解説記事2025年09月15日 未公開裁決事例紹介 自走式駐車場の貸付けから生じる収益の帰属(2025年9月15日号・№1090)
未公開裁決事例紹介
自走式駐車場の貸付けから生じる収益の帰属
審判所、土地と駐車場は一体として使用
○駐車場1階部分の貸付けに係る収益の全てが請求人に帰属するか否かが争われた裁決(大裁(所・諸)令5第40号)。原処分庁は、1階と屋上とに駐車スペースを設けた2段の自走式駐車場に係る賃貸料につき、その1階部分に係る賃貸料は全て本件駐車場の敷地の所有者である請求人に帰属するとしたが、国税不服審判所は、土地上の構造物は、請求人及び請求人の妻が2分の1ずつの持分を有し、また、社会通念上、一体の物として本件駐車場として使用され、本件構造物が本件土地に付合しても、請求人の妻は請求人との間の使用貸借契約により本件土地に係る使用借権を有するから、当該付合には民法第242条《不動産の付合》のただし書が適用され、付合後も請求人の妻が有する本件構造物の持分は留保されると指摘。そして、本件構造物は、社会通念上、一体の物として駐車場として使用されているところ、駐車場の1階部分は、構造物における特定の区画を貸し付けるものとして使用されているといえ、駐車場の1階部分の貸付けに係る収益は、本件構造物を使用して得たものであって、構造物から生ずる収益であることからすると、駐車場の1階部分の貸付けから生ずる収益及び資産の譲渡等に係る対価は、請求人及び請求人の妻に2分の1ずつ帰属し、全てが請求人に帰属するものではないとし、原処分を取り消した。
主 文
1 平成29年分、平成30年分、令和元年分、令和2年分及び令和3年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1−1から別紙1−5までの各「取消額等計算書」のとおり取り消す。
2 令和2年1月1日から令和2年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分の一部を別紙2「取消額等計算書」のとおり取り消す。
3 その他の原処分は、いずれもその全部を取り消す。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、原処分庁が、1階部分と屋上部分とに駐車スペースを設けた2段の自走式駐車場に係る賃貸料につき、当該駐車場の1階部分に係る賃貸料は全て当該駐車場の敷地の所有者である審査請求人(以下「請求人」という。)に帰属するとして、所得税等及び消費税等の更正処分等を行ったところ、請求人が、当該駐車場に係る賃貸料は、請求人及び請求人の妻が2分の1ずつの持分割合で共有する駐車場用の構造物の貸付けによるものであるから、その持分割合に応じ、1階部分に係る賃貸料も請求人及び請求人の妻に2分の1ずつ帰属するなどとして、原処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。以下では、所得税と復興特別所得税を併せて「所得税等」といい、平成29年分から令和3年分までの各年分を併せて「本件各年分」という。また、消費税と地方消費税を併せて「消費税等」といい、課税期間については暦年をもって「平成29年課税期間」などと表記し、平成29年課税期間から令和3年課税期間までの各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。
イ 請求人について
請求人は、不動産賃貸業を営む個人であり、請求人及び請求人の親族が所有する不動産の管理などを営む××××××××(以下××××という。)の代表取締役である。
ロ 請求人が所有する土地について
請求人は、××××××××××××に所在する1,116.01平方メートルの土地(以下「××××××××」という。)を平成元年12月22日の贈与等により取得し、単独所有している。
ハ 土地に係る使用貸借契約について
貸主として請求人の記名押印があり、借主として請求人及び請求人の妻の記名押印がある平成4年1月1日付の土地使用貸借契約書(以下、当該契約書に係る契約を「本件使用貸借契約」という。)には、要旨次の記載がある。
(イ)請求人(貸主)は、請求人(借主)及び請求人の妻に対し×××××××のうち1,036.20平方メートル(以下、×××××××のうち、本件使用貸借契約の目的とされた部分を「本件土地」という。)を無償で貸与し、使用収益せしめることを約して、請求人(借主)及び請求人の妻は共同でこれを借り受けることを承諾した(第1条)。
(ロ)請求人(借主)及び請求人の妻は、本件土地を立体駐車場用地として、その用法に従って使用及び収益しなければならない(第2条)。
(ハ)請求人(借主)及び請求人の妻は、本件土地の固定資産税を負担する(第3条)。
(ニ)請求人(貸主)は、2か月前の予告をもってこの契約を解約することができる(第5条)。
(ホ)本件使用貸借契約が解約されたときは、請求人(借主)及び請求人の妻は直ちに本件土地を使用時の状態において請求人(貸主)に返還しなければならない(第7条)。
ニ アスファルト舗装の敷設及び自動車駐車設備の建築について
(イ)××××××××××(以下「×××××××」という。)は、請求人及び請求人の妻に対し、平成3年12月10日付で、「××××××××××××××」の設置工事の見積書(以下「本件見積書」という。)を提出した。本件見積書には、駐車棚及びスロープ等の設置費用、アスファルト等の工事費用並びに基礎工事の費用等の内訳が記載されているほか、総価金額は55,500,000円と記載されている(以下、当該設置工事により敷設されるアスファルト舗装を「本件舗装」といい、当該設置工事により設置される物のうち本件舗装を除いたものを「本件設備」といい、本件舗装と本件設備とを併せて「本件構造物」という。)。
(ロ)請求人及び請求人の妻は、平成3年12月11日付で、×××××××との間で、本件構造物を買い受けることなどを内容とする契約(以下「本件売買等契約」という。)を締結し、契約書を取り交わした。当該契約書には、「××××××××××××××××の使用権及び駐車設備の売買に関して、下記の通り契約する。」との記載のほか、要旨次の記載がある。
A ×××××××は、本件構造物を請求人及び請求人の妻に売り渡し、請求人及び請求人の妻はこれを買い受けることを約定する(第1条 売買の目的)。
B ×××××××は、その所有する本件構造物に関する使用権を、請求人及び請求人の妻に貸与し、請求人及び請求人の妻は無断で改造、製造してはならない(第2条 特許及び実用新案権)。
C 本件構造物の引渡しは、平成4年1月31日とし、本件土地に納入、検査後、引き渡すものとする(第3条 引渡し)。
D 売買代金は55,500,000円とし、支払方法は、契約時18,500,000円(支払期日 平成3年12月18日)、中間金18,500,000円(支払期日 平成4年1月10日)、完成引渡し後1か月18,500,000円(支払期日 同年2月28日)(第4条 売買代金)。
E 請求人及び請求人の妻が売買代金の支払を怠ったときは、×××××××は、何らの催告を要しないで直ちにこの契約を解除して、引き渡した本件構造物の返還を求めることができる(第6条 契約解除)。
F 請求人及び請求人の妻が売買代金の支払を完了するまでは、本件構造物は×××××××の所有に属するものとする(第7条 所有権保留)。
G 物品の引渡し後、請求人及び請求人の妻の検査期間を15日間とし、この期間満了前に生じた本件構造物の滅失、棄損、減量、変質その他一切の損害は請求人及び請求人の妻の責に帰すべき場合並びに請求人及び請求人の妻の検査に合格し又は請求人及び請求人の妻が異議をとどめず受領したものに係る場合を除き、×××××××の負担とし、当該期間満了後に生じたこれらの損害は、×××××××の責に帰すべき場合を除き、請求人及び請求人の妻の負担とする(第8条 危険負担)。
(ハ)請求人及び請求人の妻は、本件設備につき、建築基準法第6条《建築物の建築等に関する申請及び確認》第1項の規定による確認を連名で申請し、検査員である×××××による確認を受けて、これに係る平成4年3月24日付の検査済証の交付を受けた。さらに、請求人及び請求人の妻は、建築基準法第15条《届出及び統計》第1項の規定による建築工事届も連名で提出した。
(ニ)請求人及び請求人の妻は、平成4年4月14日に、××××(現、×××××××。以下同じ。)からそれぞれ30,000,000円を借り入れた。
これらの借入れの担保として、×××××××には、債務者を請求人とする根抵当権と、債務者を請求人の妻とする根抵当権とが、それぞれ同順位で設定された。これらの根抵当権は、いずれも極度額を30,000,000円とし、債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とし、根抵当権者を××××とするものであった。また、これらの根抵当権の設定登記は、「平成13年11月30日解除」を登記原因として抹消された。
請求人及び請求人の妻の上記の各借入れについての返済は、毎月、請求人及び請求人の妻の各銀行預金口座から口座振替によって支払われていた。
ホ 賃貸不動産管理委任契約について
請求人は、請求人の妻ほか3名又は4名と共に、平成28年12月28日、平成29年12月28日、平成30年12月28日、令和元年12月30日及び令和3年1月1日付で、××××との間で、請求人、請求人の妻ほか3名又は4名を委任者とし、××××を受任者として、本件各年分の各賃貸不動産管理委任契約を締結した(以下、これらの各賃貸不動産管理委任契約を「本件各管理委任契約」といい、本件各管理委任契約に係る各契約書を「本件各管理委任契約書」という。)。
本件各管理委任契約書には、×××××××を含む複数の土地及び貸家について、地代・家賃・賃貸借契約の締結・改定・解約、地代・家賃等の請求と受領、賃貸不動産の保存・修繕等に必要な工事の発注その他の行為及びこれらに関連する一切の行為について、××××に委任する旨が記載されている。
へ 駐車場に係る賃貸借契約について
請求人は、遅くとも平成24年以降、請求人を賃貸人として、本件構造物に係る駐車場(以下「本件駐車場」という。)について、××××××××という名称を使用し、その指定された場所を車両格納目的で賃貸する旨の各契約を、本件駐車場の各利用者との間で締結していた(以下、これらの各契約を「本件各賃貸借契約」といい、本件各賃貸借契約に係る各契約書を「本件各賃貸借契約書」という。)。
本件各賃貸借契約書には、本件各賃貸借契約に基づく賃貸料(以下「本件各賃貸料」という。)の振込先として請求人名義の銀行預金口座が指定されていた。
なお、請求人は、本件土地に隣接した××××××の一区画(以下「本件隣接区画」という。)についても、××××××××という名称を使用して駐車場として貸し付けていた。
ト 本件駐車場について
本件駐車場は、1階部分及び屋上部分を自動車の駐車の用に供するものであり、屋上部分に駐車する自動車は自走して移動することになる、1層2段の自走式自動車車庫であった(以下、本件駐車場の1階部分を「本件駐車場1階部分」という。)。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件駐車場に係る賃貸料収入の2分の1に相当する金額を請求人の不動産所得の総収入金額として、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した本件各年分の所得税等の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
また、請求人は、本件駐車場に係る賃貸料収入の2分の1に相当する金額を課税資産の譲渡等の対価として、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した本件各課税期間の消費税等の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、請求人に対する調査の結果に基づき、令和5年2月14日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件所得税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)を、また、別表2の更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をそれぞれ行った。
本件所得税等各更正処分及び本件消費税等各更正処分は、要旨、本件駐車場のうち、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益については、その全てが請求人に帰属するとして行われたものである。
ハ 請求人は、原処分に不服があるとして、令和5年4月28日に、審査請求をした。
争点および主張
本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益の全てが請求人に帰属するか否か。(編注:争点についての主張は表のとおり)
【表】争点についての主張(抄)
原処分庁 | 請求人 |
本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、以下のとおり、請求人が単独で所有する×××××××の一部である本件土地の貸付けによるものであって、本件土地の法律上の真実の権利者とその実質的な収益の帰属者はいずれも請求人であるから、全て請求人に帰属する。 (1)本件使用貸借契約は有効に成立したとはいえないこと (2)本件舗装及び本件設備は請求人が単独で所有する×××××××に付合していること (3)本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、請求人に帰属すること |
本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、以下のとおり、請求人及び請求人の妻が2分の1ずつの持分割合で共有する本件構造物の貸付けによるものであるから、請求人及び請求人の妻に2分の1ずつ帰属する。 (1)本件使用貸借契約は有効に成立していること (2)請求人及び請求人の妻が本件構造物を2分の1ずつの持分割合で共有していたこと (3)本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、請求人及び請求人の妻の両者に2分の1ずつの割合で帰属すること |
審判所の判断
(1)法令解釈
イ 所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを亭受する者に帰属するものとして、この法律の規定を通用する旨規定する(実質所得者課税の原則)ところ、その趣旨は、担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合には、後者を収益の帰属者とするというものと解される。そして、同条の規定を受けた所得税基本通達12−1は、同条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであり、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する旨を定めているが、かかる取扱いは、同条の規定の趣旨に沿うものとして当審判所においても相当と認められる。
ロ また、消費税法第13条も、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する旨規定しており、所得税法と同様の実質課税の原則を規定したものと解されるから、その資産の譲渡等に係る対価を享受する者が誰であるかという点は、上記イと同様に解するのが相当である。
(2)認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人及び請求人の妻は、×××××××に対し、本件売買等契約に基づき、本件構造物の売買代金55,500,000円について、平成3年12月18日に18,500,000円、平成4年1月13日に18,500,000円及び同年5月15日に18,500,000円をそれぞれ支払った。
なお、請求人及び請求人の妻は、上記の××××からの借入実行日(平成4年4月14日)前における×××××××に対する支払について、請求人の弟である××××から資金を借り入れて支払い、同人に対しては、借入実行日に当該資金を返済した。
ロ 本件各賃貸料のうち少なくとも本件各年分については、月次で、本件駐車場の各利用者からそれぞれ請求人名義の銀行預金口座に振り込まれた。
ハ 本件各賃貸料のうち少なくとも本件各年分については、月次で、その合計額から××××に支払う管理費を控除した金額の2分の1に相当する金額が、請求人名義の銀行預金口座から請求人の妻名義の銀行預金口座に振り込まれていた。
ニ 本件設備は鉄骨造であり、本件設備を本件土地上に設置するに際しては、本件土地について、一定の地耐力を備えさせることを目的とした基礎工事が行われている。本件設備の屋上部分にはエキスパンドメタルが用いられており、屋上部分は複数の支柱で支えられている。そして、本件設備の各支柱の根元は本件土地の地中に埋め込まれており、また、本件設備の各支柱の地面に接する箇所は本件舗装により固められている。
本件舗装は、本件設備の設置工事の際に×××××××によって本件土地上に敷設されたものである。
ホ 本件設備の屋上部分の各駐車区画には、1階部分への油漏れを防ぐための防油シートが敷設されており、本件設備の1階部分と屋上部分のそれぞれに電灯や移動式消火設備が備え付けられている。また、本件構造物の外周にはフェンスが設置されており、本件設備の入口部分には、本件駐車場の名称である「××××××××」との記載がされている。
へ 本件設備の1階部分から屋上部分に至るスロープの駆け上がり部分は本件土地にセメントで台座が構成されている。また、本件設備には、1階部分から屋上部分に移動するための階段が2か所設置されているほか、本件設備に沿って本件舗装と一体となす排水設備が施されていた。
ト 請求人は、平成4年10月、××××××に対し、本件設備について、所得税の減価償却資産の耐用年数短縮の承認申請書(以下「本件承認申請書」という。)を提出した。本件承認申請書には、資産の種類は構築物であり、請求人及び請求人の妻が共有し、持分は2分の1ずつである旨が記載されている。
(3)検討
イ 本件構造物の権利関係について
(イ)×××××××からの買受けによる請求人及び請求人の妻の本件構造物の持分の取得について
請求人及び請求人の妻は、上記のとおり、本件売買等契約の契約当事者となっており、本件売買等契約において、×××××××から本件構造物を買い受ける旨を合意していた。また、本件売買等契約において、本件構造物は、売買代金の支払を完了するまでは、×××××××の所有に属する旨合意されていたところ、上記(2)のイのとおり、請求人及び請求人の妻は、平成4年5月15日、×××××××に対する売買代金の支払を完了した。
そして、上記のとおり、請求人及び請求人の妻は、平成4年4月14日に××××から30,000,000円ずつの借入れを行っているところ、上記(2)のイの事実(上記各借入実行日前に行われた×××××××に対する売買代金の支払は、請求人の弟から借り入れた資金によって行い、同人に対して上記各借入実行日に当該資金を返済したこと)に鑑みると、同各借入れは、実質的には本件売買等契約における売買代金の支払等の原資とすることを目的に行われたものであったということができる上、上記のとおり、上記各借入れについての返済は、実際に、請求人及び請求人の妻によって行われていたのであるから、請求人及び請求人の妻は、本件構造物の売買代金を2分の1ずつ負担していたと認められる。
加えて、上記(2)のハのとおり、請求人は、本件駐車場に係る本件各賃貸料のうち、少なくとも本件各年分については、その合計額から××××に支払う管理費を控除した金額の2分の1に相当する金額を、月次で、請求人の妻の銀行預金口座に振り込んでおり、かつ、上記(2)のトのとおり、平成4年10月に××××××に対して提出された本件承認申請書には、本件設備に関し、請求人及び請求人の妻が共有し、持分は2分の1ずつである旨が記載されていたことからすると、請求人及び請求人の妻は、本件構造物について、双方が2分の1ずつの権利を有していると認識していたと認められる。
これらのことからすると、請求人及び請求人の妻から×××××××に対する本件構造物の売買代金の支払が完了した平成4年5月15日時点で、請求人及び請求人の妻は、本件構造物につき2分の1ずつの持分を取得したと認められる。
(ロ)付合の有無について
民法第242条本文は、不動産の所有者はその不動産の従としてこれに付合した物の所有権を取得する旨規定し、また、そのただし書において、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない旨規定している。同条の規定は、不動産の所有者は、当該不動産に付合した物の所有権を取得することを原則としつつ、例外として、他人が権原によって物を附属させたときは、当該物の所有権は他人に帰属したままとするものであり、ここにいう権原とは、当該不動産を利用し、物を附属させ得る法律上の地位をいうものと解される。
上記(イ)のとおり、請求人の妻は、本件構造物につき2分の1の持分を取得したと認められるところ、本件構造物が本件土地を含む×××××××に付合し、かつ、民法第242条ただし書が適用されない場合には、本件構造物は、同土地の構成部分となって、独立の存在をもたないこととなる。そこで、まず、本件構造物が×××××××に付合するか否かについて検討する。
A 本件構造物の一体性の有無について
本件構造物は本件舗装及び本件設備により構成されているところ、×××××××への付合の有無を検討するに当たり、本件構造物を一体の物とみるべきか否かについて検討するに、まず、上記(2)のニのとおり、本件設備を×××××××の一部である本件土地上に設置するに際しては、本件土地について、一定の地耐力を備えることを目的とした基礎工事が行われている上、本件設備の屋上部分は、根元の部分が本件土地の地中に埋め込まれた複数の支柱で支えられており、かつ、本件設備の各支柱の地面に接する箇所は本件舗装により固められている。
また、上記(2)のへのとおり、本件設備の1階部分から屋上部分に至るスロープの駆け上がり部分については、本件土地にセメントで台座が構成されている上、1階部分から屋上部分に移動するための階段が2か所設置されているほか、本件設備に沿って本件舗装と一体をなした排水設備が施されている。
さらに、上記(2)のホのとおり、本件設備の屋上部分の各駐車区画には1階部分への油漏れを防ぐための防油シートが敷設されているほか、本件構造物の外周にはフェンスが設置された上で、本件設備の入口部分には本件駐車場の名称である「×××××××××」との記載がある。加えて、本件見積書には、「××××××××××××××××」の項目として、駐車棚及びスロープ等の設置費用並びに基礎工事の費用等のほか、アスファルト等の工事費用についても見積金額の内訳として記載されており、また、本件売買等契約における目的物も本件構造物であるものとされている。
以上によると、本件設備と本件舗装は、物理的にみても、機能的にみても、一体として本件駐車場を構成している上、取引上も、一体のものとして取り扱われているということができる。
したがって、本件構造物は、社会通念上、一体の物とみるのが相当である。
B 本件構造物と×××××××との付合の有無について
上記(2)のニのとおり、本件設備を×××××××の一部である本件土地上に設置するに際しては、本件土地について、一定の地耐力を備えさせることを目的とした基礎工事が行われている上、本件設備の屋上部分は、根元の部分が本件土地の地中に埋め込まれた複数の支柱で支えられており、かつ、本件設備の各支柱の地面に接する箇所は本件舗装により固められている。
以上のような本件構造物の設置状況等に照らせば、本件構造物は、本件土地から容易に取り外すことはできないと認められ、かつ、仮に、本件構造物を土地から分離した場合には、これを利用することが不可能となり、社会経済上、著しい不利益が生じることになる。
したがって、本件構造物は、本件土地に固着させられ、かつ、本件土地に永続的に付着した状態で使用されるのが取引上の性質であるものといえるから、×××××××に付合したものと認めるのが相当である。
(ハ)民法第242条ただし書の適用の可否について
上記(ロ)のとおり、本件構造物は、一体のものとして×××××××に付合したといえるところ、請求人は、請求人の妻が権原となる本件使用貸借契約によって本件構造物を同土地に附属させたものであるから、民法第242条ただし書が適用され、請求人の妻は、本件構造物に係る権利を失わない旨主張するので、この点について、更に検討する。
A 本件使用貸借契約の有効性について
(A)本件使用貸借契約のうち請求人を借主とする部分について
民法第520条は、債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する旨規定しているところ、本件使用貸借契約のうち請求人を借主とする部分は、本件土地を含む×××××××の所有者である請求人が請求人自身を借主として本件土地の使用借権を設定するものであって、同条の規定により、そのような使用債権を設定することはできないから、当該部分は無効である。
(B)本件使用貸借契約のうち請求人の妻を借主とする部分について
民法第593条は、使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還することを約して相手方からある物を受け取ることによってその効力を生ずる旨規定しており、使用貸借の成立には、物の引渡し、すなわち、物の占有の移転が必要である。
上記のとおり、本件売買等契約においては、本件構造物の引渡日は平成4年1月31日とされていたものの、本件売買等契約において、売買代金の最後の支払期日は本件構造物の引渡し後1か月とされており、請求人及び請求人の妻は、同年5月15日、×××××××に対し、売買代金の最後の支払を行っていることからすると、請求人及び請求人の妻は、遅くとも同年5月頃までには×××××××から本件土地の上に敷設及び建築された本件構造物の引渡しを受けていたと認められ、請求人の妻は、それ以降、本件構造物を通して本件土地を物理的に支配し、請求人と共に本件土地を共同占有しているということができる。そして、当該共同占有は、本件使用貸借契約における請求人と請求人の妻との間の合意に基づいて行われるに至ったものであるといえる。そうすると、請求人の妻は、本件使用貸借契約によって本件土地の占有の移転を受けたといえるから、本件使用貸借契約のうち請求人の妻を借主とする部分は有効である。
(C)小括
以上のとおり、本件使用貸借契約のうち、請求人を借主とする部分は無効であるが、請求人の妻を借主とする部分は有効である。
B 民法第242条ただし書の適用について
上記Aのとおり、請求人の妻は、本件土地に係る使用借権を有するから、権原によって本件構造物を×××××××に附属させたといえ、本件構造物の×××××××への付合には民法第242条ただし書が適用される。
したがって、当該付合後も、請求人の妻が有する本件構造物の2分の1の持分は留保される。
ロ 本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益の帰属について
(イ)上記イの(ロ)のAのとおり、本件構造物は、社会通念上、一体の物として本件駐車場として使用されているところ、本件駐車場1階部分は、本件構造物の特定の区画が車両格納目的で貸し付けられているのであるから、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、本件構造物を使用して得られたものであって、資産である本件構造物から生ずる収益である。
そして、上記のとおり、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかについては、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであり、また、資産の譲渡等に係る対価を享受する者が誰であるかについても、上記と同様に解するのが相当であるところ、上記イの(イ)及び同(ハ)のBのとおり、本件構造物については、請求人及び請求人の妻が2分の1ずつの持分を有しているのであるから、本件駐車場1階部分から生ずる収益や資産の譲渡等に係る対価は、請求人及び請求人の妻が、本件構造物の持分割合に応じて2分の1ずつ享受するというべきである。
(ロ)したがって、所得税法及び消費税法上、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益及び資産の譲渡等に係る対価は請求人及び請求人の妻に2分の1ずつ帰属し、全てが請求人に帰属するものではない。
(4)原処分庁の主張について
イ 原処分庁は、本件使用貸借契約は有効に成立したとはいえないとして、本件においては民法第242条ただし書は適用されず、本件構造物は本件土地を含む×××××××に付合し、独立の所有権の客体ではなくなっている旨主張するが、この点については上記(3)のイで説示したとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。
ロ 原処分庁は、本件駐車場1階部分は、実質的にみて本件設備の柱の足部分が地面に接しているだけであり、本件設備の有無にかかわらず本件駐車場1階部分を駐車場として使用することが可能であるから、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、本件設備を使用して得たものとはいえず、本件土地を使用して得たものといえる旨主張する。
しかしながら、上記(3)のロの(イ)のとおり、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益は、一体の物としての本件構造物を使用して得たものであって、本件土地を使用して得たものとはいえない。
したがって、原処分庁の主張には理由がない。
ハ 原処分庁は、本件各賃貸借契約書によれば、請求人が本件駐車場の賃貸人とされており、本件各賃貸料は、全て請求人名義の銀行預金口座に振り込まれており、請求人の妻に対しては二次的に分配されているにすぎない旨及び請求人が本件駐車場の所有者として本件各管理委任契約を締結していた旨主張する。
しかしながら、資産から生ずる収益及び資産の譲渡等に係る対価の帰属の判定については、上記(1)で説示した考え方に基づいて行われるのが相当である。したがって、本件各賃貸借契約又は本件各管理委任契約の契約当事者が誰であるかや、本件各賃貸料の支払方法がいかなるものであるかは、本件駐車場1階部分の貸付けに係る収益の帰属に影響を与えるものではなく、原処分庁の主張には理由がない。
(5)原処分の適法性について(略)
(6)結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。
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