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解説記事2025年05月19日 ニュース特集 東芝の不適切会計事件めぐり元役員が逆転勝訴の注目判決(2025年5月19日号・№1074)

ニュース特集
東京高裁、引当金の計上処理に米国会計基準違反を認めず
東芝の不適切会計事件めぐり元役員が逆転勝訴の注目判決


 東芝の不適切会計事件をめぐり、東芝が元役員らに対して損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で東京高裁(中村也寸志裁判長)は令和7年3月19日、元役員ら3名に連帯して1億円から2億円の損害賠償を命じた一審判決を取り消したうえで、東芝の訴えを斥ける判決を下した。この判決は元役員ら3名の損害賠償責任を否定するもので、一審とは一転して元役員らが逆転勝訴したかたちとなった。特集では、本件で問題となった東芝による工事契約等に係る引当金の会計処理をめぐり、一審と控訴審で判断が分かれたインフラ案件の会計処理に関する裁判所の判断内容などをお伝えする。なお、控訴審で逆転敗訴した東芝側は上告を提起している。一審判決と控訴審で判断が分かれただけに、上告審である最高裁の判断内容に注目が集まりそうだ。

引当金の過少計上(未計上)が会計基準に違反するか否かが争点に

 本件は、東芝が行ったインフラ案件など各案件に係る会計処理が「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法431条)に違反する違法なものであったとして、東芝の取締役兼代表執行役社長等であった元役員ら5名が会計処理について取締役又は執行役としての善管注意義務に違反したことなどによって損害(課徴金や上場契約違約金等の合計約105億円)を被ったと主張して、東芝が元役員ら5名に対して会社法423条1項に基づきこれらの損害の一部の連帯支払いを求めていたものである。
 本件で問題となったインフラ案件は、①東芝の米国連結子会社が受注した地下鉄車両に使用する電機品等の納入や設計に関する請負契約(以下「米国地下鉄案件」)、②東芝が受注した高速道路上のETC設備の更新工事に関する請負契約(以下「ETC案件」)、③東芝の米国連結子会社が受注した原子力新規プラントの建設に関する請負契約(以下「原子力プラント案件」)の3つである。
 東芝の連結決算は米国会計基準に基づき作成されていたところ、①米国地下鉄案件は工事契約等における会計処理方法として完成基準が適用されており、②ETC案件と③原子力プラント案件は進行基準が適用されていた。裁判では、この3つのインフラ案件における引当金の一部未計上(過少計上)が会計基準に違反するか否かという点が争われていたほか、会計基準に違反する場合には元役員らの賠償責任の有無が争われていた。
米国会計基準違反、元役員らに賠償命じる
 一審の東京地裁令和5年3月28日判決は、インフラ案件(米国地下鉄案件・ETC案件・原子力プラント案件)について、その時点において会社の置かれた状況の下で合理的に算定されたものと認められる見積値による引当金を計上しなかった東芝の会計処理は米国会計基準に違反する違法なものであったと判断した(裁判所の判断内容は表1、表2、表3参照)。

【表1】米地下鉄案件に関する裁判所の判断内容(概要)

東京地裁(第一審) 東京高裁(控訴審)
・担当部署が各種の報告等に使用等した見積値は、その算定の前提とされた収益(契約収入総額)および費用(契約原価総額)に関する見積値も含め、通常は発生につき相応の確度のある事実を基礎として合理的な方法に基づき算定された数値であったと推認することが可能である。
・また、担当部署として損失発生の回避に向けた極めて強い動機が生じている状況の中で、様々な損益改善施策を織り込んでも一定額の損失の発生を回避することができない状況であることをその担当部署において認めているという意味で、担当部署において相応に実現可能性があると判断した損益改善施策の成果を織り込んだ場合の見積値は、発生の確度および評価の合理性を強く推認することができる。
・東芝は、平成23年度第4四半期および平成24年度第1四半期の各四半期末には少なくとも約5,500万米ドルの限度で、同年度第2四半期から平成25年度第1四半期の各四半期末には少なくとも約4,100万米ドルの限度で、同年度第2四半期から平成26年度第1四半期の各四半期末には少なくとも約48億2,000万円の限度で、それぞれ引当金を計上すべきであったと認められ、計上しなかった東芝の会計処理は、いずれも米国会計基準に違反する違法なものであった。
→米国会計基準に違反する

【平成23年度第4四半期末.平成25年度第4四半期末】
・利益が見込まれる旨が記載された資料で目標とされた見積値が当時既に達成困難な状況にあったと認めるに足りる証拠はない。また損失の発生の可能性が高いと認められる状況にあったと認めるに足りる証拠はない。会計処理について監査法人が何らかの問題を指摘したこともうかがわれない。各期において計上した引当金で不足するほどの損失が発生する可能性が高いと認められる状況にあったと認めることはできない。引当金を計上(追加計上)した会計処理が米国会計基準に違反する違法なものであったということはできない。
→米国会計基準に違反しない

【平成26年度第1四半期末】
・約6,430万米ドルの損失の発生が見込まれることを前提とした引当金を計上すべきであったところ、計上された引当金額は損失見積額を約38億8,900万円(1米ドル100円換算で約3,889万米ドル)とすることを前提としたものであったから、本来計上すべきであった額に不足している可能性がある。
→東芝の企業規模に照らせば、これらの引当金に係る会計処理が投資者の判断に影響を与えるという観点に照らし有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということはできないから、米国会計基準に違反しない

【表2】ETC案件に関する裁判所の判断内容(概要)

東京地裁(第一審) 東京高裁(控訴審)
・担当部署が各種の報告等に使用等した見積値によれば、損失の発生が見込まれていたものと認められるから、損失額の見積りに関する米国会計基準に基づき、①他の見積金額よりも可能性が高い見積金額が存在するときは、当該可能性が高い見積金額に相当する額の引当金を計上し、②他の見積金額よりも可能性が高い見積金額が存在しないときは、その範囲内で最小値の金額に相当する額の引当金を計上すべきであったところ、「他の見積金額よりも可能性が高い見積金額」が存在したことまでは認め難いから、損失額の見積りにおける「最小値の金額」に相当する額と同額の引当金を計上すべきであり、具体的には、少なくともそれぞれの担当部署が各種の報告等で使用した見積値に相当する引当金を計上すべきであった。見積もることが可能であった各損失額に対応する引当金を計上しなかった東芝の会計処理は、いずれも米国会計基準に違反する違法なものであった。
→米国会計基準に違反する

・平成25年度第1四半期末の時点で少なくとも約36億円の損失が発生する可能性が高い状況にあったことは明らかである。平成25年度第2四半期末の時点で少なくとも約45億円の損失が発生する可能性が高い状況にあったと認められる。平成25年度第3四半期末の時点で少なくとも約87億円の損失が発生する可能性が高い状況にあったことは明らかである。
・平成25年度第1四半期末には少なくとも約36億円、同年度第2四半期末には少なくとも約45億円、同年度第3四半期末には少なくとも約87億円の損失が発生することを前提とした引当金を計上すべきであった。
→東芝の企業規模に照らせば、これらの引当金に係る会計処理が投資者の判断に影響を与えるという観点に照らし有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということはできないから、米国会計基準に違反しない

【表3】原子力プラント案件に関する裁判所の判断内容(概要)

東京地裁(第一審) 東京高裁(控訴審)
・平成25年度第2四半期において、東芝による見積工事原価総額の増加見積値である6,900万米ドルを前提として算定された利益額および平成25年度第3四半期において、東芝による見積工事原価総額の増加見積値である2億9,300万米ドルを前提として算定された利益額は、いずれも米国会計基準にいう「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」であったということはできないから、東芝がWEC案件に関して行った会計処理は、米国会計基準に違反する違法なものであった。
→米国会計基準に違反する

・平成25年度第2四半期末において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とした東芝見積値が米国会計基準にいう「見積もった金額の中で最も可能性の高い金額」にも、「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」にも当たらないと認めることはできない。
・平成25年度第2四半期決算において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とすることを前提とした会計処理が米国会計基準に違反するものであったとは認められない。
→米国会計基準に違反しない

 そして同判決は、原告である東芝が訴えた被告元役員ら5名のうち3名については、違法な会計処理が行われることを少なくとも認識し得たのであるから、その会計処理を中止または是正させる義務を怠ったものであり、取締役としての善管注意義務に違反したと判断したうえで、元役員ら3名に連帯して1億円から2億円の損害賠償を命じていた。

企業規模に照らせば有報等に重要事項につき虚偽記載をしたとはいえず

 控訴審の東京高裁は、米地下鉄案件については平成23年度第4四半期末から平成25年度第4四半期末までは引当金を計上(追加計上)した会計処理が米国会計基準に違反する違法なものであったということはできないと判断した。
 一方で東京高裁は、平成26年度第1四半期末は約6,430万米ドルの損失の発生が見込まれることを前提とした引当金を計上すべきであったところ、計上された引当金額は損失見積額を約38億8,900万円(1米ドル100円で換算すると約3,889万米ドル)とすることを前提としたものであったから、計上された引当金額は本来計上すべきであった額に不足している可能性があると指摘した。
 だがこの引当金に関する会計処理について東京高裁は、東芝の企業規模(表4参照)に照らせば、これらの引当金に係る会計処理が投資者の判断に影響を与えるという観点に照らし、有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということはできないと指摘したうえで、米国会計基準に違反する違法なものであったということはできないという判断を示した。

【表4】東芝の概要(判決文中の前提事実から抜粋)

 原告東芝は、本件対象期間中、大規模かつ多角的な事業を営み、多数の子会社等を抱える企業グループを形成し、年間約6兆円前後の連結決算上の売上高を維持し、20万人前後の従業員を有する巨大企業であった。
 本件対象期間における東芝の連結決算(ただし過年度決算等の修正後のもの)は、次のとおりである。
① 平成20年度 営業損益 損失約3,092億円 税引前損益 損失約3,361億円
② 平成21年度 営業損益 利益約718億円  税引前損益 損失約143億円
③ 平成22年度 営業損益 利益約2,445億円 税引前損益 利益約2,018億円
④ 平成23年度 営業損益 利益約1,149億円 税引前損益 利益約614億円
⑤ 平成24年度 営業損益 利益約921億円  税引前損益 利益約749億円
⑥ 平成25年度 営業損益 利益約2,571億円 税引前損益 利益約1,823億円
⑦ 平成26年度(第1四半期〜第3四半期累計) 営業損益 利益約2,018億円 税引前損益 利益約1,882億円


【参考】本件で適用される米国会計基準の概要(主なものを判決文から抜粋)

【インフラ案件(米国地下鉄案件・ETC案件・原子力プラント案件)共通】
 引当金の計上に関する米国会計基準(偶発損失から生じる見積損失に関するFASB ASC 450-20-25-2及び損失額に関するFASB ASC 450-20-30-1)は、完成基準が適用される工事契約等や進行基準が適用される工事契約等にも適用される(FASB ASC 605-35-25-45及び46)。
 また、進行基準が適用される工事契約等には、進行基準における契約収入総額及び契約原価総額の見積方法に関する米国会計基準(FASB ASC 605-35-25-60)が適用される。
 損失の発生見込みが明らかになり次第(契約収入総額の直近の見積りが契約原価総額の直近の見積りを下回り、損失の発生が示され次第)、見込まれる損失金額を認識し、引当金を計上しなければならなかったものである(FASB ASC 605-35-25-45及び46)から、①財務諸表発行前に取得可能な情報から当期末時点で負債を負っている可能性が高いと認められ、かつ、②その損失額を合理的に見積もることができる場合には、当該損失額を引当金として計上すべきであったものであり(FASB ASC 450-20-25-2)、②の損失額の見積りに当たっては、一定の範囲でこれを見積もることができる場合には、その範囲内の他の見積金額よりも可能性が高い見積金額が存在するときは、当該可能性が高い見積金額に相当する額の引当金を計上し、他の見積金額よりも可能性が高い見積金額が存在しないときは、その範囲内で最小値の金額に相当する額の引当金を計上すべきであったものである(FASB ASC 450-20-30-1)。
【ETC案件・原子力プラント案件共通】
 この場合の契約収入総額及び契約原価総額の見積りは、①それぞれを単一の金額で見積もることが可能である場合には当該金額、②ある程度の利益が確約されている一定の工事契約等について、そのような金額を見積もることができず、一定の範囲の金額でしか見積もることができない場合には見積もった金額の範囲内で最も可能性の高い金額、③そのような金額を決定することもできない場合には、見積もった金額の範囲内で最も低い利益額の順で検討した結果に基づいて決定しなければならなかったものである(FASB ASC 605-35-25-60)。

 次にETC案件について東京高裁は、平成25年度第1四半期末には少なくとも約36億円、同年度第2四半期末には少なくとも約45億円、同年度第3四半期末には少なくとも約87億円の損失が発生することを前提とした引当金を計上すべきであったと指摘した。だが東京高裁は、米地下鉄案件に関する判断と同様の観点から、東芝の企業規模に照らせば有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということはできないとしたうえで、米国会計基準に違反する違法なものであったということはできないという判断を示した。
 そして原子力プラント案件について東京高裁は、平成25年度第2四半期末において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とした東芝見積値が米国会計基準にいう「見積もった金額の中で最も可能性の高い金額」にも、「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」にも当たらないと認めることはできないと指摘。平成25年度第2四半期決算において工事原価総額の増加見積額を6,900万米ドル(平成25年度第3四半期においては2億9,300万米ドル)とすることを前提とした会計処理が米国会計基準に違反するものであったとは認められないと判断している。

株主代表訴訟、原告適格喪失により株主らの訴え却下で決着

 なお、本件の一審では、原告である東芝が元役員ら5名に対して損害賠償を求める訴訟が提起されていたほかに、東芝が訴えた元役員ら5名以外の元役員ら11名に対して東芝の株主が損害賠償を求める株主代表訴訟も提起されており、一審判決では株主が訴えた元役員ら11名のうち2名に対して損害賠償が命じられていた(本誌1023号40頁参照)。この一審判決を不服とした株主は控訴を提起していたものの、東京高裁は令和6年3月6日、株主らは原告適格を喪失したと判断したうえで、株主らの訴えを却下する判決を下している。東芝では令和5年11月22日開催の臨時総会で普通株式9,300万株を1株に併合する株式併合が承認されており、この株式併合の効力は令和5年12月22日に発生した。これにより、株主の株式はいずれも1株に満たない端数になったことが認められたことで、原告適格を喪失したとして株主らの訴えが却下された格好となった。

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