解説記事2025年07月28日 特別解説 米国及び欧州(英国及び欧州大陸)で上場する主要な企業の2024年度の監査報告書に記載されたCAMとKAM(2025年7月28日号・№1084)
特別解説
米国及び欧州(英国及び欧州大陸)で上場する主要な企業の2024年度の監査報告書に記載されたCAMとKAM
はじめに
最近は我が国、海外ともに、企業による開示というとサステナビリティやESG、中でも気候変動や人権、生物多様性等の分野が盛り上がっており、監査報告書における監査上の重要な事項(CAM)や監査上の主要な検討事項(KAM)に関する開示の熱はすっかり落ち着いて、淡々と実務が回っているような印象を受ける。2024年度については、中東の一部やウクライナなどでは戦乱状態が見られるものの、2020年度、21年度の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)や2022年度のロシアによるウクライナ侵攻等の当初と比較すると、世界中に広範な影響が及ぶような大事件は相対的に少なかった年と言えるかもしれない。
このような2024年度の決算において、欧米の主要な企業の監査報告書に、会計監査人はどのようなCAM(KAM)を記載し、投資家の注意を喚起したのであろうか。本稿では、米国及び欧州(英国及び欧州大陸)で上場する主要な企業の2024年度の監査報告書に記載されたCAMやKAMの全体的な動向を分析することとしたい。
今回の調査の対象とした企業
まず、米国で上場する主要な企業については、米国ニューヨークの証券取引所に株式を上場し、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)株価指数100(S&P500中、時価総額の特に大きい、超大型株100銘柄で構成)に選定されている各社を中心に100社を選定し、選定した各社について、直近期のForm10-K(SECに提出される年次報告書)に掲載されている監査報告書を調査した。決算期が異なる企業も一部にあるが、2024年12月期決算に係るForm10-Kに織り込まれた監査報告書が今回の調査対象の大部分を占めている。今回調査対象とした主要な米国企業の中には、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード、マクドナルド、バンク・オブ・アメリカ、ウォルト・ディズニーといった歴史や伝統ある老舗企業を始め、GAFA(グーグル、アマゾン、Meta Platforms(旧社名:フェイスブック)、アップル)に代表される、新興のIT企業も多数含まれている。次に、欧州(英国及び欧州大陸)で上場する主要な企業であるが、ロンドン証券取引所に上場し、FTSE100の構成銘柄に選ばれている企業を中心に英国で上場する主要な企業100社を選ぶとともに、欧州大陸で上場する企業については、ストックス(STOXX)欧州600指数(注)の構成銘柄に選ばれている銘柄の中から、主要な企業100社を選定した。
なお、各社のCAMやKAMの内容に関する記述等は、各社のウェブサイトに掲載されている英文のアニュアル・レポート(連結財務諸表)に対する監査報告書に記載されていたものを、筆者が仮訳したものである。
(注)ストックス(STOXX)欧州600指数とは、STOXX社(スイス・チューリヒに本拠を置くインデックス・プロバイダー。ドイツ取引所のグループ企業)が算出する、ヨーロッパ17か国における欧州証券取引所上場の上位600銘柄により構成される株価指数。流動性の高い600銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型指数である。
監査上の重要な事項(CAM)の定義
まず、監査上の重要な事項(CAM)とは何か、という点から説明を始めることとしたい。米国のPCAOB(公開会社会計監査委員会)監査基準(AS)3101「無限定適正意見の監査報告書及び関連する他の監査基準の適合修正」の第11項において、監査上の重要な事項(CAM)は次のように定義されている。
「監査上の重要な事項とは、財務諸表監査において生じ監査委員会にコミュニケーションが行われた又は行うことが要求される事項で、かつ、以下の双方に該当する事項である。」
(1)財務諸表の重要な勘定又は開示に関連していること
(2)特に困難、主観的、又は複雑な監査人の判断を伴うこと
上記の定義に関連して、PCAOBは以下を説明している。
① 監査委員会にコミュニケーションが行われた又は行うことが要求される事項
監査上の重要な事項は、PCAOB監査基準や法令において、監査委員会に対してコミュニケーションを行うことが要求される事項(実際にはコミュニケーションが行われていない事項を含む。)、及びコミュニケーションを行うことが要求されていないが、実際にコミュニケーションが行われた事項の中から選択される。すなわち、コミュニケーションを行うことが求められている事項に加えて、コミュニケーションを行うことが求められているかどうかにかかわらず、監査人が監査委員会とコミュニケーションを行った事項を、監査上の重要な事項の候補として広く含めるアプローチがとられている。
ただし、PCAOBは、通常は、監査上の重要な事項の定義を満たす事項は、監査委員会に対してコミュニケーションを行うことが要求されている領域に関連するだろうと想定している。
② 財務諸表の重要な勘定又は開示に関連していること
「関連している」は、監査上の重要な事項は、財務諸表の特定の勘定又は開示の全体である必要はなく、それらを構成する一部でもよいことを示している。例えば、のれんが財務諸表にとって重要な場合、減損が計上されていない場合でも、のれんの減損評価は監査上の重要な事項となることがある。これは、のれんの減損評価は、貸借対照表に計上されているのれん及び財務諸表注記(減損の会計方針及びのれんに関する注記)に関連するためである。
また、監査上の重要な事項は、財務諸表の複数の勘定又は開示に関連していることもある。例えば、個々の監査の状況によっては、継続企業の前提に関する監査人の評価は、監査上の重要な事項となることがある。
一方で、財務諸表の重要な勘定又は開示に関連していない事項は、監査上の重要な事項の定義に該当しない。例えば、偶発損失に関して、監査委員会に対しコミュニケーションが行われたが、発生の可能性が低く、適用される財務報告の枠組みに照らして開示することは求められないと最終的に経営者が判断し、監査人も当該経営者の判断を適切と結論付けた場合、当該事項は、財務諸表に含まれる重要な勘定又は開示に関連しないため、特に困難、主観的、又は複雑な監査人の判断を伴ったとしても、監査上の重要な事項には該当しない。また、違法行為の疑いに関しても、財務諸表に開示することが求められないと経営者が判断し、監査人も当該経営者の判断を適切と結論付けた場合、財務諸表の重要な勘定又は開示に関連しないため、監査上の重要な事項には該当しない。
同様に、財務報告に係る内部統制の重要な不備があると判断された場合、重要な不備自体は、監査上の重要な事項には該当しない。これは、当該決定について財務諸表に開示することは求められておらず、よって、財務諸表の重要な勘定又は開示に関連しないためである。
ただし、重要な不備が、「監査上の重要な事項であるとの判断に監査人が至る際の主要な考慮事項」に該当することはある。
③ 特に困難、主観的、又は複雑な監査人の判断を伴うこと
投資家は、監査人の観点からの情報を知りたいと考えている。そこで、監査上の重要な事項の決定を、監査人の知識や判断に基づくものとするため、「特に困難、主観的、又は複雑な監査人の判断を伴うこと」が定義に含まれている。
監査上の主要な検討事項(KAM)の定義と決定のプロセス
監査上の主要な検討事項(KAM)は、国際監査基準(ISA)701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」において、「当年度の財務諸表監査において、監査人が職業的専門家として最も重要であると判断した事項。監査上の主要な検討事項は、監査人が統治責任者(わが国では「監査役等」に相当する)とコミュニケーションを行った事項から選択する。」と定義されている(第8項)。
また、KAMの決定にあたり、監査人は、次の3点を考慮しなければならないとされている(第9項)。
(a)ISA315「企業とその環境の理解及び重要な虚偽表示リスクの評価」(改訂)にしたがって、重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域、又は特別な検討を必要とするリスクが識別された領域。
(b)見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断が伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断。
(c)当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響。
これらの点を考慮しつつ、監査人は統治責任者(監査役等)にコミュニケーションを行った事項の中から、監査の実施において特に注意を払った事項(matters that required Significant attention)を決定し、さらに、「監査の実施において特に注意を払った事項」から、「当期の監査において最も重要な事項」をKAMとして絞り込むことになる。監査人は、リスク・アプローチに基づく監査計画の策定段階から、監査の過程を通じて監査役等と協議を行うなど、適切な連携を図ることが求められており、KAMはそのような協議(コミュニケーション)を行った事項の中から、監査人が職業的専門家としての判断を行使して絞り込みを行い、決定されるものである。
個々の監査上の主要な検討事項の記載内容については、ISA701に次のように定められている(第13項)。
監査報告書の監査上の主要な検討事項区分における、各監査上の主要な検討事項(KAM)は、財務諸表に記載がある場合には財務諸表における関連する開示へ参照を付した上で、以下を記載しなければならない。
(a)当該事項が財務諸表監査における最も重要な事項の1つであると考えられ、そのため監査上の主要な検討事項であると決定された理由。
(b)当該事項が監査においてどのように対処されたか。
表現の方法等に若干の相違点はあるものの、基本的な内容や制度の趣旨・目的等は、米国のCAMと欧州のKAMはほぼ同様と見てよいと考えられる。
米国で上場する主要な企業の監査報告書に記載されたCAMの全体的な分析
米国で上場する主要な企業の監査報告書におけるCAMの記載数別に企業を集計すると、表1のとおりとなった。

今回調査の対象とした100社において、監査報告書にCAMの記載がなかったという企業はなく、記載されたCAMの個数は、100社合計でのべ154個、1社平均で1.54個であった。
1社当たりのCAM平均記載数を3年分時系列にしたものが表2である。2022年度から2024年度まで、緩やかな減少傾向が続いていることが見て取れる。

次に、CAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かったもの(10個以上)を示すと、表3のとおりであった。

米国の主要な企業の場合には、収益認識や税務関連のCAMが例年多く、のれんの減損や評価に関するものは相対的に少ない印象を受ける。
英国で上場する主要な企業の監査報告書に記載されたKAMの全体的な分析
次に、英国で上場する主要な企業の監査報告書におけるKAMの記載数別に企業を集計すると、表4のとおりとなった。

今回調査の対象とした100社において、監査報告書に記載されたKAMの個数は、100社合計で延べ258個、1社平均で2.58個であった。2023年度は、保険会社の会計処理に大きな影響を与えるIFRS第17号「保険契約」が適用開始となったことから、大手生命保険会社の監査報告書には、「IFRS第17号の初度適用」といったKAMがよく見られたが、2024年度においては不要となり、記載されなかった。
さらに、1社当たりのKAM平均記載数を3年分時系列にしたものが表5である。

英国で上場する欧州企業の監査報告書に記載されたKAMの数は、米国企業や後述する欧州大陸で上場する企業のCAMやKAMと同様に毎年減少しているが、減少のペースが急である。2023年度の平均個数ははじめて3個を下回り、2024年度はさらに減少し、欧州大陸で上場する主要な企業とほぼ同じ水準となった。これまで監査報告書に4個~8個のKAMを記載してきた各社の会計監査人が、記載個数を3個以下に絞り込むような動きが全体として見られている。
次に、KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かったもの(10個以上)を示すと、表6のとおりであった。英国で上場する主要な企業の場合には、のれんの計上額がそれほど多額ではないこともあり、のれんの評価と減損がKAMとして取り上げられることは、相対的に少なくなっている。また、退職給付や年金の会計処理がKAMとされることが多い点は、この類型に特有の傾向と言えるのではないかと思われる。

欧州大陸で上場する主要な企業の監査報告書に記載されたKAMの全体的な分析
欧州大陸で上場する主要な企業の監査報告書におけるKAMの記載数別に企業数を集計すると、表7のとおりとなった。

今回調査の対象とした100社において、監査報告書にKAMの記載がなかった企業はなく、記載されたKAMの個数は、100社合計でのべ249個、1社平均で2.49個であった。1社当たりのKAM平均記載数を3年分時系列にしたものが表8である。

欧州大陸で上場する企業の場合、1社当たりのKAMの記載数は一貫して減少が続いてはいるが、英国で上場する企業に比べると減少のペースが緩やかであり、そのために両者の差が年々縮まってきている。
次に、KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かったもの(10個以上)を示すと、表9のとおりであった。

欧州大陸で上場する企業の場合には、のれんの評価と減損が、KAMとして最もよく取り上げられる項目となっていた。
終わりに
今後、わが国においてIFRSや米国会計基準を任意に適用する企業、及び我が国の会計基準を適用する主要な企業の2025年3月期の決算(連結財務諸表及びその監査報告書)が出揃った時点で、KAMの計上状況に関する分析を、欧米の主要な企業との比較も交えながら、あらためて実施する予定である。
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