解説記事2025年08月25日 ニュース特集 相続税実務におけるよくある誤解 第6弾(2025年8月25日号・№1087)
ニュース特集
貸付金債権の遺贈、前払賃料の債務控除、併用方式における死亡退職金の取扱い等
相続税実務におけるよくある誤解 第6弾
本特集では、資産税を扱う専門家から好評をいただいている「相続税実務におけるよくある誤解」シリーズの第6弾をお届けする。
1つ目の事例では、無償返還届出が提出されている土地の賃借人である法人の株式を純資産価額方式で評価する場合、借地権の価額を法人の資産として計上する必要があるのかという問題を検討する。
2つ目の事例では、株式と貸付金債権を法人に遺贈した場合のみなし譲渡所得に係る収入金額を純資産価額方式で算定する場合、貸付金債権を法人の負債とするべきか否かについて検討する。
3つ目の事例では、被相続人が賃借人から受領していた前払賃料の債務控除の可否について検討する。
4つ目の事例では、貸借関係が使用貸借である土地が現在及び将来において更地に復帰する可能性が低い場合における使用貸借通達による評価の是非について検討する。
最後に5つ目の事例では、被相続人の死亡により相続人等に死亡退職金を支給した会社の株式を併用方式により評価する場合、類似業種比準方式において死亡退職金を加味することの是非について検討する。
事例1
無償返還届出が提出されている土地の賃借人である法人の株式の評価
土地所有者が相続人なら借地権価額を法人の資産に計上する必要なし
無償返還届出が提出されている土地の賃借人である法人の株式を純資産価額方式で評価する場合、本件土地に係る借地権の価額(本件土地の自用地としての価額の20%相当額)を法人の資産として計上する必要があるのかとの疑問が生じる。
例えば、乙が代表取締役となっているX社の株式を乙が45%、被相続人甲が55%保有していたとする。また、乙は所有する土地を(建物の所有を目的として)X社に通常の地代で貸し付けるとともに、当該貸付けに際し、X社と連名で本件土地の無償返還届出を提出していたとしよう。この前提の下、被相続人甲が保有していた本件株式を乙が相続した場合、本件株式を純資産価額方式で評価するにあたり、本件土地に存する借地権の価額(本件土地の自用地としての価額の20%相当額)は、X社の資産として計上する必要があるのだろうか。
相当地代通達8《「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価》は、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対して土地を貸し付け、当該土地について無償返還届出書が提出されている場合には、同社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を同社の純資産価額に算入する旨定めている。これは以下の理由による。
(1)被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には、当該被相続人が自ら当該土地を利用している場合と実質的に変わりがない。それにもかかわらず、前者の場合は、相続税の計算上、自用地としての価額の80%に相当する金額で評価される一方で、後者の場合には、相続税の計算上、自用地としての価額の100%に相当する金額で評価されるという課税上の不公平が生じることになる。このため、当該土地の価額を個人と法人を通じて100%顕在させることが課税の公平上適当であると考えられること。
(2)無償返還届出書の提出があるとしても、借地借家法によって保護される借地権の存在が否定されるものではないことから、当該同族会社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を借地権の価額として、同社の純資産価額に算入するとしたものであると解されていること(東京地裁平成27年7月30日判決)。
以上を踏まえると、本件土地の所有者は被相続人甲ではなく乙であることから、そもそも相当地代通達8の適用はない。したがって、本件株式を純資産価額方式で評価するに当たり、本件借地権の価額をX社の資産として計上する必要はないということになる。
相続後に株式を贈与なら相当地代通達8が適用され、借地権価額を資産に計上する必要
では、乙が本件株式を相続後、丙に贈与した場合はどうだろうか。
相当地代通達8と同様の趣旨で設けられている相当地代通達6《相当地代を収受している場合の貸宅地の評価》の注書の取扱いが贈与のケースに適用されるか否か争われた裁判例等(福岡高裁宮崎支部平成19年2月2日判決、平成27年3月25日公表裁決)では、「注書の制定趣旨は、相当の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する方法を採る場合と権利金及び通常の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する場合とで課税の取扱い上不公平が生じないようにしたものであることなどからすると、同社の株式等の相続又は遺贈の場合に限らず、贈与の場合であっても、その適用がある」旨判示等されている。したがって、丙が贈与により取得した本件株式を純資産価額方式により評価するに当たっては相当地代通達8の適用があり、本件借地権の価額はX社の資産として計上する必要があると考えられる。
事例2
株式と貸付金債権を法人に遺贈した場合のみなし譲渡所得の計算
民法上の「混同による消滅前のもの」か「混同により消滅したもの」かが論点に
法人に対する遺贈はみなし譲渡所得(所法59)の対象となるが、株式のみなし譲渡に係る収入金額を純資産価額方式で算定するに当たって判断に迷うのが、法人への貸付金債権を①民法520条に規定する混同による消滅前のものとして評価するのか、あるいは②混同により消滅したものとして評価するのか、ということだ。
例えば、被相続人甲が、自身が主宰する同族会社X社(財産評価基本通達上の株式特定保有会社に該当)に対し、甲が保有していた同社の発行する株式(本件株式)及び同社への貸付金債権(本件貸付金債権)を遺贈(本件遺贈)したとしよう。この場合、純資産価額方式による本件株式のみなし譲渡に係る収入金額の計算上、本件貸付金債権を①民法520条に規定する混同による消滅前のもの(X社の負債として本件貸付金債権に対応する借入金(本件借入金債務)を計上する)として評価するべきか、あるいは②混同により消滅したもの(X社の負債として本件借入金債務を計上しない)として評価するべきだろうか。
被相続人死亡直前の各資産及び各負債の価額に基づき純資産価額を算出
評価通達185《純資産価額》の本文は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、課税時期における各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額に相当する金額を控除した金額を、課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めている。
周知のとおり評価通達は「相続税及び贈与税の課税における財産の評価」に関するものであり、株式保有特定会社の各資産及び各負債の評価の基準時となる上記「課税時期」とは、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額の評価の基準時となる当該財産の取得の時(相続税法22条)をいうものと解されている。
これに対し譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりにより当該資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨である(最高裁昭和43年10月31日判決等)。すなわち、譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税が行われるところ、所得税法59条1項は、同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に、当該資産についてその時点で生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、「その時における価額」に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される(最高裁令和2年3月24日判決)。
このような譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、所得税法59条1項に規定する「その時における価額」は、被相続人甲が本件株式を保有していた当時におけるX社の各資産及び各負債の価額に応じた評価方法を用いて算出されるべき、ということになる。
したがって、本件株式の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算は、当該譲渡(被相続人甲死亡時)の直前におけるその各資産及び各負債(X社の負債として本件借入金債務を計上する)の価額に基づき行うと解するのが相当ということになろう(東京地裁令和3年5月21日判決)。
事例3
被相続人が賃借人から受領していた前払賃料の債務控除の可否
未経過分前払賃料を相続人に引継ぐ旨の覚書等がなければ債務控除不可となるおそれ
生前、被相続人が定期借地権の設定契約に係る土地を相続人に贈与していたものの、同契約に基づき被相続人が賃借人から受領していた前払賃料を当該相続人に引き継いでいなかった場合、相続税の債務控除の可否が問題になる。
例えば、定期借地権が設定された土地(本件土地)の賃貸人である被相続人(甲)が、その賃借人(X)から多額の前払賃料(本件前払賃料)を受領しているケースを想定してみよう。地価の上昇傾向が続く昨今、顧問税理士としては、本件土地を甲の相続人(丙)に贈与(本件贈与)することにより、相続税及び所得税の節税を図る提案も頭に浮かぶことだろう。
このような提案をする場合に注意しなければならないのが、本件贈与が行われた時点の未経過分の本件前払賃料の取扱い、すなわち、甲と丙との間で(場合によってはXを含めたところで)当該未経過分の本件前払賃料に係る金員(本件金員)を丙に引き継ぐことを覚書等(本件覚書等)により明確にしておく必要があるということだ。仮に甲に相続が開始するまでに丙に本件金員の引き渡しが行われていなかった場合、本件覚書等が存在しないと、本件金員を相続税の債務控除の対象とすることができなくなるおそれがある。
被相続人は賃借人に対し未経過分前払賃料の返還義務なし
具体的に説明すると、まず、賃貸借の目的となる不動産が譲渡され、当該賃貸借の賃貸人としての地位も引き継がれた場合、引き継がれる賃貸借の内容には、賃料の前払いがなされたことも含まれるものと解されている(建物の賃借人は、賃料前払いの効果を賃借建物の所有権を取得した新賃貸人に対し主張できる旨判示した最高裁昭和38年1月18日第二小法廷判決参照)。したがって、本件贈与によって、丙は甲から本件金員をXに返還する未経過分の本件前払賃料に関する権利義務を引き継ぐ一方、甲は、その権利義務を負わなくなる。つまり、甲に相続が開始した場合、本件土地の賃貸人は丙であることから、甲はXに対して未経過分の本件前払賃料の返還義務を負っていないということになる。
旧賃貸人が新賃貸人に対し前払賃料を引き渡すべきことを規定した法令なし
では、甲は本件贈与によって、本件金員を丙に引き継ぐという債務(本件金員債務)を当然に負うことになるのだろうか。
この点、新賃貸人が旧賃貸人から前払賃料に関する権利義務を引き継いだ場合に、旧賃貸人が新賃貸人に対し、前払賃料として賃借人から受領した金員を引き渡すべきことを規定した法令はない。したがって、本件贈与によって本件土地に係る賃貸人の地位が甲から丙に引き継がれたことにより、甲が当然に丙に対して本件金員債務を負うものではなく、甲は、丙との間で本件金員を引き継ぐ旨の合意がない限り、丙に対して本件金員債務を負わないということになる。裏を返せば、相続税の債務控除のためには、本件覚書等の作成は必須となるので留意したい。
事例4
公共性の高い建物が存する土地を使用貸借通達で評価することの是非
明渡し要求が不可能で更地復帰困難なら「使用貸借通達により難い特別の事情」あり
周知の通り、使用貸借通達は「個人間」の貸借関係の実情を踏まえて定められている。したがって、当事者のいずれか一方が「法人」である場合、もう一方の個人は原則として法人税の取扱いに準拠して取り扱われることになるため、貸し付けられている土地は貸宅地として評価される。ただし、土地の借主が公益法人等である場合、権利金等を支払うことなく借地権を設定したとしても受贈益課税の問題が生じないため、法人税の取扱いがそのまま適用されない(=使用貸借通達が適用される)として、当該土地は自用地として評価すると判示した裁判例がある(大阪高裁平成18年1月24日判決)。
もっとも、使用貸借通達を適用して土地等を評価することが著しく不適当と認められる特別の事情がある場合、すなわち、使用貸借通達により算定される土地等の評価額が客観的交換価値を上回る場合には、他の合理的な評価方法により土地等の価額を評価することも許されると解される。この使用貸借通達により難い特別の事情について平成20年6月2日裁決は、「使用借権の経済的価値について、例えば、使用貸借地に存する建物が極めて公共性の高いもので、土地所有者と土地使用者(建物所有者)の双方の意思のみによっては、使用貸借地の貸借関係を解消させることが事実上不可能であると認められる場合など、使用貸借通達が予定している使用貸借地と比較して、利用上の制約や処分上の制限を受けるような特別な事情が存する場合には、この限りでないと解される。」との考えを示している。
例えば、被相続人の所有する土地(本件土地)が古く(実例として、戦後間もなくから)宗教法人の境内地(神社の社殿敷地)として固定資産税相当額の地代で貸し付けられているようなケースだ。この場合、本件土地は、神社の社殿敷地として長期間にわたり貸し付けられており、本件土地の貸借関係が使用貸借であったとしても、現在及び将来において容易に明渡し要求ができない状況にあり、更地に復帰する可能性は低いとみるのが相当であるため、「使用貸借通達により難い特別の事情」があると解される。
なお、類似事例について平成19年6月22日裁決は、財産評価基本通達24−8《文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価》に定める重要文化財に指定された建造物の敷地の用に供されていた宅地の評価に準じて、自用地としての価額の30%に相当する金額によって評価するのが相当との判断を示しており、実務上参考になろう。
事例5
併用方式で非上場株式を評価する場合の死亡退職金の取扱い
死亡退職金を加味すれば、標本会社と評価会社の比準要素の同一性が失われることに
被相続人の死亡により相続人等に死亡退職金を支給した会社の株式を併用方式により評価する場合、純資産価額方式では、課税時期において未払いの死亡退職金は会社の負債に含めて計算することになるが、実務上、類似業種比準方式における取扱いが問題となる。
例えば、中会社に該当するA社が、被相続人の死亡により相続人等に死亡退職金を支給していたとしよう。財産評価基本通達上、中会社の株式の価額は「併用方式」により評価することになる。この場合、純資産価額方式では、課税時期において未払いの本件死亡退職金はA社の負債に含めて計算することになるが、類似業種比準方式でも、A社の直前期末の1株当たりの利益金額及び純資産価額の計算上、本件死亡退職金を加味できるのだろうか。
評価通達180《類似業種比準価額》は、類似業種比準価額の算定に際しては、評価会社の直前期の比準要素(1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額)の数値を用いることとしている。その理由として、類似業種比準価額の算定に当たって比準する標本会社(上場会社)の1株当たりの数値は、標本会社の前年10月31日以前に終了した事業年度以前1年間における配当金額、利益金額、純資産価額の数値を基にしているため、類似標本会社と評価会社の比準三要素の算定時期は可能な限り近接させた方がより適正な株価の算定が可能になると考えられることが挙げられる。
また、課税時期後における恣意的な利益操作等による影響要因を排除するという目的もあるとされる。つまり、類似業種比準方式とは、比較対象として用いる標本会社の数値と評価会社の数値に係る時期及び内容を同一の基準とすることにより、時価を評価する上での恣意性を排除するとともに、評価の統一性・画一性を図る手法と言える。したがって、類似業種比準方式によるA社の1株当たりの利益金額及び純資産価額の計算上、直前期末後に生じた本件死亡退職金の支給相当額を加味すれば、同方式の合理性を担保する要素である標本会社と評価会社の比準要素の同一性が失われることになる。
純資産価額方式では負債計上も、類似業種比準価額方式では加味不可
加えて、純資産価額方式は、評価会社の課税時期における資産及び負債を相続税評価額に評価替えした上で求めた1株当たりの純資産価額によって株式を評価する手法である一方、類似業種比準方式は、株価構成要素として考えられるもののうち基本的かつ直接的なもので計数化が可能な1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額の各要素について、評価会社と事業内容が類似する標本会社の平均値に対する評価会社の各金額の割合を、評価通達182《類似業種の株価》で定める類似業種の株価に乗じた上、さらに計数化が困難な他の株価構成要素の影響及び評価会社の株式の非流通性を考慮して、一定割合で減額したものを評価会社の1株当たりの比準価額とする手法と言える。
このように純資産価額方式と類似業種比準価額方式では1株当たりの評価額を算出する計算方法自体が異なっているため、純資産価額方式による計算上、本件死亡退職金を負債として計上できるからといって、類似業種比準価額方式による計算上も本件死亡退職金を加味する理由にはならない。
結論として、類似業種比準価額方式の計算上、本件死亡退職金を加味することはできないということになる。
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