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解説記事2025年06月09日 未公開判決事例紹介 非上場株式の相続税評価を巡る総則6項適用事案(2025年6月9日号・№1077)

未公開判決事例紹介
非上場株式の相続税評価を巡る総則6項適用事案
東京地裁、課税処分を取消し

 本誌1061号40頁で紹介した相続税更正処分等取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇非上場株式の相続税評価を巡り争われた事件。東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和7年1月17日、総則6項を適用して純資産価額方式を採用した課税処分を取り消す判決を下した(令和4年(行ウ)第100号)。

主  文

1 本件訴えのうち、別紙2請求目録記載の各請求に係る部分を却下する。
2 松本税務署長が原告らそれぞれに対して平成30年9月7日付けでした別紙3処分目録記載1ないし7の各処分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 主文2項と同旨
2 別紙2請求目録記載のとおり。

第2 事案の概要
1 事案の骨子

 原告らは、亡◎◎◎◎(平成25年10月14日死亡。本件被相続人)から相続又は遺贈により取得した財産のうち株式会社X(以下「X社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17国税庁長官通達。ただし、平成26年4月2日付け課評2−9ほか「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」による改正前のもの。以下「評価通達」という。)179(3)ただし書の定める方法(以下「併用方式」という。)により価額を評価して上記相続又は遺贈に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告をした後、評価通達189−3ただし書の定める方法(以下「S1+S2方式」という。)により価額を評価して本件相続税の修正申告をしたが、やはり併用方式により評価すべきであるとして、更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
 松本税務署長は、本件株式の価額は評価通達の上記各定めによって評価することが著しく不適当と認められるから、評価通達6により、国税庁長官の指示を受けて、評価通達185本文の定める方法(以下「純資産価額方式」という。)により評価すべきであるとして、原告らに対し、各増額更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をするとともに、原告Aを除く原告らに対し、過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をし、また、原告らに対し、本件各更正の請求について、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
 本件は、原告らが、被告を相手に、本件各更正処分のうち本件各更正の請求に係る税額等を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消し並びに本件各通知処分の取消しを求めるとともに、本件相続税の税額等を本件各更正の請求に係る税額等とする各更正処分をすることの義務付けを求める事案である。
2 関係法令等の定め
(1)相続税法

ア 相続税法17条は、相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得した全ての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額とする旨を規定する。
  そして、相続税法18条1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、同法17条の規定により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算した金額とする旨を規定し、同条2項本文は、同条1項の一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となっている場合を含まないものとする旨を規定する。
イ 相続税法22条は、同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による旨を規定する。
(2)租税特別措置法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)
 措置法9条の7第1項は、相続又は遺贈による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定により納付すべき相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る同法27条1項又は29条1項の規定による申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場会社の発行した株式をその発行した当該非上場会社に譲渡した場合において、当該譲渡をした個人が当該譲渡の対価として当該非上場会社から交付を受けた金銭の額が当該非上場会社の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に係る所得税法25条1項に規定する株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額については、同項の規定は、適用しない旨規定する(以下、措置法9条の7第1項に規定するみなし配当課税の特例を「みなし配当特例」という。)。
 措置法39条1項は、相続又は遺贈による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る同法27条1項又は29条1項の規定による申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合における譲渡所得に係る所得税法33条3項の規定の適用については、同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち当該譲渡をした資産に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額を加算した金額とする旨規定する(以下、措置法39条1項に規定する相続財産に係る譲渡所得の課税の特例を「取得費加算特例」という。)。
(3)評価通達
 本件に関係する評価通達の定めは、別紙4のとおりであり、その概要は、次のとおりである。
ア(ア)評価通達においては、取引相場のない株式の価額は、評価しようとするその株式の発行会社(評価会社)が大会社、中会社及び小会社のいずれに該当するかに応じて、それぞれ評価通達179の定めによって評価するものとされており(評価通達178本文)、評価通達179(3)においては、小会社について、原則として、純資産価額方式(評価通達185本文)により評価し(評価通達179(3)本文)、納税義務者の選択により、類似業種比準方式と純資産価額方式とを併用する方式(併用方式)により評価することができるものとされている(同ただし書)。
 (イ)ただし、特定の評価会社の株式の価額は、評価通達189の定めによって評価するものとされている(評価通達178ただし書)。
   評価通達189に定める特定の評価会社のうち、比準要素数1の会社(同(1))の株式の価額は、原則として、純資産価額方式により評価し(評価通達189−2本文)、納税義務者の選択により、類似業種比準方式と純資産価額方式とを併用する方式(ただし、評価通達179(3)ただし書の併用方式とは算式中の係数が異なる。)により評価することができるものとされている(評価通達189−2ただし書)。
   また、株式保有特定会社(評価通達189(2))の株式の価額は、原則として、純資産価額方式により評価し(評価通達189−3本文)、納税義務者の選択により、S1+S2方式により評価することができるものとされている(同ただし書)。
   なお、評価会社が、株式保有特定会社に該当するかどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式保有特定会社に該当すると判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定を行うものとされている(評価通達189柱書きなお書き)。
イ 評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定める。
3 前提事実(証拠等を掲記した事実を除いて、当事者間に争いがない。なお、以下において、本件被相続人に係る相続を「本件相続」といい、後記(3)の遺贈と併せて「本件相続等」という。)
(1)原告ら

 原告A及びH(以下「訴外H」という。)は、本件被相続人(大正12年7月16日生。乙13)の実子である。
 原告Bは、原告Aの妻であり、原告C、原告D及び原告Eは、原告A及び原告Bの子(本件被相続人の孫)である。
 原告F及び原告Gは、訴外Hの子(本件被相続人の孫)である。
 原告Fは、平成13年8月3日に、原告Dは、平成25年7月29日に、それぞれ、本件被相続人と養子縁組をした。
(2)X社等
ア(ア)X社は、昭和56年12月3日に本件被相続人らによって不動産の売買等、損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務等を行うことを目的として設立された株式会社である。
 (イ)本件相続開始時において、原告Bは、X社の代表取締役であり、原告A及び訴外Hは、X社の取締役であった(乙10の1・2)。なお、X社の平成25年9月期(平成24年10月1日から平成25年9月30日までの事業年度。以下、他の事業年度も同様に表記する。)において、原告B及び原告Aのほかに、X社の業務に従事する者はなかった。
 (ウ)X社は、平成25年8月9日、臨時株主総会を開催し、原告A及び訴外Hが株主として出席した(乙17)。同株主総会においては、①損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務について、投資業及び有価証券の保有等との目的に変更するなど、定款の一部を変更すること、②同年9月30日に普通株式1株につき40円(総額1836万円)を配当すること(以下、この配当を「本件配当」という。)、③募集株式の種類及び数を普通株式90万5440株、払込金額を36億0002万9440円(1株当たり3976円)、払込期日を同年8月9日とし、本件被相続人に上記90万5440株の全てを割り当てることとする、第三者割当てによる募集株式発行(以下「本件新株発行」という。)をすること等について決議した。上記の1株当たりの払込金額は、Y社がX社の依頼を受けて同月7日付けで作成した株式価値評価報告書(甲44)に記載されている同年6月30日時点におけるX社の株式の1株当たりの評価額と同額である。
   本件被相続人は、平成25年4月18日から同年5月9日までの間、それまで保有していた上場株式を売却し、その売却代金相当額から源泉所得税等を控除した残額合計37億5529万3440円を、本件被相続人名義の普通預金口座を入金していたところ、同年8月9日、同預金口座から上記払込金額と同額をX社名義の預金口座に払い込み、本件新株発行に係る株式を引き受け(以下、この引受けを「本件出資」という。)、X社の発行済株式総数及び各株主の所有株式数は、別表1の「本件新株発行前」欄記載のとおりから「本件新株発行後」欄記載のとおりとなった(なお、X社は、同月12日、同月9日付けで発行済株式の総数を45万9000株から136万4440株に変更した旨を登記した上で、Y社が上記の評価額を1株当たり3537円に修正したことを受けて、平成26年4月11日付けで、上記発行済み株式総数を147万6856株に更正する登記(以下「本件更正登記」という。)をしたところ、同別表の「本件新株発行後」欄記載の株式数は、本件更正登記後のものである。以下、特に断らない限り、本件新株発行により発行された株式数は、本件更正登記後の株式数(101万7856株)をいう。)。
   X社は、平成25年9月30日、本件新株発行前のX社の株主であった原告A及び訴外Hに対し、それぞれ本件配当に係る税引き後の配当額(原告Aに対して1150万7268円、訴外Hに対して310万3620円)を支払った(本件配当)。
   X社は、平成24年9月期末において、帳簿価額13億2347万0414円の投資有価証券を有し、貸借対照表における資産合計14億8405万7875円の約89.2%を投資有価証券が占めていたが、本件出資後の平成25年9月期末においては、貸借対照表における資産合計50億0401万1171円のうち「投資有価証券 株式」13億0555万0062円の占める割合は、約26.1%となった。
イ(ア)株式会社S(以下「S社」という。)は、昭和20年12月4日に本件被相続人によって金型及び治工具の製造販売、電気通信機械器具部品の製造販売等を目的として設立された株式会社であり、株式会社東京証券取引所に上場し、自動車関連製品の製造販売等を行っている。
 (イ)原告Aは、平成13年12月にS社の代表取締役に就任したが、平成22年12月に代表取締役を解任され取締役となり、本件相続開始時においても、取締役であった。
   平成25年3月31日(本件相続開始の直前に終了した事業年度の期末)の時点において、X社及び原告Aが保有するS社の株式数の合計は、S社の発行済株式総数の過半数を占めていた。
(3)本件相続等
ア 本件被相続人は、平成25年6月15日付けで、次の内容の遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
(ア)本件被相続人の土地建物を全て原告Dに遺贈する。
(イ)本件被相続人の預金及び株式を8分の1ずつ原告ら及び訴外Hに相続させ、遺贈する。
(ウ)その余の財産を原告Aに相続させる。
イ 本件被相続人は、平成25年10月14日に死亡した。
ウ 本件被相続人の相続人である原告A、原告D、原告F及び訴外Hの間において、平成26年8月12日、次の内容の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)が成立した。
(ア)原告A、原告D、原告F及び訴外Hは、同人らに対する上記アによる遺贈のうち、本件株式、預貯金、S社の株式及び簡易保険の給付金に係る部分を放棄し、それらの財産が本件被相続人の相続財産に帰属することを確認する。
(イ)原告A及び訴外Hは、いずれも本件株式、預貯金、S社の株式及び簡易保険の給付金を取得しない。
(ウ)原告D及び原告Fは、それぞれ本件株式25万4464株を取得するとともに、預貯金、S社の株式及び簡易保険の給付金の8分の2に相当する部分を取得する。
エ 上記アないしウ(本件相続等)により、X社の各株主及びその所有株式数は、別表1の「本件相続後」欄記載のとおりとなった。
  なお、原告Aを除く原告らは、平成29年7月31日及び同年8月14日、X社に対し、本件相続等により取得した本件株式の全部(原告Bは一部)を、1株当たり3736円でそれぞれ譲渡し(以下、これらの譲渡を併せて「本件各譲渡」という。)、原告D、原告C及び原告Eは、同月25日、X社から、それぞれ同月14日にX社に譲渡した株式数と同数の株式を、1株当たり3736円で引き受けた(以下、この引受けを「本件引受け」という。)。本件各譲渡及び本件引受け後のX社の各株主及びその所有株式数は、それぞれ別表1の「本件各譲渡後」及び「本件引受け後」のとおりである。その後、原告Aを除く原告らは、本件各譲渡を前提に、みなし配当特例を適用して(原告F及び原告Gは、みなし配当特例に加え、取得費加算特例も適用して)、平成29年分の所得税及び復興特別所得税の申告をした。
(4)本件相続税に関する確定申告、更正の請求、松本税務署長による処分等
ア 原告らは、平成26年8月13日(法定申告期限内)、松本税務署長に対し、本件株式(101万7856株)の価額につき併用方式(評価通達179(3)ただし書)により1株当たり1853円と評価した上で、別表2の「申告(期限内)」欄のとおり(課税価格の合計額21億0992万1000円、納付すべき税額の総額10億4813万0100円)、本件相続税の確定申告をした。
  原告らは、平成29年1月17日、松本税務署長に対し、本件相続税の修正申告をし、さらに、同年6月19日、松本税務署長に対し、本件株式の価額につきS1+S2方式(評価通達189−3ただし書)により1株当たり2263円と評価することを前提に、同表の「修正申告②等」欄(「過少申告加算税の額」欄を除く。課税価格の合計額25億3736万6000円、納付すべき税額の総額13億0374万6700円)のとおり、本件相続税の修正申告をした(以下、この修正申告を「本件各修正申告」という。)。
イ 松本税務署長は、平成29年7月7日付け又は同月21日付けで、原告らに対し、本件株式の価額につき、評価通達189−3本文により、純資産価額方式により評価すべきであるとして、別表2の「更正処分等①」欄のとおり、本件相続税に係る各増額更正処分をするとともに、原告Aを除く原告らに対し、過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ウ 原告らは、平成29年12月8日、松本税務署長に対し、本件株式の価額は併用方式により1株当たり1858円と評価すべきであるとして、別表2の「本件各更正請求」欄のとおり(課税価格の合計額21億2513万4000円、納付すべき税額の総額10億5641万2200円とするもの。なお、同欄記載の納付すべき税額等は、原告らによる平成30年2月8日付け変更後の額である。)、本件各更正の請求をした。
  松本税務署長は、平成30年2月23日付けで、原告らに対し、本件各更正の請求について、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
エ 松本税務署長は、平成30年9月7日付けで、①原告らに対し、上記イの各増額更正処分により増加した税額等と同額を減額する内容の減額更正処分をするとともに、②原告Aを除く原告らに対し、過少申告加算税の変更決定をし、また、③原告らに対し、上記通知処分を取り消した。
  その上で、松本税務署長は、評価通達6に基づく国税庁長官の指示により、本件株式の価額を純資産価額方式により1株当たり3443円と評価することを前提に(以下、この額を「本件各更正処分価額」という。)、平成30年9月7日付けで、④原告らに対し、別表2の「本件各更正処分等」欄のとおり(課税価格の合計額37億3843万7000円、納付すべき税額の総額20億2438万0500円)、本件相続税に係る納付すべき税額を増額する各増額更正処分(本件各更正処分)をするとともに、⑤原告Aを除く原告らに対し、本件各賦課決定処分をし、また、⑥原告らに対し、本件各更正の請求について、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(本件各通知処分)をした。
(5)本件訴えに至る経緯
 原告らは、平成30年11月29日、国税不服審判所長に対し、本件各更正処分、本件各賦課決定処分及び本件各通知処分を不服として、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、令和3年8月27日、原告らの各審査請求を棄却する旨の裁決をした。
 原告らは、令和4年2月28日、本件訴えを提起した。
4 課税の根拠及び計算について
 被告が主張する本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は、別表3のとおりであって、同表記載の納付すべき税額の金額は、いずれも本件各更正処分における原告らの納付すべき税額と同額であり、また、被告が主張する本件各更正処分における納付すべき税額を基礎として計算される過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であるところ、原告らは、後記5の争点に係る部分を除いて、これらを争うことを明らかにしない。
5 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、①本件各更正処分価額が本件株式の客観的交換価値を上回り、本件各更正処分が相続税法22条に違反するか否か、②本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するか否かであり、これらの点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(1)争点1(本件各更正処分価額が本件株式の客観的交換価値を上回り、本件各更正処分が相続税法22条に違反するか否か)について
(被告の主張)

ア 本件各更正処分価額は、①純資産価額方式による評価額(1株当たり3443円)及び②●●●●監査法人による平成28年7月7日付け株式価値算定報告書(甲7。以下「本件報告書」という。)における評価額(1株当たり3488円)のうち、より評価額が低廉である上記①の評価額を採用したものである。
  上記①及び②の各評価額は、いずれも合理的な評価方法に基づき算定された評価額である。そして、X社が平成25年8月9日に本件新株発行をした際の本件被相続人に対する払込価額は1株当たり3976円(ただし、本件更正登記によれば、1株当たり3536.875円となる。)であり、原告Aを除く原告らが平成29年にX社に対して本件株式の一部を譲渡した際の譲渡額は1株当たり3736円であって、本件株式の実際の取引価額は、上記①及び②の各評価額を上回る。
  したがって、これらの評価額は、いずれも合理的であり、これらのうちより評価額が低廉である上記①の評価額と同額である本件各更正処分価額は、客観的な交換価値としての時価を上回るものではないから、本件各更正処分が相続税法22条に違反しない。
イ(ア)原告は、上記②の本件報告書における評価額が、非流動性ディスカウント(上場会社の株式と比較して、非上場会社の株式の流動性は低いことから、非上場会社の株式を換金しようとするときには追加的なコストがかかるため、非上場会社の株価を上場会社の株価よりも低く評価されることをいう。以下同じ。)やマイノリティ・ディスカウント(評価対象会社の株式の価格が、支配権を有することを前提とする価格(コントロール・プレミアムを含む価格)に対してコントロール・プレミアムに相当する金額だけ低くなることをいう。以下同じ。)をしていない点で、不合理である旨を主張する。
 (イ)しかし、本件報告書は、企業価値評価ガイドラインに定められている各評価方法を検討し、本件株式の評価方法として、X社が有価証券や不動産等の資産を保有することを主な目的とする会社であり、保有する個々の資産の価値の積上げにより株式価値を算定することが適しているなどとして、ネットアセット・アプローチのうち修正簿価純資産法を採用したものであるところ、修正簿価純資産法は、類似の上場会社を基準とする評価方法ではないから、上場株式に対する割引である非流動性ディスカウントの考え方に直ちになじむものではない。
   本件の具体的事実関係に照らしても、X社の株主は、本件相続の前後を通じて原告ら及びその親族であって、X社の主要資産は、投資有価証券等の流動性の高い金融資産から構成されているのであるから、本件株式を換金する際に追加的なコストがかかることは想定されず、本件株式の価額を評価するに当たり、非流動性ディスカウントをすべきものとはいえない。
 (ウ)また、前記(イ)のとおり、X社の株主は、本件相続の前後を通じて原告ら及びその親族であって、原告ら及びその親族がX社の支配権を得られないなどという事態は生じていない。加えて、原告Aを除く原告らは、平成29年7月31日及び8月14日、本件各譲渡を行うことにより、キャッシュアウトをしたところ、原告らは、少なくともキャッシュアウトについては本件新株発行の前から合意していたものである。したがって、本件株式の価額の評価に当たり、マイノリティ・ディスカウントをすべきものとはいえない。
 (エ)なお、X社が依頼したY社による平成25年8月7日付け株式価値評価報告書(修正後のもの)においても、非流動性ディスカウント及びマイノリティ・ディスカウントはされておらず、また、その評価額が1株当たり3537円であることからしても、本件報告書における評価額が不合理であるとはいえない。
(原告の主張)
 相続又は遺贈により取得した株式の「時価」(相続税法22条)は、相続人又は受遺者にとっての時価(客観的交換価値)をいうものと解すべきである。
 しかるところ、本件株式は非上場株式であるから、本件株式の価額を修正簿価純資産法で評価するに当たって、流動性ディスカウントが否定されるべきではない。また、本件相続等により、X社の株主は、少数株主ばかりとなったところ(保有割合は最大でも原告Aの約24.5%である。)、株主らが親族であるからといってその利害が一致するものとはいえないから(なお、原告らは、本件新株発行の時点で、被告が主張するキャッシュアウトの合意をしていない。)、本件株式の価額を修正簿価純資産法で評価するに当たっては、マイノリティ・ディスカウントも否定されるべきではない。したがって、本件株式の上記時価を修正簿価純資産法により評価するに当たっては、3~5割のディスカウントをすべきである。
 本件報告書及びY社の平成25年8月7日付け株式価値評価報告書(修正後のもの)は、いずれも、本件相続前の本件被相続人の保有割合(68.92%)の取引価格を評価したものであって、相続人等にとっての「時価」を評価したものではない。
(2)争点2(本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するか否か)について
(被告の主張)

ア 本件株式の価額について、①評価通達の定めにより評価した場合の評価方法は、評価通達189柱書きなお書きが適用されない場合には、X社は小会社(評価通達178)に該当するため、原告らが本件各更正の請求において併用方式を選択したことから併用方式により評価することとなり(1株当たり1858円)、同なお書きが適用される場合には、X社が株式保有特定会社(評価通達189(2))に該当することとなるため、原告らが本件各修正申告においてS1+S2方式を選択したことから同方式により評価することとなり(1株当たり2274円)、②本件各更正処分価額(1株当たり3443円)が、上記①の各評価額を上回ることになる。
  しかしながら、次のイ及びウのとおり、本件新株発行、本件出資及び本件配当(以下「本件新株発行等」という。)により、本件株式の価額を評価通達の定めにより評価した場合、原告らの相続税の負担が著しく軽減される結果となり、本件新株発行等は、近い将来発生することが予想される相続において、原告らの相続税負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して企画・実行されたものであるから、本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、平等原則に違反しない。
イ 原告A(及び本件被相続人)は、本件新株発行等を一体として行うことにより、本件被相続人の預金を本件株式に変え、その際、本件株式が評価通達189に定める特定の評価会社の株式に該当しないようにした。
  すなわち、本件新株発行及び本件出資前の時点では、X社はその資産の約89.2%を株式で保有していたことから「株式保有特定会社」(評価通達189(2))に該当していたところ、X社が株式保有特定会社に該当するとすれば、その株式の価額は評価通達189−3により純資産価額方式又はS1+S2方式により評価されることとなり、併用方式による評価額よりも高くなる。そこで、X社の資産の価額に占める株式等の価額の割合を低下させ、X社が本件相続開始時において株式保有特定会社に当たらないようにするため、原告Aが株式の過半を有し実質的に支配するX社において本件新株発行を決議し、本件被相続人において本件出資を行ったものである。
  また、X社は、本件配当がなければ、本件相続開始時において、「比準要素数1の会社」(評価通達189(1))に該当していたところ、X社が比準要素数1の会社に該当するとすれば、その株式の価額は評価通達189−2により純資産価額方式又は類似業種比準価額と純資産価額方式とを併用する方式(ただし、この方式においては、評価通達179(3)に定める併用方式よりも、類似業種比準価額の適用割合が低い。)により評価されることとなり、併用方式による評価額よりも高くなる。そこで、原告Aは、X社の「1株当たりの配当金額」が0円とならないようにし、X社が「比準要素数1の会社」に該当しないようにするため、本件配当を行ったものである。
  本件新株発行等をしなかった場合(本件被相続人が本件出資の額と同額の現金又は預貯金を有していた場合)における課税価格の合計額は38億3398万8000円であり、相続税の総額(相続税法17条1項にいう相続税の総額(同法18条の規定による加算前の額)をいう。以下、特に断らない限り同じ。)は17億3599万3500円であったところ(別表4参照)、原告A(及び本件被相続人)が本件新株発行等をしたことにより、評価通達を形式的、画一的に適用すると、併用方式(評価通達179(3))によれば、課税価格の合計額は21億2513万4000円、相続税の総額は8億8156万6500円となり(別表5参照)、S1+S2方式によれば、課税価格の合計額は25億4856万4000円、相続税の総額は10億9328万1000円となる(別表6参照)。
  このように、本件新株発行等により、原告らの相続税の負担は著しく軽減されることになる。その軽減の程度は、相続税の課税価格に算入される財産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反しないとされた最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決・民集76巻4号411頁(以下「令和4年最判」という。)の事案よりも大きい。
ウ 原告Aは、本件相続開始の約3か月前である平成25年7月12日、△△証券株式会社ウェルスマネジメント部(以下「本件証券会社」という。)を訪れ、当時89歳である本件被相続人が約40億円の預金を有しているとして、本件被相続人に係る相続税対策の相談をし、その後、本件証券会社担当者から、本件新株発行等を用いた相続税減税スキームについて提案を受け、相続開始後のキャッシュアウトを予定した上で、上記スキームを実行した。すなわち、原告Aは、本件新株発行等が原告らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待していたものである(原告らが主張するS社の経営支配権の維持のためにX社において資金をプールするなどという計画はなかったが、仮にあったとしても、上記の認識・期待が否定されるものではない。)。
  また、本件被相続人も、本件新株発行等が原告らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して本件出資を行ったものである。
  そして、原告Aを除く原告らは、本件被相続人に係る相続税対策を原告Aに一任していた以上、本件新株発行等は、原告Aを除く原告らの少なくとも黙示的な承諾の下で実行されたものといえる。このことは、本件新株発行が決議された際のX社の臨時株主総会に、原告BがX社の代表取締役として議長を務め、上記相続税対策に協力し、訴外Hが、上記臨時株主総会に株主として出席し、各議案に異論を述べなかったことなどからも明らかである。仮に原告Aを除く原告らが上記承諾をしていたとまではいえないとしても、本件の事実関係の下では、少なくとも平等原則適用の上では、原告Aと他の原告らを一体としてみるのが相当であり、又は原告Aを除く原告らの通達評価額に基づく課税がされるという予測は、法的保護に値するとはいえないから、原告Aを除く原告らについても、平等原則に反しないというべきである。
(原告の主張)
ア 相続税の負担の軽減の程度は、その額のみならず、割合にも照らして判断されるべきである。
  しかるところ、本件新株発行等により、本件株式を併用方式により評価する場合、課税価格は約44.5%、相続税の負担は約49.2%軽減され、S1+S2方式により評価する場合、課税価格は約33.5%、相続税の負担は約37.0%軽減される。この点、令和4年最判の事案は、基礎控除により、相続税の負担が0円となった事案であるが、仮に基礎控除がないとしても、課税価格の圧縮により相続税の負担が1.8%にまで軽減されており(98.2%軽減されており)、本件とは事案が異なることが明らかである。
  そうすると、本件新株発行等による原告らの相続税の負担の軽減の程度は、著しいとまではいえない。
イ 本件被相続人及び原告Aは、本件被相続人が創業し、原告Aが代表取締役を務めていたS社の経営支配権が平成22~23年頃に第三者割当て増資によって経営支配権を奪われる寸前になったことを契機として、平成25年より前から、S社の経営支配権を維持するために、S社創業家の資産管理会社であるX社において資金をプールすることとし、X社において新株発行をし、本件被相続人の出資により調達した資金を用いて流動性の高い資産を運用すること等を構想・計画していた。そして、本件被相続人及び原告Aは、上記計画を実行するため、本件被相続人において、平成25年4月から5月までの間に、当時本件被相続人が保有していた株式を全て売却し、X社において、同年8月9日、本件新株発行を行い、本件被相続人において、同日、本件出資をした。
  また、本件配当については、上記計画のために本件被相続人がX社に出資をするとすれば、本件被相続人からの相続財産の取得を期待する他の親族との間で利害が対立することとなることから、原告Aは、他の親族間で上記計画について合意を形成することなく上記計画を進めつつ、それまで実施していなかった配当を実施しX社の株式を保有する親族が利益を受けることができるようにして、上記のような潜在的な対立が顕在化しないようにしたものである(本件新株発行等について決議した臨時株主総会に出席した訴外Hも、詳細は知らされていなかった。)。
  原告Aは、平成25年7月以降、上記計画による相続税対策との関係を確認し、本件新株発行等によって相続税軽減の効果が生じることを認識したものの、本件新株発行等は、租税回避を主な目的とするものではない。

第3 当裁判所の判断
1 争点2(本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するか否か)について

(1)租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である(令和4年最判)。
(2)本件被相続人の相続財産のうち、本件株式の価額について、評価通達の定めにより評価した場合の評価方法は、X社は小会社(評価通達178)に該当するため、原告らが本件各更正の請求において併用方式を選択したことから併用方式により評価することとなる(1株当たり1858円)。なお、この点に関し、被告は、評価通達189柱書きなお書きが適用される場合に係る主張をするが、同なお書きの要件該当性につき、具体的な主張立証をしないから、同なお書きが適用される場合に係る被告の主張は採用することができない。
  したがって、本件株式の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がない限り、本件各更正処分は、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。
(3)ア 被告は、本件新株発行等により、原告らの相続税の負担は著しく軽減されることになり、また、原告A及び本件被相続人は、本件新株発行等が原告らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待していたから、本件において、課税庁が、原告らの相続財産の価額について評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとしたとしても、上記の平等原則に違反しない旨を主張する。
 イ(ア)前提事実(1)~(3)の事実関係の下において、前記(2)のとおり、本件株式の価額を評価通達の定める方法(併用方式)により評価することを前提とすると、別表5のとおり、課税価格の合計額は21億2513万4000円、相続税の総額は8億8156万6500円となり、相続税法18条による加算等をした後の納付すべき相続税額は、合計10億5641万2200円となる。
 他方、本件新株発行等をしなかった場合(本件相続と異なり、本件被相続人が、相続開始時において、本件株式を保有しておらず、本件出資の額と同額の現金又は預貯金を有しており、かつ、原告らが上記額の現金又は預貯金を均等に相続又は遺贈により取得したと仮定した場合)についてみると、別表4のとおり、課税価格の合計額は38億3398万8000円であり、相続税の総額は17億3599万3500円となり、これに相続税法18条による加算等をした額が納付すべき相続税額の合計額となる。
 そうすると、本件新株発行等をしたことにより、課税価格の合計額は、17億0885万4000円(約45%)、相続税の総額は8億5442万7000円(約49%)減少することとなり、納付すべき相続税額も、おおむねこれらと同程度の割合で減少するものと考えられる。
 ただし、評価通達179(3)は、小会社の株式の価額の評価方法について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めているところ、仮に原告らが純資産価額方式を選択していれば、課税価格の合計額、相続税の総額、納付すべき相続税額は本件各更正処分におけるそれらと同額となり(前記前提事実(4)。それぞれ37億3843万7000円、16億8821万8500円、20億2438万0500円である。)、上記の本件新株発行等をしなかった場合からの課税価格の合計額、相続税の総額の減少の程度は、それぞれ9555万1000円(約2.5%)、4777万5000円(約2.8%)にとどまる。そうすると、上記のとおり、本件株式の価額を併用方式により評価することを前提とすると、本件新株発行等をしたことにより、相続税の総額等は相当限度減少するものの、この減少は、原告A及び本件被相続人が本件新株発行等をしたことにより直ちに生ずるものではなく、評価通達179(3)が、小会社の株式の価額の評価方法について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにも起因するものといえる。なお、客観的な交換価値としての時価は一義的なものではなく、その評価方法も複数あり得るところ、評価方法が異なれば、それぞれの方法が合理的であっても評価額に違いが生ずるのは当然であるから、本件株式の価額を評価通達の定める方法(併用方式)により評価した額と、本件各更正処分価額(純資産価額方式により評価した額)や本件報告書における評価額との間に大きなかい離があることをもって、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるということはできない(令和4年最判参照)ことはもとより、評価通達が、純資産価額方式と併用方式のそれぞれを合理的な評価方法とし、いずれによるかは専ら納税義務者の選択に委ねることとしている以上、仮に原告A及び本件被相続人が本件新株発行等をした時点で併用方式を選択することを予定していたとしても、そのことを上記の事情の有無の判断に当たり重視することは相当でない。
(イ)前提事実(3)アのとおり、本件被相続人は、本件新株発行等に先立ち、本件被相続人の預金及び株式を8分の1ずつ原告ら及び訴外Hに相続させ、又は遺贈することなどを内容とする本件遺言をしたところ、本件遺言の内容を前提とすれば、原告Aを除く原告らに係る相続税額は、相続税法18条により、相続税の総額を基に同法17条の規定により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算した金額となる。
 そして、証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば、本件被相続人は、原告Aに対し本件相続開始前に本件遺言の具体的内容を知らせることはしていなかったものの、相続税法18条による相続税の加算がされることとなるとしても、本件被相続人の孫らに相続財産を取得させる意向を原告Aに示しており、原告A及び本件被相続人は、このような本件被相続人の意向を前提に、本件新株発行等をし、原告Aは、原告D、原告F及び訴外Hとの間で、上記意向に沿う本件遺産分割協議を成立させたことが認められる。
これらの行為は、本件被相続人の相続に係る相続税につき、本件被相続人の法定相続人らが法定相続分を取得する場合に比し、相続税法18条による加算がされることとなる行為である。
(ウ)上記(ア)のとおり、本件株式の価額を併用方式により評価することを前提にすると、本件新株発行等により、本件相続に係る課税価格の合計額及び相続税の総額は、相当程度減少することとなるが、課税価格の合計額は21億2513万4000円、相続税の総額は8億8156万6500円となお相当高額に及んでおり、それらの減少の割合も5割未満にとどまるものであって、相続税法18条による加算等をした後の納付すべき相続税額は、合計10億5641万2200円に及ぶ。また、上記の減少は、評価通達が、小会社の株式の価額について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにもよるものであり、必ずしも本件新株発行等のみによるものではない。そうすると、本件新株発行等により、原告らの相続税の負担が著しく軽減されるものであると評価することは困難である。
 加えて、上記(イ)のとおり、原告A及び本件被相続人は、本件被相続人の相続に係る相続税につき、相続税法18条による相続税の加算がされることとなる行為もしており、これらの行為も含めて全体としてみれば、原告A及び本件被相続人の行為が、それにより、原告らの相続税の負担が著しく軽減されるものであると評価することまではできない。
 ウ 以上によれば、本件において、本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価することが、本件新株発行等のような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と原告らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するということはできない。
   したがって、本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するといわざるを得ない。
2 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に係る取消請求について
 本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額は、前記1(2)のとおり、1株当たり1858円であるところ、これを前提にすると、課税価格の合計額は21億2513万4000円、納付すべき税額の総額は10億5641万2200円となり、本件各更正の請求における税額等(別表2の「本件各更正請求」欄の額)と同額となる。
 原告らの本件各更正処分に係る取消請求は、本件各更正処分のうち本件各更正の請求に係る税額等を超える部分の取消しを求める請求であるところ、前提事実(4)のとおり、原告らは、本件相続税に関し、申告をした後、本件各更正の請求をした上で、本件各更正処分(増額更正処分)を受けたものであるから、本件各更正処分に係る取消訴訟においては、本件各更正処分のうち本件各更正の請求に係る税額等を超える部分の取消しを求めることができるものと解される。
 そうすると、原告らの本件各更正処分に係る取消請求は、争点1について検討するまでもなく、理由がある。
 また、これまで述べたところによれば、本件各更正処分に伴ってされた本件各賦課決定処分も違法となるから、原告らの本件各賦課決定処分の取消請求も、理由がある。
3 本件訴えのうち、別紙2請求目録記載の各請求に係る部分について
 前記2のとおり、本件各更正処分のうち本件各更正の請求に係る税額等を超える部分は取り消されるべきであるから、原告らには、もはや、本件各更正の請求について、更正をすべき理由がない旨の本件各通知処分の取消しを求める訴えの利益は存しないものといわざるを得ない。したがって、本件訴えのうち、本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法である。
 また、そうである以上、本件訴えのうち、本件相続税の税額等を本件各更正の請求に係る税額等とする各更正処分をすることの義務付けを求める部分は、行政事件訴訟法37条の3第3項2号の要件を満たさないから、不適法であるといわざるを得ない。

第4 結論
 よって、本件訴えのうち、別紙2請求目録記載の各請求に係る部分は不適法であるからこれを却下し、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に係る取消請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 鎌野真敬
裁判官 志村由貴
裁判官 都築健太郎

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