解説記事2025年05月19日 SCOPE 定款で定めた日から三月経過、定期給与の額の改定とならず(2025年5月19日号・№1074)
法人設立初年度の会計期間開始の日とは?
定款で定めた日から三月経過、定期給与の額の改定とならず
定期同額給与については、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日までにされた定期給与の額の改定(通常改定)であれば、引き続き損金の額に算入することができるが、今回紹介する裁決事例は、法人の設立初年度の会計期間開始の日がいつかが問われたものである。請求人は、医療法人の理事長に対する定期給与の改定は開業の日から三月以内にされたものであると主張したが、国税不服審判所は、医療法人設立後最初の事業年度は定款に定める設立後最初の会計年度である設立の登記の日であり、定期給与の額の改定は同日から三月を経過する日後にされたものと認められるとの判断を示し、請求人の請求を棄却している(金裁(法)令6第1号)。
請求人、事業開始の日は「開業日」と主張
本件は、歯科医業を営む医療法人社団である請求人が理事長に対する役員給与を損金の額に算入したところ、原処分庁が、役員給与は定期同額給与(法法34条1項1号)に該当しないとして更正処分等を行ったことから、その全部の取消しを求めた事案である。
請求人は、医療法の認可を経て、医療法人社団を設立。平成31年1月4日に開催された設立総会では、定款及び役員の月額報酬限度額(理事長は440万円)が承認された。定款には、会計年度は、毎年3月1日から翌年2月末日までとし、設立後最初の会計年度は、設立の日から平成32年2月29日までとされていた。その後、請求人は、平成31年4月26日に診療所の新規開設許可を取得。開設許可申請書には、開設予定年月日として令和元年6月1日とされていた。
なお、設立後最初の事業年度の各支給時期における理事長の役員給与の支給額は表1のとおりである。

請求人は、医療法人としての事業開始の日は令和元年6月1日であり、同日前には全く取引が発生していないのであるから、同日を開業の日とみるべきであるなどと主張した(表2参照)。
【表2】当事者の主な主張(本件役員給与は定期同額給与に該当しないか否か)
原処分庁 | 請求人 |
請求人は、平成31年3月29日付で医療法人の設立認可を受け、同年〇月〇日に設立の登記をしていることから、同日が請求人の設立の日となる。また、請求人の定款において、設立後最初の会計年度は設立の日から平成32年2月29日までとする旨定めていることから、請求人の設立後最初の会計期間は、平成31年〇月〇日から令和2年2月29日である。 ところで、請求人から本件理事長に給与を支給するとした給与改定の資料については、設立総会議事録において月額報酬限度額の定めはあるものの、他に設立後最初の事業年度において支給額を定めた書類及び支給額の改定額を定めた書類及び支給額の改定額を定めた書類等はない。 そうすると、請求人が本件役員給与の支給額について総勘定元帳の役員報酬勘定に計上した日付を定期給与の額が改定された日としてみた場合、本件7月支給額改定は令和元年7月18日に、本件9月支給額改定は同年9月17日にそれぞれされているから三月を経過する日後にされた定期給与の額の改定であるといえる。 |
請求人の医療法人としての事業開始の日は令和元年6月1日であり、同日前には全く取引が発生していないのであるから、同日を開業の日とみるべきである。 |
審判所、「事業年度」とは定款等に定める会計期間
役員給与の損金算入については、平成18年度税制改正により、事前の定めにより役員給与の支給時期・支給額に対する恣意性が排除されているものについて損金算入が認められることになった。さらに、平成19年度税制改正では、役員給与の取扱いの明確化等が図られることになり、定期給与の額の改定につき、法令上その範囲を、①通常改定、②臨時改定事由による改定、③業績悪化改定事由による改定を具体的に明示するとともに、改定があった場合には、定期給与をその改定の前後で区分し、改定前の各支給時期における支給額が同額である定期給与と改定後の各支給時期における支給額が同額である定期給与とについて、それぞれごとに定期同額給与に該当するかどうかを判定することとされた。
審判所は、法人税法13条1項が「事業年度」とは定款等に定める会計期間をいう旨を規定していることからすれば、請求人の設立後最初の事業年度は、定款に定める設立後最初の会計年度である設立の登記の日から令和2年2月29日までと認められるとした。
その上で、請求人が役員給与を総勘定元帳の役員報酬勘定に計上した日付は、令和元年7月支給額が7月18日、同年9月支給額が9月17日であるところ、本件役員給与の支給額について定めのある書類は月額報酬限度額を定めた設立総会に係る議事録以外に見当たらないから、各支給額改定は、そもそも事前の定めによるものと認めるに足りず、令和元年7月支給額及び同年9月支給額の元帳計上日にそれぞれされたと推認されるから、いずれも設立後最初の事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日後にされた定期給与の額の改定であると認められるとの判断を示した。
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