解説記事2025年11月24日 巻頭特集 分断の時代における国際課税の展望(2025年11月24日号・№1100)
巻頭特集
OECD マナル・コーウィンCTPA局長インタビュー
分断の時代における国際課税の展望
地政学的な緊張や経済の分断が進む中、国際課税の枠組みは新たな局面を迎えている。米国では孤立主義的な傾向が強まり、各国も独自の課税措置を模索するなど、制度の分極化が進行している。こうした状況は、各国の合意形成を基盤として制度設計を進めてきたOECDにとって試練とも言えるが、OECDはそれをどう受け止め、どのような方向性を描いているのか。
本誌では、経団連との年次会合に出席するための東京訪問の機会を捉え、OECDの租税政策・税務行政センター(CTPA=Centre for Tax Policy and Administration)のマナル・コーウィン局長に、国際課税をめぐる現在の課題と制度設計の展望についてお話をうかがった。米国の関与、side-by-sideの枠組み、恒久的セーフハーバーの設計、QDMTTへの対応など、制度の複雑化が進む中で求められる国際協調の姿とは−−。
分極化する世界
逆風ではなく、国際的な協調の促進に向けた追い風
−−トランプ政権の下で、米国は孤立主義の傾向を強めつつあります。また、各国もこうした動きに呼応して独自の課税措置を模索するなど、分極化の動きが強まりつつあります。各国のコンセンサスにより国際課税のルールの見直しを進めてきたOECDにとっては逆風が吹いているとも言えますが、このような政治環境に対応して、OECDとしては今後どのように検討を進めていくのでしょうか。
コーウィン局長:過去を振り返ってみると、租税政策というものは外部の政治的、経済的なショックに対応して進化し、形作られてきたという歴史があります。例えば、2008年の金融危機を契機に多国籍企業の課税逃れに対する関心が高まり、2012年にはOECDがBEPSプロジェクトを開始しましたし、税の透明性が国際的な課題として認識されるようになる前段階では著名な銀行による秘匿口座の存在が問題視されており、国際的な情報交換の枠組みの構築につながりました。また、経済のグローバル化が進展する中で、国境を越えた取引や企業活動に対応する必要性が高まり、各国は税務分野における協調の枠組みを模索するようになりました。
こうした歴史的な経緯を踏まえると、租税政策が外部環境の変化に応じて制度的に進化してきたことは、一定のパターンとして捉えることができます。したがって、現在我々が直面している状況も、逆風というよりは、むしろ国際的な協調の促進に向けた追い風と言えると思いますし、地政学的な緊張や経済の分断が進む今こそ、税務分野における国際的な協力の重要性は従来以上に高まっていると考えています。
−−グローバル化と孤立化という対照的な動きがある中で、租税協力の必要性はどのように変化しているとお考えでしょうか。
コーウィン局長:国際的かつ多角的な租税協力は、いかなる状況においても不可欠だと考えています。グローバル化が進むか、あるいは各国が孤立化に向かうかにかかわらず、多国籍企業は引き続き国境を越えて事業を展開し、海外市場に商品やサービスを提供し続けます。これらの企業は複数の国の租税制度に同時にさらされることになり、その影響を受けざるを得ません。このような状況下で、各国の税務当局間の協力が不十分であれば、企業の成長や投資活動に支障をきたす恐れがあります。したがって、国際的な租税協力は、経済の構造や各国の政策姿勢にかかわらず、常に必要とされるものだと考えています。
−−国際課税の議論において、米国のスタンスや関与の度合いは制度設計にも大きな影響を与えると思われます。OECDの枠組みに対する米国の姿勢や、最近の協議への参加状況について、どのように評価されていますか。
コーウィン局長:まず、米国が協議のテーブルに着いているということは非常に重要な意味を持つと考えています。米国はすべての議論に建設的な姿勢で参加しており、4月に開催されたInclusive Framework(IF)のディスカッションにも加わっています。それを受けて作成されたパブリック・ステートメントの発出にも賛同しており、そのステートメントはグローバル・ミニマム課税(GMT)に関する成果を維持するというIFメンバー国の重要な共通認識を強調するものになっています。
また、米国はGMTについてのG7の共同声明にも賛同しています。この声明では、GMTの意義が強調されているほか、公平な競争環境の整備の重要性や、BEPSへの対応にも言及されており、米国を含むすべてのG7諸国がその方向性に対する意思を明確にしています。一国のみで対応するのではなく、各国が連携して調整を図るべきだという認識は、米国を含め広く共有されており、今後の制度設計や運用といった取り組みにおける協力の基盤となっていくと考えています。
−−具体的にどのような取り組みを考えていますか。
コーウィン局長:GMTに対して注目が集まりがちですが、OECDとしては、GMTにとどまらず、より広範な課題に取り組んでいるところです。過去1年間を振り返っても、初期のBEPS行動計画に関連する実務負担の軽減策や、不動産情報に関する自発的な情報交換の枠組み、OECDモデル租税条約の改定に向けた取り組みなど、GMT以外の分野でも着実な進展が見られます。BEPS行動計画や税の透明性に係る取り組みの実施状況に関する「ストックテイク」では、これまでの取組や実施状況について総括的な検証が行われていますし、制度の透明性向上や実務負担の軽減に向けた議論も継続的に行われています。
今後のアジェンダには、グローバルな人材の移動に伴う課税上の課題、税制と経済的不平等・成長の相互作用といったテーマも含まれており、これらの分野においても議論が進められます。こうした広範な取り組みを通じて、アメリカを含む多くの国が国際協力の重要性を改めて認識し、前向きな姿勢を示していると捉えています。
GILTIとのside-by-side ① 進捗状況
年末までに一定の合意形成を目指す
−−−−米国の税制改正議論においては、米国内国歳入法の899条として、UTPRに対する報復課税が提案されましたが、G7におけるside-by-sideの合意を踏まえ、899条は米国新改正法(OBBBA)には盛り込まれませんでした。もっとも、直近の米国議会では、OECDの検討が迅速に進まない場合には899条を再度導入すべきという意見も出ています。OECDとしては、米国が納得する形でside-by-sideの合意を年内に示すことについて、どの程度の確度を持っているのでしょうか。
コーウィン局長:side-by-sideの仕組みについては、G7声明を契機に、さまざまな協議の場が設けられてきました。Inclusive Framework(IF)の枠組みの中では、ワーキング・グループやステアリング・グループなどを通じて、制度設計や影響評価に関する議論が継続的に行われています。これらの議論では、主に4つの目的が共有されています。第一に、side-by-sideの制度設計やアーキテクチャーについて、各国間で共通理解を形成すること。第二に、既存の税制で培われてきた仕組みを損なうことなく維持しつつ、グローバル・ミニマム課税(GMT)の政策目的を反映させることです。改めてGMTの政策目的を確認すると、それは「税のフロアー(最低水準)を引き上げること」にあります。これにより、過度に低い税率を利用した投資誘導や、最低税率をめぐる競争によって投資判断が歪められることを防ぐという狙いがあります。第三に、米国の最低税率制度との整合性や、QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)が果たす役割を踏まえながら、政策目的の実現と公平な競争環境の確保を図ること。第四に、すべての参加国およびステークホルダーにとって意味のある形で、制度の簡素化を進めていくことです。
これらの論点については現在も議論が進行中であり、時間的な制約も踏まえ、年末までに一定の合意形成に至ることを目指しています。
② IIR採用国と米国との競争上の公平性
米国企業が例外扱いされることなくQDMTTの対象となるべきとの認識を共有
−−IIRは各国ごとに最低税率の15%を下回らないかをテストする国別ブレンディングである一方、いわゆるGILTIに代わる米国の新しい制度であるNCTI(Net CFC Tested Income)ではグローバル・ブレンディングを採用しています。米国に最終親会社がある多国籍企業は一部の低税率国の恩恵を享受する一方、IIRを適用する国は最低税率で課税された場合、競争上の不公平が生じるようにも見えますが、この点についてはどうお考えでしょうか。
コーウィン局長:まず申し上げておきたいのは、米国のNCTIのすべての特徴が、必ずしもGMTよりも望ましい結果につながるとは限らないという点です。ご質問では、グローバル・ブレンディングとの違いが強調されていますが、確かにグローバル・ブレンディングは税務上より良い結果をもたらすこともあるものの、場合によっては悪い結果となることもあるため、必ずしも一方的に優れているとは言えません。例えば、GMTではサブスタンス・カーブアウトが認められていますが、米国のNCTIにはこのようなカーブアウトは設けられていません。また、GMTにはアクティブ・インカムとパッシブ・インカムの区別がありませんが、NCTIでは所得の性質による区分が設けられているため、アクティブ・インカムに対して高い税負担が生じている場合であっても、その税負担と低税率のパッシブ・インカムの税負担をブレンドすることはできず、実務上はパッシブ・インカムに対して相対的に高い税負担となるケースが見受けられます。さらに、GMTでは繰延税金の考慮が認められているのに対しNCTIでは認められていないことや、NCTIでは米国のミニマムタックス制度は大企業に限らずより広範な企業に適用される可能性があるなど、制度設計上の違いが複数存在します。

−−一部には、IIRにおいてもグローバル・ブレンディングによるセーフハーバーを設けるべきという声や、IIRもグローバル・ブレンディングに変えるべきという声もありますが、そのような方向でIIRを見直す可能性はありますか。
コーウィン局長:重要なのは、政策的な効果が同等になるように設計することだと思います。一方が他方に引っ張られる、どちらかを採用する・しないという問題ではなく、GMTの政策目的を堅持し、各国の企業が公平な競争環境の下で経済活動ができるようにすることが求められます。特に、米国の多国籍企業が他国の企業に比べて一方的に有利になるような状況を生まないよう、side-by-sideの枠組みを丁寧に設計していくことが求められます。
ここで強調しておきたいのが、GMTの構成要素の一つであるQDMTTです。これは米国の制度とは異なる仕組みですが、米国に本社を置く企業の子会社が事業を展開している国・地域においてQDMTTが導入されている場合、その制度差を中立化する役割を果たします。QDMTTによってトップアップ課税が行われることで、米国に本社を置く企業の子会社にも課税が及ぶことになりますが、これは制度の公平性を確保する上で非常に重要なポイントです。現在まさにこの点が議論されているところであり、G7の声明にもその意義が明記されています。また、議論の中では、米国企業が例外扱いされることなく、制度の対象となるべきという認識が広く共有されています。
恒久的セーフハーバー
暫定的CbCRセーフハーバーで確保されている簡素化措置は維持する方向
−−グローバル・ミニマム課税の通知・申告等に係る実務負担が大きいことから、恒久的セーフハーバーの設計には多くの日本企業が関心を寄せています。現在OECDが検討されている恒久的セーフハーバーは、暫定的なCbCRセーフハーバーと比較して、どのような点が変更となる見込みでしょうか。また、企業の実務負担はどの程度増えることになりますか。
コーウィン局長:この質問の背景には、恒久的セーフハーバーの導入により、暫定的CbCRセーフハーバーと比較して企業の実務負担が大幅に増加するのではないかという懸念があるかと思いますが、結論から申し上げれば、恒久的セーフハーバーの方が著しく負担を増加させるということにはなりません。現在、恒久的セーフハーバーの制度設計に関する議論は、BIAC(OECD経済産業諮問委員会)を通じて多様なステークホルダーが参画する形で進められています。多国籍企業にとって実効性のある簡素化を実現するという観点から、暫定的CbCRセーフハーバーにおいて既に確保されている簡素化措置はその大部分を恒久的セーフハーバーにおいても維持する方向で検討しているところです。恒久的セーフハーバーでは、法域ごとに集計された会計データ、すなわち企業が既存の会計システムで管理している集計データを活用することが想定されています。また、暫定的CbCRセーフハーバーと比較してETR(実効税率)の算定精度を高めるための技術的な調整が加えられる見込みです。
通知・QDMTT等、各国独自の動きへの対応
企業等との連携強化により、制度運用に関するベストプラクティスを共有
−−通知(notification)には各国独自の提出様式や提出期限があることや、各国のQDMTTでは現地の会計基準による計算が義務付けられること、GIR(GloBE Information Return=グローブ情報申告)でより短い提出期限が設けられるなど、現状、各国における第2の柱のルールの個別化が進んでいます。これらに個別対応する必要性が生じていることにより、企業の実務負担が増加しており、OECDのモデル規則の有用性が低下しているとの指摘があります。OECDとしては、企業の実務負担を軽減する観点から、通知やQDMTTなどの各国独自の措置を抑制する方向で何らかの対応は考えているのでしょうか。
コーウィン局長:QDMTTは各国の会計基準に準拠して計算が行われる仕組みとなっていますが、対象となるのは、現地の会計基準に基づいて財務諸表を作成し、外部監査を受けている構成法人に限られます。そのため、QDMTTが広範に適用されるというよりは、かなり限定的な範囲にとどまるものと理解しています。

通知や申告に関する実務負担の増加については、OECDとしては、GMTを導入している各国の税務当局および企業等のステークホルダーとの連携を強化することで、制度運用に関するベストプラクティスの共有を進めています。こうした取り組みの一環として、初回はアムステルダムで「アムステルダム対話」を、今週は第2回としてマンチェスターで同対話を実施しました。
また、GMTを法制化している国々がGIRに加えて追加で提出を求める情報などをまとめてOECDウェブサイトに掲載するなど、企業等のステークホルダーに必要な情報を把握していただく取り組みを進めています。こうした情報提供を通じて、OECDのサポート体制があることを知っていただきたいと考えています。
日本への期待
日本は極めて価値の高いパートナー
−−最後に、国際課税の議論における、日本政府や日本企業に対する期待をお願いします。
コーウィン局長:日本政府には、OECDにおける多岐にわたる分野での取り組みに対して非常に協力的な姿勢を示していただいており、極めて価値の高いパートナーであると認識しています。また、日本が直面している課題についても積極的に声を上げていただいており、OECDとの協働に対して深く感謝しています。
日本企業に対しても、建設的なエンゲージメントをいただいていることに感謝したいと思います。これは経団連を通じて、また、各企業による個別の取り組みを通じて実現されているものです。日本特有の事情があることは十分に理解しており、OECDとしても真摯に対応していきたいと考えています。GMTを通じて各国企業が一定の税負担を公平に担うことにより国際的な競争条件の均衡を図るという枠組みへの対応は、日本企業が培ってきたコンプライアンス文化をグローバルに展開していく上でも意義のあることだと考えています。
今後も、日本企業の皆さんにはOECDの様々な取り組みに積極的に参画いただきたいと考えています。GMTに限らず、税の安定性、MAP統計、ICAP、紛争解決、OECDのモデル規則の改定、グローバルモビリティ、税務行政3.0、さらには税務倫理の向上に向けた理解と啓発など、幅広い分野でのご協力をお願いしたいと思っています。
−−大変貴重なお話をうかがうことができました。本日はありがとうございました。
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