に関する豊富な実務経験を持ち、自らまたは参加している代表団体を通じて会計問題に関する定評のあるメンバーで構成されている。メンバーはさまざまな業界や地理的背景を持つ人々から構成され、財務報告情報を使用する資本市場参加者としての専門的能力と資本市場参加者の意見を代表する能力に基づいて選出されている。CMACは、IASBの代表者と年に3回会合するが、このうち1回は、後述するGPFと共同で開催される。
 CMACのメンバーは合計20名であり、我が国からは、大滝晃栄氏(SMBC日興証券)と土谷敬氏(日本証券アナリスト協会)の2名が参加している。
 直近(2024年11月)のCMACの議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・IASBアップデート
・気候関連及びその他の財務諸表における不確実性に関する公開草案
・IFRS第16号「リース」の適用後レビュー
・持分法
・キャッシュ・フロー計算書

② 新興経済国グループ
 (Emerging Economies Group)

 新興経済国グループ(EEG)は、IFRS会計基準の開発における新興経済国の参加を促進することを目的として設立された。EEGは、技術的な議論に参加し、基準設定の議題に貢献し、適用上の問題や経験を特定して共有することで、IASBの目的達成を支援する諮問フォーラムを提供する。議論されるトピックは、EEGメンバーの助言を得て議長と副議長によって選択されるが、例えば共通支配下取引や外貨換算に関する問題などがある。加盟団体は14団体で、我が国からは参加していない。EEG事務局(EEG連絡事務所)は北京にある。
 直近(2024年12月)のEEGの議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・無形資産
・IFRS第16号「リース」の適用後レビュー
・キャッシュ・フロー計算書及び関連事項
・IFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」
・持分法
・IAS29号「超インフレ経済における財務報告」の適用

③ グローバル作成者フォーラム
 (Global Preparer’s Forum)

 GPFは、IASB及びIFRS財団から独立した組織であり、財務諸表作成者コミュニティからの定期的なインプットをIASBに提供することを具体的な目的としている。
 GPFは、財務報告の実務経験が豊富で、自らの権限で、または関与している団体との協力を通じて会計問題に関する定評のあるメンバーで構成されている。メンバーはさまざまな業界や地理的背景から集められ、専門能力と実務経験に基づいて選出され、高品質のグローバル会計基準の開発に貢献する。会合は年3回で、そのうちの1回は前述のように、CMACとの共同開催である。メンバーは18名で、我が国からは坂口和宏氏(富士通)が参加している。
 直近(2024年12月)のEEGの議題(アジェンダ)の主なものは次のとおりである。

・IFRS第16号「リース」の適用後レビュー
・キャッシュ・フロー計算書及び関連事項
・持分法
・気候関連及びその他の財務諸表における不確実性に関する公開草案

④ IFRSタクソノミ協議グループ
 (IFRS Taxonomy Consultative Group)

 IFRSタクソノミ協議グループは、IASBとISSBに、それぞれのデジタルタクソノミと関連活動について助言する専門家諮問グループである。ITCGのメンバーは、以下のことを実施する。
・IFRSデジタルタクソノミを詳細に検討し、データコンテンツとアーキテクチャの両方の観点から、タクソノミが期待される市場標準とベストプラクティスを満たしていることを確認する。
・IFRSデジタルタクソノミとデジタル財務報告活動に関する事項について、技術的なアドバイスと戦略的な適用ガイダンスを提供する。
・財務報告オントロジーに関する事項について、IFRS財団スタッフにガイダンスを提供する。
 メンバーは20名であり、我が国からは、筏井大祐氏(日本公認会計士協会)が参加している。直近(2024年12月)の会合の主なアジェンダは以下のとおりである。

・タクソノミ作業計画のアップデート
・南アフリカにおけるデジタル財務報告

⑤ 中小企業(SME)適用グループ
 (SME Implementation Group)

 SME適用グループ(SMEIG)は、主に以下の事項を行う。
a.IFRS for SMEs会計基準の導入と適用に関する質問を検討し、設定された基準に基づいてどの質問が教育資料として公開される価値があるかを決定し、適時に公開される教育資料であるQ&Aを開発すること。
b.IFRS for SMEs会計基準の修正の必要性を検討し、所定の事項について理事会に勧告すること。
 メンバーは29名であり、我が国からは岡田博憲氏(ひびき監査法人)が参加している。
 直近(2024年9月)の会合の主なアジェンダは以下のとおりである。

・中小企業向けIFRS第3版の修正の概要
・IFRS第19号を修正する公開草案の概要

 なお、プロジェクト協議グループ(料金規制及び経営者による説明)の紹介は省略する。

IFRSサステナビリティのグループ

(諮問機関 Advisory bodies)
① サステナビリティ基準アドバイザリーフォーラム(SSAF)

 SSAFの目的は、ISSBの目標である、サステナビリティ報告に関する各地域の基準と相互運用可能な、サステナビリティ関連開示の包括的な世界基準を提供する基準の開発に向けて、メンバーが建設的に貢献できる諮問フォーラムを提供することであり、既に紹介したASAFのサステナビリティ版であるといえる。構成団体は、我が国のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)を含む13団体である。
 直近(2024年10月)の会合の主なアジェンダは以下のとおりである。

・ISSBリサーチプロジェクトに関する調査
・教育文書の開発
・ISSBで進行中の業務について、相互運用性(interoperability)を組み込む

② ISSB投資家諮問グループ
 (ISSB Investors Advisory Group)

 ISSB投資家諮問グループ(IIAG)は、さまざまな市場の主要な資産所有者と資産運用会社のグループであり、サステナビリティ関連の財務情報開示の品質と比較可能性の向上に取り組んでいる。
 IIAGは、ISSBの諮問機関として、次の役割を果たしている。
・IFRSサステナビリティ情報開示基準の開発に関する戦略的ガイダンスを提供する。
・投資家の視点が明確に表現され、ISSBの基準設定プロセスで考慮されるように支援する。
 IIAGのメンバーは、企業価値に影響を与えるサステナビリティ関連の問題に関する業績を投資家に伝えるために基準を使用するよう組織に奨励することで、IFRSサステナビリティ情報開示基準の広範な採用の実現にも貢献している。
 IIAGには、世界中の70社前後の大規模な投資家が参画しており、我が国からは以下の投資機関の代表者が会合に参加している。
・アセットマネジメントワン
・第一生命保険
・MUFGアセットマネジメント
・日生アセットマネジメント
 直近(2024年12月)の会合の主なアジェンダは以下のとおりである。

・ISSBの活動アップデート
・2025年のIIAGの戦略についてのワークショップ

③ サステナビリティ協議委員会
 (Sustainability Consultative Committee)

 サステナビリティ協議委員会(SCC)の任務は、ISSBに対して、優先的なサステナビリティの問題と関連する技術プロトコル、およびサステナビリティの問題間の重要な相互依存性を特定し、情報を提供して助言をすることである。この委員会は、世界的に受け入れられる高品質のサステナビリティ開示基準を開発するというISSBの目標達成に向けて、メンバーが建設的に貢献できる諮問および助言フォーラムを提供している。
 SCCは、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、国連及び世界銀行の4つの常任多国間メンバー組織で構成されており、これらの常任組織に加えて、9人の追加専門家メンバーを任命できるとされている(現在はTCFDやGRIなどが任命されている)。
 直近(2024年12月)の会合の主なアジェンダは以下のとおりである。

・各地域におけるアドプション及び相互運用性
・ISSBとGRIのコラボレーション

(協議グループ Consultative Groups)
・IFRSタクソノミ協議グループ
 (IFRS Taxonomy Consultative Group)
 前述(IFRS会計の協議グループ)の記載を参照。

 なお、移行適用グループの紹介は省略する。

終わりに

 IASBやISSBにおける会計・開示基準の開発や実務への適用のための活動は、全世界から集まった多くの支援者、助言者によって支えられていることが分かる。そして、我が国からも数多くの専門家が参画し、グローバルな単一の会計基準や開示基準のセットの開発や実務への円滑な適用のために、多大な貢献を行っている。

参考
IFRS財団ウェブサイト(ホームページ)

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